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ウルトラマン訴訟

うるとらまんそしょう

ウルトラマン訴訟とは、ウルトラシリーズの海外利用権を巡る日本の円谷プロダクションとタイ王国のチャイヨー・プロダクションの訴訟騒動。
目次 [非表示]

概要

ウルトラシリーズの海外版権を巡り、日本の円谷プロダクションとタイ王国のチャイヨー・プロダクションの間で行われた訴訟事件。

様々な関連企業も巻き込み、約25年にも及ぶ訴訟合戦となった。


略史

90年代

チャイヨーと円谷プロは、かつて『ジャンボーグA&ジャイアント』『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』を共同製作するなど良好な関係にあったが、1996年に円谷プロ3代目社長・円谷皐が亡くなった矢先、皐とチャイヨー創設者であるタイ人実業家のソムポート・セーンドゥアンチャーイ氏との間に「『ウルトラQ』~『ウルトラマンタロウ』までのシリーズ、および『ジャンボーグA』を日本を除く全ての国において期限の定めなく独占的に利用許諾する」という1976年に結んだという契約書の存在を明かし、関係が悪化。

皐自体がワンマン社長であったことから、円谷プロ側も一旦はその主張を信じてしまったために、25年近くにわたって国内外で泥沼の裁判沙汰に至ってしまったのである

問題の契約書はわずか1ページで社名や作品名、サイン、作品本数が間違って記載されたことや写しのみで原本が無いことから大きな波紋を呼んでいた。

チャイヨー側としては「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」の使用権の支払いに「ウルトラマンタロウまでの番組を海外で使用できる権利」で当時の円谷プロ社長と契約したことから始まる。この時点において、円谷プロが経営難に遭った事やチャイヨーと円谷プロの関係はこの時点では非常に良好であった事が根拠として挙げられる。

この間にウルトラマンに携わった人物がチャイヨー側の擁護に回ったり、チャイヨーが独自のウルトラシリーズ「PROJECT_ULTRAMAN」を制作したりと、権利関係を始めとして色々と拗れた。2004年には円谷英明が社長として就任した円谷プロ側、2010年10月にはチャイヨーから権利を受け継いだユーエム社側も和解を模索するが結果として至らなかった。

他にもこの頃、円谷プロ内でお家騒動が勃発していた。チャイヨー側の擁護に回った人物の一人にウルトラマンをはじめとした数多くのキャラクターをデザインした故・成田亨がいたのも会社の姿勢や状況に対して辟易してためであり、袂を分けて以降は死ぬまで円谷プロの仕事を行わなかった。これがあってか、チャイヨー擁護に回っていた。


日本での裁判

日本での著作権に関する訴訟においては2004年4月の最高裁判決で、円谷プロが契約書の内容を1996年に認めてしまっていることと、契約書に押されている円谷エンタープライズの社判が本物であることを根拠に円谷プロの全面敗訴となった。なお、契約書に対し筆跡鑑定や原本証明などは一切行われなかった。

その後、2006年にチャイヨー側が損害賠償請求を起こすも、チャイヨーが1998年にタイ以外での海外の独占利用権利の放棄を条件にバンダイから1億円を受け取っていたという事実が2011年に発覚。2012年4月にユーエム社側の最高裁上告が棄却され、円谷プロの逆転勝訴となった。

このため、日本においては「ウルトラQ」から「ウルトラマンタロウ」の6作品に関しては、日本国内での独占利用権利を円谷プロが、タイ国内での独占利用権利をユーエム社が、タイ以外での海外での権利をチャイヨーから譲渡されたバンダイが持つ(2011年の判決はチャイヨーとバンダイとの間の係争を避けるための訴訟放棄であり、ユーエム社が2014年に発表した解釈ではウルトラシリーズの制作権、複製権、著作権、商標権及び上記の権利の第三者への譲渡の権利をユーエム社が持ち、配給権、広告権及び商業上の目的のためにする複製の権利をバンダイが持つ)ということで法的には決着している。もちろん、これは日本国内でしか通用せず、実質的に効力はない。


タイ王国での裁判

タイでの訴訟においては、2003年の最高裁判決では「ウルトラQ」から「ウルトラマンタロウ」の6作品と「ジャンボーグA」の日本国外における使用権はチャイヨー側が持つという円谷プロ側の敗訴となっていた。

