恐怖に打ち勝つには、お前自身が恐怖になれ
作品解説
2005年に公開されたDCコミックスの出版するアメリカン・コミック『バットマン』の実写映画化作品。配給はワーナー・ブラザース。
クリストファー・ノーラン監督・クリスチャン・ベール主演によるリブートシリーズ『ダークナイト・トリロジー』の第一作目である。
原作コミックの『The Man Who Falls』『Batman: Year One』『Batman: The Long Halloween』から題材を採っており、ブルース・ウェインがバットマンとして活動を開始するまでの経緯が描かれる。
『バットマン』において重要な要素である「恐怖」をテーマとして踏み込み、ノーラン監督の持ち味である重くシリアスな作風とリアリティを重視した世界観と演出、クリスチャン・ベールやゲイリー・オールドマン、リーアム・ニーソンを始めとする実力派を揃えたキャスト陣、悪に「恐怖」を与える超然者を目指すべく自らの「内なる恐怖」に苦悩しながらも立ち向かうバットマンのキャラクターが絶妙にマッチした本作は、商業的にも批評的にも成功を収め、ダークファンタジー色を強く押し出したティム・バートン版や明朗な娯楽ヒーロー活劇だったジョエル・シュマッカー版と並び、新たなバットマン映画像を確立した。
また、日本国内ではハリウッド進出したばかりの渡辺謙が出演したことでも話題となった。
第78回アカデミー賞では撮影賞にノミネート。第32回サターン賞ではファンタジー映画賞を受賞し、クリスチャン・ベールが主演男優賞を受賞、クリストファー・ノーラン及びデヴィッド・S・ゴイヤーが脚本賞を受賞した。
2008年には続編となる『ダークナイト』が公開された。
あらすじ
犯罪と汚職と経済格差が蔓延する街『ゴッサム・シティ』。
ブルース・ウェインの父トーマス・ウェインはゴッサム最大の企業ウェイン産業の社長であり、ゴッサムの健全化に努めていた街の有力者であった。
家族でオペラ観劇に出かけていたある夜、ブルースがオペラに登場したコウモリの衣装を纏った演者を怖がったため、オペラハウスから途中退出するが、その帰り道にてブルースの目の前でトーマスは妻マーサと共に強盗のジョー・チルによって殺害されてしまう。
14年後、青年となったブルースは復讐のために、ゴッサム・シティマフィアのボス・ファルコーニに不利な証言と引き換えに釈放されたチルを殺害しようとするが、ブルースの目の前でチルはファルコーニの放った暗殺者によって殺害されてしまう。
汚職と腐敗の蔓延したゴッサムでは正義や個人の力など何の意味も持たないことを示されて打ちのめされたブルースは、恐怖で街の人々を支配する悪と戦う力を得るべく放浪の旅へと出奔する。
世界中を旅する中、犯罪者を理解するためにウェイン産業を標的とした犯罪行為に加担するもあえなく逮捕され、収容所へと収監されるブルース。そこで彼はヘンリー・デュカードと名乗る男と出会う。
デュカードから悪と戦う力を手に入れるには超然的な存在になる必要があると説かれたブルースは、彼に導かれてラーズ・アル・グールが率いる秘密結社『影の同盟』のメンバーとして修行を開始する…。
登場人物
演:クリスチャン・ベール(吹替:檀臣幸)
主人公。幼い頃に落ちた涸れ井戸で出くわしたコウモリの群れに恐怖したことと、オペラで自分がコウモリの衣装を纏った演者を怖がったことが両親の死を招いてしまったと考え、それがトラウマとなっている。
影の同盟での修行後、ゴッサム・シティに戻り、恐怖に打ち勝つことができるのはさらなる恐怖しかないと考え、自らのトラウマの象徴であるコウモリを模した特殊スーツを纏ったクライムファイター「バットマン」として街に蔓延る犯罪に戦いを挑む。
原作に準拠した設定と、クリスチャン・ベールが原作のブルースとイメージが合致していたこともあって、古参ファンからの評価も高かった。
ちなみに本作の撮影前、クリスチャン・ベールは2004年の映画『マシニスト』の役作りのために極限まで体重を落としていたため、アイスクリーム等を食べまくって体重を戻そうとしたところ、今度は太り過ぎてバットスーツを着れなくなってしまったという(その後、高強度のウェイト・トレーニングで筋肉質な身体を作り上げて撮影に臨んだ)。
ブルースの幼馴染であり、ゴッサム地方検事局に務める女性。
ブルースの両親の事件のこともあり、不正に屈することなくあくまでも法を以って正義を貫こうとする信念を持つ。
ウェイン家執事であり、ブルースの後見人。両親亡き後のブルースの親代わりとなって彼を育てた。
