倉持勇造
くらもちゆうぞう
倉持が作中に登場するのは単行本8巻の後半部、中岡元(以下ゲン)と弟分の近藤隆太が歩いている場面。背広姿で髭を生やし、サングラスをかけた体格の良い男性で、スーツの服地はロンドン製で靴はイタリア製の革靴、そして歯まで純金に入れ替えるというゴージャスな姿で描かれる。
彼はお供の女性(倉持さんと呼んでいるため、妻や姉妹ではないと思われる)と共に外車(オープンカー)で泥道を爆走し、ゲンと隆太に泥水をはね掛ける。怒る二人を尻目に、倉持と女性は『ドブネズミ』『悔しかったらこんな車に乗ってみろ』などと笑いながら立ち去った。
その後、倉持らが広島市の洋食屋『レストラン広金』に食事のため訪れると、先程2人が泥をかけてしまった相手であるゲンと隆太が現れる。彼らは気分直しに広金で食事をしていたのだった。倉持は『泥をかぶせたクリーニング代』と称して2000円(当時の中卒の給料に近い大金)の小遣いを与えて隆太を引き下がらせるが、ゲンは納得しなかった。自分の非を認めず、金で解決する傲慢な態度をゲンは許せなかったのである。
そんな中、女性からお金持ちになった理由を聞かれた倉持は、朝鮮戦争による軍事特需が理由だったと話す。鉄くずを持っていた彼は日本で米軍の武器などを作る好機を生かして儲けた成金だった。その際、『朝鮮人同士が殺しあってもわしらに関係ない』『儲けはわしらが貰う』と人命を屁とも思わぬ態度を取り、戦争で儲けてやるんだと大声で歌うなど下品かつ卑劣な振る舞いを起こした…が、そこに先程追い払ったゲンがいた。ゲンはテーブルにあったソースを手にし、倉持の頭からぶちまけた。戦争のトラウマを持つゲンは、戦争で甘い汁を吸う倉持を吸血鬼に重ね合わせ、ソースの血を吸っておけと罵ったのだった。
倉持「子供じゃからと言うても容赦せんぞ」
ゲン「それはわしのいうことじゃっ。お前みたいな吸血鬼は許せるか!」
実はこの倉持は、戦中の満州で戦って中国人の兵士や暴徒共を斬りまくった歴戦の鬼軍曹だった。たかだかガキと侮っていたゲンと隆太の猛攻に激怒した彼は2人をボコボコにし、特にゲンを殺そうと足蹴にし、支配人が止めに入ろうとも暴れ続けた。だが、足を上げた際にゲンが股間に頭突きをお見舞いし、倉持は悶絶する。話にならんと怒った支配人が警察を呼んでしまい、脱走歴がある隆太はゲンを連れて逃亡してしまう。その際、隆太は報復として倉持のオープンカーに大きな石を投げまくり、大破させる。その後、倉持がどうなったかは不明。
- 倉持とゲンが喧嘩をしたのが昭和25年前後、つまり戦後復興が進んでいた時期と言うこともあってか、戦前の復興が広島市に戻っている。隆太が豪華な洋食を兄貴分におごるくらいに、経済・文化も復興しており、その緻密かつ忠実な描写は『はだしのゲン』とは思想的に真逆の層も含め、多くの人から評価を得ている。
- 一方でゲンが戦争特需で儲けた倉持と喧嘩し、容赦なく殴った場面(隆太曰く「いつもは喧嘩を止めるあんちゃんが先に喧嘩を仕掛けた」)を『金持ちをねたむ左翼』として批判する声も一部にはある。実際に、このストーリーが掲載されたのは共産党系の誌面である。
- だが、ゲン(=中沢啓治氏)は戦争のトラウマがある事と、朝鮮戦争を始めとした戦後の特需を利用して不正に蓄財した人間は多くいた事など、良くも悪くも当時の風潮を如実に描いているため、賛否が分かれる。