概要
なんて素敵にジャパネスクは、氷室冴子の平安時代の宮廷貴族社会を舞台にした少女小説シリーズである。当時の社会風俗が分かりやすく書いてあり、古典への入門書としても読める。
コバルト文庫から1984年から1991年にかけて10冊が刊行され、小中学生から高校生を中心に人気を得た。1999年にはイラストを替えた新装版、2012年にはみらい文庫版が発売され、2012年までにシリーズ累計800万部販売されている。
(イラストは旧版:峯村良子、新装版:後藤星、みらい文庫版:佐嶋真実。)
また、この作品を原作にして漫画やテレビドラマ、ラジオドラマも製作されている。
物語
舞台は平安時代。貴族・内大臣家のおてんばな16歳の娘・瑠璃姫を主人公に描かれている。
瑠璃姫の結婚問題をきっかけに起きた事件や、貴族社会の政治陰謀事件などを解決して行くラブコメディ。
登場人物
主要登場人物
主人公。摂関家(藤原氏)の流れを汲む内大臣家の姫君。初登場時16歳。
明朗活発で勇敢、勘が鋭く、頭の回転が速い。深窓の姫とも思えない活発な性格。
高彬(たかあきら)
右大臣家の四男坊。瑠璃とその弟・融(とおる)の幼馴染。 初登場時15歳。
生真面目で身分や世間体を重んじる常識人。琵琶の名手だが、字と和歌が下手。
吉野君(よしののきみ)
瑠璃が吉野で暮らしていた頃の幼馴染。瑠璃の初恋の人で、将来を誓い合った仲でもあった。その正体は、今上帝(鷹男たちの父)の落胤。
小萩(こはぎ)
瑠璃の側近の女房。瑠璃より2歳年上で独身。いつも瑠璃のことを心配している。
融(とおる)
瑠璃の同腹の弟、内大臣家の嫡男。初登場時15歳。高彬とは幼馴染で親友。
鷹男(たかお)/宗平親王(むねひらしんのう)/帝/今上
瑠璃がある事件で出会った公達。男性的な美貌の持ち主であり、胆力に富む。その正体は東宮・宗平親王。後に即位して今上帝となる。
藤宮(ふじのみや)
先々帝の第八皇女。初登場時20歳。才色兼備の佳人として名高い未亡人。
二の姫 / 兵部卿宮の二の姫(ひょうぶきょうのみやのにのひめ)
兵部卿宮の二番目の姫。当代一の佳人として誉れの高い美女。
高彬が瑠璃姫への求婚の歌について悩んでいることを相談されて、彼の歌の師を快く引き受ける。これを浮気と勘違いして兵部卿宮に乗り込んできた瑠璃姫と対面し、誤解が解けた彼女に結婚祝いの言葉を送る。非常に聡明な女性だが、後にある事件で心を悩ませ、思い余って飛び来んだ尼寺で瑠璃姫と再会することになる。
内大臣家
父様/藤原忠宗(ふじわらのただむね)
瑠璃や融の父。初出は大納言、後に内大臣となる。型破りな瑠璃やぼんくらの融に悩まされ寝込むことも多いが、政治力は確かなものがあり、実はかなりのやり手らしい。高彬を婿に迎えてからは、安堵している。かなりの女好き。
母上
内大臣の正室。瑠璃や融にとっての継母に当たる。瑠璃の独身時代は優しく、何かと庇ってくれた。高彬との結婚後は、瑠璃の亡き母からの遺言もあって、母親としての務めを果たそうとしているが、瑠璃との意思疎通は空回り気味。
融
前述。
小萩
前述。
早苗(さなえ)
内大臣家で務めを始めたばかりの新米女房。実家はかなり裕福。口が軽く、小萩からいつも叱られている。帥の宮の従者・利光と文のやりとりをする仲でのちに帥の宮邸へ移るが、瑠璃姫の動向を探るために自分に近づいたことを知り、しかも夫婦同然の女房がいる事を知ったショックで、毎日泣き暮らしていた。
のちに帥の宮が瑠璃を殺害しようとした事を知り、「こんな結婚サギと、人殺しのいるお邸なんてもうイヤ!」と守弥に泣きながら訴えた。
於夏(おなつ)/夏姫
