「音量上げろ!! 生前葬だ!!」
概要
死滅回游の泳者(プレイヤー)の一人。滞留結界(コロニー)は東京第2。
400年前から甦った過去の呪術師の一人で、電気回路のコイルのような特徴的な髪型をした青年。
死滅回游開始から10日ほどで200点を獲得し、その直後、両面宿儺の居場所を突き止めやすくするため、100点を消費して全泳者の情報が開示される総則9を加える。
人物
非常に好戦的な性格で、強者との死闘を好み、自分自身の生きがいとする生粋の戦闘狂。戦闘では合理的な勝利よりも、強大な相手を正面から突破する事を好む。
羂索と呪物化の契約をした時点で既に老齢の域に達しており、喀血していた為に何らかの病を患っていた模様。しかし、その老いた状態でも大量の術師を殺害して血の海を作り出す程の圧倒的な実力があったが、それでも自身が心から満足する闘争は行えず、そこで羂索から彼が知り得る最強の呪術師である宿儺の事を聞き、彼と戦うことを目的に死後呪物になる契約をした。
因みに、当時伊達藩の歴史上最強の呪力出力を持って生まれた術師である「大砲」石流龍の事も聞いていたのだが、自身の老いによる病と遠方にいた事から戦う事は不可能と断念している。
能力
後述する呪力特性に由来する呪力操作、如意による棒術、体術を駆使して戦う。豊富な戦闘経験から「彌虚葛籠」などの領域対策や、頭部破壊や毒ガスなど対反転術式の知識と有効打も持っている。さらに戦闘中でも冷静に立ち回り分析力にも長けている実力者。
また、生得術式に関しては本人曰く「一発、それっきり」であるため、宿儺以外に使う気はなく、呪力操作のみで戦う。
呪力特性
呪力が電気とほぼ同等の性質を持っており、武具を含む全身に自在に電撃を流す事ができる。この性質は伏黒恵が使役する式神の一体である「鵺」と同じものであり、この呪力特性による攻撃のは、単純な呪力による攻撃と違い、並の呪力量と出力では防御は不可能である。また、この特性上電撃に高い耐性を持つ。
さらに呪力を電荷分離し、打撃と共にプラスの電荷を相手に纏わせ、その状態で自分の保持するマイナスの電荷を地面への放電をキャンセルして対象に向けて放つ事で、稲妻の如き呪力攻撃を放つ事が出来る。
電荷の性質と速度から事実上の“必中攻撃”であり、そして前述通り彼の攻撃は呪力による防御は不可能なため、呪力防御を貫通して術師の体に容易に風穴を空け、呪力操作による通常の攻撃が領域を展開せずとも必中必殺なのである。
あくまで電荷分離の特性の応用なので、攻撃を必中させるには予め相手にプラス電荷を纏わせる必要がある。さらに蓄電にはそれなりに時間がかかるので、すぐに上記の攻撃が行える訳ではない。
加えて如意棒に蓄電する事も可能で、自分と如意棒の間の位置に相手を誘導する事で、如意棒からの帰還電気で相手に致命傷を負わせる事もできる。
弱点としては、海中などの電気を通しやすい環境に放り込まれると勝手に呪力が流出してしまう為、空になるまで呪力を放出するか、陸に上がるまで呪力を完全に断つかの苦しい二択を強いられること。
一方で、海水の場合は電気分解で「塩素ガス」を発生させる事で海上の相手にも反撃が可能であり、無敵状態の秤もこの方法で昏倒させることで形勢を逆転した。
結界術
彌虚葛籠(いやこつづら)
シン・陰流簡易領域の原型となった技。
領域を中和して、領域の必中効果を打ち消す事ができる。
彼の一発きりという術式で領域展開可能かは不明だが、少なくとも領域対策は専らこれで行っている模様。ただし、作中では秤の領域の圧倒的な展開速度から、展開が間に合わずに実際には使用されなかった。
術式
幻獣琥珀(げんじゅうこはく)
電気と同じ特性を持つ呪力から変換できるあらゆる現象を実現するために肉体を作り変える。
例えば↓
- 脳内の電気信号の活性化による敏捷性(アジリティ)の向上
- 物質の固有振動数に最適化・同調する音波
- 照射されたものを蒸発させる電磁波
