概要
マレーシアで伝承される精霊や魔物であるが、国教であるイスラム教や、中国系住民の仏教、インド系住民のヒンドゥー教の影響を受けたもの以外に、先住民族の伝統宗教に根差したマレー語で「ハントゥ・○○」(ジャ・フー語で「ベス・○○」)と呼ばれているものが数多く伝わる。
また国境を挟んだインドネシアと共通の伝承も多い。
日本の創作での扱い
日本においては水木しげるにより、吸血鬼であるペナンガラン、ランスブィル(ランスグイル)が独自の解釈で紹介され知られていた。
1990年代に、それまで日本では知られていなかった数多くの精霊が、水木の筆により姿が与えられ、日本名が名付けられた。
同時期、小説家で妖怪研究家の林巧が、『アジアおばけ街道』を始めとする東南アジアのお化けを巡る旅行記を発表。
- 林は後に、水木が世界の妖怪を収集するツアーを行った際にも参加、当時盛り上がりを見せていた世界妖怪協会主催の「世界妖怪会議」にも参加している。
その後1999年に発売された、ノンフィクションライターの大泉実成氏と共に現地のセノイに10日間滞在した体験記『水木しげるの妖怪探険―マレーシア大冒険』でも数多くの精霊の絵が描かれ紹介された。
2018年には、水木しげる没後、初の鬼太郎シリーズとなった『6期鬼太郎』西洋妖怪編でマレーシアの妖怪たちが登場。西洋妖怪によって住処を追われた彼らが、ゲゲゲの森に亡命を求めてきたことで日本の妖怪たちとの間に軋轢が起こるという、難民問題を絡めたエピソードとなった(※メイン画像)。
詳細は→南方妖怪
世界各国の伝承の存在が登場するRPG『女神転生』シリーズでは、1987年に発売された第一作にカニ姿の水の精霊であるクタムが登場。1997年に発売された『ソウルハッカーズ』には、上記の水木の書籍で紹介されたティング・カットやペナンガルが登場している。
一覧
ハントゥ
- ハントゥ・アイル/ハントゥ・エア/ハントゥ・アイェル(Hantu Air/Hantu Ayer):水の精。
- ハントゥ・アプ(Hantu Apu):敷物お化け。
- ハントゥ・バカル(Hantu Bakal):密林の精。
- ハントゥ・バルン・ビダイ(Hantu Balung Bidai):敷物型で四つ角に口を持つお化け。川や池のなかに住み漁師を襲う。
- ハントゥ・バンダン(Hantu Bandan):滝の精。うつぶせに横たわっている。
- ハントゥ・ペニャルディン(Hantu Penyardin):犬の頭部を持った悪魔。海辺の洞窟に棲んでおり人間の魂を食べるという。本来はマレーシアの妖怪だがポリネシアの島々にも伝わっているらしい。
- ハントゥ・ベリアン(Hantu Belian):虎の精。鳥の姿で虎の背に顕現する。
- ハントゥ・ブロク(Hantu Beruk):猿の精。ダンサーをトランス状態にする。
- ハントゥ・ビサ(Hantu Bisa):毒の精。
- ハントゥ・ブタ(Hantu Buta):盲目の精。
- ハントゥ・チカ/ハントゥ・ケンブン(Hantu Cika/Hantu Kembung):腹痛の精。
- ハントゥ・アナク・グア・バトゥ(Hantu Anak Gua Batu):鍾乳石のお化け。
- ハントゥ・ダグック(Hantu Daguk):霧のお化け。
- ハントゥ・デナイ(Hantu Denai):狩りの精。
- ハントゥ・デネイ(Hantu Denei):獣道のお化け。
- ハントゥ・デマン(Hantu Doman):馬頭の悪霊。
- ハントゥ・ガラ(Hantu Galah):棒のお化け。天に届くほど背が高く、足元の毛を集めて燃やすことで願いをかなえてくれるという。
- ハントゥ・グア(Hantu Gua):洞窟の精。
- ハントゥ・グヌン(Hantu Gunung):山の精。
- ハントゥ・ハントゥアン(Hantu Hantuan):山彦。
- ハントゥ・フタン(Hantu Hutan):森の精。
- ハントゥ・ジェランクン(Hantu Jerangkung):骸骨お化け。