瑠璃の弟・融の乳兄弟に当たる女房。美人ではないが、瑠璃好みのきりっとした容貌で、しかも女房としては最上級といえる有能さを持つ。幼い頃は夏姫と呼ばれ、瑠璃が吉野に居た間、融と高彬の遊び相手だった。当時の邸内ではそれにちなんで「表の瑠璃姫、奥の夏姫」と呼ばれ、親しまれていた。
姉・阿久の忘れ形見である小姫を奪い返す機会を密かに窺っており、ついに実行に移すが瑠璃に阻まれ、家出した融がいる任国へと去る。
幼少より高彬に思いを寄せていたが、身分の違いから、思いを閉ざす。その許嫁となった瑠璃のことを、昔の自分を見ているようで好きだったと告げ、「今度誰か好きになる時には、大人しい許嫁のいる人にする」と言い残して去っていった。
右大臣家
右大臣
高彬や承香殿、由良姫らの父。政治の世界ではともかく、邸では「どうしたもんかのう」を連発する頼りない人物。高彬いわく「昔かたぎ」。内大臣である瑠璃の父とは仲がいいらしく、泣き落されて、愛息である高彬を評判のよろしくない瑠璃の婿にすることを仕方なく承諾する。
北の方
右大臣の正室で、高彬や承香殿、由良姫らの母。四男四女の八人を産む。末息子の高彬を溺愛しており、妻となってからも瑠璃姫のことを嫌っている。出自は宮姫(皇族)。
聡子姫(さとこひめ)
高彬の一番上の姉で、右大臣家の総領姫。後々は東宮妃になる身として周囲から大切に育てられたが、当時は身分の低かった涼中将に一目惚れし、強引に婿取りをした。既に夫との仲は冷え切っている。
どうやら不妊症らしく、涼中将と阿久との間に産まれた小姫を引き取り、可愛がっている。
梨壺女御(なしつぼのにょうご)/承香殿女御(じょうきょうでんのにょうご)/公子姫(きみこひめ)
高彬の二番目の姉で、東宮妃。のちに今上帝妃となり、承香殿女御となる。明るく華やかな性格。
春日大納言(かすがだいなごん)
右大臣家の長男で、高彬の兄。有能かつ両親に溺愛されている弟に対するコンプレックスを利用されて、帥の宮の陰謀に加担し、由良姫の入内を目論む。脂ぎった中年男で、容貌も全く似ていない。ちなみに子供は「男子ばかりで姫(女子)がいない」(つまり入内させる娘がいない。この時代の大貴族にとっては、致命的)。
高彰
前述。
由良姫(ゆらひめ)
右大臣家の四番目の姫で、高彬の妹。年が近いため、一番仲がいいらしい。入内話が持ち上がるが、本人は一目見た帥の宮に恋焦がれている。そのため、兄・高彬の親友である融に相談。宇治の別荘に家出する。
涼中将(すずしのちゅうじょう)
右大臣家の婿。出世にはあまり興味のない風雅人で笛の名手。藤宮の指南役も務める。権門の姫(聡子姫)に見初められ、逆玉に乗ったことだけはある美男だが、その経緯もあって(そのため、公達連中からは妬みを買い、出世した際には「厭味を言われる始末」とのこと)、やや崩れた印象がある。
聡子姫とは夫婦仲がうまくいっておらず、あちこちに愛人がいる。阿久と面差しが似ている、於夏(夏姫)と関係を持つ。
小姫(こひめ)
涼中将と阿久の間に生まれた娘。阿久が他界した後は、涼中将に引き取られ、聡子姫によって育てられている。義母である聡子姫を慕っており、実の叔母である於夏に連れて行かれそうになった時には、泣いて嫌がっていた。また、義理の叔母にあたる瑠璃にも懐いている。
守弥(もりや)
高彬の乳兄弟(大江)の兄で、高彬の教育係。高彬より5歳年長。叔母には煌姫の乳母の下記がいる。
右大臣家で家司を務め、主人や北の方などの内情にも詳しいため家内の影の実力者でもある。右大臣家に仕えているが、彼にとって大切なのは高彬のみであり、全ての価値基準は高彬である。高彬を事件に巻き込み、帝の信頼を損ねさせた(とされているが、実際は今上は高彬に「許せ」と詫びている)瑠璃を敵視し嫉妬している。
