概要
DCコミックスが出版するアメリカンコミック『バットマン』のミニ・シリーズ。脚本&作画はフランク・ミラーで、1986年2月から6月まで4巻が出版された。
続編として2001年に『バットマン:ダークナイト・ストライクス・アゲイン』2015年に『バットマン:ダークナイト・マスター・レイス』が出版された他、アニメ化もされており2012年にPart1が、2013年にPart2が発売された。
日本では1998年に小学館集英社プロダクションから邦訳本が発売され、2009年に同じく小学館集英社プロダクションから『バットマン:ダークナイト・ストライクス・アゲイン』を同時収録した邦訳本が発売されている。2019年には『ダークナイト:マスター・レイス』の邦訳本が発売されている。
作品解説
『バットマン』の外伝的な作品であり、本編から約20年後の世紀末的時代を舞台に、バットマンを引退していたブルース・ウェインが政府や周囲の反対を押し切って再び犯罪に立ち向かう様と、宿敵ジョーカーとの決着や、かつての盟友スーパーマンとの意地を賭けた最後の戦いを通して、「正義とは何か?そして、ヒーローとは何か?」を読者に問いかける漢の物語が展開される。
それまであくまで子供向けと考えられていたアメコミに、シニカルな視点と徹底したリアリズム、重厚な人間ドラマ、そして単なる勧善懲悪に留まらない高いテーマ性を持ち込んで、アメコミの在り方そのものに変革をもたらした一作であり、翌年に発表されたアラン・ムーアの『ウォッチメン』と並んでアメコミ史上において特に重要な位置を占める傑作として知られている。
本作が起こした一大ムーブメントはアメコミに大人の読者を呼び戻し、また本作以降、現実味のある設定や世界観、ストーリー性を重視したアメコミ作品が多く創作されるようになっていった。
外伝作でありながら本作の影響力は『バットマン』シリーズ本編や他の関連作品にまで波及することになり、現在よく知られている『バットマン』特有のダークでシリアスな作風は本作によって決定づけられたと言っても過言ではない。1989年公開のティム・バートン監督の映画『バットマン』も本作の起こしたムーブメントに連なる一作であり、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイトライジング』や、DCエクステンデッド・ユニバースの『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』も本作から得たプロットを元にしている。
頓挫してしまったが、DCEUではキャリー・ケリーを実写化する計画もあったよう。
ストーリー
ジェイソン・トッドの死を切っ掛けに、ブルース・ウェインがバットマンを引退して10年……。
世界中で異常気象と凶悪犯罪が増加し、さらに米ソ冷戦の緊張が極限まで高まりつつあり、既に第三次世界大戦は目前にまで迫っていた。
「世界の終わり」の気配が色濃く立ち込める中、人々は絶望と恐怖と諦念に支配されていた。
世間では、政府からスーパーヒーロー禁止令が出されたため、ヒーローのほぼ全てが姿を消していた。
そして、かつてバットマンと戦ってきたヴィランたちも、それぞれ引退し、世間からもほぼ忘れられていた。
しかしゴッサム・シティでは、犯罪が相変わらずはびこり続けていた。特に、ストリートギャング「ミュータント団」は規模も人数も多く、ゴッサムを牛耳りつつあった。
ミュータント団の犯罪を目の当たりにして、彼は復活を遂げる。
だが、それはただバットマンというヒーローが復活しただけでは済まなかった。彼の復活は、ゴッサムのみならず、引退していたヴィランたちにも影響を与える事に。
ジョーカーは正気を取り戻し、ハービーは再び暗躍。ミュータント団すらも変化。
更には、ゴッサム・シティの社会そのもの、ゴッサムがある合衆国そのものすら、帰還したダークナイトの影響を受けていく。
そして迫る、かつての親友にして、最強のライバルである鋼鉄の男との対決。
老いたバットマンは、今までに戦ったどの敵よりも一番恐ろしく、強く、悪質な存在と戦う事となる……。
登場人物
55歳。劇中では、引退して10年後という設定。引退後でもカーレースやワインなどで、戦いへの渇望を抑えていたが、ミュータント団の犯罪に巻き込まれ、復活を決意する。流石に寄る年波には勝てないが、その分老獪さと精神力は増しており、現役時代に引けを取らない活躍をする。
当初は、過去に着用していた歴代コスチュームを着用していた。
そして、最強にして最大のライバルに対しては、専用の装甲コスチュームを着用する。
- ロビン/キャリー・ケリー
13歳の少女。バットマンに命を救われ、それが切っ掛けとなりロビンの衣装を製作(二週間分の昼食代をつぎ込んだらしい)。後にバットマンの元に押しかける。
