概要
原点
元々は『ファイアーエムブレム外伝』(1992)のシステムが由来。「村人」 → 「傭兵」 → 「剣士」 → 「魔戦士」 → 「村人」と無限ループが可能であり、移動や魔法防御といった固定の物を除いて限界まで育成することが可能である。
ただし後発の作品とは異なり本作の村人は突出して成長率が高いというわけではなく、むしろ低いか偏ってるキャラが多い。限界までの育成に膨大な時間がかかるのは想像に難くないだろう。
また外伝には「クラスチェンジ時にそのクラスの基本値まで能力が底上げされる」という特有のシステムがあるため、多くのキャラは最上級職まで育てれば優劣こそあれそれなりの戦力となる。
手間かけて1人のエースを作るよりは戦えるキャラを作ったほうが利口だろう。(外伝では敵味方ともに攻撃を0ダメージにすることができないため尚更無双プレイは困難)
ゲーム難易度的にも、ループして限界まで育成するのはあくまでもやり込みプレイの領域である。
これらの点から安易に外伝=村人最強ゲーと言うと作品ファンの顰蹙を買いかねないので注意したい。
なお魔戦士から村人になれることがこのループの本質であるため、最初から傭兵・剣士の職に就いているキャラも同様にループが可能である(魔戦士で仲間になるキャラはいない)。
なお、これらの特徴はリメイク版の『Echoes』(2017)にも受け継がれている。
片鱗
『烈火の剣』(2003)に登場する村娘がかなり優秀な村人の1人であった。
『聖魔の光石』(2004)では、「村人」という職ではないが、「新人兵士」や「かけだし戦士」もその出自は一介の村人でありながら転職機会・レベルアップ機会が多く成長率も高いため、やはり最強ユニットの一角となる。
『蒼炎の軌跡』(2005)・『暁の女神』(2007)に登場する「村娘」・農夫も(クラスはそれぞれ「ソルジャー」・「重歩兵」)やはり優秀なユニットであったりする。
ただ、ここまではそこまで無体な話でもなかった。『外伝』は先述の通り1ユニットが無双するシステムではなかったし、その後の作品も極端なバランスブレイカーとなってしまうほどゴリゴリの高性能、というわけでもなかった。
ここまでは…………
「村人最強伝説」の成立
『ファイアーエムブレム 覚醒』(2012)で、ドニという「村人」が仲間となることになる。
本作においてはチェンジプルフと呼ばれるアイテムを使えば転職が可能となるのでこれは「村人」の特権ではなくなった。が、「村人」の初期スキル「良成長」のおかげで大変育て易い事この上が無い。
しかも彼の転職できる職業には有用なスキルが目白押しというおまけつき。
このためドニは最初さえ乗り切れば圧倒的なパラメータを持つ最強の父親になりえるのだ。
「良成長」のスキル自体は子世代に受け継げないにもかかわらず、子どももとんでもない成長率になったりする。母親にもよるが、特にスキル狙いをせず下級職→上級職と一周回してしまうだけでステータスはほぼカンストしてしまうのだ。
このバランスブレイカーぶりがどうだったのかというと、外伝23『蒼炎の勇者』は、難易度Normalでも、普通に攻略しようとするとかなり苦戦するマップなのだが……
ドニを傭兵→勇者で育成し、自身が飛行系か、子どもが女性の親世代ユニットとカップリングしておき、支援A乃至Sの状態で、ドニに「勇者の剣」でも持たせてダブルして相手フロントで敵陣深くまで突っ込み、ドニをフロントにして待機。他のキャラは全員敵ユニットの攻撃範囲外に置く。
……これで近接攻撃のユニットはほとんど掃討できたりする(必ずしもうまくいくとは行かないので要注意。特にダブルの相手キャラはDAで武器を消耗してしまうので、複数の武器を持たせておくこと)。
流石に難易度Hard以上ではそうそう通用しないが、外伝23を苦戦したプレイヤーには「うそーぉ……」というレベルの強さになるのだ。
また詳細は本人の項を参照してもらいたいが、ドニは他のキャラからも一目置かれる程聡明だったりする。
その支離滅裂レベルの無体っぷりに『外伝』での逸話を知っているエムブレマーが言い出したのが「村人最強伝説」なのである。
躍進する「村人最強伝説」
『ファイアーエムブレムif』(2015)でもモズメという「村人」が仲間となる。
初期能力値は低いが、スキル「良成長」を持つ『覚醒』と同じ大器晩成型である。
ドニとは違い「良成長」の効果は抑えられているので過信は禁物。
