正式名称は英語で『Proclamation Defining Terms for Japanese Surrender』(日本への降伏要求の最終宣言)。
カイロ宣言に続く第二次世界大戦の終結への段階の一つとして、1945年7月26日にドイツのポツダムでアメリカ合衆国大統領、連合王国首相及び中華民国主席の連名により発せられた。
このとき、中華民国主席は電報にて一部修正(※)を要求した上で承認、連合王国首相は選挙に敗れて本国へ帰ってしまっていたのでアメリカ合衆国大統領が代筆した。
その後、同年8月9日にソビエト連邦が日ソ中立条約を破棄して宣言を追認する形で参加を表明した。
大日本帝国は同年8月14日に中立国であったスイスとスウェーデンに駐在する日本公使館を通じて宣言の受け入れを連合国側へ通知、翌8月15日には日本国民へ向けての発表(玉音放送)が行われ、同年9月2日に調印された降伏文書にはポツダム宣言の履行が盛り込まれており、降伏文書の調印をもって日本が降伏するにあたって履行すべき事項として確定した。
※第1項における宣言する者の順番の修正を要求。当初の案では『アメリカ合衆国大統領、連合王国首相及び中華民国主席』の順であったが、アメリカ合衆国と中華民国の代表が国家のトップであったのに対し、国王を国家のトップとする連合王国の代表が国王から選挙の結果によって任命される首相であったため。
宣言の概要
全13項目からなり、おおまかな内容は次のとおりである。
- アメリカ合衆国大統領、中華民国主席及び連合王国首相は、自国民の代表として話し合った結果、日本に対し、このたびの戦争を終結させる機会を与えることで一致した。
- 連合国では、この戦争の最終攻撃を行うための態勢を整えており、この軍事力は日本が抵抗を止めるまで行使されることが連合国の総意である。
- この宣言を受け入れなかった場合の先例はドイツの無駄な抵抗であり、連合国人民の力がナチスに向けて行使されたときには必然的に全ドイツをあらゆる面で荒廃させたが、今回は比べものにならないレベルでそれを上回るもので、日本軍が完全に壊滅することが不可避であり、日本の国土には完全なる破壊がもたらされる。
- 日本としては、馬鹿で身勝手な判断によって大日本帝国を滅亡の危機に陥れた軍国主義の助言者による統制を引き続き受けるか、この宣言を受け入れて理性による新たな道を歩むかの選択の時である。
- 連合国が要求する条件は次のとおりであるとともに、この条件を譲歩することはないし、この条件に代わるものはなく、回答の遅延も認めない。
- 無責任な軍国主義が駆逐されなければ新たな秩序と平和はありえないので、日本国民を欺いて道を誤らせ、世界征服に乗り出させた者の権力及び勢力は、完全に除去されなければならない。
- 日本に新たな秩序が形成され、戦争遂行能力のない平和国家への道を歩みだしたことの確証が持てるまでは連合国によって指定された日本の領域は連合国に占領される。
- カイロ宣言は履行されなければならず、また、日本の主権は、本州、北海道、九州及び四国、並びに連合国の決定する諸小島に限定されなければならない。
- 日本軍は完全に武装解除されるとともに、その構成員が家庭に復帰して生産的で平和な生活を営めるようにする。
- 連合国としては、日本人を奴隷にしたり、国家を滅亡させる気はないが、連合国の捕虜を虐待した者を含む戦争犯罪人は厳格に裁かれなければならないものであるとともに、日本政府は日本国民における民主主義指向の再生と強化への障害を排除しなければならないこと。それに必要な言論、宗教及び思想の自由、並びに基本的人権の尊重が確立されなければならない。
- 日本においては、軍事産業を除く産業の維持が許され、公正なる現物賠償の義務を負うとともに、これを行うために連合国による支配とは違う形で原材料の入手が許されること。将来的に日本は世界貿易へ復帰する。
- これらの目的が達成され、かつ、日本国民の自由意思に基づき、平和指向を持ち、かつ責任ある政府が樹立された場合、連合国の占領軍は直ちに日本から引き揚げなければならない。
- 連合国が日本政府に対し、日本軍に即時の無条件降伏させることと、この行動に係る日本政府の保証を要求するとともに、日本政府が宣言の受け入れ以外の選択を行う場合は迅速かつ完全なる壊滅あるのみである。
影響
当時の大日本帝国の首相であった鈴木貫太郎は、宣言が発せられた翌日、マスメディアに向け、『この共同声明はカイロ宣言の焼き直し』と評した上、『黙殺』という語を用い、さらに『断固戦争完遂に邁進する』と締めくくってポツダム宣言に対する見解を発表した。
このことは、1945年8月に入ってからの原子爆弾投下、ソビエト連邦の対日参戦につながることになった。
この際に『黙殺』という語を外信向けの翻訳にて、同盟通信社で『ignore(無視)』とされた他、ロイター等では『reject(拒否)』とされた。この件について「誤訳で原爆投下」などとして一種のネタあるいは陰謀論的に扱われることがあるが、『黙殺』という語は『無視』を自分を上とする態度で更に強く言う表現であるので『無視』と翻訳される事は妥当である。また『拒否』とする翻訳も戦争をしかけた日本が敗戦寸前に追い込まれて侵略を受けた側が連名で『これを受け入れて降伏するか?』と問いて回答を要求している以上、回答が『無視』となれば『戦争継続の意志あり』と推定し、『事実上の拒否』と相手に受け取られるのは当然である。このことに関して宣言の第13項では日本政府が受け入れ以外の選択を採った場合の対処について『迅速かつ完全なる壊滅あるのみ』と明記して曖昧な選択を採れないようにしている他、第5項において『この条件を譲歩することはない』と条件付きの受け入れも認めていない。