概要
超自然的な生態を持つクジラ、または、島根県に伝わる鯨の妖怪。
性質は個体によりけりらしく、穏やかで神霊や精霊のような存在もいれば、怨霊や海魔のような部類もいるとされる。
広義の化け鯨
たとえば「化け犬」や「化け猫」などと同じように、「化け○○」を動物の妖怪変化や超自然的な性質を備えた動物型の存在の広義の呼称とするならば、化け鯨に関しても、クジラ型の妖怪やクジラが化けたもの、クジラの霊魂の類、他の何かが鯨型に変化した物なども分類される。
また、化け物のような(巨大な/珍奇な)鯨や化け物と化した鯨、鯨の怪獣も当てはまるだろう。
いわゆる「主」的な存在(クジラ型)や「クジラのような何か」を指すこともある。クジラ型の神や神霊なども、時には普通の鯨とは全く違う姿をしていることもある。
日本語においては、ギリシャ神話のケートスを指すことが目立つ。
タタリ神や怨霊の一種、天罰の象徴としての側面もある。
狭義の化け鯨
故水木しげる氏が紹介した、島根半島沿岸に出現したとされる妖怪または自然神や霊魂の類(水木氏の出身地である境港市の近所である)。
がしゃどくろにも通じる部分がある骨だらけのデザインは、水木氏がヨーロッパの版画に見られる鯨を見た際に思い付いたとされる。
「骨鯨」や「がいこつ巨鯨」という呼び名もある。
古今、クジラを含む「えびす」と呼ばれてきた大型海洋生物達がそうであるように、化け鯨もまた数多の妖魚や妖鳥を引き連れていた。
ぬりかべやべとべとさん同様、水木先生が実際に遭遇、または接触した妖怪としても有名。
要は、化け鯨の話を描こうとしたら突然の高熱に見舞われたというものである。水木先生の経験が、アニメ化がそれまで叶わなかった原因なのでは?という噂もあるとかないとか。これは、アニメ第4期の脚本家の一人が、化け鯨の祟りを恐れていたという事実からも推測できる。
ただし、別の著作では高熱に苦しんだのは「化け鯨」ではなくて「化けガラス」らしい。
アニメ
アニメでは、「象の墓場」ならぬ「鯨の墓場」の墓守であり、目玉おやじ曰く「クジラの霊の集合体」らしい。鯨達の魂の守護神でもある他、鯨類学者の魂も受け入れていた。上記の通り、実際の鯨類にも他の生物を助けることがあるため、化け鯨にもそういう性質があるのならば、伝承にあった妖魚や妖鳥の群れも、もしかすると化け鯨に縋っていたのかもしれない。海は広大であるため、単純に考えれば「鯨の墓場」も一か所とは限らない。そういう場合は、化け鯨または類似する存在が他にもいる可能性もある。
特徴
声はヒゲクジラの鳴き声に近い。
全長は百数十mかそれ以上だろうか。
水木氏の原画では尻尾の形状が魚のそれに近いものになっているが、アニメではしっかりと鯨然とした尾びれになっている。第4期の設定を借りれば、全てのクジラ(およびイルカ)の守護神となるので、様々な種類の骨格が反映されていても不思議ではない。ただし、後ろ足の痕跡の骨は確認できない。胸びれはゴンドウクジラが比較的近いだろうか。噴気孔、というよりは骨の裂け目のような位置から水を出す。
シルエット的にはヒゲクジラ、それもセミクジラとナガスクジラ科の混合のようであるが、歯が生えていることもあるが、頭骨は実在の鯨類には似ていない。見方によっては、笑っているようにも怒っているようにも見える顔が特徴で、とくに鬼太郎達が化け鯨の事情と想いを知る以前(上の場面)は、とくに怒っているように見えた。
活躍
原作の一部のムック本や「妖怪道五十三次」では鬼太郎の敵のような扱いを受けていたが、前者では単純に海の妖怪としてリストアップされていたかもしれなく、後者でも「不気味だが何もしない」とされている。
