六部殺し
8
ろくぶごろし
日本の昔話(民話)のひとつ。
ある百姓が自宅に泊まった旅の六部を殺して金品を奪い、それを元手にして財を成したが、生まれた子供が六部の生まれ変わりでかつての犯行を断罪する物語。最後の子供のセリフから、「こんな晩」というタイトルのバージョンもある。
六部殺しとは、日本の昔話のひとつである。
六部とは六十六部の略で、六十六回写経した法華経を持って六十六箇所の霊場をめぐり、一部ずつ奉納して回る巡礼僧のこと。
物語
ある月夜の晩のある村の貧しい百姓の家に六部がやって来て一夜の宿を請う。その家の夫婦は親切に六部を迎え入れ、もてなした。
ところが、ふとした事から六部が遊んで暮らせる程の大金を持っている事を知った百姓は、大金に目がくらみ、六部を惨殺して死体を秘密裏に処分して大金を奪った。
その後、百姓は奪った大金を元手に何らかの商売を始めて一山当てて、まるで座敷童子が住み着いたかのように急速に裕福になって長者となり、夫婦の間に子供も生まれた。ところが、生まれた子供はいくつになっても口が利けなかった。
そんなある年の奇しくも六部を惨殺した時と同じような月夜の晩、夜中に子供が目を覚まし、百姓は子を負ぶって夜道を歩いていると突然、子供が初めて口を開き、「お前に殺されたのもこんな晩だったな」と言ってあの六部の顔つきに変わり、百姓はあまりにもの恐怖に気を失い、そのまま死んでしまい、やがて一家は滅亡し、その屋敷跡地を見るたびに、村人は「六部殺し」の報いの物語を子や孫に聴かせるのであったという。
- 「こんな晩」というタイトルのバージョンでは、話によっては殺されたのは六部ではなく修験者や托鉢僧や座頭やお遍路、あるいは行商人や単なる旅人とされている場合や、殺して金品を奪ったのは泊めてくれた百姓ではなく同じ渡し船に乗った船頭か旅人か盗人、偶然旅の道連れとなった旅人か行商人か盗人とされている場合がある。
- 生まれた子供が六部の生まれ変わりでかつての犯行を断罪する方法は、子供が初めて口を開き、「お前に殺されたのもこんな晩だったな」と言う場合の他に鯉を料理して切ると血の海になり、それを見た子供が犯罪を暴露する場合がある。
- 似たような流れの怪談系の昔話に落語の演目を起源に持つ「もう半分」という話がある。
- 同じく数字が入るためか、七人ミサキと混同される事がある。また、ゆえにか殺される六部が複数名の団体(「六部」であるからか「六人」とする場合が多い)であるパターンも存在し、この場合には六部を殺す者が「家」ではなく「村全体」であるパターンもある。
- 宮城県加美町にある「死人沢(面剥沢)」の地名にまつわる伝説はこの伝承を連想させる内容となっている。
- 鳥山石燕の画集『画図百鬼夜行』に描かれている妖怪の一体である「手の目」は、一説では「強盗に殺され、恨みを残した盲人が妖怪に生まれ変わったもの」と言われている。
- 夏目漱石の小説『夢十夜』の「第三夜」が六部殺しの民話の影響がうかがえ、夢の中で自分の子をおぶって暗い田圃道を歩いており、子供は盲目なのに周囲の状況をよく分かっていて、大人びた口調で話している。歩を進めるごとに思い出してはならない何かを思い出すような気がし、「ちょうどこんな晩だったな」という子供の独り言を不気味に思う。やがて山の一本杉の前に着き、百年前の自分の前世が子供の前世を殺した事を告白する内容の言葉を言い、過去の殺人を自覚したとたん、背中の子供が急に石地蔵のように重くなったという内容である。
- 『ほんとにあった! 呪いのビデオ66』に、『六部殺し』という前後編のエピソードが収録されている。
- TOKYOMXで2017年から放送されたオムニバス形式のホラードラマ『妖ばなし』の第9話「こんな晩」は現代日本を舞台に六部という男が起こした父殺しの因果応報の物語に置き換えられている。
- 『Q.E.D. 証明終了』第4話「六部の宝」(無印2巻に収録)では、この伝承を前提とした話が展開され、伝承をモチーフとした連続殺人事件が行われる事となる。
- 三津田信三による日本のホラー小説『のぞきめ』(2016年に実写映画化)は、この伝承が題材となっている。
- 『どろろ』の2019年のアニメ版の第二話「万代の巻」に登場する妖怪「金小僧」は、万代の最初の犠牲者となったお遍路が妖怪に生まれ変わったものという設定になっている。
関連記事
親記事
子記事
兄弟記事
コメント
コメントが未記入です
pixivに投稿されたイラスト
すべて見るpixivに投稿された小説
すべて見るとあるタクシー運転手の戯言~今度は落とさないでね~
深夜、夜遅くまで仕事してタクシーで帰宅することになった。そんな相手にタクシーの運転手は気さくに話しかけて来る。子供が小さいので大好きなホラーが見れないというお客の話を聞き、タクシー運転手は「だったら……」ととっておきの怪談を語り始めるが……。2,343文字pixiv小説作品