君江さん、今すぐこの概要を読みんさい
原爆で焼け出された中岡元(ゲン)が母の君江、妹の友子と共に身を寄せた江波地区に住んでいる一家のご隠居さん。家族構成は息子夫婦と孫2人で、家に大きな畑や蔵があるなど農家と思われる描写がある。だが、彼女は息子の嫁であるキヨが君江と友人だったことを伝手にして訪ねて来たのを見てもいい顔をせず、「この家は宿じゃない。息子が帰ってくるまで守らねばならん、他人に汚されては済まんじゃろう」と険悪な態度をとる。
中岡家の面々を自宅に住まわすのが気に入らない婆さんは、孫の辰夫と竹子(食い扶持が減った原因である中岡家を嫌う)をけしかけて友子の足をつねらせ、怒ったゲンが暴れると彼の頭を愛用のキセルで殴って血まみれにして苛め抜き、挙句の果てには君江が所持している米(本当はゲンが農家で浪曲の流しをした代価として頂いた)を盗品と決めつけて駐在所に突き出してしまう。君江に無理やり自白させ、家から追い出す根拠を得た婆さんだったが、米泥棒の正体が孫達だったという事実をゲンの張り込みで証明されても詫びずに逆切れする始末だった。
ゲン達は林家を出て行くが、君江との友誼を思い出したキヨが取り成したので今度は「家賃をもらうし飯も出さず、倉庫で過ごしてもらう」ことを条件に居候を許すが、ゲンが近藤隆太を助けたのを見咎めて彼を叩きだせとわめき、君江にビンタをしたためにゲンを怒らせ、暴走した彼にナタを振り回されて報復される。
このようにドタバタしつつも終戦を迎えたころ、ゲンの長兄である浩二あんちゃんが予科練、次兄昭あんちゃんが集団疎開から帰省して人数が増えた(ばあさん曰く『家の傷みが早くなる』)ことと、孫達がゲンから『アメリカのアメ』(チューインガム)を奪おうとして返り討ちにあったのを理由に、婆さんはとうとう中岡家を追い出してしまう。
だが、その本当の理由は自分の息子である正造さんが沖縄戦で亡くなったのに、中岡家の息子は無事に帰って来たことへの嫉妬だった。これまでの非道な仕打ちに憤慨したゲンと隆太は、辰夫と竹子に馬糞を喰わせてボコボコに殴り、母や皆がいじめられた仕返しをする。孫達に泣きつかれた婆さんは激怒し、鎌を振り回してゲンを追いかける…が、足を滑らせて肥溜めに転落。
「ああ ばばあがクソつぼにおちたぞ」
余りにも有名な名言を残しつつ逃げていくゲンと隆太を睨みつつ、クソまみれになってもなお肥溜めの中でもがく姿を最後に、彼女は物語に登場しなくなる。
なお、ゲンはこの出来事があった故にその後も江波地区に対して快く思っていないようである(実際の江波の人達にはとんでもない風評被害にもなってしまうが)。
わしの家族と近隣の人々じゃ
正造:婆さんの愛息。作中では出征軍人として戦地に行っており、婆さんは留守宅を守らねばと言う使命感に燃えている。終戦後、沖縄戦で銃弾を胸に受けて戦死した遺骨が家に届いており、婆さんは当然大泣きした(隆太曰く「あのババアでも泣くことがあるんじゃのう」)。彼の死に対する寂しさと浩二あんちゃんの生還を見た嫉妬が中岡家追い出しの原因。
キヨ:息子の嫁。婆さんは彼女の友人である中岡家が居候するのに反対であり、孫達を扇動して意地悪をするが、君江に助けられたことがあるキヨは中岡家の人々を庇う。ゲンの母君江を「君江ちゃん」と呼ぶ古くからの親友で、献身的なのは貧乏ないじめられっ子だった子供時代に君江だけはキヨに替わっていじめっ子を懲らしめ、うまいお菓子を振舞うなど優しかったことに起因する。戸主である夫に替わって家を切り盛りする立場だが、姑には遠慮気味。
