概要
監督は坂野義光。
当時、テレビの台頭などから映画産業は危機的な状況であった。そんな深刻な状況であったのは東宝も例外ではなく、メインスタッフの移動や円谷英二の死去などもあって、当時の東宝特撮の現場はほぼ崩壊状態にあったため、生き残りを模索した結果「ゴジラシリーズ」にその望みが託され、当時の社会悪として社会問題であった「公害」(海洋汚染だけでなく、大気汚染なども取り入れられた)と戦う作品として企画された。
低予算な中、アニメーションなど様々なアイデアを取り入れて撮影が行われながらも完成した本作は変身・怪獣ブームであった中でまずまずの成績を収め、この流れを踏まえたゴジラのヒーロー化が進められることに繋がった。
なお、本作でゴジラが単独で飛行するという驚きのシーンがあることも有名。
当時の社会悪「公害」について訴えかけるというテーマ故にストーリー自体は暗いものであり、公害で異変をきたした魚の標本やヘドラに触れてしまい白骨化するまで融解する人間、ヘドラの吐く硫酸ミストを吸い込んで苦しみ悶える一般人、サイケデリックな演出等々、ちびっ子が見たらトラウマになる様なシーンが盛りだくさんであった。東宝上層部も「こんな汚いゴジラ映画は初めてだ!」と怒り心頭であり、その衝撃は海を越えてアメリカにも広がり、「史上最悪の映画50」の中で唯一邦画から選ばれるというある意味不名誉な称号を付けられた(しかも、「史上最悪の怪獣映画」という高い評価を受けた第1作とは一転、手のひら返しともいえるコメントを付けられてしまった)。
テーマソングも陽気な曲調の割に歌詞がブラックである。(気になる方は「かえせ! 太陽を」、「ヘドラをやっつけろ」等で検索)
トラウマ展開ばかりが取り沙汰されがちだが、歩く有害物質ともいうべきヘドラに対し、矢野一家が知恵を振り絞って立ち向かっていく様は見物。しかも、小2である研がヘドラの名付け親となったり、ゴジラのテレパシーを受信したり、ヘドラの弱点は「乾燥」であると見抜くなど大人だけでなく子供も活躍する。
あらすじ
深刻な海洋汚染が進む駿河湾で海洋生物学者の矢野はオタマジャクシの様な謎の生き物を地元の漁師に見せられる。近海でタンカーが謎の生き物に襲われるという怪事件も相次いでいたことから息子の研と調査へ向かう矢野だったが、海中でオタマジャクシの怪物に襲われ負傷。研も砂浜に現れた怪物に襲われかける。このヘドロの海から生まれた怪物は矢野家によってヘドラと命名される。
ヘドラは海の公害物質を吸収するだけではなく、工場の排煙も吸収するために上陸できるほど成長していた。しかし、そこへ海を汚された事に怒り狂うゴジラが襲来。汚染の権化というべきヘドラと争う。初戦は決着が着くこと無く、両者共に海へと消えて行ったが、町にはヘドラの残した有害物質による被害が残っていた。
どんどんと成長していくヘドラはその後も有害物質を振りまいて暴れ回り、人々は汚染された町の中、倒れ、逃げ惑うことしかできなかった。ヘドラを倒す策を思いついた矢野らは実行に移そうとするが、既にヘドラはあまりにも巨大に、強力に成長していた。しかし、そのとき、再びヘドラの前にゴジラが立ちふさがる。
人間の公害が生み出した怪獣と怪獣王の決戦がついに始まる。
小ネタ
この作品でゴジラが空中を飛行するヘドラを追撃するために放射火炎を使って空を飛ぶという荒業を披露しており、一部では「ゴジラ飛行」或いは「ヘドゴジ飛び」と仮称されている。
『デジモンアドベンチャー』第31話『レアモン!東京湾襲撃』でレアモンがダンスクラブを襲うシーンはこのシーンのオマージュと思われる。
本作公開から50周年となる2021年には同年に開催されたゴジラフェスにてゴジラとヘドラの新たな戦いを描いた短編映像『ゴジラvsヘドラ』が制作された。
ちなみに、上記の“ゴジラを空に飛ばす”という突飛な演出のせいでプロデューサーの田中友幸氏にひどく怒られ、以後シリーズへの関与を禁じられたという坂野氏であるが、それから数十年後のゴジラシリーズが途絶えていた時期に彼はゴジラやガメラを含む怪獣作品の版権を持ってアメリカに渡り、そこでそれらを映像作品として復活させようと精力的に働きかけていたとされる。
そうして誕生したのが、2014年にアメリカで公開された『GODZILLA-ゴジラ-』であり、同作は当時としては予想以上の大ヒットを飛ばしたことでシリーズ化。日本でもそれに続く形で『シン・ゴジラ』や『ゴジラ-1.0』といったゴジラ映画が再び作られるようになったりと、坂野氏の行動がゴジラコンテンツの再活性化に繋がるという、おそらくこの『対ヘドラ』公開当時はだれも予想しなかったであろう状況を生み出す結果となった。