ひみつ道具としての解説
TC「ドラえもんプラス」第5巻『イイナリキャップ』に登場するひみつ道具で、円形のアンテナがついた受信帽子と矢印のついた送信帽子のペアで1つの道具。
送信帽子をかぶると、受信帽子をかぶった生物をどんな命令にも従わせることができる。
また、送信帽子をかぶった側が言語能力を持たない生物であっても機能するように、どちらの帽子もかぶった生物は普通に会話ができるようになる。
エピソードとしての解説
ある日、ドラえもんとのび太が空き地に来ると「これあげます」と書かれた大きな箱の中にジャイアンの飼い犬・ムクが入っているのを見つけた。さっそくジャイアンを問いただすと「あんまり言うこと聞かないから捨てたんだ」と言った上に、「お前拾ったんなら責任持てよ」とのび太に責任をなすりつける始末。
頻繁に吠えかかる凶暴な犬とはいえ、ムクに同情したドラえもんは「ムクが言うことを聞くようになったらもう一度飼ってくれるのでは」と考え、イイナリキャップを出した。
試しにのび太が送信帽子をかぶり簡単な指示を出すと、一通りのことはこなした。
道具の効果で喋れるようになったムクは、ジャイアンについて「俺だってできることならなんでもするんだよな。あいつめ、『ニャーゴと鳴け』とか、『ヘソ踊りやれ』とか、無理ばっかり言うんだもん。犬が『ニャーゴ』なんて言えるかってんだ!ふざけるな!バカヤロウ!」と愚痴をこぼしただけでなく、餌も煮干しの頭などばかりでまともな物をくれない、散歩もサボるといった劣悪な飼育環境を告白してきた。それでも「子犬の頃から育ててくれたからジャイアンが好きだ」とムクは話す。
それに「悪いのはジャイアンだ!」と怒ったドラえもんは、ジャイアンに抗議するためにムクを連れていった。…イイナリキャップをその場に残して。
イイナリキャップを勝手に持って行ったのび太は、外を歩きながら
「それにしてもこの帽子は面白いね。もっと別の動物で試したいよ」
「犬や猫はありふれててつまんない。たとえばライオンとか」
と呟いていたが、空き地に来た所で見事にフラグを回収するかのごとく、のび太の目の前にライオンが現れた。
襲いかかってきたライオンに咄嗟に受信帽子を投げたところうまくかぶせられたので、調子に乗ったのび太は友達を呼んでライオンに芸をさせたりレスリングする所を見せるが、友達の反応は「ぬいぐるみに決まってるじゃん」「もっとほんとらしい嘘つけよ」とイマイチだった上、レスリングの途中で両者ともキャップが取れてしまう。そこでのび太は慌ててイイナリキャップをライオンにかぶせ直すが、うっかり受信帽子と送信帽子を取り違えて自分がライオンのいいなりになってしまう。
のび太は送信帽子をかぶったライオンの命令で自宅まで案内させられるが、この時廊下でママと鉢合わせするも、ママはちょうど眼鏡を外していたため「変な子ねえ、家にお獅子なんか連れてきて」と勘違いされ、異常事態には気づかなかった。
のび太の部屋に入り込んだライオンは「俺はな、今、非常に腹ぺこなんだ」と食べ物を要求し、のび太は自宅の冷蔵庫からありったけのハムやソーセージを持ち出すが、それでライオンが満足するはずもなく、今度は「お前うまそうだなあ」とのび太を食べようとする。
イイナリキャップのせいで逃げることもできず、服を一枚残らず脱がされ、全身にバターを塗りたくらされ、先ほどハムやソーセージを乗せてきた大皿に座らされるのび太。そしてライオンは「いただきまーす」とのび太にかぶりつこうとするが、ここで「待てよ…。あっ、そうか!何か物足りないと思ったら、俺ケチャップをかけないと食えないんだ」と発言。ケチャップはちょうど切らしていたため、のび太は「買ってこい、逃げようなんて思うなよ」とケチャップを買いに行かされる。
その途中でジャイアンと遭遇するが、のび太の受信帽子を見たジャイアンは「おや、面白い帽子だな」と取り上げ、のび太の制止も聞かずかぶってしまう。結果今度はジャイアンがライオンに呼び寄せられ、追いかけるのび太共々のび太の家の玄関前まで来た所で、空腹に耐えかねたらしいライオンが「ウオー」と飛び出してきて、「こっちの方がうまそうだ」とジャイアンに襲いかかる。…さっきまで「ケチャップがないと食べられない」と言ったにもかかわらずである。
