概要
嵐などによる海難事故で没してしまった人々の霊魂が、未練ゆえに幽霊となって海上を彷徨っている存在。垢取り貸せうぇー(宮城県)、柄長くれ(愛媛県)、杓子くれ(京都府)、イナダカセ(福島県)、船亡霊(ふなもうれん 和歌山県)、タンゴクレレ(鹿児島県奄美大島)、猛霊八惨(鳥取県境港市)などの異名がある。
要求するものは愛媛県で柄の長い柄杓を要求するほか奄美大島ではタンゴ(桶)を求めるという。
古くは『耳なし芳一』に登場する平家の亡霊たちなど、海戦で無念の死を遂げた兵士たちの亡霊として登場し、江戸時代になって漁業や廻船による交易が盛んになると、より海難事故が身近なものとなり、その姿を変えていくことになる。
定義としては幽霊の一種なのだが、近年の創作では妖怪の類として扱われる事も(似たようなケースを持つ同類に七人ミサキが存在する)。
柳田國男は、『杓子、柄杓及び瓢箪』(『史料としての傳説』所収)で、「瀬戸内海の沿岸」で「今(大正時代)も」なかなか強い船幽霊の畏怖について、「仲間を引き込んで自分の苦艱を助かろうとする」水死者の亡魂が「往来の船さえ見れば杓をくれ杓をくれと叫んでやまず、これを遣ればすぐに水を汲込んで船を沈めてしまう」故に、船員が底抜け柄杓を用意している件について、そんな幽霊だったら怖くない、こういう伝承はのちにできたもので、もともと杓子とか瓢とか杓文字とかを「霊物(折口信夫説では「マナ」を集めるもの)」とする信仰があって、尾州(尾張の国)知多郡で海に出るあやかし鎮めのために「普通の」柄杓を投ずれば良いという風習を上げ、零落した柄杓(なんかカプセル状のものが元らしいんだけどスプーンとかでも可みたいなのね)信仰である可能性を示唆している。
また柳田はこの「幽霊」と関連する習俗として、12月晦日に船を浮かべると患に会うという伝承と、伊良湖岬辺でお盆の15日に同様のタブーがあるという点、この盆暮れが聖霊を送る日である点をあげる。なお村上健司によれば、京都府で、盆13日に船を出すと「杓子くれ」というものが現れ、上記参照なので、底の抜けた柄杓を用意したという。
江戸期以降の船幽霊
現在、一般的にいわれる船幽霊が以下のようなもの。
これを避けるには「底の抜けた柄杓を渡し、それに気を取られているうちにやり過ごす」「自分は土左衛門(水死体)だ」と嘘をつきとおす、などが有効といわれている。
ただし、一部の伝承によれば、水樽を投げ込むとそれに殺到し、飲み干すと成仏するとも言われている。
余談
霊魂が漁師を船幽霊から守ったり、船幽霊となった友人に水を与えて供養したり、海坊主が害をなすパターンもある。
外部リンク
関連タグ
舟幽霊(※表記ゆれ)
村紗水蜜(※東方Projectの登場キャラクター。種族が舟幽霊とされる)
天界スレ(※「真剣スレの住人が天界でまったりゲームの話をするスレ」のこと。スレの特性からスレ住民の俗称が船幽霊)