前後のストーリー
概要
13ライダーの一人、インペラーの退場エピソード…にして『龍騎』最大のトラウマ回。
予告
仮面ライダー龍騎!
「まさか怪物捕まえようってんじゃないだろうな?」
「では、この私を雇いたい、そうおっしゃるわけですね?」
「私は、ここにいる」
「優衣」
「悪いな、負けるわけにはいかないんだよ」
あらすじ
ライダーバトルが佳境に入る中、仮面ライダーインペラーこと佐野満の下に父親が死んだという知らせが入った。
しかしどこか他人事のように捉える彼は、とあるビルの中で重役らしき人物達と話をする。実は佐野は大企業の御曹司だったのだ。
彼がこのビルに呼ばれた理由は、佐野を次の社長にするという先代社長の遺言の為で、佐野にフリーターをさせていたのは、世間を知って欲しいという親心だったと言う。
てっきり勘当されたと思っていた佐野は最初は戸惑うが、重役達のヨイショもあって快諾。早速豪華な食事にありついた。
一方その頃、佐野の部屋にいた仮面ライダータイガこと東條悟は自分の姿が映る窓を覆い隠し、鏡を壊した。
仮面ライダー王蛇や仮面ライダーゾルダとの戦いで連敗が続き、すっかり自信を失っていたのだ。
電気もつけず、部屋の隅でうずくまっていた東條を、帰宅した佐野が心配する。
土産である食事会の残り物を食べながら、佐野は東條に尋ねた。
「英雄になって、何がしたい?」
東絛は答える。
「英雄になれば、みんなが好きになってくれるかもしれない」
その答えに満足したのか、佐野は頷きつつもライダーバトルが終わる前に願いが叶ったら意味がないと呟いた。
すっかり社長ライフを満喫する佐野の前に、神崎士郎が現れた。これ幸いとインペラーのカードデッキを差し出す佐野。
「辞めたいんだ。ライダーを」
「一度ライダーになった者は、最後までライダーであり続ける。それが掟だ」
当然の事ながら神崎は拒否するが佐野は逆ギレしてカードデッキを床に叩きつける。それに対し神崎は珍しく声を荒らげて告げる。
「戦わないのはお前の自由だ!だがそれが何を意味するか…お前も分かっている筈だな?」
神崎の背後のガラスには佐野の契約モンスター・ギガゼール達ゼール系モンスターが蠢いていた。ライダーをやめるということは契約放棄と見なされ、モンスターの餌食になるという事。
佐野が慌ててカードデッキを拾い上げると、神崎やギガゼール達は消えた。しかし神崎の声は響く。
「戦え、そして生き残れ。そうすればライダーを辞める事ができる」
ライダーを辞めるためにはライダーバトルを勝ち抜くしかない。佐野は途方に暮れた。
佐野は仲間を求め、営業再開した花鶏を訪問。そこで仮面ライダー龍騎こと城戸真司と、仮面ライダーナイトこと秋山蓮の二人と交渉する。
しかし以前、優衣を狙った佐野を二人は信用しない。金で釣ろうにも突っぱねられる始末(真司は突き付けられた大金に驚きつつも速攻で一蹴したが、一方で蓮は未練ありげな目で金を見つめていた)。
次に北岡秀一の元を訪れると意外にも好感触で、すんなり北岡を雇うことに成功。
しかし、佐野は釈然としない様子だった。
その読みは当たっており、北岡は佐野に協力する気など毛頭なかった。そのくせ差し出した金は前金として懐に入れている。
「契約書を作るって時間がかかるんだよねぇ~一年先か二年先か…」
もう頼れる人物が東條しかいないと、佐野はちょっと高いお弁当を手に彼の元を訪れた。
食事をする東條に、佐野は自分をどう思っているか尋ねた。
「感謝してる。先生以外で初めて優しくしてくれたから」
その言葉に満足した佐野はすっかり気を良くするが、最後に一言、確認するように呟く。
「友達、だよな…俺達…」
その言葉に、東條はただ、小さく頷いた。
次の日、佐野に百合絵という社長令嬢と婚約の話が舞い込んできた。父親同士が知り合いだったらしく、佐野も百合絵もまんざらでもない様子。
ようやく幸せをつかみ、さらに恋人まで手に入れた佐野は人生の頂点に立ち、ついに覚悟を決めた。
(俺は勝つ。勝って俺の人生を守って見せる!)