その後2007年4月にタイの知的財産、国際貿易裁判所が、チャイヨーの訴えるウルトラマンそのものに対する著作権を認めず、チャイヨーが使用できるのはあくまでも前述の6作品だけという判決を出した。そのため新作である「PROJECT ULTRAMAN」は無許可制作物となってしまい、作成は不可能になった。またチャイヨーは「ウルトラマンコスモス」などの平成ウルトラマンのDVDも販売していたが、これらも当然著作権侵害となった。

さらに2008年2月、タイの最高裁はそもそもの契約書のサインと作品名が誤っていることから偽造であると認定し、ソムポート氏がウルトラマンの共同制作者であるという主張(ソムポートはウルトラマン製作の際に、仏像をモチーフとしたヒーローを円谷英二に提案したとして、自身がウルトラヒーローの制作者であるというとんでもない主張をしていた)も却下し、円谷プロの全面勝訴となった。その後、2020年9月21日にタイの最高裁において、1998年から2008年までにチャイヨーが得てきたライセンス料に対する損害賠償請求の裁判にてチャイヨー側の上告を棄却。タイ国内における裁判は全て終結した。

このため、タイにおいては、2008年の時点で日本国内外問わず全ての権利を円谷プロが持ち、タイ国内における旧チャイヨーの権利および、日本・タイ国外における旧チャイヨーの権利(ユーエム社、バンダイの権利)は無効であるということで決着している。タイ国内においては、円谷プロ制作の7作品だけでなく、共同製作の「ジャンボーグA&ジャイアント」「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」の著作権も円谷プロが持つ事となった。このため、無許可の「PROJECT ULTRAMAN」だけでなく、当時は許諾を受けていた「ジャイアント」「ハヌマーン」を使った商売も円谷プロの許可がなければできなくなってしまっている。

チャイヨー側はこの係争の費用捻出などが理由で経営不振となり、制作していたウルトラマン博物館もこれらの理由から途中で建設がストップしてしまった。そこに止めを刺すように2011年のタイのアユタヤ川大洪水でアユタヤ市にあったスタジオが物理的なダメージを受け、再起不能となった。そしてついにチャイヨーは廃業してしまった。その後の権利は日本国内の映像会社「ユーエム社」が引き継ぎ、係争は引き続き行われた。と、言いつつ1998年にこの権利をバンダイに売却していたので、主張している権利がそもそもないのだが。


中国での裁判

中国ではチャイヨーがキャラクター商品の生産・販売権などについて広東省の裁判所に提訴したが、2009年10月に円谷プロ側の勝訴となった。

その後、円谷プロ側はユーエム社に対しキャラクター商品の販売停止などを訴えて北京市の裁判所に提訴したが、日本での最高裁判決と同様、2013年9月に契約書に押されている円谷エンタープライズの社判が本物であることを理由として、円谷プロの敗訴となった。

このため、中国においては日本の裁判判決の結果とほぼ同じ権利状況となっている。

それを受けて、2017年7月には広州藍弧文化伝播有限公司(ブルーアーク社)から「鋼鐵飛龍之再見奧特曼」(ドラゴンフォース さようならウルトラマン)の製作が発表され、ユーエム社から正規のライセンスを受けた作品だとして2017年10月に劇場公開した。

この作品について円谷プロは2016年から把握していたため警告文などを送り反発し、2017年9月に前述の2社を対象として公開中止を訴えるも上映されてしまったことから一旦取り下げ、2018年2月に配給会社なども含む6社を対象として上海市の裁判所に改めて提訴した。この裁判は2019年1月に始まったが、ブルーアーク社は訴訟中であるにもかかわらず、2018年11月21日に続編のネットアニメ「鋼鐵飛龍2 奧特曼力量」(ドラゴンフォース2 パワー・オブ・ウルトラマン)』の配信と、2019年1月18日には続編のアニメ映画「鋼鐵飛龍之奧特曼崛起」(ドラゴンフォース ライズ・オブ・ウルトラマン)を劇場公開した。


しかし、ユーエム社は2019年3月に自身が起こしていた「大怪獣バトルウルトラ銀河伝説THEMOVIE」のキャラクター商品権に関する訴訟を判決直前に取り下げ、中国におけるライセンスの主張を事実上放棄した。そのため、ブルーアーク社が主張を通すことはもはや困難であり、今後は中国本土における円谷プロの商品展開を妨げることはできないと考えられていた。


2020年6月30日、上海地方裁判所は「ライセンスが仮に本物であったとしても、それは過去作のものであり、新作を作る権利はない」という判決を下し、円谷プロの勝訴となった。