など。要するに電気で出来ることは何でも出来、初期に例えられていた「呪力→電気・術式→家電」をより高めたもの。だが、あまりにも強力過ぎる力は人の域を超え、その代償に術式終了後に肉体が崩壊する。
「一発、それっきり」と語っていたのは、このように使用すれば戦いの勝敗に関係なく自身の死が確定するためである。必然的に術式の使用を決めた相手は、己の生涯の最期を飾るに相応しい相手ということである。
活躍(ネタバレ注意)
受肉後は宿儺を探し求めて泳者相手に聞き込みをしながら手当たり次第に戦闘を仕掛けており、そのさなか遭遇したパンダも圧倒した。
続けて秤金次との戦闘になると、坐殺博徒の効果で制限時間付きの無敵状態になった秤に対して「制限時間切れまでいなして勝つというのは雑魚の思考だ」「制限時間内に不死身のオマエを殺して見せる!!!」と意気込み、大当たりを連発する彼と互角以上の戦いをした。
不死身の穴をついて何度も致命傷を与えたものの秤の豪運に一歩及ばず、最終的に海に落とされたことで呪力を使い果たしてしまい降参。
命を取られることを覚悟していたが秤に交渉を持ちかけられ、得点を譲渡する代わりに宿儺と戦うための手伝いをさせることを条件として協力関係になった。
その後、五条悟が復活し宿儺と決闘する際、詳しい描写はないものの上記の約束に関して秤と揉めたようだが、五条が敗北したときは真っ先に自分が宿儺と戦う権利を得るということで手打ちとなったようで二人の戦いを大人しく観戦していた。
※この先、第237話以降(単行本最新27巻収録)のネタバレ注意!
五条が宿儺との戦いで敗死すると真っ先に飛び出して宿儺と対峙。
彼は宿儺に対し、強者故に他者と関わることも慈しむことも出来ず、孤独を感じていた過去を告白。
そして、「強者とはひたすらに己の力の発露を求め続けるだけの孤独な存在に過ぎないのか」と問うた。
それに対し、宿儺は「贅沢者め」と返した上で、鹿紫雲の抱える苦悩の答えを教えてやると宣言。
「来い 亡霊」と彼を誘うのだった。
400年越しの悲願に笑みを浮かべながら鹿紫雲は術式『幻獣琥珀』を解放。
圧倒的な破壊力と機動力で、五条戦のダメージが残る宿儺を圧倒した。
己の命を代償に大幅な強化を遂げた鹿紫雲。
そんな彼に対し宿儺が取った一手は───受肉による変身を再開し、完全なる真の姿を顕現させることだった。
※この先、第238話のネタバレ注意!
最期
「あぁ なんて……‼ここまで……‼なんて……‼」
「美しいんだ‼」
遂にその正体を現した宿儺。呪術戦に特化したその美しさを前にして見惚れ、感動に打ち震えながら、鹿紫雲は宿儺に挑みかかる。
「幻獣琥珀」による電磁波や五条をも抹殺した「世界を断つ斬撃」などを交えた短い攻防の後、宿儺は口を開いた。
宿儺も以前、万から「強者故に孤独である」と決めつけられ、愛を説かれたことがあった。だが彼とて愛というものを全く知らないわけではなかったようで、「万は鹿紫雲や五条にこそ愛を説くべきであった」と宿儺は語った。
同時に、「鹿紫雲は愛というものを知らないというより理解できていない」…とも。
その言葉に疑問符を浮かべながらも戦闘を再開する鹿紫雲だったが……本来の力を取り戻した宿儺の前では、鹿紫雲は無力だった
肉弾戦をしばらく続けることができたものの、とどめに網目状に織りなされた数多の斬撃を喰らわされ、鹿紫雲は絶命してしまう
──鹿紫雲の命が尽きる寸前か、あるいはその直後か。
両者は精神世界で言葉を交わしていた。
宿儺は指摘する。
多くの者が全身全霊で鹿紫雲に挑んできたであろうこと。
鹿紫雲がその者たちを残らず屠って来たこと。
そして、挑戦者たちの全力に真正面から応えるその行為こそ慈愛に他ならないではないか、ということを。
強さゆえに多くの者たちから愛され、鹿紫雲自身もその挑戦者たちに慈愛を以て応えている。
にもかかわらず、自身の境遇を「孤独だ」と憂いている。
それこそが、先刻宿儺が鹿紫雲を「贅沢者」と呼んだ理由であった。
そんな宿儺の答えに対し「アンタはそれで満足か?」と鹿紫雲は問う。