- ハントゥ・ジェンバラン・タナー(Hantu Jembalang Tanah):地霊。
- ハントゥ・ケバヤ・メラー(Hantu Kebaya Merah):赤い伝統衣装の女お化け。
- ハントゥ・ケラマット(Hantu Keramat):聖霊。
- ハントゥ・クボル(Hantu Kubor):死の精。
- ハントゥ・ラウト(Hantu Laut):海の精。
- ハントゥ・ロンガク(Hantu Longgak):空を見ているお化け。襲われた者の口から泡を出させる。
- ハントゥ・ムサン(Hantu Musang):儀式で呼び出されるジャコウネコのお化け。
- ハントゥ・マティ・ディブノー(Hantu Mati Di-bunoh):殺された者の霊。
- ハントゥ・ペンプル(Hantu Pemburu):狩人の精。
- ハントゥ・ポホン・プテ(Hantu pohon pete):樹上の少女のお化け。
- ハントゥ・プサカ(Hantu Pusaka):墓の精。
- ハントゥ・リンバ(Hantu Rimba):森の精。
- ハントゥ・ルビド(Hantu Rubit):嵐の精。
- ハントゥ・ソンケイ(Hantu Songkei):狩りの邪魔をする鼻が長く目を広げたお化け。
- ハントゥ・ティンギ/アントゥ・ティンギ:森の奥に棲み大木が倒れるような音を立てる不可視お化け。倒れた大木や上半身のみの鬼歯が生えた恐ろしい見た目をしているとも。
- ハントゥ・ポットンバラ:首切りお化け。襲われた者は見た目は変わらないが、霊的に頭が無い状態にされてしまう。
- ハントゥ・ジン:巨人お化け。
- ハントゥ・パンジャン:長いお化け。
- ハントゥ・カッカ:鳥のお化け。カッカッカッという鳴き声で飛び回り、下にいた人の意識を奪ってしまう。
- ブンジャン・サナン:ワニのお化け。偉大なる兄貴といった意味で、バスほどの大きさのワニの主。
- ハントゥ・ショコレール/マントス・プレー:おちんちんお化け。性別があり男は女の乳房を、女は睾丸を霊的に食らい腫れさせる。
- ハントゥ・ミニャック:油お化け。儀式によって身体に油を塗った若者に憑依し力を与える。
- ハントゥ・パラ/アントゥ・パラ:頭のお化け。首狩りされた頭が化けて床下などに潜み、村の鶏を食うなど害を成す。
水木しげるによる紹介
『Jah-het of Malaysia art and culture』という洋書で紹介されているハントゥ(ベス)を、水木による解釈で名付け解説したもの。上記の鬼太郎に登場した者も含め、ほとんどが同書に掲載された現地の彫刻を元に描かれている。
- あごの精/ベス・ダグ(Bès Dagu'/Hantu Dagu)
- 足食い/ベス・チャ・ジョン(Bès Cha' Jòng/Hantu Makan Kaki)
- 足を曲げた精/ベス・キロジョン(Bès Kirojong/Hantu Pulas Kaki)
- 足を折り曲げた精/ベス・リパット・ジョン(Bès Lipat Jòng/Hantu Lipat Kaki)
- 頭ねじり/ベス・ケリオイ(Bès Kě'lioi/Hantu Pulas Kepala)
- 頭を食べる精/ベス・チャ・コイ(Bès Cha' Kòy/Hantu Makan Kapala)
- 雨の精/ベス・プトゥリ・アワン(Bès Putri Awan/Hantu Hujan)
- アワン/ベス・アワン/ベス・バンコック・アワン(Bès Awan/Bès Bangkok Awan/Hantu Panggok Awan/Hantu Pengumpul)
- 家の階段の精/ベス・タンガ(Bès Tanga'/Hantu Tangga)
- 稲妻の精/ベス・キラット(Bes Kilat/Hantu Kilat)
- 犬の精/ベス・チュウェ(Bès Chwě'/Hantu Anjing)
- 岩の精/ベス・テモ(Bès Těmo'/Hantu Batu Bawah Tanah)
- 大口/ベス・ブカ・ムルット(Bès Buka' Mulut/Hantu Buka Mulut)