アニメでは、アニメ第4期 第18話「深海の奇跡!化け鯨」にて初登場。場所は不明だが、南方の海域に住んでおり、そこにある「鯨の墓場」の守護神である。第4期は教育的な側面に優れたストーリーが多く、化け鯨の回も感動的で人間への警鐘を促す内容になっている。大海獣共々、第4期に(厳密には違うが)鬼太郎サイドに二体の超巨大なクジラ型の存在がいたことになる。両者ともに人間を体内に意図的に格納したこと、後述の通り「霊魂や妖怪の聖地を人間(日本人)がこれ以上荒らさないためのメッセージ性を持っていた」のも共通。
第98話「試練・妖魔城への道!」&第99話「決戦!妖怪王対鬼太郎」&第104話「恐怖!吸血妖怪の島」にも登場し、味方妖怪でも比較的出番に恵まれている。番組が事実上の打ち切りになってしまったので、これら以降の登場があった可能性もある。それぞれの回で、ブイイや吸血樹等から鬼太郎一行のピンチを救っている (吸血樹戦では、化け鯨が敵の大部分を倒した)。
それ以外の媒体では、『妖怪千物語』で対半魚人戦でも鬼太郎の援護をした。
また、第5期の「妖怪四十七士」の島根県代表に化け鯨を推す声もあった。
なお、第3期 第86話『妖怪香炉悪夢の軍団』でのぬらりひょん たちがクジラの飛行船と鬼太郎達を見た反応と状況が、第4期で化け鯨と鬼太郎の仲間達を見たぬらりひょんたちの反応と状況とかなり似ている。
性格
実際のクジラ同様、穏やかで親切、義理堅い妖怪である。
とある鯨類学者が化け鯨を追い求めた結果、荒海で落命してしまったのだが、彼は死後に初めて念願の化け鯨と対面できた。そして化け鯨は彼の魂を受け入れ、彼が鯨達の霊達と交流することをした。
最初に暴れたときは、鯨類の霊が眠る「鯨の墓場」近辺に人間が不法投棄などをして海洋汚染を起こしたことが原因だった。が、同時にそれは、人類への警告だけでなく、上記の鯨類学者の魂を彼の娘と再会させて互いに安らぎを得させることと、現状を鬼太郎一行に知らせて「鯨の墓場」が不可侵であることを人間に伝えてほしいと頼むためでもあった。暴れたといっても、それは程度を抑えてのことだったので、全て計算の上で行動していたのかもしれない。
その後は、鬼太郎の助っ人として活躍していく。
また、疲れた味方を背中の上で休ませるために静かに泳ぐなどもしている。
能力
人語を理解できる可能性があり、おそらくテレパシーで人間(の魂)や妖怪との意思疎通をしていると思われる。
すぐれた聴覚・知能・怪力・泳力を持つ。基本的なクジラの能力を網羅しているが、たとえば現生の鯨類に準拠した、嗅覚・海流を察知する感覚器官、エコーロケーション、超音波砲のような事ができるのかは不明。また、伝承を元にすれば、妖気の霧を起こしたり敵の攻撃をすりぬけることが可能なのかもしれないし、カードゲームなどではこれらの描写を表現しているものもある。
凄まじい妖気とパワーを持ち、その尻尾での一撃は巨大な西洋妖怪四天王のブイイを海中深く沈めてしまうほど。ブイイもかなり巨大な妖怪であるのだが、あれだけ沈めて、さらに水の抵抗を考えるとやはり化け鯨の尻尾には相当な威力があるのだろう。実際の鯨の尻尾も、生物界最強の破壊力を生み出すことが知られている。
吸血樹のような、海水に弱い妖怪の天敵でもある。頭頂部の噴気孔から水を噴射し、遠方から敵を狙い撃ちする、体内から特定の対象を噴気と一緒に体外へ出せる、凍った味方を体内で解凍して救出できる、体内での人間や妖怪や人間の魂の行動を理解している節がある、ことから体内の状況を把握したり、噴気孔からの水やそれ以外の噴出を細かくコントロールできると見受けられる。尾びれでの水かけも得意であり、あれだけの怪力を持ちながら鬼太郎ら仲間は傷つけずに敵を水浸しにするなどかなり正確な水や自身の力のコントロールも可能なようである。
