紹興酒
しょうこうしゅ
中国では紹興にある湖・鑑湖(かんこ)の水で仕込むので鑑湖名酒とも言う。アルコール度数は14~18度。飲用にしたり調味料として用いたりする。紹興酒には製法の違いによって、元紅酒、加飯酒、善醸酒、香雪酒の4種類があり、この順にドライである(つまりブドウ糖が少ない)。日本でよく飲まれるのは加飯酒。
黄酒(醸造酒)を長期熟成させたものを老酒(ラオチュウ、Lǎojiǔ)と呼ぶ(中国本土以外の台湾・日本で作られたものも老酒と言うことがある)。
ちなみに、産地である浙江省紹興市は小説家・魯迅の出身地でもある。
また、紹興市を含む杭州と呼ばれる地域は、東坡肉の名前の由来である宋代の官僚・詩人である蘇軾(蘇東坡)の任地の1つであり、東坡肉の起源の伝説の1つとして「蘇軾が杭州に赴任した際に治水工事を行ない地元の農民から豚と紹興酒を献上された。そこで、蘇軾は豚肉を紹興酒で煮た料理を作り工事費用を寄付した者達に配った」というものが有る。
原料
紹興酒とその酒母は次の原料から造る。
糯米(もちごめ)
麦麹: 小麦で作った麹。クモノスカビなどを含む。
酒薬: 粳米粉とヤナギ蓼(たで)で作った酵母や乳酸菌の種。
鑑湖の水
漿水: 糯米を浸した後の鑑湖水
焦糖色(カラメル)
糯米を精白して鑑湖の水に浸漬しておくと乳酸発酵する。1~2週間たったら糯米を取り出して蒸し、原料とする。浸漬水も“漿水”と呼んで原料として用いる。乳酸が腐敗を防ぎ、酒にコシ(酸味)を加える。元紅酒と加飯酒はこれらだけで醸造する。
その他の原料として、上記の原料から造られた酒自体を用いる。
元紅酒: 善醸酒に用いる。
酒粕から造った焼酎(粕取り焼酎): 香雪酒に用いる。
原料について注意事項:
市販の紹興酒のほぼ全てが焦糖色(カラメル)を添加して色、香味を調整している。
原材料の表記さえ行われていない場合があり、現地工場見学では虚偽の説明を行うため、流通している商品では確認すら覚束無い。
淋飯酒(酒母)
淋飯酒は次のようにして造る。
糯米を蒸す。
蒸した糯米を底がすのこになっている桶に入れ冷水をかけて冷ます。これを淋飯と言う(“淋”は「ポタポタしたたる」という意味)。
酒薬をまぶし、大甕の内部の側壁に塗りつける。
3日ほどででんぷんが糖化し、底に甘酸っぱい液となって溜まる(これを漿凹酒と言う)。
麦麹と鑑湖水を加え、時々混ぜる。これを繰り返す。
そのまま発酵させ、絞って殺菌したものを“淋飯酒”と言う。アルコール度数は低い。
淋飯酒は、以前はよく飲まれていたが、アルコール度数が低く、味も薄いので、現在は販売されていない。絞らず殺菌しないものが現在の紹興酒の酒母(母体)として用いられる。
元紅酒
元紅酒の製法はすべての基本となる。酒母(淋飯酒)に、漿水と鑑湖水、蒸した糯米と麦麹を加えて造る。攤飯酒とも呼ばれていた(“攤”は拡げるという意味。蒸し米を、すのこの上に拡げて冷ましたから)。10日間の1次発酵の後、小さめの甕に分け入れ、蓋(ふた)をして、屋外で3か月弱の2次発酵をする。醸造直後のアルコール度数は約16~17度。これを濾過(ろか)して製品にする。
昔は朱紅色の甕(かめ)に入れて売っていたので、元紅酒と呼ばれている。中国ではこのタイプの黄酒がもっとも多く飲まれている。
加飯酒
元紅酒と造り方は同じであるが、糯米と麦麹を1割増量して造る。最低3年間熟成させてから出荷される。醸造直後のアルコール度数は18~19度。
日本では加飯酒がよく飲まれている。氷砂糖や薄切りにしたレモンを入れて飲むことがあり、温めて飲むこともあった。
黄酒は、濾過した後、80~90℃に加熱(煮酒)して殺菌し、甕に詰める。その口を蓮の葉と油紙で覆い、素焼きの皿で蓋をし、竹皮で包み、粘土で塗り固める。日本向けのものは、粘土の代わりに石膏を使う。粘土では、日本の植物防疫法(検疫)に触れるので、輸出できないからである。
加飯酒の熟成期間の長いもの(陳年)を花彫酒と言う。これは女児酒にちなむ。紹興の古い習慣では、誕生3日目を祝って贈られた糯米で黄酒を造り、1か月後の満月の日(農暦十五日)に親戚を集めて祝宴をし、密封・殺菌した甕を父親が埋めた。この酒を、
女児の場合は花彫酒と言う。娘が嫁ぐ時に、父親が掘り出して、母親が“囍”と書いた赤紙を貼り、甕に彫り師が彫刻をし美しい彩色をして、“嫁酒”として持たせた。
男児の場合は状元紅と言う。状元は、科挙での最高位合格者のこと。
善醸酒
善醸酒は仕込み水の代わりに元紅酒を使って仕込んだもの。この製法は、アルコール分を増すために工夫された、古くからある方法である。この製法の酒を、昔は“重醸酒”、“酎”(焼酎の字源)、“醇酒”などと呼んでいた。直糖分とエキス分が多い濃厚な酒である。