概要
H₂SO₄の組成式で表されるやや粘性のある酸性の液体。濃度により性質の異なる劇物である。
濃度が90%以上をの水溶液を濃硫酸(市販品は96~98%)、それ未満を希硫酸という。
塩酸より非常に強い強酸性であり、PHは0.1~0.3と最も低い。
性質
濃硫酸には脱水作用があり、水と同じ比率で酸素原子と水素原子を奪う性質がある。また、不揮発性であるため、希硫酸ともいえど衣服につくと濃縮され、脱水作用により繊維から水素と酸素の原子が奪われて孔が開いてしまう。皮膚に対しては脱水作用と水との反応熱、水素原子を与える性質により火傷する。
また、水和熱が大きいため硫酸を希釈する際は水に硫酸を少しずつ加えること。逆をやると水和熱で加えた水が沸騰し硫酸が飛散して事故の原因になる。
すごく危険でやばい薬品であるため、実験などに使う際には取り扱いに注意。
金属に対しては、金属の種類、硫酸の濃度、温度により反応は様々である。また、反応性生物も様々で、一般に水素、硫化水素、硫黄、二酸化硫黄、金属の硫化物、硫酸塩が生ずる。
希硫酸は水素よりイオン化傾向の大きな金属(下の一覧の金属以外の金属)と反応し水素を発生させる。が、鉛と反応すると表面に硫酸と反応しない硫酸鉛が生成され、反応が進行しなくなる。また、錫、ニッケルに対しての反応は極めて遅い。
濃硫酸を熱したものは熱濃硫酸といい290℃以上では水と三酸化硫黄に分解し、強い酸化力を持ち銅や銀とも反応し、さらに炭素や硫黄などの非金属とも反応する
希硫酸に反応しない金属
アンチモン、ビスマス、銅、水銀、銀、パラジウム、イリジウム、白金、金
製法
石油の脱硫や非鉄金属の精錬副生成物から得られる二酸化硫黄を、五酸化バナジウムを触媒として酸化させて三酸化硫黄にし、それに水を反応させる。このときに硫酸ができるが、反応が激しく生成時に飛散するため反応性生物の三酸化硫黄を過剰に吸収させ、発煙硫酸にし、それを希硫酸で薄めて濃硫酸を得る。
この反応は硫酸を製造する工場の反応塔と呼ばれる設備の中で行う。
発煙硫酸について
濃硫酸に三硫化硫黄を吸収させたもので、おおざっぱに言えば三酸化硫黄の濃硫酸溶液。三酸化硫黄が揮発性のため、空気中とくに湿った空気中では揮発した三酸化硫黄が空気中の水と反応してその名の通り煙状の硫酸が生ずる。当然のことながら劇物。
用途
- 鉛蓄電池の電解液(※1)
- 鉛蓄電池の電極材料
- 工業用品、医薬品、肥料、爆薬の製造
- 硫酸紙の製造(※2)
- 界面活性剤の原料
- ニトロ化合物の助反応剤
- 水あめの製造(原料の澱粉を希硫酸で分解し糖化する)(※3)
- ヨウ素、臭素の製造(原料から単体を分離する際に酸性条件下におく必要があるため)
- 紡績
- 金属の電解精錬
- さまざまな用途に使われる硫酸塩の材料
物質名 通称 備考 硫酸亜鉛七水和物 皓礬(こうばん) 医薬品材料 硫酸アルミニウムカリウム 明礬(みょうばん) 食品添加物(漬物などにつかうやつ。スーパーなどで売っている) 硫酸アンモニウム 硫安(りゅうあん) 肥料(農協やホームセンターなどで売っている) 硫酸カルシウム 石膏 生薬、美容パック、建築材の材料 硫酸クロムカリウム クロム明礬 媒染剤、皮なめし、めっき用薬剤 硫酸鉄(II)七水和物 緑礬(りょくばん) 弁柄(ベンガラ。顔料の一種)の材料 硫酸銅(II)五水和物 胆礬(たんばん) 銅めっきや銅精錬の電解液、顔料、殺菌剤、防腐剤など 硫酸バリウム バリウム レントゲン撮影の造影剤 硫酸マグネシウム七水和物 瀉利塩(しゃりえん) 下剤、媒染剤に使われる
ほかにも多数使われている。
補足
※1・・・希硫酸内の蒸発していく水分を補うための補水が用途上必要なので、蓄電池として使えてなおかつ、補水にともなう水和熱による突沸事故が起きないくらい薄くしてある。
※2・・・トレーシングペーパーや、バターやチーズの包装紙、本にかぶせる紙として使われる紙。
※3・・・製品になる前に中和するので食するにあたって心配することはない。
創作物では
悪の組織が、処刑や殺害のために硫酸の入ったプールに落とし、「溶かして」殺すという描写がある。
・・・しかし、蛋白質や脂肪の性質からすると強アルカリ溶液の方が「溶かす」ことについては確実であり、また薬傷の性質から考えるとと全身爛れて死んだ後溶けていくといった「悪の組織が想定している(対象者の)死に方」とはどこか異なる死に方になるのではないかと思われる。
ちなみに間違えても実際にやらないこと。