- 大トカゲの精/ベス・プレ(Bès Prě'/Hantu Biawak)
- 丘の精/ベス・チョン(Bès Chong/Hantu Bukit)
- ガガウ/ベス・ガガウ(Bès Gagau/Hantu Gagau)
- 鍵の精/ベス・クンチ(Bès Kunchi'/Hantu Kunchi)
- 風の精/ベス・メホン(Bès Měhong/Hantu Angin)
- 風邪の精/ベス・センゲチュ(Bès Sěngèch/Hantu Sejok)
- 固い歯の精/ベス・クラップ・レムニ(Bès Krap Lěmuny/Hantu Kerap Gigi)
- 肩に乗っている精/ベス・ベドゥコン(Bès Bedukong/Hantu Dukong)
- ガマング/ベス・ガマン(Bès Gamang/Hantu Jambang)
- 雷の精/ベス・ルル(Bès Luruh/Hantu Guroh)
- からかい/ベス・ジェビック(Bès Jebik/Hantu Jebik)
- ガラング/ベス・ガラン(Bès Galang/Hantu Galang)
- 枯木株の精/ベス・ブンゴ(Bès Bongo/Hantu Punggor)
- 木株の精/ベス・トゥングル・ケンパス(Bès Tungul Kěmpas/Hantu Tunggul Kempas)
- 強風の精/ベス・ソフディ・アワン(Bès Sohudi Awan/Hantu Ribu)
- 切り倒された木の精/ベス・バタン(Bès Batang/Hantu Batang)
- キンタマ妖怪/ベス・ブルット(Bès Burut/Hantu Burut)
- 愚鈍の精/ベス・ブドル(Bès Budòr/Hantu Bingong)
- 首お化け →ペナンガラン
- 子連れの精/ベス・ボ・イワ(Bès Bò' Iwa'/Hantu Dukong Anak)
- 逆さ/ベス・トゥンギン/ベス・トゥンギン・コイ(Bès Tunging/Bès Tunging Kòy/Hantu Terbalik/Hantu Tungging Kepala)
- さかさまの精/ベス・チュンクリット・コイ(Bès Chungkulit Kòy/Hantu Terbalek)
- 魚の精/ベス・カ(Bès Ka'/Hantu Ikan)
- サギの精/ベス・ランジュン(Bès Lanjung/Hantu Puchong)
- 三位一体/ベス・ベランカイ(Bès Berangkai/Hantu Rangkai)
- 舌長/ベス・チェルン・レンタック(Bès Chěrʉng Lěntak/Hantu Lidah Panjang)
- 失明の精/ベス・チャブット・マット(Bès Chabut Mat/Hantu Luchut Mata)
- ジャビの精/ベス・ジャビ(Bès Jabi/Hantu Jabi)
- しり妖怪/ベス・ダンゴン(Bès Dangon/Hantu Punggong)
- 背中にトゲのある精/ベス・ジェラ・クロ(Bès Je'la' Krò'/Hantu Belakang Berduri)
- 象牙の精/ベス・ガディン(Bès Gading/Hantu Gading)
- ソンゴック/ベス・ボホル(Bès Bohor/Hantu Songkok)
- 台所の精/ベス・ダトック・ハマック(Bès Datok Hamak/Hantu Hamak)
- 乳吸い/ベス・ペナジェン(Bès Penajen/Hantu Hisap Susu)
- 乳の精/ベス・ペナジェン(Bès Penajen/Hantu Tetek) →ハンツ=テテク
- チャムブングの精/くもの精/ベス・チャンブン(Bès Chambʉng/Hantu Labah-Labah)
- チャラク/ベス・チャラク/ベス・チャラック(Bès Chalak/Hantu Penyakit Hidong Keluar Darah)
