ゾルフ・J・キンブリー
ぞるふじぇーきんぶりー
人物
「紅蓮」の二つ名を持つ国家錬金術師で、元軍人。身長175㎝ぐらい。
「いい音だアアアアアアア」等と叫びながら、爆発音や悲鳴に興奮してぷるぷる震えたりする変態。
基本的には誰に対しても敬語で、一見すると真面目で礼儀正しく紳士然としている。変態という名の紳士。
そして本人も、自分が異常者である実態を肯定しているサイコパスであり、敬語口調や紳士然とした態度も「自身の異常性を包み隠すための処世術」だと公言して憚らない。
実際軍人には到底なり得ないイカれ野郎だが、「自分がイカれてる事を自覚できていればマトモぶるのは簡単」と述べており、それで精神鑑定試験をパスしたらしい。
(見方によっては、自分なりに自己分析して、大人しい真人間のフリをしてる期間があるだけ、自制心や思慮のない小悪党よりマシともとれる。)
長い髪をポニーテールにしており、真っ白なスーツ、真っ白なコート、真っ白な帽子の格好を好んでいる。内乱で活躍した時には、上はタンクトップで下は軍服と活動的な服装を、囚人時代には髪は下ろした状態で無精髭を生やした姿をしていた。爆発を起こすための錬成陣の刺青を、両方の掌に彫っている。
自分の思想と同じか異なるかに関わらず、「己の信念を貫く人」が大好き。この点についてのウィンリィ・ロックベルへの発言からロリコン疑惑が浮上したが、本人は即座に否定している。
自身は人を殺す行為に何ら躊躇いもないが、軍の警告を無視して戦場でイシュヴァール人を助け続けたロックベル夫妻に敬意を示しており「一度会ってみたかった」と溢していたり、囚人時代に世話になった看守の1人に対してもその看守が仕事熱心であったために一目置いていたりする。
また「軍人でありながら人を殺す覚悟がないのか?」とエドに問いた時に「殺さねぇ覚悟」と言い切ったエドに対して、「それもまた貫き通せば真理」と言いながら一定の理解を示し、アルフォンスに対しても「みんなを救って元の体に戻れない、元の体に戻れるがみんなは救えない」という選択肢を提示したにもかかわらず「選択肢はその二つだけじゃないだろ、"みんなを救って元の体にも戻る"なんでその選択肢がないんだ」と返されエドの時と同じように「等価交換の原則を無視しているがそれも実現すれば新しい理になる」と認めていた。(一方で「だったらもう一つ、"元の体にも戻れず皆も救えない"選択肢も加えなさい」という指摘も行っている)
仕事に生きがいを覚える「仕事人間」であり、自分に課せられた仕事はいかなる事態に遭遇しようとも全うしようとする。その熱心ぶりは狂気の域であり、味方を巻き込もうが、どでっ腹を貫かれようがお構いなし。仕留め損ねた標的を見つければ、周囲の制止を押しのけると協調性を乱すまでの執着心を見せるシーンもあった。
イシュヴァール殲滅戦に傷の男の家族を殺害した過去があり、彼が錯乱状態になってウィンリィの両親を誤殺する原因を作ってしまう。
また異端である自分が世間で生きてきた経験から「弱肉強食」にも通じる『純粋な生存競争』に独自に美学を見い出しており、イシュヴァールでホムンクルスの勧誘に応じたのも、人とホムンクルスの生存競争に強い関心を示した為。
前述の通り、自身に相反する信念を持つ者であろうと、それを貫き通す者には好感を示す傾向が強い(それはそれとして、自分も信念を貫くのでしっかり敵として対峙する)。逆に味方であっても信念を曲げた者には嫌悪感を示す。
殺した人物の顔をすべて記憶する特異な才能があり、それを冒頭のセリフを以て示している。
猟奇的な面を持ちつつもその中で貫かれる独自の習慣や彼なりの哲学と思想、
戦闘時における爆発物への深い造詣と優れた錬金術の手腕、
生活でも尻尾を掴ませない巧みな渡世、
性格でも腕時計を爆弾に見せかけて玩具に錬成した時のように時折見せるお茶目な面や、敵対者の信念や他者の理論にも理解を示す寛容な側面等、