それが脆くも崩れ落ちるとも知らずに…
その最中、通りかかった車から戦いを催促するギガゼールの横槍(物理)が二人を襲い、佐野は百合絵を残しインペラーに変身。ミラーワールドに入ると、モンスターと交戦していた龍騎に襲い掛かった。
だがインペラーは龍騎に力負けしてしまい、敗北寸前。するとそこにタイガが現れた。仲間が来たと思いタイガに助けを求めるインペラー。二人がかりで再び龍騎を追い詰める。
しかしその途中、タイガはデストワイルダーを召喚し、インペラーを襲わせたのだった。
「お前……!?」
「ごめん。でも君は大事な人だから。君を倒せば僕はもっと強くなれるかもしれない」
以前、恩師であるオルタナティブ・ゼロこと香川英行を倒した際に彼から教わった「大切な人を失ってでも大勢の命を救う」という教えを「大切な人を殺せば英雄になれる」と歪んだ解釈をしてしまった東條。
その歪んだ思想から、東條は簡単に佐野を裏切ったのである。
(※先ほど東條は部屋の隅でふさぎ込むシーンがあったが実はその段階で佐野を裏切ることを考えており、悩んでいたからあの様子だったという考察もできる。)
見かねた龍騎がタイガを抑え込んだことでなんとか逃げ、坂道を転がり落ちていくインペラー。
「何だよアイツ、何考えてるんだよ!?」
だが彼の不幸はこれで終わらず、坂道を転がり落ちた先でよりにもよって王蛇と遭遇してしまったのである。
インペラーは逃げようとするも満足に動けず、まともな抵抗も出来ないまま王蛇のベノクラッシュで撃破されてしまう。
インペラーのカードデッキはVバックルから落下し、粉々に砕け散ってしまった。
その直後、豪雨が降り始めた。ボロボロになった佐野は打ち棄てられていた鏡に、未だ彼の帰りを待つ百合絵の姿を認めて必死で呼びかける。
「百合絵さん!百合絵さん!…出してくれ!出してくれ!!」
当然ながら百合絵にその姿は見えず、その声は聞こえない。
鏡を潜ろうとするが、もはやデッキを失った彼に道は開かない。苛立ちのままにその鏡を蹴って割り、その破片を握りしめて百合絵を追う佐野。百合絵の姿を間近に捉えたところで、背後を振り返る。
しかし、ミラーワールドの鏡は現実世界を映している。
ミラーワールドのそこには誰もいない。
「出してくれ……出してくれよ!!俺は帰らなくちゃいけないんだ!!俺の世界に!!」
叫ぶ佐野だったが、遂に破片を持つ手が粒子化し始めた。
「嫌だ…嫌だああああ!!出してくれ!!出してえええええええええ!!!!!」
いくら叫んでも、その声は百合絵にも現実世界にも届かない。
「なあ……なんでこうなるんだよ……俺は、俺は、幸せになりたかっただけなのに……うあああああ―――!!」
失意と絶望の中、粒子となり消滅する佐野。その最後の悲痛な声はもう誰にも届かなかった。
佐野が完全に消えると、手にしていたガラスの破片も地面に落ちて砕け散った。
場面は変わり、佐野の住んでいた部屋が映し出される。佐野が飼っていた小鳥が鳥籠の中に取り残されていた。
餌をあげる佐野がいなくなった以上、この小鳥も佐野と同じく閉じ込められたまま死んでいくことを暗示するかのように。
余談
- この回のラストに表示されたアドベントカードは強奪効果のスチールベント。「佐野の幸せは、ライダーの宿命に奪われた」ことを意味しているのだろうか。そして、スチールベントは設定上王蛇が持っているカードである。
- 過去の行いから佐野の事を見放していた真司だったが「佐野商事の新社長、就任直後に行方不明!?」という見出しの新聞記事で佐野の死を知って彼を助けられなかった事に後悔していた。蓮はこれまでの彼の不誠実さもあってか「自業自得」と一蹴した。ただ、真司の方はそれ自体は否定しなかったものの「死んでもいいというのは違う」として、「もっと話を聞くべきだったかもしれない」と悔やんでおり、何とも後味の悪い思いをする事となった。