- チュンガク/ベス・チュンガク/ベス・チュンガック(Bès Chungak/Hantu Chungak)
- チンタ・ル/ベス・チンタ・ル(Bès Chinta' Lu'/Hantu Chinta Lauk)
- 杖の精/ベス・チェップ・ナホ(Bès Chèp Nahò~'/Hantu Pegang Kayu)
- 月の精/ベス・ブラン(Bès Bulan/Hantu Bulan)
- 突き落とし妖怪/ベス・チェレ(Bès Chereh/Hantu Jatuh)
- ティング・カット/ベス・ティンカット(Bès Tinkat/Hantu Tingkat)
- 手食い/ベス・チャ・ティン(Bès Cha' Ting/Hantu Makan Tangan)
- 出目の精/ベス・ブラン・マタ(Bès Bulang Mata/Hantu Mata Bular)
- 出目/ベス・チョラル(Bès Cholar/Hantu Keluar Mata)
- トゥハ・マウス/ベス・トゥハ・マワス(Bès Tuha' Mawas'/Hantu Tua Mawas)
- トゥラング・マワス/ベス・トゥラン・マワス(Bès Tulang Mawas/Hantu Tulang Mawas)
- とがり目/ベス・チェマ・マット(Bès Chema' Mat/Hantu Meta Tajam)
- とがったナイフの精/ベス・チェマ(Bès Chèma'/Hantu Pisau Tajam)
- とげ妖怪/ベス・ジェラ/ベス・ジェラ・コイ(Bès Jě'la'/Bès Jě'la' Kòy/Hantu Duri/Hantu Kepara Berduri)
- トビモノ/ベス・テルバン(Bès Těrbang/Hantu Terbang)
- 鳥の精/ベス・チェム(Bès Chèm/Hantu Burong)
- とんがり頭/ベス・チェマ/ベス・チェマ・コイ(Bès Chěma'/Bès Chěma' Kòy/Hantu Tajam)
- 長あごの精/ベス・チェルン・ダグ(Bès Chěrʉng Dagu'/Hantu Dagu Panjang)
- 長い歯の精/ベス・レムニ・チェルン/ベス・レムニ・タリン(Bès Lěmuny Chěrʉng/Bès Lěmuny Taring/Hantu Gigi Panjang/Hantu Gigi Taring)
- 妊娠の精/ベス・マコ(Bès Makò'/Hantu Bunting)
- 猫の精/ベス・クチン/ベス・クチン・ベラン(Bès Kuching/Bès Kuching Belang/Hantu Kuching/Hantu Kuching Belang)
- 根っこの精/ベス・アカル(Bès Akar/Hantu Alar)
- ねぶとの精/ベス・ビスル・ペナジェン(Bès Bisul Penajen/Hantu Bisul)
- ノコギリの精/ベス・ガジ(Bès Gaji/Hantu Gergaji):背中が鋸状のお化けで、切られた木に当たったものは死んでしまう。
- 野猿の精/ベス・チャンガ(Bès Changah/Hantu Lalah)
- 歯痛の精/ベス・ニャ・レムニ(Bès Nya' Lě'muny/Hantu Sakit Gigi Gaham/Hantu Sakit Gigi)
- 墓の精/ベス・クボル(Bès Kubor/Hantu Kubor)
- バジャングの精/ベス・バジャン(Bès Bajang/Hantu Bajang) →下記の吸血鬼「バジャン」参照
- バナナの花の精/ベス・ジャントゥン(Bès Jantung/Hantu Jantung)
- 花の精/ベス・ベカウ(Bès Bekaw/Bès Bekaw Gunong/Hantu Bunga/Hantu Bunga Gunong
- 腫れ物の精/ベス・バラ(Bès Barah/Hantu Barah)
- 歯をつかんでいる精/牙をつかんでいる精/ベス・チェップ・レムニ(Bès Chèp Lěmuny/Hantu Pegang Gigi/Hantu Pegang Taring)
