概要
アラスカやシベリア、グリーンランド、カナダ北東部などを含めた、北極周辺の広域に住む複数の民族に伝わる神話伝承で、同じ神格であっても地域によって呼び名や性質が異なる場合も多い。
この地は植物が育たない非常に寒冷で過酷な環境であることから、独自の狩猟文化が発達しており、そのような環境で生き残るための知恵を体現した伝承が数多く伝わっている。
神々及び魔物一覧
- アイパルーヴィク(Aipaloovik):海の邪神
- アウヴェコエヤク(Auvekoejak):アザラシの下半身を持つ人魚
- アズイウグムキムクティ/アズ・イ・ウ・グム・キ・ムク・ティ(Az'-i-wû-gûm Ki-mukh'-ti, Aziwugum Kimukhti):ユピクに伝わるもの。大きさはセイウチよりも小さく、牙のあるイヌの頭部、四本のイヌの脚、魚の尻尾、輝く黒い鱗に覆われた細長い体を有するイヌのような姿をしている。セイウチの守護者であり、セイウチの群れと一緒に過ごすという。
- アフンガフンガーク(Ahungahungaaq):コッパー・イヌイットに伝わる巨人。
- アミクック/ア・ミ・クク(Amikuk, A-mi'-kuk):ユピクに伝わるもの。細い手足を持つ水棲の人食い魔物。
- アミフサク(Amixsak):ユピクに伝わるもの。人間に狩られたセイウチの生皮が復讐のために化けた魔物。
- アリグナック(Alignak)/アルナプカプファールク(Arnapkapfaaluk):海の邪神/女神。
- アンガコック(Angakok, Angakoq):シャーマン。
- イーイーカルドゥク(Eeyeekalduk):善良な黒い顔の小人姿の精霊。
- イガルク/アニンガン(Igaluk, Aningaaq):太陽神マリナの兄であり近親相姦の末に月神となった
- イクータユク(Ikuutayuq):「穴を開ける者」という意味の人食い女怪物で、弟と一緒につららで造った円陣の中に人を捕らえてつららで刺し殺すという。
- イグトゥク(Igtuk):神秘主義者アナルカクが語った怪物。腕と脚は体の背面にあり、一つだけしか無い巨大な目は腕と同じ高さにあり、耳は目と同じ高さにあり、鼻は洞窟のような口の中にあり、房状の濃い髭が下顎に生えている。顎を動かすと不思議な重低音が鳴り響くという。
- イシトク/イッシトーク(Issitoq, Issitôq):“巨眼”という意味。ぼんやりとした者に取り憑き病気にしてしまう雪原に住む悪霊。だが、両親を亡くしたばかりの神秘主義者アナルカクの前に現れて慰め、彼を助ける仲間になってくれたという話もある。真っ直ぐに逆立ったごわごわの短い体毛、二つの眼球はそれぞれ二つに区切って分けられたようになっており、口は縦方向に開き、口の上部には一本の長い歯、口の側部には二本の短い歯が生えている。
- イジラク/イジラック(Ijiraq):視界に入らない位置に出現する目と口が横についたカリブーに似た変幻自在の怪物で、氷原に人を連れ去り凍死させる。
- イトキールパク(Itqiirpak):ユピクに伝わるもの。揺らめく真紅色の火の玉、もしくは五本の指先と手の平に口が付いた巨大な手の姿をした魔物。
- イドリラギジェンゲト(Idliragijenget):海神。
- イヌパスグジュク(Inupasugjuk):全てを破壊する力を持つ巨人。
- ウイルルヤク/ウィルゴユク/ウィ・ル・ゴ・ユク(Uiluruyak, Wi'-lû-ghó-yûk):ユピク語でハドソントビハツカネズミ(Zapus hudsonius)のこと。氷上に現れるウイルルヤクは、人間を見つけると目にも留まらぬ速さで服に潜り込んで体中を這い回る。この時にじっと動かなかった者はウイルルヤクの承認を得たということで優秀な狩人になれるが、少しでも動いた者はウイルルヤクにより肉に穴を空けられ心臓を刺され殺されるという。
- ウェンディゴ(Wendigo)
- ウグジュクナルパク(Ugjuknarpak):野鼠の怪物。セイウチ並みの巨大な頭部、矢でも短刀でも銛でも貫けない分厚く頑丈な皮膚、獲物を巻いて掴むことのできる長い尻尾、人間を咬殺できる長い牙を有する。
- カイラーテタン(Qailertetang):動物、漁師、狩猟者の守護者である天候の女神。
- カクワンウガトキグウルニク/カク・ワン・ウ・ガト・キグ・ウ・ル・ニク(Kăk-whăn'-û-ghăt Kǐg-û-lu'-nǐk):ユピクに伝わる魔物。シャチが陸上で狩りをするためオオカミの姿に変身したもの。