これによりチャイヨーは事実上中国から撤退した。

またチャイヨーから権利を受け継いだユーエム社は2011年より韓国・台湾・フィリピンでの展開を行おうとするが、前述したようにチャイヨーが1998年にタイ以外の海外の独占利用権利の放棄を条件にバンダイから1億円を受け取っていたことが発覚したことから頓挫した。


アメリカでの裁判

2018年4月、アメリカカリフォルニア州中央地方裁判所における裁判で、疑惑の契約書が完全に偽造されたものであるという判決が下されたと発表。「ディスカバリー」と呼ばれる強力な証拠開示制度を用いたことで、新たな事実や証拠、チャイヨー側のボロが次々と暴き出されたことで円谷側の全面勝訴へと漕ぎつけ、悲願であった海外展開に大きく弾みをつけることとなった。この調査によって集められた資料やメール、受信履歴は膨大な数にも及び、元FBI捜査官を呼んでの筆跡鑑定等も行われた。

ソムポートは契約書の原本提出を拒否し、裁判所への出廷命令も拒否するというアメリカの裁判においてはあり得ない行動をとっていた。

地裁判決ではあるが、円谷プロ側はこの裁判をこれまでのウルトラマン訴訟の集大成とし、ユーエム社側がこれを覆すことのできる証拠を提出し上告することはほぼできないだろうとみており、今後はウルトラシリーズの海外展開を積極的に進めるとした。

なお、円谷プロを追い出された円谷一族の円谷英明は2018年時点ではチャイヨー側に付いており、今後も5年は裁判が続く上に、アメリカだけの結果で全世界には通用しないので、円谷プロは海外展開などできないから和解するべきと批判している。(この行動自体は敗訴を受けて慌てて自己アピールしているという間抜けな悪あがきなのだが)


2018年5月7日、この判決を不服としたユーエム社は控訴するも、2019年12月5日のカリフォルニア州高等裁判所での控訴審でも一審判決が支持され円谷側が勝訴。2020年3月4日の上告期限までにユーエム側が上告することはなかったため、ついに円谷プロダクションの全面勝訴で長年の訴訟は幕を閉じることとなった。なお判決において、ユーエム社には円谷プロへ賠償金400万ドル(約4億円)の弁済が命じられている。


このアメリカでの勝訴と、タイ王国での裁判終結を以ってソムポート・チャイヨーの係争はすべて終了。円谷プロの全面勝訴となったことでウルトラシリーズの海外展開に障害はなくなり、2019年11月23日にはMARVELとのコラボレーションもはじまるなど、すでに新展開は広がっている。


影響

このごたごたが続いたせいでタイや中国をはじめとしたアジア諸国で非常に高い人気を誇るウルトラマンというコンテンツを収益の土台にする事が出来なかった事や日本国内で海外ウルトラマンの再ソフト化も行えないというのは90年代後半から2010年代前半までの円谷プロに深く、そして暗い影を落としていた。円谷プロ側はその間に幾度かの裁判には勝ったものの元々製作費が高コストである為、かねてよりそれが経営の足かせにもなっていた。そんな中での20年以上の裁判ともなれば、ダメージが小さいはずもなく、さらに放漫経営などでさらに拍車がかかっていた。

2018年公開の映画「レディ・プレイヤー1」の原作小説「ゲームウォーズ」ではウルトラマンが登場しているが、映画ではガンダムに差し替えられている。これは当時まだ権利問題が解決していなかったためである。

最終的に企業買収と円谷一族追放によって倒産だけは免れたものの、大幅な企業立て直しを迫られ、長い間新作シリーズを製作できない状態が続いていた。


そもそもの問題として、チャイヨー側の言い分を(元とはいえ)内部の人間がある程度理解していた事は注目すべき点であり、社内の事情が裁判とは関係なしに全くダメであったと言わざるを得ない。

たしかに契約書の偽造を行って円谷プロを騙そうとした詐欺まがいの事をしたチャイヨーにも問題はあるが、そこに付け込まれるような放漫経営を長らく続けていた円谷プロに全く問題がなかったとも言えず、単純にチャイヨー側が悪とは言いにくい。


なお、チャイヨー創設者のソムポート氏は最終判決が出た2021年に逝去している。


関連タグ

ウルトラシリーズ 円谷プロダクション

チャイヨー・プロダクション


キャンディ・キャンディ:原作者と作画者との間で作品の利用権を巡って訴訟合戦となり、最終的には作品自体が封印されてしまった同例。

ドンキーコング訴訟:日本の任天堂とアメリカのユニバーサル社の間で、ドンキーコングキングコングのパクリかどうかを争った裁判。途中でユニバーサル側が主張する権利が最初からなかった事が発覚した点が共通する。

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