概要
世界最古の叙事詩ともされる『ギルガメッシュ叙事詩』に登場する、レバノン杉(香柏)の森にエンリル神がおいた森の守護者の神獣(自然神)である。
彼が守護していた聖なる森は、シリアまたはアナトリアに存在していたとされる。
また、鳥はフンババの手下であるとされている。
名称
原語における名前のつづりは「Humbaba」。
シュメール語での名前は「フワワ(Huwawa)」。
日本の文献での一般的な表記はフンババである。
由来
エラム(メソポタミア東方、現在のイラン周辺)に住んでいたエラム人の神「フンバン」が由来であるという説もある。
また、シリアで信仰される守護霊の「コンバボス」はフンババに大きく影響されたと推測されている。
ギリシア神話やヒッタイト神話の女神達(キュベレーとクババ)も、フンババとの類似性が指摘されている。
姿
全体的には、他の多くの神話の生物と同様にキメラ型の姿を持つ。
一般的には長い荒れた髪ともみあげとを持った、皺だらけで髭と長髪に覆われたライオンやウシの顔(この皺は腸を表すともされる)、口は竜、腕はライオンの爪を持つ人間、胸は「荒れ狂う洪水」とされる。発掘されている焼成粘土製像はこの姿をモチーフとしている。
ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』では、ウシの角とハゲワシの爪を持ち、尾と男根の先端が蛇になっている巨人とされる。
また、後年の作品では、翼を持ちライオンの様な頭部を持つドラゴンの様な姿で表現されることもある。
能力
その吠え声は洪水、その口は火、その視線と息は死をもたらし、100リーグまたは60ベール(1ベール:約10.7km)の範囲の獣の雄叫びを聞きつけるとされる、エンリル神が定めた杉の森の番人である。
7層に及ぶ「メラム」と呼ばれる生命エネルギーで身を守っており(7枚の鎧とする文献もあり)、そのうち6枚を脱いだ状態でさえ、ギルガメシュとエンキドゥの二人を相手にして互角以上、倒すために太陽神シャマシュの支援を願わねばならないほどだった。
- メラムとは、神性を表す輝き(威光)とされ、神々や英雄、一部の王などが持っているとされる。しかし、メラムを浴びた者が恐慌状態になるなどの影響を受ける場合もある。
ストーリー
ギルガメシュの願いを受けてシャマシュが送った八つの風を顔に受け、身動きできなくなったところを2人によって捕らえられて敗北した。
その際にハンババは命乞いをしたが、受け入れようとしたギルガメシュに対してエンキドゥがそれを拒絶し、結局はエンキドゥによって首を切り落とされてしまった。
しかし、殺される際にはエンリル神が2人を長生きさせぬように、そしてエンキドゥがギルガメシュよりも長く生きることがないようにという呪いをかけている。
フンババが殺されたことで鳥だけでなく森そのものが運命を悟ったかの様に静まり返った。そして、守護者がいなくなった神々の森は人間の開発と利用によって瞬く間に破壊され、レバノン杉自体が絶滅寸前になったとされている。
- このため、『ギルガメッシュ叙事詩』は世界最古の環境破壊をテーマにした作品としても知られている。
そして、エンキドゥは不幸な最期をむかえ、神々は「フンババ殺し」と「香柏の森を汚した」ことをギルガメシュの脳内に何度も思い起こさせ、ギルガメシュを苦しめたとされる。
余談
- テラコッタ製のハンババの顔をした護符が多く出土しており、魔除けの護符として使われていたと考えられている。グロテスクなフンババの顔も、魔除けや邪気払いに効果的だとされる。
- 近年では、RPGのモンスターの一種として登場する機会が増えているために、邪悪な敵としてのイメージも生まれているが、最高神であるエンリルによって番人に任じられていることからわかるように、邪悪な存在というわけではない。これは、たとえば神の使いの化け鯨のケートスや黄金の林檎の守護竜であるラードーンなど他の多くの神獣にも類似している。
- ケートスもフンババも、竜やドラゴン等との関連性が指摘される事が散見される。また、ペルセウスがケートスを倒す際に用いたメデューサの頭部の構図も、フンババの切断された頭部の影響を受けているともされている。
- 日本に伝わる譚にも、神の使いである鯨を殺したために、関わった人間たちが女神によって殺されるという話も残っている。
注釈
- Jeremy Black, Anthony Green, Gods,Demons and Symbols of Ancent Mesopotamia