この巨体ながら、海面高くジャンプし、空中で正確で細かな挙動が可能。東北(恐山沖?)から東京湾まで数時間、しかも背中にのっている鬼太郎達のために揺れを抑えて水面を遊泳(普通なら水面の状況に左右されたり尾の振り幅が小さくなるため推進力が下がる)、などのことからものすごい遊泳力を持つことが見える。しかも、化け鯨の体内にはきちんと肉があることは判明しているため、骨を水がすり抜けているのでもないので水の抵抗は受けているはずである(そうであったら頭頂部からの噴水も水の飲み込みもできないはずだが)。ただし、伝承では骨の内側、つまり体内に肉があったかどうかは定かではない。
また、戦闘中とはいえ、同じ海中の妖怪である西洋妖怪四天王のブイイが気付かなかったなどステルス性も発揮できるのだろうか。
(戦闘描写がある)鬼太郎の味方では最大の存在である(もし大海獣の方が巨大ならば、鬼太郎自身ということになる)。
化け鯨に類似したキャラクターの例
- リヴァイアサン
- 「赤頭」を筆頭とする数多の「悪魔の鯨」(アイスランドの伝承):一部人間に協力する種類もいて、これらの悪魔の鯨に対する対抗策はいくつかあるが、「普通の」鯨、しかもなるべく大型の種類に船を守ってもらうことが最良であるらしい。
- ホゲホエール/クジラマン(『妖怪ウォッチ』)
- だいおうクジラ(『ドラゴンクエストモンスターズスーパーライト』)など
- 「ガマクジラ」や「コダラー」、「サンダーゲイ」、アサイラムの『モビーディック (2010)』のモビーディックなどの怪獣やクリーチャー。
- ぬしさまなど、厳密な鯨ではないが近い形態をしている存在。
- 伊佐奈:クジラに呪われたパターン。
- 鯨(バケモノの子):闇の異能者だった一郎彦が変貌した怪物。ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』に於ける主要な敵にして怪物であるモビーディックがモチーフで、劇中では人間を弱さを象徴とする存在としての役割を担う。
- メレム・ソロモンの右足の悪魔
- 鯨王ムーン
- クジラ女房 (奄美大島の民話):いわゆる異類婚姻譚で、日本では珍しい部類。
余談
- 水木しげる氏はクジラのイラストをそれなりに描いており、化け鯨と大海獣(または鯨神)の他、ニライノウプヌシ、奔䱐(鯨に似た中国の怪魚でヨウスコウカワイルカの伝承にもこの呼称が見られる。レコード「べにくじら」のジャケットに使用されている)、立って歩く鯨型の存在(詳細不明)、海馬(馬鯨)、ポルキュルス(ヨナと鯨の鯨にあたる存在)、鯨の飛行船(不幸な鯨の皮を集めて作ったとされる)、ファスティト・カロンなどがあり、怪魚悪樓のイラストや歌川国芳による鰐鮫も、欧州に残る古い鯨の絵画に似ている部分がある。ニライノウプヌシのイラストは、「鯨女房」の話が伝わる奄美大島における鯨関連の別伝承の図解にも使われている。
- 「ないしょの話」における「鯨神」は、牛鬼の話に近い部分もある(ちなみに、牛鬼にもクジラ型あるいは部分的なクジラの姿をしたタイプが存在する)。
- 「Bake Kujira」という名前のそれなりに有名なビールが存在する。
- 伝承は決して多くなく、メジャーともいえないような妖怪なのにもかかわらず、なぜか海外でも知名度がある様子。その理由は不明。英語表記も「Bake Kujira」とシンプルだが、あるカードゲームでは「The Great Death」(偉大なる/大いなる死者/骸)としている。
関連動画
関連タグ
妖怪 鯨
鯨神 山鯨 空の鯨
ゲゲゲの鬼太郎
鬼灯の冷徹(鬼灯が極寒地獄に住む存在の一角として化け鯨を言及しており、この時鬼灯は他の存在同様に「さん」付けしていた。なお、公式ツイッターのイラストによるとホッキョククジラの姿をしている模様。)