- アクルト(Akhlut, Akh'-lut):カクワンウガトキグウルニクの誤記。単にシャチを意味する単語なので魔物の名ではない。
- カテュタユーク(Katyutayuuq, Katjutajuuq, Kajutajuq, Kajutajuk):髪で空を飛ぶ、頬に乳房を持った頭部のみの精霊。
- キキルン(Qiqirn):大型犬のような怪物で人を襲うが、自らの名を呼ばれることを嫌う。
- キグティリク(Kigutilik):神秘主義者アナルカクが遭遇した精霊。体長はクマくらいだが、脚は長くて背が高く、脚の関節に大きな瘤があり、尻尾は二本、皮膚の襞でけで体と繋がっている大きな耳は一つしか無く、牙はセイウチのように立派で、体には房状の毛がある以外は皮膚が剥き出しになっている。氷の穴から現れて「アー、アー、アー!」と吠えてきたという。
- キビウク/キビウック(Kiviuq):巨人。
- 魚霊
- クァルパリク/クァルピルイット(Qalupalik, Qallupilluit)
- クヴドルギアルスアク(Quvdlugiarsuaq):グリーンランドの巨大な蛆。これ一匹で住居の人々が一冬を凌げる量の脂肪を有する。
- アウセク(Auseq):巨大な芋虫。人間にとって危険な存在。
- クキリアルイト(Kukilialuit):長い爪を有する鬼。
- クプクギアック/ククウィーク/ククウェアク(Qupqugiaq):10本足のシロクマの姿をした幻獣。
- ジグ・ク・ナク(Jig-ik-nak):北西岸インディアンが伝承する魚神ワスゴなどと同一視される人喰い怪魚。
- シャルナク(Siarnaq):セドナと同一視される海の女神。
- セドナ/セルナ/タカナカプサルク/アーナーカグサッグ/ネリヴィック(Sedna, Takanakapsaluk, Arnakuagsak, Nerrivik):海獣の女神。
- セルミリク(Sermilik):グリーンランドに現れる危険な白熊の怪物。巨大な白熊であり、長い被毛は完全に氷で覆われている。
- ターグレルケト:ネツィリクに伝承される不可視の存在で、イヌイットの女と結婚した者が居た。しかし姿が見えないことから不安になった女に刺し殺されたので、基本は人間と対立している。現在は透明故に一方的であることから不干渉を貫いている。
- タガナック:ユピック族に伝わる死霊。
- タックヒシマ:グリーンランドに伝わる守護霊。
- テュロク/テュロック(Tulok):月神アニンガンの宿敵である戦士で、太陽神マリナによって砕かれ星になった。
- トゥータルジュイト(Tuutarjuit):あやとりの精霊。
- トゥピレク/トゥピラク/トゥピラック(Tupilaq):シャーマンが災いをもたらすために召喚する悪霊で、後ろ脚がカラスの死んだ子供やアザラシに変身途中の人間、尖った頭に大きな牙を両手でつかむ怪物などの姿が伝わる。水木しげるが描いた「悪霊」はこの神格の像がモデルである。
- トゥルカウグック(Tulukauguk):ワタリガラスである創造神。
- トナカイの霊
- トルナック:守護霊。
- トルンガルスク(Torngarsuk):不定形の精霊で、片腕が人間の熊に化ける。
- ナーツク:巨人から生まれた大気の霊で嵐の精とされる。
- ナヌーク(Nanook):熊神
- ナルトク/ナルトーク(Nartoq, Nartôq):神秘主義者アナルカクが遭遇した精霊。鼻は額にあり、下顎は胸部まで伸びており、腹は妊婦のように大きかった。
- ヌータイコック(Nootaikok):氷山や氷河の神でアザラシの守護霊。
- ヌリアジュク(Nuliajuk):上記のセドナと類似する海獣の女神。
- ヌリャクサック(Nuliarksak):人間の男性と結婚する事もある女精霊で子は透明である。男の精霊はウイルクサクと呼ぶ。
- ネガフォク(Negafok):寒さをもたらす精霊。
- パルライユク/ティゼルック(Pal Rai Yuk, Păl-raí-yûk, Tizheruk):ユピクに伝わるもの。狐の双頭、海豚の鰭、魚の尾を持つキメラのような魔獣。
- マハハ/マハハー(Mahaha, Mahahaa):犠牲者を死ぬまでくすぐるという鬼のような魔物。
- マリナ/マリーナ(Malina):太陽神である女神。
- マンギッタトゥアルジュク(Mangittatuarjuk):鬼女。
- ユア(Yua):森羅万象に宿る精霊。