解説
『方便』とは、仏教用語で「民衆を上手く真実の教法に誘い入れるために仮に設けた教え」を指す。多数派の救済を説いた大乗仏教の思想に基づくもので、意訳するなら「(本来は罪である)嘘でも救いになるなら構わなくない?」となるか。
概要
世の中には、伝えるには酷すぎる真実や、本当のことをそのまま話しても理解されないような状況もある。そういう時には、あえて嘘を吐くのも一つの手段…ということを表すことわざである。
ただし、決して嘘を吐くことそれ自体を肯定するものではないし、嘘がバレた時に弁解するための言葉でもない。
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社会問題:ポジショントーク
………上記の内容は噓も方便の『本来の』使用意図である。
だが、洋の東西を問わずモラルハザードが進行しきった結果この論法を都合のいいように解釈する人間が大多数を占めるようになってしまい、『その時々で個人の立場的に都合がいい発言』が繰り返されるのが常態化してしまっている。
一見、正論や真実を言っているように聞こえても、よく吟味すると主張やポリシーに一貫性がないのが最たる特徴。
これを和製英語でポジショントーク(Position talk)と呼ぶ。
例えば不動産業界。
この業者は『千の言葉のうち真実は三つしかない』という意味で、千三つという揶揄が存在するほどポジショントークが横行していることで知られる。
マンガ作品『正直不動産』は、祟りで嘘がつけなくなった不動産のセールスマンがこれのせいで今までの詐欺同然の売り込みができなくなったことで顧客と真摯に向き合いざるを得なくなり、しかしこの結果、不確かな情報しか言わない同業者と比して正確な情報をもとにした提案をするようになったことからその顧客から『確かな信用』を勝ち得ていくことになる、という皮肉喜劇である。
かの『賭博黙示録カイジ』でも、闇金融を営む遠藤勇次が多額の借金を背負った主人公をとある違法賭博に参加させるために『不動産屋のテクニック』の転用と称して『参加枠がもう埋まってしまったけど自分の口添えで主人公用の枠を特別に確保した。人生を取り返したかったらこれで勝ってこい!』と事実に反する情報を部下との演技込みででっち上げて、まんまとペテンにかけている。
もっとも嘘は言ってない。ただし実際には参加枠は最初からしっかりと確保されており、上記の演技は主人公伊藤開司(=カイジ)を『自主的に地獄行きの片道列車へ乗り込ませる』ための方便に過ぎず、すべてが終わった後に遠藤は「アイツは俺に感謝しているだろうぜ? 俺が良い人なわけねぇだろ」とカイジを嘲笑うのであった。
よりによってこれが記念するべき第1話のハイライトである。
これらはあくまでマンガのネタだが、現実でも特に政治・経済関係でのポジショントークはさらに露骨。
特に有名な逸話を持つのは発明王トーマス・エジソン。
とあるパーティーの席上で「実は今、すんごい発明にとりかかっている。でもお金が足りないから俺に寄付をしてくれ!」とぶち上げた。かの発明王のいうことである。関係者からは瞬く間に多額の資金が集まった。しかし、後に知人の一人が「で?いったい何を発明してるの??」と尋ねたところ本人は「なにも発明なんかしてねーよ。でも、先立つものはお金だからあんな事を言ったのさ。『これから』何かしらを発明するのは事実だしね(^^♪」と言ってのけたとされる。
本邦においても暴れん坊将軍徳川吉宗がこれをやったとされる。
当時、定期的に氾濫を繰り返していた隅田川であったが、吉宗が将軍職に就くとここの堤防である隅田堤に桜100本を植え、さらに桃、柳、その他、計150本を増植させた。江戸の町民の憩いの場を提供するというのが名目で、実際に隅田川流域は現在まで続く花見の名所となった。だが、本当の狙いは地盤の弱い隅田川流域を大勢の江戸市民によって踏み固めさせることにあったともされる。吉宗からすれば「俺たちの狙いも当たったし、町民どもも楽しんでるし、winwinってやつであろう?」というわけである。
フェイクニュースほど悪辣とはとはいいきれないが、このように世間では個人や集団の利益誘導とか事なかれ主義のために様々な手練手管を用いた印象操作やご都合主義が横行しているという事実を認識しておくべきである。
ようは『○○とは言っていない』というギャグも処世術としては特別でも何でもないわけである。 信じる前に疑わなくちゃならないのか、たまげたなぁ。