- 半熟の精/ベス・メンカル(Bès Měngkal/Hantu Mengkal)
- ひざの精/ベス・コイ・ケルワル(Bès Kòy Kěrwal/Hantu Sakit Kepala Lutut)
- 人食い/ベス・チャ・ジャ(Bès Cha' Jah/Hantu Makan Orang)
- 復讐の精/ベス・デンダム(Bès Dendam/Hantu Dendam)
- ふくろうの精/ベス・ポット(Bes Pot/Hantu Burong Jampok)
- 河豚妖怪/ベス・ブンテル(Bès Buntel/Hantu Buntal)
- ブロング/出っ歯の精/ベス・ブロン(Bès Bulong/Hantu Bulong)
- ペナンガル/ベス・ペナンガル(Bès Pěnanggal/Hantu Penanggal)
- ペフナン/ベス・ペフナン(Bès Pěhunan/Hantu Kempunan)
- ボヤン:ジャクン族の呪術師。下記の吸血鬼たちが害を及ぼさないように呪文を唱える。
- マカク/ベス・ドン /ベス・ドン・カワン(Bès Dong/Bès Dong Kawan/Hantu Berok/Hantu Berok Banyak)
- マピック:ネグリト族の死者の国に生える、乳房があり子供の霊に濃厚な母乳を与えるという宝樹。
- 未亡人の精/ベス・バル(Bès Balu'/Hantu Janda)
- 耳たぶを食べる精/ベス・アンティン(Bès Anting/Hantu Anting-Anting)
- 目の病気の精/ベス・チョレ(Bès Chole/Hantu Sakit Mata)
- やせた精/ベス・クルス(Bès Kurus/Hantu Kurus)
- 槍の精/ベス・ブルス(Bès Bulus/Hantu Lembing)
- 四つ目/ベス・マット・ンパット(Bès Mat Mpat/Hantu Meta Empat)
- リューマチの精/リューマチの痛みの精/ベス・ドケット(Bès Doket/Hantu Sengal)
- 笑/笑い/ベス・レロック(Bès Lě'lok/Hantu Ketawa)
- ワン・ハンデッド/ベス・ティン・ニウェイ(Bès Ting Niwèy/Hantu Tangan Satu):胸から腕が生えている精霊で、女性にもてる方法を知ろうとして人を攫う。
ゲゲゲの鬼太郎に登場したもの
- 耳長/ベス・チェルン・ンタン(Bès Chěrʉng Ntang/Hantu Telinga Panjang):長い耳を持つお化けでイチジクの樹に住んでいる。この木の根を飛び越した子供をわがままで頑固な性格にしてしまう。
- エギク/ベス・エギク/ベス・エギック(Bès Egik/Hantu Keji):卑怯者の精。身体の半分以上の大きな顔をしているが、10歳以下の子供にしか見えず泣かせる。
- ビディ/ベス・ビディ(Bès Bidi/Hantu Busong):川に毒のおしっこをして、入ったものの腹から下に痛みを与える。
- 竹ねずみの精/ベス・デカン(Bès Dekan/Hantu Dekan Makan Buloh):竹の新芽を食べつくし枯らしてしまう。人が近づくと恐ろしい姿に化け脅かしてくる。
- 土の精/ベス・ブミ(Bès Bumi):土の中に住んでおり、突然憑りついて気を失わせ、命を奪うこともある。
- ケンパス蛇/ベス・タルン・ケンパス(Bès Talun Kěmpas/Hantu Ular Kempas):普段は緩慢だが、雷のときは飛んできて人に巻き付く。骨が折れるほどの力が強く、助かっても皮膚が鱗のようになってしまう。
- ハンプバック/ベス・ブンコック(Bès Bungkok/Hantu Bongkok):猫背のお化けで空家に住み、侵入した者は背骨をねじ切られてしまう。また、森に住むものは襲った人を腎臓病にしてしまう。
妖精・精霊
- オラン・ケト:ドワーフのような背の低い人々。