辰夫:正造とキヨの息子、つまり婆さんの孫。小学3年生だがゲンに「土産を出せ」と要求したり、「こいつらに飯を食わすからわしらのご飯が減った」と言いがかりをつけるなど、子供らしくない横暴な性格。放射能で毛が抜けたゲンを「ハーゲ、ハゲ、恥ずかしい~」と罵って棒で叩き、反撃されるとワザとらしく泣いて祖母を呼び、ゲンを土下座させた。
その後も米を盗み食いした罪を着せたり、隆太に意地悪をする、ゲンからガムを奪うべくビンタ攻撃するなど意地悪を繰り返して中岡家を追い出すのに成功する。だが、腹の虫が治まらぬゲンに馬糞を口に押し込まれ、ボコボコに殴られて報復された。
竹子:辰夫の妹で婆さんの孫娘。彼女も兄と同様に中岡家が気に入らず、「ゲンにご飯喰われた」とご飯中に泣き出し、ワザとワガママを言って母キヨに恥をかかせたり、まだ産まれたての赤ちゃんである友子の足をつねってサル呼ばわりする性悪ぶりを発揮する。兄辰夫と結託して中岡家に意地悪な仕打ちを繰り返し、辰夫がゲンに怪我をさせられたことと新しい入居者がやってきたのを理由に中岡家が立ち退かされた時には「ええ気味だね」とほくそ笑んだ。彼女もまた、兄共々馬糞を喰わされた上に隆太から容赦ない鉄拳制裁を見舞われた。
近所の住民:婆さんが君江に米泥棒の濡れ衣を着せた時、「米ドロを捕まえたそうな」「恐ろしいおなごじゃの」など中岡家を犯人扱いする。駐在さんもまた婆さんを信じ込んで肩を持ち、余所者の君江を調べもせずに貴様呼ばわりして詰り、「監獄に入るか」「子供達が泣いているよ」など誘導尋問・強制的な自白を強いて始末書を書かせた。
作造さん:林家の倉庫に入居することとなった男性。角刈り頭で顔にキズがある強面の巨漢で、中岡家が住んでいる倉庫に入り込み、「わしの仕事場にもってこいですわい」と言いながら荷物を置く。彼が高い家賃を払ってくれるから入居させたと婆さんは言っていたが、実際は先述したように嫉妬が原因。
ふふふ、これが備考欄じゃ
- はだしのゲンを実写化した映画やドラマ、ないしは小説版にも登場して活躍する。ゲン達を邪魔者扱いするのは一様に同じだが、背景が違うこともある。フジテレビのドラマでは正造さんが既に戦死したと思しき描写があり、婆さんがゲン達を追い出す決定的な理由となったのは単に食い扶持が減るのと、子供達との喧嘩である。
- ネット上における彼女はコミカルにパロディされることが多く、原作の当初で見せた人間のクズと言うべき悪辣さや、息子の死に涙した戦争の被害者としての姿はなりを潜め、憎めない悪役と言うべき愉快なキャラになっている。作中でも何だかんだ言って息子や嫁にはかなり甘く、孫達をかわいがっていたり、駐在さんや近所の人達からも信頼されている善きおばあちゃんでもあり、戦争が原因でひねくれてしまったと言う解釈もできるため、同情的・好意的な受け止められ方をされているものと思われる。
- なお、中岡家がばあさんから受けた仕打ちは作者である中沢啓治氏の体験がモデルである。ただし、中沢氏がいじめを受けたの理由は『丸ハゲ』『米泥棒』ではなく、傘がなくなったことに言いがかりを付けられたり、火傷で部分的にハゲてしまったことだという。
- 実はこの林のばあさん、他の中沢作品でも全く同じ容姿でありながら違うキャラクターとして度々モブキャラとして出てくる一人。いわゆるスターシステムである(他にもゲンの母が若い頃のお見合いに登場したつるっぱげでタコみたいな口のおじさんもよく出てくる)。