おこぼれとも言う。スピルオーバーが発生するのは、放送エリア内に満遍なく電波を届ける為に、大出力の送信施設や標高の高い場所へ送信所を設置する為である。
スピルオーバーの恩恵を受ける場所を特に電波銀座とも呼ぶ。特に関東平野では顕著。
中波(MF・AM)ラジオ
中波ラジオは波長の関係から鉄塔が高くなり易く、鉄塔を支える為の支線を設置する為に広い土地が必要になる事から、FMラジオやテレビジョン放送のように送信所を多数設置する事は不可能に近い。なので少ない送信所や中継局の、出力を大きくする事で放送対象地域をカバーしている。その為中波ラジオはスピルオーバーが起き易い。夜間になると電離層のうちE層反射で遠方の放送局が入る事もあり、これも一種のスピルオーバーと捉えることができる。
AMラジオのスピルオーバーは珍しくない一方で、放送対象地域内の世帯全てをカバーしているAMラジオ局は皆無に等しい。500kwクラスの大電力送信所を複数持つNHKですら、小笠原諸島をFM補完中継でしかカバー出来ていない。
超短波(VHF・FM)ラジオ
FMラジオのスピルオーバーはかつてのアナログテレビ放送のうち、VHFを使った局とほぼ同じである。ただし使用する周波数がテレビ放送の帯域よりも低い為、テレビ放送と同一条件で送信した場合、テレビ放送波よりも広いエリアをカバーする。
かつて東京タワーを親局としていたJ-WAVE、NHK東京FMラジオ、VICSの各局は送信設備を東京スカイツリーへ移転した際、送信アンテナの位置が東京タワーよりも高くなる事から、出力を10kwから7kwへ落とし、スピルオーバーを減らしている。しかし送信アンテナの海抜が高くなった結果、実効放射電力(ERP)は上昇したので実質的な聴取可能人口は増えている。
VHF全般に言えることではあるが、春~夏にかけてE層の範囲に発生する、極度に電子密度の高い「スポラディックE層」(Es層)により、遠方のFMラジオ(かつてはテレビ1~12chも)を受信できる場合があり、これも一種のスピルオーバーと捉えることができる。
地上波テレビ放送
テレビ放送黎明期はVHF帯域での放送が実用化出来ただけで、チャンネル数は12しか無く、3ch-4ch同士を除いて、隣り合うチャンネルを利用できず、最大7局までしか割り当てが行なわれなかった。そのため電波資源や地形条件等の問題からやむをえず、行政区域と異なったエリア設定となったケースが多かった。もっともテレビ放送黎明期は県域免許体制ではなく、都市圏単位での放送区域設定だった。
その後UHF帯域での放送が可能になると、徐々にスピルオーバーによる受信は減っていったが、遠距離受信マニアや、地元には無い系列局の番組を受信する為に、スピルオーバーに頼る人もいた。徳島県、佐賀県に至っては全県が、スピルオーバーとケーブルテレビ再送信に頼っており、地元の民放テレビが1局(四国放送、サガテレビ)しかない。
テレビ放送がデジタル放送へ移行し、ケーブルテレビがある程度普及した事から、アナログ放送では不可能に近かったスピルオーバー潰しが容易になった。例えば隣接地域局との同一チャンネル送信、方向別送信出力制御等がある。しかし、これまでスピルオーバー受信でテレビ放送を見ていた人からは強い反発が寄せられ、実際に徳島県の阿波中継局エリアでは、地元局のNHK徳島総合と四国放送がそれぞれ26chと22chで送信していたが、このチャンネルを摩耶山局のサンテレビとNHK神戸総合が使用しており、阿波中継局でデジタル放送が開始された結果、サンテレビとNHK神戸が受信出来なくなり、サンテレビを再び受信出来るようにチャンネルを変更するよう、住民が署名を1070人集め総務省へ郵送。2012年にチャンネルが変更されている。加えて、スピルオーバー潰しをする為には中継局の数を増やす必要が有るので、放送局としては余計な費用がかさむといった欠点もある。
衛星放送
宇宙空間から人工衛星で放送電波を発射する衛星放送は、日本国内全てを放送対象地域とする為、国内ではスピルオーバーという概念は無い。しかし日本の近隣諸国へ電波が届いてしまう為に、B-CASカードによる制御、衛星の送信アンテナの工夫等で対処している。
国際間において
冷戦時代においてはスピルオーバーを使って、ラジオで政治宣伝放送が多く流されていた。東欧ではテレビ電波も防げなかった為、人々はこっそり西側のテレビを楽しんでおり、東欧革命の原動力になった。その姿は、深夜アニメを見る為に、通販番組しか流さない地元局を見捨てて、アンテナを大都市に向ける地方民に似ている…かもしれない。
日本の衛星放送も近隣諸国へ電波が届いており、かつての韓国や台湾では映像がNTSCであり、独裁政権だった事もあって、NHKBS放送を受信していた人が居た模様。