- オラン・ケニット:不思議な力を持つ小人。
- ガーガシ(Gergasi):巨人。
- ゲデンバイ/ケレンバイ(Gedembai/Kelembai):石化の力を持つ鬼。
- チノイ(Chinoi):セマング族に伝わる草木や花に生息する精霊の一団。
- ハラクギマル/ハラク・ギマル(Halak Gihmal):男性のチノイ。
- マットチノイ/マット・チノイ(Mat Chinoi):チノイの首長。大蛇の姿をしている。
- ドゥヨン(Duyong):人魚。
- ナ・トゥク・コン/ダトゥク・ゴン/拿督公(Na Tuk Kong, Datuk Gong):マレーシアとシンガポール、そしてインドネシアの一部にて華人に信仰される老人の姿をした大地の精、守護霊もしくは神。名前はマレー語で祖父を意味するダトゥクに中国語の尊称であるコン(公)をつけたもの。
- バンバーゾン/バンバアゾン/バンバゾン(Bambaazon, Bambazon):米の精霊。
- ビダダリ(Bidadari):天女。
- モヤン・クタム:蟹の精霊。
- モヤン・トゥパイ・ブララン(Moyang Tupai Belalang):リスとバッタを合わせたような精霊。
- モヤン・ブランカス(Moyang Belangkas):カブトガニの精霊。
- モヤン・ラン・クイト(Moyang Lang Kuit):蛇と鷲を合わせたような精霊。不吉の前兆だと考えられている。
近代の伝承
- アーマー・フィッシュ/イカン・ブルバジュ・ジラ/鎧魚(Armour Fish, Ikan Berbaju Zirah):マレーシアのとある釣り人が海で釣り上げた怪魚。全長約30cm、巨大な頭部を持ち、口吻から2本の牙のような突起が突き出ており、全身が甲殻のような鱗に覆われ、体の側面には鋭い棘が並んでいる。長年その海で釣りをしていても未だ見たことがない奇妙な魚だったため、釣り人とその妻はこの魚を神からの贈り物として食べずに保存した。写真を見る限りおそらくキホウボウ科の魚と思われる。
- クロコダイル・フロッグ/カタ・ブアヤ/コド・ブアヤ/鰐蛙(Crocodile Frog, Katak Buaya, Kodok Buaya):カタ・ブアヤはマレー語、コド・ブアヤはインドネシア語。ボルネオ島で目撃された未確認生物。その姿は鰐と蛙の合成獣であり、鰐の頭部、力強い後脚、湿り気のある両生類の体、黒の斑紋がついた茶色い鱗を有していて、尻尾は生えていない。余談だがマレー語ではイリエワニのことを蛙鰐、ブアヤ・カタ(Buaya Katak)と呼ぶ。
- セリ・グムム/セリ・グムム・ドラゴン(Seri Gumum, Seri Gumum Dragon):1959年にイギリス人技師がチニ湖で目撃した赤い目のドラゴン。この名は現地で伝承される女性のナーガのこと。日本では昭和期のUMA関連書籍でラオスの竜として紹介された。
- プテラ・ケンボジャ(Putera Kemboja):他国からやってきた王子で、呪いで封印されていた王女セリ・グムムに恋をし、互いにナーガに化身することで解放され去って行ったと伝わる。
- チニ湖の怪獣(Chini Lake monster):1953年にチニ湖のそばにあるルジ村で目撃された金色に光る怪獣。
- ハントゥ・ポコン/ポコン(Hantu Pochong):白い布に包まれ埋葬された姿のイスラム教徒の死者が蘇ったお化け。 →ポチョン
- ハントゥ・バンクス/ハントゥ・バンキット(Hantu Bungkus/Hantu Bangkit):起きるお化け。ポコンと同じく布に巻かれているがキョンシーのように飛び跳ねる。もしくは飛ぶので動きが速い。
- ハントゥ・カク・リマー(Hantu Kak Limah):カク・リマーという女性の亡霊が暴れ回るホラーコメディー映画。
- ハントゥ・カタック/ハントゥ・カタ(Hantu Katak):ノンフィクションライターの大泉実成が水木しげるの『日本妖怪大全』をセノイ族の村に持って行った時、セノイ族の者が河童の絵を見てそれが蛙のハントゥ(妖怪)だと予想した。『水木しげるの妖怪探険 マレーシア大冒険』にある話。
