概要
パチンコに嵌り、借金を残して間男と失踪した妻を夫と子供が探し歩く。
だが夫もパチンコに嵌ってしまい、道を誤っていく…というストーリー。
掲載誌はパチンコ雑誌『パチプロ7』(綜合書籍)で、連載時期は1994年春ごろから1997年秋ごろまでとされる。実際に掲載されていた正確な号数は、雑誌の休刊や出版社の統合、権利の移管などで権利元会社でも把握できていない。
作中でも時代を反映した人気機種や時事ネタが登場することがあるが、機種攻略等の実践的要素は皆無であり、パチンコに興じる登場人物達が起こす騒動が中心に描かれる。
舞台設定は、初代ゲームボーイやPHSが劇中に登場することから、連載時期と同じ90年代中盤ごろ、平成初期と思われる。
ちなみにタイトルの「連ちゃん」は麻雀の「連荘」に由来する、大当たりなどが短い間隔で続くことを指すパチンコ用語で、作中に「連ちゃん」という愛称の登場人物が出てくるわけではない。
連載後も単行本化されることはなく、現在は秋水社により各電子書籍サイトで配信されている。
中でも「マンガ図書館Z」と「スキマ」では無料閲覧も可能だったが、共に2020年7月31日で無料公開を終了した。
2020年9月12日、KADOKAWAから紙書籍版発売。全4巻。
あらすじ
「日之本 進は妻と子供の3人暮らしの高校教師。
平凡に暮らす毎日だが突然妻が蒸発。妻のパチンコによる借金を取り立てるために借金取りが現れる。
借金取りから逃げるべく県外へ逃げるが様々なトラブルで路銀を失う。途方に暮れる進を息子の浩二が提案したのが先ほど訪ねたパチンコ店だった・・・。
親と子と借金取りそして妻、パチンコと借金を中心に織りなす歪で愉快な珍道中が今始まる・・・」
公式配信などではこのように紹介されている。
しかしこれは第5話までの内容であり、実際は珍道中ではなく日常ものとなっている。(後半からは一応旅する展開はあるが)
主要登場人物
「ひのもと すすむ」。本作の主人公で、タイトルが示す「パパ」とは彼のこと。
詳細は個別記事を参照
日之本 浩司
進の息子。小学生。
自分の事しか考えない父と、自分達を捨てて出ていった母の間で振り回される。何度見捨てられてグレそうになっても父・進を慕う優しい少年。
学校では父の事で馬鹿にされ、友人や恋した女子が親の借金のせいで引っ越し、両親が離婚した際には自閉症(※)になり、進の再婚相手の両親に(進には無断で)養護施設に放り込まれるなど、作中一番の苦労人。
しかし彼が両親を見捨てられないこと、そして両親も彼を捨て切れないことや、借金取りの同情をも買う彼の不憫さが逆に事態を悪化させることも多く、そういう意味では作中最大の舞台装置とも言えるだろう。
事実、序盤で妻を追う途中で路銀が尽きた進に「出る台を知ってる」と口にしてパチンコで稼ぐことを提案したのは他でもない浩司であり、結果的に父がパチンカスとなり外道に堕ちることとなったため、やはり血は争えないのかもしれない。
なお読者から「子供が可哀想で見るに堪えない」という声が殺到したことについて、作者は「狙い通り」と答えており、啓発のために敢えて悲惨に描かれていた模様。
- ※実際には自閉症ではなくうつ病(小児うつ)と考えられる。90年代当時は自閉症・うつ病への理解が進んでおらず、自閉症と同一視されたものと推測される。なお紙書籍版では「うつ」に修正されている。
日之本 雅子
進の妻にして、全ての元凶。
仕事人間の進に愛想を尽かし、パチンコで300万円の借金を作った上に浮気、間男と失踪する。その後も男にモテまくり、大金持ちや板前など沢山の男から惚れられる。しかし相手に騙されたり、逆に相手を破滅させて逃げたりして、誰とも結ばれなかった。最終的には進と復縁し、進の子ではない双子(知子と良子)を生む。
だが復縁してもパチンコ狂いが治らない進を見限り、借金取りに頼んで進の保険金殺人を企んだり、正式な離婚を要求したりする。
進が堕落している時は良妻賢母の顔を見せる一方、進が更生しようとすると破滅を運んでくるため、人呼んでクズのシーソーゲーム。自分が依存症でやらかしているのに他人事のように進に説教する姿は、まさにお前が言うなといわんばかりのブーメラン発言。
最終回ではパチンコを止めて立ち直ると誓った進を信じ、家族で田舎暮らしを始めるが…。
第30話の離婚届の表記によると生年月日は昭和36年3月8日のため、第1話時点で40代となるが、年代には設定ミスがあったようで、紙書籍版で進より年下に訂正された。
借金取り