戦闘訓練などはしておらず、当初はただのコスプレ少女に過ぎなかった。しかしバットマンの活躍をフォローした事から、仲間として歴代ロビン同様に実施訓練を受け、その実力をつけていく。
「~みたいな」という語尾で喋る、ごく普通の少女。バットモービルの運転など、有能さの片鱗を各所で見せる。続編の「ダークナイト・ストライクス・アゲイン」では、キャットウーマンを思わせるコスチュームで、部下のバットメンたちのリーダーになっている。
両親の姿は劇中には出なかったが、昼間から自宅でTVを見て、大麻を吸っている様子。
本名・年齢ともに不明のヴィラン。
バットマン引退後に、意気消沈。アーカム・アサイラムで廃人同然になっていた。バットマンが復活した事が切っ掛けで、以前の様子を取り戻す。
アーカムでは笑みを浮かべる事も無く、本ばかりを読み、自分の過去を悔恨する様子すら見せていたが……。
58歳。かつてのゴッサムの判事であり、ヴィラン「トゥーフェイス」。
本作では、ブルースの援助で整形手術に成功し、元の顔を取り戻す。しかし整形を終えて、マスコミの取材を受けた後に行方不明になり……。
52歳。かつてのキャットウーマン。現在は更生し、コンパニオン派遣会社「カイル・エスコート・サービス」を経営している。今もブルースを想っているが、その想いを忘れようとしてアルコール中毒になりつつある。
70歳。長くゴッサム市警本部長を務めており、バットマンの復活に対してはノーコメントを貫き通す。後にそれが原因で勇退させられる。
劇中では、バットマンの正体がブルースである事は気付いていた様子。
95歳。ウェイン家の執事。老齢を押してブルースに仕え続けるが、既に満足に歩けなくなりつつある。そしてその分、皮肉も辛辣になっている。
- ミュータント団
ゴッサムを牛耳るストリートギャング団。パンクっぽい髪形でバイザーを付けているメンバーが多い。その人数と組織だった行動で、ゴッサムの路上での犯罪件数を増加させていた。時にはイタズラ感覚で殺人すら厭わない(ひったくったバッグの中に爆弾を忍ばせ、持ち主の手に戻った時に爆死させる、といったように)。
後にリーダーがバットマンとの一騎打ちで敗北した後、バットマンの配下となる。
- ミュータント団リーダー
ミュータント団を率いるリーダー。実際にミュータントではないかと思わせる、巨体とスタミナ、怪力を有する。歯も鋭くとがっており、取調室に来た専任弁護士の喉笛を噛みちぎった。
バットマンと一度一騎打ちするが、その体力とスタミナを活かし、叩きのめしている。
しかし、再戦時には、「老いた自分」を認めたバットマンの、老体ゆえの戦い方の前に逆に叩きのめされ、敗北する様をミュータント団に見せつけられる。
マスコミに対しては、自分およびミュータント団の声明のビデオメッセージを送りつけている。
その際には、
「俺たちをギャングと呼ぶな、俺たちを犯罪者と呼ぶな。俺たちは法だ、俺たちは未来だ。ゴッサムはミュータント団のものだ」
という口上で終わる。
- バットマンの息子
ミュータント団を制したバットマンに心酔し、誕生したストリートギャングの一派。
バットマンを神とあがめ、自警活動を行う。ただしその活動は、場合によっては被害者にも重傷を負わせるほどの過激な物(ドラックストア強盗に対し、強盗を射殺。しかし安月給だからと警報を押さなかった店員に対しても「抵抗できたはずだ。それを怠った」と言いがかりを付け、片手の指四本をワイヤーカッターで切断した)。
その顔には、バットマークのメイクを入れている。ゴッサムを混乱させるが、後にバットマンの配下となる。
彼らもまた、ミュータント団同様に声明を出すが、その際には下記の口上を口にする。
「ミュータント団は死んだ、ミュータント団は終わった。(顔のバットマークを指し)これは未来の印だ。ゴッサムシティは、バットマンのものだ。我々は声明を出さない。バットマンの息子は喋らない、バットマンの息子は行動する。聞け、ゴッサムの犯罪者ども。お前らは地獄を見る事になる」
55歳。政府のスーパーヒーロー弾圧に対し、政府の傘下に入る事で活動を許可されている。
ヒーローとして活動するための苦肉の策だが、ブルースはこの事が許せず、現在は疎遠になっている。
政府の命令で、世界各国の紛争地帯に赴いては、政府の為にのみその力を振るっているが、心の内では自身を道具として扱う政府を軽蔑している。
- オリバー・クイーン
63歳。かつては弓の名手であるヒーロー・グリーンアローとして活躍していた。
現在はヒーロー弾圧を行う政府に抵抗し、左腕を失い国外に逃亡していた。ブルースが最後の戦いを実行する前に、協力すべく帰国する。