概要
手塚治虫が集英社のマンガ雑誌『少年ブック』に1966年から67年まで掲載していた漫画。
投薬により超人的…もとい超犬的パワーを身に着けた三匹の犬の数奇な物語をたどる。
忍者漫画を思わせる大胆なアクションや情報戦が魅力的な痛快娯楽作品であり、手塚作品内でも屈指のスピード感にあふれたバトルシーンは傑作。作者本人をして「アニメ化してほしかった」とまで後に述べている。
単行本は秋田文庫で全2巻、講談社手塚治虫漫画全集で全3巻。
あらすじ
ローマの地底遺跡で暮らす犬の三兄妹は、ある日隠れキリシタンの残した秘薬の瓶を割り、その中身を飲んで人間並みの知能と並外れた筋力を手に入れる。力を手にして浮かれる三匹だったが、そこに血だらけの旅人・矢野徹が訪れ、手帳を残して息絶える。命を懸けた頼み事を断るような仁義のない犬は犬に生まれた価値が無い、と母犬から言われた三匹は、旅人の故郷である日本を目指し旅立つ。
さて、その旅人の息子・タダシは、幼い弟や妹を支えるため新聞配達に精をなしていた。そんなある日、例の三匹の犬と出会い、父が殺されたことを知る。タダシの父が命を懸けて捜していたのは、シルクロードに眠る財宝のありかだった。タダシは犬たちにベン(メイン画像中央)、ウル(同左)、プチ(同右)と名を付け、父の遺志を継ぐことを決意する。
やがて財宝の場所を解き明かそうとする秘密結社「グッドナイト」にウルは拾われ、ベンはそれと敵対する国連の秘密組織で修業を積むこととなり…。
登場人物
ウルトラ犬三兄妹
- ベン
本作の主人公。茶色の毛並みをした長男。熱血漢で実直な性格の犬。タダシに対して絶対的な忠誠心を持つ忠犬。秘密機関に入り00犬と呼ばれる。
- ウル
黒い毛並みをした次男。実利的で狡猾な犬。タダシ以外の人間をあまり信頼しておらず、「人間は金と力を持つことが幸せ」という考えを有している。そのため、グッドナイトの犬となってしまい、ベンと敵対し、多くの人々の命を奪う。
- プチ
白い毛並みの末っ子。メスであり温厚で平和的な性格。芸達者で、サーカスの花形犬となる。
人間
- 矢野徹
カタコンベで息絶えた男。彼との出会いと別れが、三兄妹とタダシの人生を大きく変えることとなる。
- 矢野タダシ
人間側の主人公。徹の息子で三兄妹の長男。真面目な性格で格闘技の達人。
母をグッドナイトの爆弾テロで殺され、生活費の拠出と徹の遺志を継ぐためにウルの持ちかけたインチキ商売(競馬やボクシングの八百長など)に加担することとなるが、その事を知ったグッドナイトによりウルを奪われてしまう。
以降はベンと共に徹の残した地図の謎を解く夢に邁進し、グッドナイトと戦う。
余談
グッドナイト壊滅後の最終章はあまりに犬ばっかり登場することもあり、作者自らウルとベンを西部劇映画風に擬人化するという暴挙に出ていたが、犬の生態をそのまま描くとギャグになってしまうのもあって3ページでこの演出は終わっている。公式が病気。
ちなみに同様の演出は1977年発表の冷戦を風刺した短編漫画『聖なる広場の物語』(こちらは鳥)でも行われている。
なお本作は登場キャラの9割が犬の漫画として有名な『銀牙』より20年近く前の作品である。