- 当初の佐野は真司を裏切って一般人の神崎優衣を殺害しようと悪事を働いたが、終盤では罪悪感を初めて覚えたのか大量の契約モンスターを維持するために一般人を襲わせて喰わせる事はしないなど多少は心境に変化が見られていた。(餌にしようとしたのも同じライダーである龍騎を狙った事からそれがうかがえる)またその他に自分の味方になってほしいという思惑こそあれライダーバトルで連敗が続いて自信を失っていた東條を慰めるなど他者に対して同情する心が芽生えていた。
- このことから、自分の強さをアピールするためだけに一般人を犠牲にする須藤、人の命を奪うことをゲーム感覚で見ている芝浦、悲劇的な過去はあるがストレス発散で人を殺す浅倉などの悪事を働いたライダーよりも倫理観や人間性については高く、善人になれる要素はあったとも言われている。それゆえに、その可能性が完全に潰されてしまったのがこの回がトラウマとも言われる大きな理由だろう。
- ....ただし、龍騎を殺そうとするなど最後の最後まで自らの私利私欲のために動こうとしているのは変わっておらず自分勝手な一面が示されている。そもそもエネルギーの補給ならモンスターを倒せばいいだけの話で、彼はその本来の仮面ライダーとしての行動すら放棄したとも言える。
- ただでさえ怪人と仮面ライダーの境界が曖昧な龍騎において、ライダーである意味すら失った彼はある意味モンスターになったと同じ(実際、行動もそこらにいるミラーモンスターと変わらなくなっている)である。そうとなれば他のモンスターと同じく鏡の中に閉じ込められて死亡という形となった彼の末路は、なかなか皮肉めいているかもしれない。
- 佐野の父親は遺言により息子を次期社長に指名したらしいが、重役たちが誰一人として同族経営に反発をしなかったこと(反対派の存在は仄めかされていたが)と、その遺言が真実であるかが曖昧であること等から非常に胡散臭い話である。そのため「重役たちは佐野を傀儡にして会社を裏で支配し、いざという時には佐野に全ての責任を負わせて切り捨てる」という可能性を一部の視聴者に指摘されている。もしこの仮説が正しければ、それはそれで惨めな末路を迎えることになる。
どちらにせよ安易な考えで目先の欲に飛びつき続けるという部分が変わらなければ、たとえ更生したとしても佐野の人生には碌な結末が待っていなかったという事を暗示しているのだろうか。
- なお、デッキが破壊されたにも拘らずギガゼール達が佐野を捕食しに来なかった理由は不明である(「須藤の時とは異なり、単純に近くにいなかった」「龍騎、タイガ、王蛇がギガゼール達を全て倒した」「捕食する前に佐野が消滅してしまった」といった理由が推察されている)。
- 最終回の「ライダーもモンスターも存在しない世界」には、役者のスケジュールもあってか登場はしていない。しかし今度こそ欲に溺れることなく堅実に生き、幸せな生活を送って欲しいと願う視聴者も少なくはない。
- 佐野の消滅シーンの撮影中、佐野役の日向崇氏は風邪をこじらせて40度近い高熱を出していたらしい。作中のフラフラ歩きは演技ではなく、本当に熱でしんどかったためだという。ちなみに氏は「インペラーと一緒に俺も死ぬかも」と覚悟を決めていたとか。そんな状態でずぶ濡れになって大丈夫だったのだろうか。
- 2022年に『SHOW激!今夜もドル箱』という番組で北岡役の小田井氏と蓮役の松田氏がこの回で百合絵を演じたたかはし氏と共演するが、そもそも両者ともに本編内で百合絵と絡む場面がなかったためか、たかはし氏が役名を名乗るまで二人とも共演した事に気づかなかったようである。
関連タグ
仮面ライダー龍騎 佐野満(仮面ライダー龍騎) 仮面ライダーインペラー
帝王トランザの栄光:ある意味このエピソードの戦隊版ともいえるエピソード。こちらも脚本は井上敏樹。