目的のためにさまざまな計略を立てる策謀家だが、いわゆる机上でしか物事を考えず、詰めが甘いため、その策略は失敗することが多い。
風雅人であった学者の父から受け継ぎ、琵琶の名手でもある。とある理由で小萩のことが苦手である。
左大臣家
前左大臣入道(さきのさだいじんにゅうどう)
第2巻より登場。帝(当時)に娘を女御として入内させており、太皇の宮が産んだ東宮(鷹男)を退け、孫皇子を東宮にするため懸命に働きかけるも、叶わず出家。ちなみに自身の子息である現左大臣は、「実に温厚ないい方」(鷹男談)とのこと。
出家した後、別宅で暮らしているが左馬頭等と共謀して東宮排斥を企むが、瑠璃の活躍により事は未然に防がれた。
捕えられた後、流罪に。
丹後(たんご)
前左大臣別邸の女房頭。現代風に言えば、「お局様」。少納言が「別宅のせいか 女房連中ってみーんなばばあばっかでさぁ」と話しており、別宅女房連中の平均年齢が高いことがうかがわれる。
別宅でボヤ騒ぎ(瑠璃が連判状を入手するために、わざと燭台を倒した)が起き、書状が燃えてしまった事で大慌てする入道たちを一喝するほどのしっかり者。
少納言(しょうなごん)
別邸の女房で、瑠璃とは同世代。
彼氏がいるが(「自分達に通ってくる公達がいないせいか こういうことにうるさいのよね」と、瑠璃にこぼしていた)、別宅であるにもかかわらず侍が多い事から「通いにくい」と言われたとのこと。
皇族・後宮
鷹男/東宮/宗平親王/帝
前述。
先々帝
帥の宮や藤宮の父。
光徳院(こうとくいん)
先の帝で、今上帝・二の宮(左大臣の女御腹)、吉野君の父院。
太皇の宮が懐妊して宿下がりした直後、内裏が火災に遭い宮が住む実家(里内裏)に移り、そこで佐子姫(後述)を見初め結ばれてしまう。彼女も懐妊してしまい、誰にも相談出来ずに失踪した際に慌てた事から、太皇の宮に全てを覚られた。
それから数年後、左大臣に唆されて上洛した吉野君と対面。だが、彼の性格では貴族社会では生きていけないと感じ、「私の子ではない 我が子は東宮宗平親王のみ」と拒否。この事が、三条邸放火及び今上帝暗殺未遂事件へとつながってしまう。その直前、二の宮を出家させるため密かに呼び出した吉野君(唯恵)から「また一人 皇子を捨てられるのですね」と詰られ、初めて彼が自身を恨んでいた事を痛感した。現在は病を患い、寝たきりに。
太皇の宮(たいこうのみや/たいおうのみや)
今上帝(鷹男)の母宮で、先帝の后。父は一度は立太子したこともある親王。太皇の宮いわく「病がちだったため 御位は辞退された」とのこと。宮自身も皇族。瑠璃に似た豪快で明るい性格だが、不信心。
今上の東宮時代、右大臣家の後見を求め、承香殿女御の入内を強く望んだ。「わたくしにとって最も大切なのは帝」と言い切り、後宮は華やかで平穏であってほしいと思っているため、桐壺女御より承香殿女御が性格的に合うらしい。吉野君とは叔母・甥の関係(吉野君の生母は、太皇の宮の異母妹)。
吉野君
前述。
二の宮
光徳院の第二皇子。鷹男の異母弟。母は左大臣家の娘。政争を避けるため出家。
淑景舎殿(しげいさどの)/桐壺女御(きりつぼのにょうご)/絢姫
亡き右大将の姫で、東宮(宗平親王)の添伏役を任じられ、そのまま妃のひとりとなった女性。
その後、男皇子を生み、今東宮の生母となる。二の姫、藤宮、煌姫ともまた違った風情のたおやかな美女。鷹男(今上帝)とは夫婦仲があまりうまくいっていない様子。
梨壺女御(なしつぼのにょうご)/承香殿女御(じょうきょうでんのにょうご)/公子姫(きみこひめ)
前述。
今東宮(いまとうぐう)