その時、ジャイアンの危機にムクが駆けつけてきて自分の数倍の大きさのライオンに飛びかかり、飼い主を守るべくライオンと戦っている間に、ムクの後を追ってきたドラえもんがスモールライトでライオンを小さくして事なきを得た。
そこに警官とライオンの飼い主とおぼしきベレー帽をかぶった男が現れたが、飼い主の言い分は「あ、それね、うちで飼ってたんだけど、育ちすぎたから捨てたの。欲しけりゃあげる」とあまりにも無責任な物で、しかもヘラヘラ笑いながらの発言だった。結果、飼い主は「そんな無責任な飼い主がありますかっ」と怒った警官によってそのまま逮捕され、警察に連行されていった。
そしてジャイアンは、一度は捨てたムクが自分を助けるために身の危険も省みずライオンに飛びかかった様を見て深く反省し、「ごめんな。これから大事にするからな」と言いつつムクを背負って帰宅していった。
余談
上記のエピソードは、大山のぶ代版で1回、水田わさび版で2回アニメ化されており、ここではそれぞれの原作版と異なる部分を記述する。なおわさドラ版の2回目は、令和最初の「ドラえもん」の放送である。
のぶドラ版『いいなりキャップ』(1981年12月18日放送)
- ライオンがのび太の家に入る際、のび太のママは居間にいたため、のび太がお客を連れてきたこと自体に気づいていない。
- 原作では描かれなかったライオンのその後が明らかになっており、ビッグライトで元の大きさに戻された上で、「下野動物園」なる動物園に引き取られている。
- ジャイアンの最後のセリフが、「もう少しであのライオンの飼い主みたいになるとこだったんだもんな」に変更されている。
わさドラ版1回目『腹ペコご主人さま』(2007年8月17日放送)
- のび太のママが廊下でライオンと出くわした際、獅子は獅子でも獅子舞のそれと勘違いしている。
- 放送コードへの配慮で原作とは違い、脱がされたのび太の男性器は見えないようにされている。
- このバージョンのみ、ジャイアンは受信帽子をかぶったのび太と出会った際にはムクを捨てたことを後悔しており、受信帽子を取り上げたのも(イイナリキャップのせいで返答できない)のび太に無視されて怒ったためとなっている。
- 小さくされたライオンは鳥籠に入れられ、そのまま警察に連れて行かれている。
わさドラ版2回目『のび太のおいしい食べ方』(2019年5月10日放送)
- のび太のママが廊下でライオンと出くわした際、毛深いお友達と勘違いしている。
- 「タイトルに偽りなし」とばかりにライオンののび太への味つけの過程が原作より凝っており、のび太を入浴させてきれいにしてから、バターと塩を味つけに使うというグルメぶりを発揮。
- コンプライアンスへの配慮からか、脱がされたのび太は全裸でなくパンツ一丁となった。
- ライオンはのぶドラ版と同様に元の大きさに戻されてからトラックに積んだ檻に入れられているが、その後の具体的な行き先は不明。
ちなみに現在ではライオンが絶滅危惧種に指定されているため、個人で飼育するのは不可能である。もし無許可で飼育を行った場合、6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる。またこの話の当時でも、日本においてはライオンは人に危害を加える可能性がある特定動物に指定されており、各自治体の許可を得ないと飼育はできなかった。
作中の飼い主の場合、自身の不注意で逃がした訳ではなく故意に逃がしてジャイアンやのび太が食われる一歩手前になったので、厳しい処罰が下される可能性が高い。補足してつけ加えると、ライオンがもし人間を殺傷するなど危害を加えれば、業務上過失傷害(致死)罪で5年以下の懲役か禁固刑、または100万円以下の罰金刑の対象になる。
本エピソードで登場したライオンは同作品のオープニングテーマドラえもんに一瞬だが登場する。