- ハントゥ・クムクム(Hantu Kum-Kum):1980年代に話題になった魔術の失敗で顔が腐ったようになったジバブを被る女のお化けで、家の前で「アッサラーム アライクム」というイスラム式の挨拶の語尾を「クム クム」と続けるのが特徴。美しくなるため99人の処女を殺し血を奪うという。
- プルンプアン・カイン(Perempuan Kain):布女。水木しげるがマレーシアで現地の人に教えてもらった妖怪。『水木しげるの妖怪探険 マレーシア大冒険』にある。
- オランミニャ/オラン・ミニャック/オラン・ミニャク:2000年代に目撃されるようになった、魔術の失敗で黒い油まみれの身体になったという女を襲う脂っこい男のお化け。
- ハントゥ・ランジャ:走っているバイクの後ろに乗ってくる女のお化け。「おしっこがしたい」と声をかけてくるので降ろすと消えてしまう。
- ハントゥ・ジュプン/ハントゥ・ジャパン(Hantu Jepun, Hantu Japan):日本兵の亡霊。
- オラン・ダラム:身長約2.5~3メートルの黒い毛をした類人猿型UMA。伝承では出っ歯のお化けとして知られる。
- チュータン/朱丹(Zhudan):シンガポールの妖怪。朱丹と中国語で表記されているが先住民の柔仏族(ジョホール族?)の王であり、死後も霊魂となって自らの墳墓の宝を守っているという。岡本綺堂『マレー俳優の死』に記述がある。
- シンダイ:首都クアラルンプール近くの熱帯雨林に棲む、人に似た顔の類人猿型UMA。
使い魔
- ポロン(Polong):血から造られる球状の使い魔。
- ペレシト(Pelesit):ポロンと連携して害を成す、尖った頭のバッタまたはコオロギ姿の使い魔。
- トヨール(Tuyul/Toyol):大きな耳を持つ緑色の小人。
- ハントゥ・ラヤ(Hantu Raya):偉大なお化け。呪術師が使役できるものでは最高の霊であるといわれる。
吸血鬼
- ラジャ・ベルシオン:ケダ州バリンの街の由来となった毒牙を持つ王。
- ランスグイル/ラングスイル/ランスール/ランスイル(lang suir)
- ペナンガラン/プナンガラン(Penanggalan):セノイには「ペナンガル」という似た名の蜜蜂を守護する精霊が伝わる。
- ポンティアナ(Pontianak)
- 目玉のお化け
- ユウカナ
- バジャン(Bajang):死産した胎児から生まれるという吸血鬼で、ジャコウネコのように見える男の姿をしていて子供に危害を加える。
天使
西マレーシアのイスラム教徒に伝わる天使。
- サブル・アリ(Sabur Ali):風の主である天使。
- シル・アリ(Sir Ali):領海の主である天使。
- チタル・アリ(Chitar Ali):渦巻きの主である天使。
- プタル・アリ(Putar Ali):虹の主である天使。
- マラーイカ・プテ(Mala'ikat Puteh):ジャングルの全てのものを守護する天使。名前は「白い天使」という意味。
幻獣
- アバス(Abath):マレー半島に生息するとされた雌の一角獣。
- サン・カンチル(Sang Kancil):民話に登場するマメジカ。
- サン・ブアヤ(Sang Buaya):民話に登場するワニ。
- バダ・アピ/バダック・アピ/バダク・アピ(Badak Api):火の犀。森林で燃え広がった火を踏み消すという。
- ハリマウ・ジャディアン(Harimau Jadian):人虎。
- プアカ(Puaka):ボルネオ島のドゥスン族に伝わる豚の悪魔。鋭利な舌を持つ。
- マーライオン/シガラウ/シンガラウット/ユィウェイシー/鱼尾狮(Merlion, Singa-Laut, Yuweishi, 鱼尾狮):シンガポールの妖怪。当国の公用語である英語ではマーライオン、マレー語ではシガラウ、中国語ではユィウェイシーと呼ぶ。
- リムブット(Rimbut):人間に化けた象の姫。