概要
イワガネグモ科(学名:Eresidae)に分類される蜘蛛のこと。130種ほど知られ、アジア(東南アジア、中東などを除く)、ヨーロッパ、アフリカ、ブラジルに生息する。
狭義ではヨーロッパに生息する1種 Eresus niger をイワガネグモと呼ぶが、この学名は後に廃止され、別の3種に分かれるようになった。
日本では分布しないため知名度が低いが、よくヨーロッパで最も美しい蜘蛛とされる。
英語では velvet spider と呼ばれる。ベルベットとは織物の一種であり、この蜘蛛の毛並み良さそうなフサフサ具合からそうつけられた。
また、一部は ladybird spider と呼ばれる。Lady は女性、bird は鳥を指すが、ladybird は英語でテントウムシのことであり、鮮やかな色とそこに混ざる斑点模様(多くは4つの斑点)から付けられた。綺麗でしょ?ちなみにこの派手な姿をするのはオスである。いわゆる性的二形というやつだ。
蜘蛛の中ではユニークな方の体型だが、ハエトリグモ科やエグチグモ科、アフリカイワガネグモ科(分類はイワガネグモよりホウシグモに近い)と似てる為、ぱっと見では見分けがつきにくい。正面から見た時の目の配置でこう、なんとか…
顔文字にすると/ ○..○ \こんな感じだろうか?でも目はハエトリグモより格段に小さいような…
多くは糸をチューブ状に編んだ巣穴で生活するが、Stegodyphus 属のものは網を作る。
独特な習性
この蜘蛛は母がミルクのようなものを与えて子育てをする行為が見られる。このように親が子育て用の栄養を分泌することは蜘蛛どころか哺乳類以外の動物ではかなり珍しい行動である。
一見微笑ましい行動だが、母が子に与える栄養の正体は母蜘蛛の内臓である。母は自分の体の中身を消化し文字通り身を削って子に栄養を与えているのだ。当然母は衰弱していき、最期には内臓が機能しなくなり弱った母に子が群がって食べ尽くす。残されるのは母の外殻、からっからの骸のみである。
ちなみに母が自分の内臓を消化して栄養にし、子が母に群がり食べる行為は噬母現象(Matriphagy、matri 母 + phagy 食)と呼ばれる。他の一部の蜘蛛やカニムシにも見られる。
自身が食われるリスクを負いながら見つかる保証がない餌を探しに行かせるより、確実に栄養を与え成長した状態で出ていってもらう方が子供が生存できる確率が高いという点で理にかなっていると言えなくもない。
一部の仲間には社会性に達し大勢の群れが一つとなって生活するものもいる。他の蜘蛛はほぼ全部が単独で生活するのでこれも珍しい習性である。
社会性といえば蟻を見てわかるように、基本的には群れで唯一子を産める女王個体・戦闘を行う兵隊個体・その他の個体と別れており、場合によってはそれ以上に区別されることもある。それらの区別は生まれついての物で、途中で別の役割に乗り換えることはない。だがこの蜘蛛達は社会性に至りながらも個体ごとに役割で分かれていない。つまり雑用係が戦闘係に転向したり戦闘係が雑用に移ったりも自由であり、それぞれが子供を産むことに制限もない。
しかも仲間同士で子育てを手伝う。上記の母蜘蛛の自己犠牲を母ではない別の蜘蛛が行うこともあるのだ。
また、この仲間同士で争う事もなく、別の「巣」の蜘蛛が迷い込んで来ても問題なく受け入れられる。
参考動画
関連タグ
ハエトリグモ:体付きが似ているため混同されたこともある蜘蛛。
カバキコマチグモ:子育てで母が犠牲になる点が似てる蜘蛛。毒に注意。
アリバチ(velvet ant):ベルベット繋がりの蜂。
ピジョンミルク:哺乳類以外で子育て用の栄養を分泌する動物繋がり。フラミンゴやコウテイペンギンも利用する素嚢乳のこと。ただしオスも出せる。当然蜘蛛ほど身を削らない。