今上帝(鷹男)と桐壺女御の間に生まれた皇子。まだ幼いが人懐っこく、瑠璃姫にもすぐになついた。
大弐(だいに)
桐壺女御の乳姉妹であり、腹心の女房。
佐子姫(すけこひめ)
太皇の宮の異母妹(つまり彼女も親王の娘)で、吉野君の生母。今上帝を身ごもった姉が実家の邸に下がっていた時、内裏が火事となったため帝(当時)もその邸に移り(いわゆる里内裏)、帝の目にとまって、身ごもってしまう。
誰にも相談出来ず、悩んだ末。家を出て吉野へ(当時の帝の様子から、太皇の宮は事情を悟った)。のちに吉野君が左大臣(当時)の陰謀で上洛した時にはショックのあまり号泣。その後、他界した。
宮家
水無瀬宮
煌姫の父。妻(煌姫の母)を亡くしてからは消沈し、煌姫を遺して亡くなってしまう。
煌姫(あきひめ)
水無瀬宮の姫君。両親が亡くなり、家財を騙し取られたため、日々の食事にも事欠くほど零落していた。いわゆる絶世の美女だが、その生い立ちゆえを信条とする超リアリスト。守弥の母の妹が乳母として仕えている。
守弥の策略により高彬の側室の座を狙うが失敗し、後に内大臣邸(瑠璃の家)に身を寄せる。それを知った瑠璃とは反目し合う仲だったが、後に互いの目的のため共闘する仲となる。
悠々自適の生活のためには策を弄してでも玉の輿を狙おうとする野心家で、自分勝手な所が目立つ。しかし窮地に陥った瑠璃を二度も救い出したり(瑠璃が川に落とされ、殺害されかけた件では「人殺しの愛人なんてこっちから願い下げですわ」と憤っていた)、傷心の由良姫の話し相手になるなど、慈悲に満ちた一面も持ち合わせる。
帥の宮(そちのみや)/遠野宮康緒(とおのみややすお)
前々院の御子の1人で、藤宮の異母兄。母親は高内侍。確かな後ろ盾を持たないため降籍もできず、長らく無品親王として世間から忘れられていたが、とある縁で帥の宮に抜擢される。今上帝と面影が似ており、そのため、太皇の宮や藤宮からも親しまれている。高彬の長兄、春日大納言と手を組み、由良姫入内に纏わる陰謀の首謀者。
邦利光(くにのとしみつ)
帥の宮に仕える従者で、瑠璃も驚くほど「イイ男」。帥の宮の命で、早苗に接近。夫婦同然の仲の宮邸女房がいる。
その他
阿久(あく)
涼中将のかつての恋人でさる宮家に仕えていた女房。涼中将が婿入りすることになり、右大臣家の意向を恐れた人々によって疎外され、不遇の一生を終えた。実は於夏の姉。中将との間に一人娘(小姫)がいた。
左馬頭(さまのかみ)
前左大臣入道と共に、東宮(鷹男)排斥を企む一派の一人。
瑠璃いわく「スケベじじい」。東宮が今上帝(当時)を呪詛するよう頼んだ書状を偽造した。
漫画版
1989年から1993年にかけて白泉社の少女漫画誌『花とゆめ』に漫画版が連載された。作画は山内直実。原作の中盤(瑠璃姫の結婚)までが描かれている。
その後10年以上の時を経て、『花とゆめ』2004年12号より人妻編として月1回の連載が再開。途中で掲載誌が変わり、『別冊花とゆめ』に連載された。
単行本は、無印全11巻+人妻編全11巻の計22巻が刊行されている。
ラジオドラマ
NHK-FM『ふたりの部屋』でラジオドラマ化された。1987年1月6日~17日(全10回)
瑠璃姫 - 小林聡美
高彬 - 坂上忍
テレビドラマ
1986年12月27日には日本テレビで富田靖子主演でテレビドラマ化された。
キャスト
瑠璃姫 - 富田靖子
高彬 - 木村一八
鷹男 - 仲村トオル
融 - 西川弘志
吉野の君 - 京本政樹
権少将 - 佐藤B作
二の姫 - 鳥居かほり
藤宮 - かとうかずこ
北の方(瑠璃姫の継母) - 中井貴恵
小萩 - 中田喜子
大海入道 - 伊東四朗
瑠璃姫の父(内大臣) - 石坂浩二
プロデューサー:石坂浩二