単なる『悪辣な異常者』とするだけではなく自分なりの哲学を持ち、頭脳面・人間性においてもある意味で非常にバランスのとれた味のある性質を持つ人物であり、悪役・敵役としては魅力的な要素に溢れたキャラクターである。
劇中での活躍
初出は単行本4巻。
第五研究所に隣接する刑務所で、とある一件から逮捕され、服役中の姿がぼんやりと紹介された。
この時はまだ顔は描かれておらず、無精ひげを生やし髪もボサボサ。
隣の研究所から聞こえる爆音を聞いて興奮しており「変態」と吐き捨てられていた
イシュヴァール殲滅戦では少佐⇒中佐。
上層部から賢者の石を与えられ、その実験として傷の男の暮らしていた地区を殲滅。
またそれ以前に、マスタング大佐(当時少佐)や士官学校から上がりたてだったリザ・ホークアイと殲滅戦の一時休息期間にて談話の席を持った際に、殲滅戦に不満タラタラの二人に対して独自の戦争論を展開し、「"私は嫌々やっています"という面をしてるが、自分の攻撃が上手く行った時"上手く行った、ヨシ!"と考えた事がほんの一瞬もないと言い切れるか?」「私からすればあなた方の方が理解できない、人を殺す覚悟もないのに軍服を着たのか?」と一喝、記事冒頭の台詞を説き、マスタングやホークアイの精神に少なからず影響を及ぼしている。
賢者の石を使った殲滅作戦後、その威力を気に入って石の返却を渋り、おまけにそこに居た将校たちを錬金術で爆殺。しかしその中に紛れていたエンヴィーにその精神性を気に入れられホムンクルス側の協力者となり、反逆罪の体で収監(保護)され、中央刑務所で彼らからの仕事の使命を待ち続けていた。
なお、そのときの賢者の石は人間ポンプの要領で服役中も胃に隠しており(賢者の石は「完全なる物質」の為いかなる化学変化も起こさない)、その気になれば脱獄は容易かったと思われる。(手錠こそされているが、彼の錬成は手合わせ錬成では無く、OPでやっていたり、後に釈放された際、手で包み込む様にしただけの時計を爆弾(文字盤の部分がほんの少し破裂して鳩が飛び出る玩具)に錬成して揶揄っている通り反応する程度の距離に近づけるか同じものに触れるだけでいいため、所持している賢者の石も合わせれば小規模の爆発で錠を外したり壁に触れるなどして吹き飛ばして逃走することは可能で後はどうとでもなる)
「FULLMETAL ALCHEMIST」オープニングではイシュヴァール殲滅戦時のキンブリーの姿が描かれており、自身の能力により焦土と化した街に一人佇みながらも「賢者の石」の力を実感し、充実感に満ちた不敵な笑みを浮かべているシーンが描かれている。
その直後のカットでは、復讐を決意した険しい表情の「傷の男」が1人、荒野を行くシーンが登場している。
それからしばらくして、ラストがマスタングに斃された穴を埋める為に、ホムンクルスの思惑によって出所を果たし、スカーとティム・マルコーを抹殺する仕事人として派遣される。ついでにエンヴィーから、第五研究所の研究員から生成した二個目の賢者の石も得る。
そして、ノースシティから更に北部へと向かう列車でスカーと対峙。イシュヴァールでの因縁を思い返し、逃げられて尚も喜々としてスカーの抹殺を果たさんと誓う。しかしその際に、右脇腹を負傷してノースシティの病院に搬送される。
搬送先でレイヴン中将&金歯の国家錬金術師と面会し、金歯の錬金術師の生態錬金術でスピード復帰を果たすと、キング・ブラッドレイ大総統の命に従ってブリッグズ要塞に向かい、エルリック兄弟の元に「機械鎧技士を呼んだ」と称してウィンリィを連れ出し、彼女を人質とすることで兄弟の行動を牽制する。
