スネ夫「つまり、のび太なんかこの世にいないことにするんだよ。
相手にしないの、口もきかないの」
ひみつ道具としての解説
藤子・F・不二雄原作の漫画・アニメ作品『ドラえもん』に登場するひみつ道具の一つ。及び同作品のエピソードの一つ。TCプラス5巻収録。
外観はノミのような虫だが、これに取り付かれた者は、自分が無視をすると決めた人物に話しかけてしまうと、身体を刺されて激痛を味わうことになる。
エピソードとしての解説
ある日、ジャイアンがのび太に怒っていた。彼曰く、乱暴していた件について母親から叱られたのだが、のび太が告げ口したのではないかという。のび太は「僕知らないよ!君のママが見てたんだよ」と反論するが、ジャイアンは聞く耳を持たない。
怒りの収まらないジャイアンを見たスネ夫は「乱暴したら、また母ちゃんに叱られるよ。それより…」と呟き、ジャイアンとスネ夫はのび太をいない者として扱い、彼から何を言われても徹底的に無視をすることを提案する。
その後、町中の子供達ものび太を無視するが、申し訳なさそうな態度をとっており、彼と会話をすれば自分らがジャイアンに殴られてしまう為、苦渋の決断であった。
その仕打ちに参ってしまったのび太から相談を受けたドラえもんは、
「何という卑怯で残酷で陰険な虐め方だ。そんなことをする奴は人間のくずだ!」
と大激怒し、のび太を連れてジャイアンとスネ夫の所へ向かう。
もちろんジャイアンとスネ夫はのび太の無視をやめようとしないのだが、ドラえもんはむしろ「やめてなんて言わない。やるなら徹底的にやれ」と言い、ポケットから「無視虫」を取り出す。普段ののび太にそんな根気は無いように見えるが今回ばかりはしぶとく仕返しを実行する。
困惑するのび太を他所に、ドラえもんはジャイアンとスネ夫に無視虫の仕組みを説明した上で「どう?絶対に刺されない自信ある?」と問いかける。するとジャイアンとスネ夫が「俺たちゃやると決めたらやり通す男だぜ」と言った為、ドラえもんは無視虫を彼らに取り付かせる。
だが、これこそがジャイアンとスネ夫を懲らしめる為、ドラえもんが考えた作戦だったのだ。
ドラえもんはのび太に、ジャイアンとスネ夫に無視虫が取り付いているということは、のび太から何をされても無視しなければならないことをそれとなく告げ、二人はジャイアンとスネ夫の後をついて行く。
するとジャイアンとスネ夫が「何でついて来るんだよ!」と叫んだ瞬間、彼らは虫に刺されて激痛を感じてしまう。ドラえもんがここぞとばかりに「いないはずののび太君を気にするから刺されたんだ」と説明する。
その後、ドラえもんとのび太はジャイアンとスネ夫の悪口を言いながら彼らを追いかけ回す。しかし無視虫が取り付いている彼らはドラえもん達の悪口に反応する訳にはいかず、「何も聞こえない!」と言いながら自宅へ逃げ込むことにする。
だが、22世紀のネコ型ロボットにそのような手段は通用しない。
ドラえもんはすかさず「通りぬけフープ」を取り出し、のび太に「これでしつこく食い下がれ」と告げる。この道具を使用して骨川家へ侵入したのび太は、スネ夫のおやつを食べたり、彼の日記を読む等、わざとスネ夫を反応させて先程までの仕返しをする。
次に剛田家へ侵入したのび太は、トイレへ駆け込んだジャイアンをわざとのぞき込んだり、彼が隠していた0点の答案を発見する等、わざとジャイアンを反応させて先程までの仕返しをする。トイレを我慢している状態で無視虫に刺されたジャイアンは、その激痛でついに漏らしてしまう。
その後、懲らしめられた二人はドラえもんに「無視虫を取って」と懇願するも、ドラえもんとのび太は「誰か何か言った?」、「さあ、気のせいだろ」と言い、今度はジャイアンとスネ夫がドラえもんとのび太から無視されるようになってしまうのだった。
余談
この話が掲載された1980年代中頃には「いじめ」問題が話題となっており、暴力のようなわかりやすい以外にも陰口や器物破損などの陰湿ないじめが加わった頃であり、本作は言わばその風刺回というエピソード(同じプラス5巻に収録されている「ないしょ話…」の回もまた陰湿ないじめを取り上げた回である)。
当たり前だが、この回でジャイアンとスネ夫が行った悪事の中では歴代でも特に最低だという意見も多く、ドラえもんがあそこまで激怒したのはかなり珍しい。(普段ののび太への嫌がらせが単純な暴力が多いジャイアンは兎も角、特にスネ夫は「友情カプセル」等主に初期のエピソードを中心に外道行為を働いていた前科が多いが、これ程の陰険かつ非道な行為に手を染めた回は他に例を見ない)
またジャイアンがのび太が本当に母ちゃんに告げ口したことを責めていたがこれが本当かはともかく、のび太はジャイアンに乱暴されると彼に仕返しをする傾向(というかこれはスネ夫にも該当するが)があるのでのび太を疑うのはおかしくない話でジャイアン曰く「めちゃくちゃ叱られた」と嘆いており、必要以上にキツく説教されたのだろう。
最もジャイアンがのび太に乱暴したのが原因であり、結局は逆恨みにしかならず、上記の通りスネ夫以外はジャイアンの意見に心底では賛同しておらず(大長編以外でスネ夫と意気投合するのも珍しいが)、はる夫と安雄といった同級生はジャイアンに逆らえない(最悪のび太と同じいじめを受ける可能性がある)からのび太をいじめただけである。
上記のエピソードは大山のぶ代版アニメにて映像化されている。基本的には原作版通りの展開だが、一部の展開がアレンジされている。
原作版では既にジャイアンがのび太に激怒している展開から始まるが、こちらでは冒頭でジャイアンがのび太に乱暴した末に漫画を強奪する現場をジャイアンの母ちゃんが実際に目撃する場面が描かれており視聴者目線ではより明確にジャイアンのタチの悪い逆恨みぶりが強調されている。ドラえもんは原作だとのび太から相談された時点で激怒していたが、こちらは当初、いつものように漫画を取られたのかと思い込み、適当に話を聞いていた(この態度も問題があるが)。しかしのび太がジャイアン達から無視されていると事情を知った際は、
「何だと!?酷い!何という卑怯で残酷で陰険な虐め方だ!そんなことをする奴は人間のクズだ!ゴミだ!バイキンだ!」
と、原作版以上に、それでいて大山版の穏やかな口調で話すことが多いドラえもんとは思えないほどに過激な発言をしながら大激怒している。基本的にセリフがマイルドになっているアニメ版ではこれはかなり珍しい。
その形相たるや顔に影が差し稲妻を背負い、目には涙を浮かべながら叫びとこちらも原作以上の怒り方になっている。
他にもこのエピソードは原作・アニメ版共に静香が一切登場していないエピソードになっている。恐らくのび太に「優しさ」を与える役をドラえもんから奪わない為であろう。
関連タグ
ハチク…敵に「許さんぞ。人間のクズめ」と上記におけるドラえもんと似たような発言をしたことがある。