本名不明。雅子が借金した金融会社「KO商事」の社長。大柄な体に、傷だらけの顔でスキンヘッドという誰もが納得する程のヤクザ顔。恐喝暴力で前科3犯、部下からも恐れられており、「ウチの利息は新幹線より早いんだよ!」と公言して憚らない違法スレスレの悪徳金融業者である。仕事には情を挟まない方針で、作中でも多くの人間を破産させており、進の勤務先にも容赦なく押しかけ、時として殺人を請け負うことさえある。
パチンコ台の前に腰掛ける進の頭を後ろから無遠慮に殴りつけるのがいつもの彼らの会話のはじまりであった。
しかし、根は人情家で、両親に捨てられ養護施設で育った事もあり、自分と境遇が重なる浩司には優しい。行き場を失った進と浩司を自分のマンションに住まわせたり、進に仕事を斡旋するなど面倒見が良いところもある。ビジネスとはいえ、他社では借りられなくなった多重債務者にも条件が合えば融資を行い、過激な取り立ては中止して穏当な返済計画を提案することもあったため、劇中では彼に感謝している人も少なからずいる。
主人公の進を始めあまりにどうしようもない人物揃い(『クズのパワーインフレ状態』)の本作では常識を備えている部類に入り、いわゆる「解説役」を務めることもしばしば。彼も間違いなく社会的には褒められる人物ではないのだが、人情家で仁義と筋を通す「自らの行いを悪だと承知している悪人」であることから、無自覚なワルが何人も登場する本作の中においては読者からは相対的に善人に見えてしまう。
そのため、多くの人間を破滅させたにも関わらず、ファンからはこの作品の良心とまで言われている。
その他
メインキャラは上述の通りだが、単発ゲストキャラや数話以内の登場キャラもまともな者は少なく、どこかズレていたりメインキャラといい勝負のクズ(「勤務先から多額の金を横領した女」「ネズミ講を主催して大儲けし逮捕直前でとんずらする虚業家」「実親の進に無断で浩司を養護施設に叩き込む老夫婦」など)だったりする。数えるほどしかいない真っ当な善人たちも、容赦なく悲運に巻き込まれていく。
突然の大ブレイク
知る人ぞ知るマイナーな作品だったが、2020年の春頃にSNSでにわかに注目が集まった。
ログが保存されていないため詳細は定かではないものの、ふたば☆ちゃんねるで話題になってからtwitterに飛び火したと見られている。
20年以上前に公開され単行本も出版されなかった無名の漫画がなぜこの時期にヒットしたか?について、一説には
- 2019年末から続いていた新型コロナウイルスにより日本を含む世界中が混乱する最中、ウィルス感染の危険が高いとされるパチンコ店に通いたがるパチンコ中毒者たちを罵倒する話題の場で、ふたばの利用者が上述の電子書籍サイトで無料公開中だった本作を引用した
- あまりに悲惨な内容のため、引用者が逆に中毒者たちへの申し訳なさを表明したことが周囲にウケて、間もなくふたば外にも広まっていった…
と掲示板利用者やTwitterユーザーから考察されている。
良くも悪くもあまりの反響から、無料で全43話を公開していたマンガ図書館Zが2020年5月12日にサーバーダウンを起こしたほどであった。
本作が注目を集めるまで、ギャンブル依存を描いたヒット作は『闇金ウシジマくん』のような「ドロドロで陰鬱なストーリー、そしてそれを象徴するリアル志向でハードな絵柄・演出」であることが多かったが、本作は絵柄だけを見れば古谷三敏(代表作:『ダメおやじ』)や北見けんいち(『釣りバカ日誌』)を彷彿とさせる、ファミリーものの青年漫画のようなディフォルメの利いたほのぼのしたものであるだけに、極めてギャップが大きい。
ちなみに作者のありま猛は古谷三敏の「ファミリー企画」に所属していたことがあり、絵柄にも影響が見て取れる。北見けんいちも古谷三敏と共に赤塚不二夫のアシスタントとして長く活動していた経歴のため、ありま氏も赤塚不二夫の系譜にあると言える。(実際にありま氏も『天才バカボンの時代なのだ!赤塚不二夫生誕80周年』という短編集に寄稿をしている)。
しかもそんなクズな登場人物たちに対して大きな制裁がないまま物語が続くため、胸糞の悪さではウシジマくんを超えるとも評される。
また、登場人物たちはクズといっても、創作物でよく見られる完全な悪人としては描かれず、少なからず人としての良心を残している。それゆえに単純に悪とは割り切れないリアリティがあり、よりタチの悪いクズになっているという描写が、かえって読み手に刺さるようになっている。
この手の作品にありがちな暴力描写は極めて少なく(ないわけではない)、あってもギャグ漫画のような軽い描写で済まされている。流血などの過激な描写がないことに加え、その画風により露悪度が大きく削がれているのも当作が読みやすく感じる一因だと考えられる。
人間の闇や破滅の様子を描いたドス黒い内容でありながら、純粋に漫画としての完成度が高いことも大きな話題になった一因と言えるだろう。