しかし、レイヴン中将がアームストロング少将によって殺害される(キンブリーは行方不明と説明された)と「邪魔だからいない方が好都合」と語って独断専行を開始、今度はエルリック兄弟組とスカー組の即席共同戦線と炭鉱跡地で対立。部下を巻き込むのも気にせずエドワードと戦い、エドワードが賢者の石の内の1つを取り上げた事態に気を緩めた隙に、2個目の石で術を発動させてエドワードに勝利する(この時攻撃に巻き込まれて死にかけたことを根に持った部下のダリウスとハインケルは「俺たちはここで死んだ事にして自由の身だ」と言いながらそのままキンブリーから離反してエド達の味方に付いている)。だがその直後にプライドの指示に従い、北方の隣国ドラクマに裏切り者を装って近づき、彼らとブリッグス要塞の面々を戦わせて国土錬成陣の総仕上げに関与した。(彼は当初ブリッグスの兵達の血=ブリッグス兵の惨敗でなければならないと思い込んでいたため「そうは言うがここの結束は思っている以上に強い」と評価していたが、実際に必要なのは「ブリッグスの地」で「大量の死が起こる」事であると指摘された事で方針を転換、上述通りドラクマ兵を惨敗させた)
その後は音沙汰がなかったものの、「約束の日」にスカーに協力していたイシュヴァール人数名を殺害後、窮地に陥ったプライドの救助に向かい、そこでアルフォンス達と交戦。ハインケルが隠し持っていた賢者の石を使って接戦に持ち込まれ、最期は合成獣化したハインケルに風下から接近された事でプライドの察知が遅れ、喉笛を噛み切られて戦闘不能となり、消耗した魂の補給としてプライドに食われた。
「暴風雨? 笑わせないで頂きたい、怨嗟の声など私にとっては子守歌に等しい!!!」
……と思いきや、プライドの核となる賢者の石の中で、その存在を維持していた。
自身の中にある賢者の石の魂全てと対話することで彼らの心を鎮め、共存に成功したホーエンハイムや、逆に全てを受け入れグリードをも抱え込む大器を示したリン等、魂の悲鳴や怨嗟の中で自我を維持している者は他にもいるが、本体へ影響したのは彼とリンだけである。
言葉通り、彼にとって怨嗟や絶望の悲鳴などそよ風程度の影響(どころかむしろ心地よい音楽にしか聴こえていない様子)しかなく、彼らの生半可な自我に流されるほど彼はヤワではなかった。
そしてエドワードとプライドの対決において、エドワードを新しい肉体として取り込もうとしたプライドの精神内に顕現し、「本来なら中から見ているだけで何もする気はなかった」と前置きしつつ、逆転の目処が存在しない完全な詰みになっても敗北を認めない見苦しさ、散々下等種と見下していた人間を乗っ取ってまで生きながらえようとするプライドの執着心を「美しくない」と一蹴してプライドの悪足掻きを妨害する。
プライドの本体が「入れ物」から引きずり出される際「殺される…!」と恐怖したプライドに
殺す? 貴方はエドワード・エルリックをわかっていない!!!
と一喝、自身の矜持(プライド)を捨てた傲慢(プライド)の賢者の石が解体されゆく中で笑顔を浮かべ、エドの勝利を見届けながら自身の誇り(プライド)に従い消滅していった。
完全な悪役ながら死してなお、その独特な存在感は色褪せなかった。
小ネタ
ミドルネーム
ゾルフ・J・キンブリーの「J」は「ジャジャジャジャーン」からきているらしい(あくまでオマケ漫画のインタビューでの解答なので、本気かどうかは不明)。
人間ポンプ
呑みこんだ賢者の石を胃から吐き出す「人間ポンプ」芸は、実は読切としての段階(後の『鋼の錬金術師・プロトタイプ』)でエドワードが先にまったく同じ行為をやっている。
恐らくは元ネタはこっち。
最後の仲間?
原作107話の扉絵は、エルリック兄弟と仲間達が拳を付き合わせる構図の集合絵となっている。この内最終決戦の地にいない者は頭頂部だけが出ているピナコを除いて、生死を問わず突き出した腕しか描かれていない。実はキンブリーもバッカニアの隣で腕を突き出している。作者的にはプライドの悪足掻きからエドを守ったことで、エド達の仲間になったという解釈であろうか?