それに対し宿儺は、愛について頭では理解した上で「下らん」と切って捨て、こう続けた。
「他者に満たしてもらおうなどと考えたこともない」
「食らいたいときに食らう 目障りならば殺す 面白ければ遊んでやるだけだ」
「俺は俺の身の丈で生きているに過ぎない」
──400年前の苦悩、それに対する宿儺の答え、彼の生き様。
それらを受けてどこか満足気な表情を浮かべながら、鹿紫雲は最後に一言問うた。
「飽きるだろ」と。
それに対し宿儺は、「人間の味は多種多様で刹那的」であり、「死ぬまでの暇つぶしとして啜る分には丁度いい」と答えるのだった。
鹿紫雲一という人間について
あくまでも読者の憶測だが、こういう戦闘狂のキャラクターというのは戦いこそが全てで、常にそれに飢えているというイメージがあるが、鹿紫雲は妙に理性的な側面が描かれている。
実際、圧勝したパンダをすぐに殺さず「宿儺の居所を教えてくれれば命は見逃してやる」と何度か告げたり、「自分が勝ったら100点使わせろ」という秤との約束も(条件付きとはいえ)律儀に守ったり、一度は暴れたみたいだが以降は五条と宿儺の戦いの行方を静かに見届けるなど、何だかんだ人付き合いができ、さらには他人の気持ちにも寄り添える部分があるように見える(同じ強者として感じるものがあったからか、五条と宿儺の戦いに割って入るのは無粋、これは五条悟のための戦いだと乙骨達に言っている)
加えて最期の精神世界の光景は、夏油傑や七海建人達が待っていた空港にいた五条とは違って、誰もいないどこかの草原であり、そこで「他者に満たしてもらおうなどと考えたこともない」と語った宿儺の答えに「(そんな人生は)飽きるだろ」と返している事から、本当は自身と肩を並べてくれる相手を欲していたのでないかと考察されている。
宿儺の答えは、大雑把ながら要約すると「オマエはそのままで良かった。他者に満たしてもらおうなどと考えるな」といったものだが、鹿紫雲はそれに対して「飽きるだろ」と口にしており、これはかつて自分自身もそう生きていたが、どこかのタイミングで思うところを感じたという風に解釈できる。
自分と張り合える相手がおらず、かつ歳月を重ねていくに連れて自身の人生を振り返るようになり、やがては寂しさや虚しさを覚えるようになった。その表れが、あの誰もいない草原の精神世界だったのかもしれない。
たとえそれが慈愛なのだとしても、弱者を蹂躙するだけの人生なんて寂しく、そんなやり方でしか他者と関われないのはやはり虚しい。宿儺の答えも確かに一つの「解」ではあったが、鹿紫雲が求めていたものとは違っていた。
それでも「こんな自分にも確かな愛があり、ちゃんと誰かと関われていた」という事を知れたから、最期に穏やかな笑みを浮かべた……という、あくまでも憶測の話である。
もちろん公式の解釈ではないが、しかし彼なりに孤独と向き合い、そんな自分の人生に何か思うところがあったのは事実だと思われる。
余談
- 名前の由来は、日本神話の雷神タケミカヅチを祀る鹿島神宮、雷を表す紫電及び雷雲か。なお、鹿紫雲という苗字は現実に10人ほど存在する。
- 電気自体は1700年代後半発見され、日本に普及し始めるのはその100年以上経った明治時代からである。生前の鹿紫雲がいた江戸時代初期には電気の概念すらなく、自然発生する雷や落雷・静電気くらいしかない。現代でこそ科学が発展し専門家でなくとも多様な使い方が想像できるが、当時は「稲妻が放てる」くらいの単純な能力だったのかもしれない。
- 電気分解の塩素ガスを使う展開では『Dr.STONE』関連の科学監修を担当したくられ先生が監修を担当している。
- 外見が五条にどことなく似ており、単行本の表紙の表情が同じだったり、攻撃の痕跡まで虚式「茈」と酷似している為に、元は五条家の者だったのではないかと囁かれている。
- 実は『呪術廻戦』のプロトタイプである『呪術匝戦(じゅじゅつそうせん)』に鹿紫雲の原型となったキャラが登場している。