それでもうまく鍛える上げる事が出来れば強力なユニットへと成長をする。
……で、ドニのバランスブレイカーっぷりが極端なので抑えたはずが、今度はその「良成長」が子世代に受け継げるというバランスブレイカー要素がブチ込まれる。しかも白夜編・透魔編では素のままでも頼りすぎて他のキャラの成長を妨げないよう配慮しなければならないあの人のカップリング候補っていうもうね……
貴族と平民とゴリラ
『ファイアーエムブレム風花雪月』(2019)ではレオニーという村娘やツィリルという「良成長」持ちが存在するものの、彼らのクラスは「村人」ではない。
では彼らのクラスはというと「平民」。
しかも彼らだけでなく、作中に登場する貴族階級以外の全員の初期クラス。
これは風花雪月が全ユニットの自由な育成に重点を置いたゲームになっているためで、すべてのキャラの設定上の初期クラスが「平民」か「貴族」に設定されている。
(「設定上の」と付けているのは、中途加入するキャラについてはほとんどがある程度育成済みの状態で仲間になり、仲間になった時点での職は異なるため)
「平民」と「貴族」の差は紋章持ちが先祖にいるかどうかなのだが、これは『聖戦の系譜』の十二英雄の家系ほどは強くなく、また周回プレイで手に入れることのできるアイテムを持っているだけでそのスキルを持つことができ、平民キャラの不利はほとんどない。
そう、本作には仲間ユニットを置いてけぼりにして脅威の成長を遂げる村人というものは存在していない。「良成長」持ちのツィリルにしても素の成長率の低さで相殺されており、「過去作でいうドニやモズメに近い生まれの人物である」ことを示す記号以外の何物でもなくなっているため、育て方を間違えたり育てづらいルート(※)を選ぶと普通に置いて行かれてしまう。
適当に敵を倒させているだけなのにパラメータがガンガン上がっていくのはむしろ三級長の役回りになっており、特に約1名については怪力設定も相まって一部エムブレマーからゴリラと呼ばれ親しまれている。
(※)黒鷲の学級を選んだ場合、物語が分岐する前の士官学校編では味方にならない。分岐後のうちあるルートのみで味方になるのだが、まさかの平民スタート。戦争編に入ると、味方は大抵上級以上であるため、成長率の観点で大きく後れを取ることになる。
「医者伝説」……?
『ファイアーエムブレムエンゲージ』(2023)の外伝「大器晩成」において、医者の息子としてジャンが登場。
初期ステータスは高くないため、初期役職「モンク」として杖によるサポートが中心となる。
固有スキルは「努力の才」。レベルアップ時の基本能力を上げやすくするスキルは歴代の村人枠を意識してものだろう。
ただし過去作の「良成長」と異なる点は、成長率全体を底上げする効果ではなくクラスの成長率補正を倍にする効果であること。例として初期兵種のモンクでは魔力に25、魔防に20、力・守備・幸運に10の成長率補正があるが、ジャンの場合はそれぞれ50、40、20の補正になる。
ジャン自身の素の成長率はあまり高くない。単純に成長率が高いというよりも、クラスによって成長率を変化させやすい性質のユニットと言える。
そんな大器晩成の成長をブーストさせるのがエキスパンション・パスに登場する腕輪である。
紋章士チキの「星玉の加護」は過去作の「良成長」と同じく、全ての成長率を底上げする効果であり「努力の才」と重ね掛けが可能。更に、士官学校の生徒達の「血統」は経験値を1.2倍にする効果を持つ。おまけにスキル継承の条件(絆レベル5)を満たせば「血統」を継承しつつ、紋章士チキの腕輪で火力不足を解決しつつ成長することが可能。
ちなみに本作ではキャラの育成システムが『外伝』に近いかたちになっており、どのキャラも成長の遅い早いのみで、だいたいの兵種を極めることができる(これを理解していないと、後半火力不足に陥りがち)。
なお他作品から目新しい要素として紋章士ロイの「超越」というエンゲージスキルが登場。
未プレイ者に簡単に説明すると現在のレベル+5になり、例え能力上限値であろうが成長率を元に能力値が増えるというもの。
つまりジャンの個人スキルは限界まで育てるとお役御免ではなく、さらなる高みを作るスキルとなってしまった。
公式が病気
公式でも村人=強いとは認知されているようで、ファイアーエムブレムヒーローズの公式4コマ漫画「英雄たちの日常」ではグレイ、ロビン、ドニ、レベッカが無双するという漫画が掲載された事もある。