バットマンとして戦いに向かうブルースに苦言を零すこともあるが、彼を見守り、献身的にサポートする。
演:ゲイリー・オールドマン(吹替:納谷六朗)
ゴッサム市警の刑事。
正義感が強く、ゴッサムでは珍しい汚職とは縁の無い清廉潔白な警官。現在のゴッサムとそれに対し何もできないでいる自分に絶望して無力感に打ちひしがれながら日々を過ごしていたが、バットマンの出現後は彼と協力体制を築いて犯罪に立ち向かっていく。
演:モーガン・フリーマン(吹替:池田勝)
ウェイン産業応用科学部門室長。
かつては役員だったが、ブルースの両親の死後にリチャード・アールが代表となったことで、経営方針が利益を重視した物に変わり、現在の閑職に追いやられた。
ブルースにバットスーツを始めとする様々なガジェットを提供する。
ヒマラヤの収容所にいたブルースを見込んで、影の同盟に導いた謎の男。
極めて高い戦闘能力を誇り、ブルースに様々な戦闘術や「恐怖」に打ち克つ術を指導するが…。
影の同盟の支配者。
全ての教えを極めたブルースを後継者にしようとするが…。
- ジョナサン・クレイン/スケアクロウ
演:キリアン・マーフィー(吹替:遊佐浩二)
アーカム精神病院の医師。
ゴッサムマフィアと通じており、偽の診断書をでっち上げては犯罪者を保護していた。
その人物の「恐怖」を現実であるかのように錯覚させる強力な幻覚ガスを武器とし、何者かの命令に従ってこれを利用したある計画を進めている。
演:トム・ウィルキンソン(吹替:稲葉実)
ゴッサムの暗黒街を支配するマフィアのボス。
登場ガジェット類
- バットスーツ
バットマンが纏う衣装を兼ねた特殊戦闘服。
特殊なケブラー繊維とチタンを編み込んで作られたハイテクボディアーマーであり、軽量ながら極めて高い衝撃吸収能力・防刃性能・絶縁性を備え、正面からでなければ銃弾すら弾く防弾性も持つ。
元々はウェイン産業応用科学部門が開発・試作していた軍用サバイバルスーツ。一着30万ドルと非常に高価だったことから採用されることなく、そのまま倉庫に死蔵されていたものをブルースがフォックスから譲り受け、影の同盟の忍者装束も参考にバットスーツへと改造した。
歴代共通の意匠である腕部プロテクターの三枚のトゲ(ブレード)は、本作においてはブルースが影の同盟で受けた修行を活かすべく付けたという設定になっている。
- 形状記憶マント
ウェイン産業応用科学部門が開発した形状記憶繊維の布地で作られたマント。
微電流を流すことでコウモリの翼を模した形状へと展開・固定され、ハンググライダーのように滑空することができる。
- トランスポンダー
バットスーツのブーツ踵に仕込まれた高周波発生装置。
コウモリの群れを呼び寄せて撹乱に利用できる他、周囲の人間に頭痛を起こす不快音波を発生させることもできる。
- グラップル・ガン
バットマンお馴染みのガジェット。ワイヤーの付いたアンカーを射出して巻き取る銃。
ウェイン産業応用科学部門が開発していた軍用特殊装甲車両『タンブラー(曲芸師)』を改造した車両。
元々は峡谷に橋を架けることを目的にしていたものだが、恐ろしく丈夫な上に高い出力と軽快な機動性を誇る。
それまで原作やティム・バートン版等で描かれたようなコウモリの意匠が取り入れられたスーパーカー風のバットモービルとは異なり、本作のリアル志向な作風に合わせてコミック『ダークナイト・リターンズ』等で登場した戦車風デザインのバットモービルのような無骨な装甲車両となっている。
本作のヒットにより、一般にもミリタリー色の強いバットモービルのイメージが浸透し、その後のバットマン関連作品にも装甲車風のバットモービルが普通に登場するようになった。
ちなみにクリスチャン・ベールはこのタンブラーを気に入り、撮影後にノーラン監督に売ってくれと頼み込んだのだが、「続編作るかもしれないからダメ」と断られたという。
スタッフ
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン デヴィッド・S・ゴイヤー
製作:ラリー・J・フランコ チャールズ・ローヴェン エマ・トーマス
製作総指揮:ベンジャミン・メルニカー マイケル・ウスラン
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード ハンス・ジマー
撮影:ウォーリー・フィスター
編集:リー・スミス
製作会社:シンコピー・フィルムズ レジェンダリー・ピクチャーズ
関連タグ
表記ゆれ:バットマン・ビギンズ
ダークナイト・トリロジー
バットマンビギンズ → ダークナイト → ダークナイト ライジング