計算されたホンワカ画風と読みやすい巧みな物語構成、1話ないし2話程度で起承転結するスピーディーな展開、作者の過度な感情移入や説教臭さが見えないエンタメに徹した筆致、逆転に次ぐ逆転が起きる「魅力的な人間関係」等々の長所のおかげで目を離せずスラスラと読めてしまうことから、読者からは「読み易い危険物」「飲みやすい猛毒」「悪意のストロングゼロ」「スナック菓子感覚で摂取できる地獄」などと評されている。
このほか、評の中には「無惨様の方がマシ」「ハヤテの両親が主人公の漫画」「FGOのフレポガチャで触媒にしたらアンリマユ10枚出そう」「帝愛が来い」といった、他作品の悪役と比べても遜色が無いとする声すらある。
彼らの行為の悪辣さや残忍さでいえば、いずれも本作の登場人物たちのはるかに上を行くはずなのだが、「胸糞っぷりでは負けていない」ということだろう。
ちなみに当作を発掘した人物は「アッテムトでエスタークを掘り当てた炭坑夫」などと称されている。
5月19日にはこのブームについて作者のありま氏が取材に応じ「突然のネット騒動に捲き込まれて困惑してます」と、降って湧いたブームに戸惑うコメントが発表された。
ありま氏は記事中で、パチンコだけに限らない、中毒性を持つ遊び全般が孕む依存症の恐ろしさについて語り、「取り扱い注意啓発本として見て頂ければ幸いだと思ってます。」と述べている。
余談
Twitter上では2020年3月ごろに『100日後に死ぬワニ』を巡る騒動があったために、一部では「ここまで大きな話題になるのは不自然(=出版社や広告代理店による仕込みでは?)」と言う声も出たが、「こんな作品のコラボグッズやカフェなんてできるわけないだろ!」と反論する意見がある。実際、内容が内容だけに商材として扱いにくいことに加えて、発表から25年以上が経過していること、作品および掲載誌がマイナーであった(なおかつ雑誌は休刊、単行本化もされていない)ことから、特定の企業によるステマ的な仕込みは考えにくいといえる。
中には「これがステマなら逆に広告代理店を称賛するわ」という意見すら散見されるほど。
作者であるありま氏はこのような(胸糞の悪い)作品ばかり執筆しているのでは?と思われる人がいるかも知れないが、氏の作品の中でこのようなピリピリしたストーリーは「御意見無用」「連ちゃんパパ」の2作のみであり、他はほのぼのとした内容の人情もの漫画がほとんどである。ただし、他の作品でも鋭い視点で捉えられたシビアな人間関係や、微妙な感情の機敏の描写などは一貫している。
パチンコ自体に批判的な描写が目立つ、という訳でもなく、他作品にもパチンコが息抜きとして頻出するほか、『パチプロ7』での次作となった『勝ち盛り定食』では、パチンコ屋に併設された食堂の店長と、パチンコ屋の部長を中心とした穏和なストーリーを描いている(もっとも、稀に本作ほどでは無いが、なかなか侮れない人物が出てくることもあった)。
同誌の連載作品がハードな攻略系ばかりになっていく中、貴重な癒し成分として支持され、休刊するまで掲載された。
掲載誌は上述の通りパチンコ雑誌の『パチプロ7』であるが、パチンコ雑誌でパチンコの闇を描く連載をしていたのは中々剛毅な話である。
なぜこの内容で連載できていたかについては諸説あるものの、上記の作者インタビューによれば「依存症の啓発本」として(編集部からも)扱われていたことが推測される。巻中カラーも度々挟まれており、人気も悪くなかったようだ。
一方、当時を知るパチンカーはTwitterで「パチンコ漫画の中でもダントツの奇書」「古いパチンカーが誰にも語らずに封印した悪魔の書」と当作を評しており、連載当時からその内容は異端なものであったことが窺える。
その後公開されたねとらぼのロングインタビュー(関連リンクに掲載)にて、ありま氏自身が当時のエピソードについて語っておりその中で
- 20代の時にあだち勉(漫画家。あだち充の実兄)の影響でパチンコ依存症になっていたこと。
- 『パチプロ7』から仕事が来たものの、かつてパチンコ依存症になっていたこともあってパチンコへのイメージが悪かったこと。
- 他の仕事との兼ね合いもあり、断るつもりで「僕にはパチンコは依存症のイメージしかないし、依存症でボロボロになっていく人の漫画だったらネタはあるけど、それでもいいの?」と聞いたら「いいよ」と言われたこと。
- 編集部ではバカ受けで、アンケートでも常に3〜4位を取っていたこと。
が明かされている。
関連イラスト
関連項目
外部リンク
ネット激震の「邪悪」な主人公はこうして生まれた 『連ちゃんパパ』作者・ありま猛インタビュー
ねとらぼによるロングインタビュー。本人の現状や当作の裏話について語られている。