MVP(MLB)
えむぶいぴーかっこえむえるびー
「MVP(MLB)」(最優秀選手賞 Most Valuable Player Award)とは、メジャーリーグベイスボール(以下、MLB)において最も活躍した選手を表彰するものである。通常はMVPと略されて呼称される場合が圧倒的に多い。
MVPをレギュラーシーズン、リーグチャンピオンシップシリーズ、ワールドシリーズ、オールスターゲームのそれぞれで選出する。上記以外にも、月間MVP(リーグ別に投手・野手各1人)、週間MVP(リーグ別に投手・野手含めて1人又は2人)、月間新人MVP(リーグ別に投手・野手含めて1人)がある。過去には月間最優秀救援(リーグ全体の救援投手で1人)があった。この記事ではレギュラーシーズンでのMVPを解説する。
アメリカ野球記者協会(Baseball Writers Association of America;略称BBWAA)の記者投票によって選出された、シーズンにおいてチームに最も貢献した選手に与えられる。アメリカンリーグ・ナショナルリーグからそれぞれ1名ずつ選出される。通常「MVP」とのみ表記の場合は、このシーズンMVPを指している。他に「リーグMVP」、「年間最優秀選手」などと表記される。
以前の正式名称はMLBの初代コミッショナー、ケネソー・マウンテン・ランディス氏の名を取り「the Kenesaw Mountain Landis Memorial Baseball Award」。ランディス氏がコミッショナー在職中に死去した1944年の授賞からBBWAAは彼の名前をMVPに冠していたが、2010年代後半からアメリカ国内で拡大した、過去に広く行われていた人種差別問題に対する批判は「カラー・ライン」方針を遵守して黒人(アフリカ系)選手のMLB加入を阻害したランディス氏にも及び、過去のMVP受賞者からの要求設けて、2020年10月3日にBBWAAはポール・サリヴァン会長の声明で、「野球界の(人種)統合の失敗」を理由にして、ランディス氏の名前をMVPから除去すると発表した。
BBWAA記者による投票の結果はMVPポイントとして受賞者のほか「どの選手がどれほど得票できたのか」まで公開される。またジャパンプロ野球(NPB)の最優秀選手(MVP)投票とは異なり、投票に参加した記者の名前(及び所属メディア名)、どの記者が誰に投票したのかまでが公開され、それらはアメリカ野球記者協会の公式サイトで閲覧可能である。
投票方法は、BBWAAから選出された記者30人がリーグの10名までに順位をつけ投票する。1位の選手には14ポイントのMVPポイント(2位は9ポイント、以下1ポイントずつ減り10位が1ポイント)が与えられ、そのMVPポイントの合計が一番多かった選手がMVPとなる。
過去にチャルマーズ賞という名の特別表彰から始まり、リーグでの表彰を経て、現在の表彰形式となった。
事の起こりは1910年にチャルマーズ自動車が両リーグの首位打者に自動車を贈ったことに始まる。
同年10月9日のシーズン最終日、アメリカンリーグのタイ・カッブ氏(タイガース)とナップ・ラジョイ氏(インディアンス)との首位打者争いで再三にわたる醜いプレイが起きた。最終的にラジョイ氏が首位打者となったが、チャルマーズ氏はカッブ氏とラジョイ氏の両者に自動車を贈った。
翌1911年、チャルマーズ氏は打率の高低を競う首位打者のみを対象とするのでは視野が狭いと考え、対象を「チームに最も貢献した選手」に改めた。このチャルマーズ賞(Chalmers Award)は1914年まで続いた。
1922年から1929年までは各リーグが表彰を行っていたが、各チームから1名のみ投票権を持つ代表選手を決めて選考投票を行っていたために、票が分散して該当者無しになることがあった。また、アメリカンリーグのチームからの代表選手であっても、ナショナルリーグの選手に投票することが可能であったために、1929年には両リーグ代表選手の投票がロジャース・ホーンスビー氏(カブス)に集中し、ホーンスビー氏は両リーグから表彰を受ける事態となった。同年を最後に表彰を中止した。
また、この頃のアメリカンリーグはMVPを一度しか受賞することができず、監督を兼任する選手も対象外という規定があった。そのため1923年に受賞していたベーブ・ルース氏は新記録となる60本塁打を記録した1927年に1票も得ていなかった。
1931年よりアメリカ野球記者協会(BBWAA)がMVPの表彰を始め、2023年現在に至る。メジャーリーグベイスボールでは1931年から始まったBBWAAによるMVP表彰を公式記録としている。
1956年のサイ・ヤング賞制定以後は「MVPは投手以外から選出すべき」という考え方が浸透している。ただし、特に顕著な活躍をした投手がMVPを取る例はあり、1956年のドン・ニューカム氏以降、1968年の両リーグ投手受賞を含め、2023年までの延べ136人中12人がMVPを獲得している(投手が2度受賞の例はない)。このうち、投手と指名打者の「二刀流」の活躍が評価された2021年・2023年の大谷翔平選手以外は、いずれもサイ・ヤング賞との同時受賞となっている。
非公式受賞者
年度 | ナショナルリーグ | アメリカンリーグ | 備考 |
---|---|---|---|
1911 | フランク・シュルト | タイ・カッブ | カッブ氏、殿堂入り |
1912 | ラリー・ドイル | トリス・スピーカー | スピーカー氏、殿堂入り |
1913 | ジェイク・ドーバート | ウォルター・ジョンソン | ジョンソン氏、殿堂入り |
1914 | ジョニー・エバース | エディ・コリンズ | エバース氏とコリンズ氏、殿堂入り |
1922 | 選出者なし | ジョージ・シスラー | シスラー氏、殿堂入り |
1923 | 同上 | ベーブ・ルース | ルース氏、殿堂入り |
1924 | ダジー・ヴァンス | ウォルター・ジョンソン | ヴァンス氏、殿堂入り |
1925 | ロジャース・ホーンスビー | ロジャー・ペキンポー | ホーンスビー氏、三冠王&殿堂入り |
1926 | ボブ・オファレル | ジョージ・バーンズ | |
1927 | ポール・ウェイナー | ルー・ゲーリッグ | ウェイナー氏とゲーリッグ氏、殿堂入り |
1928 | ジム・ボトムリー | ミッキー・カクレーン | ボトムリー氏とカクレーン氏、殿堂入り |
1929 | ロジャース・ホーンスビー | 選出者なし |
公式受賞者
選手 | 回数 | 年度 |
---|---|---|
バリー・ボンズ | 7 | 1990 1992 1993 2001 2002 2003 2004 |
ジミー・フォックス | 3 | 1932 1933 1938 |
ジョー・ディマジオ | 3 | 1939 1941 1947 |
スタン・ミュージアル | 3 | 1943 1946 1948 |
ロイ・キャンパネラ | 3 | 1951 1953 1955 |
ヨギ・ベラ | 3 | 1951 1954 1955 |
ミッキー・マントル | 3 | 1956 1957 1962 |
マイク・シュミット | 3 | 1980 1981 1986 |
アレックス・ロドリゲス | 3 | 2003 2005 2007 |
アルバート・プホルス | 3 | 2005 2008 2009 |
マイク・トラウト | 3 | 2014 2016 2019 |
ウォルター・ジョンソン | 2 | 1913 1924 |
ロジャース・ホーンスビー | 2 | 1925 1929 |
ルー・ゲーリッグ | 2 | 1927 1936 |
ミッキー・カクレーン | 2 | 1928 1934 |
カール・ハッベル | 2 | 1933 1936 |
ハンク・グリーンバーグ | 2 | 1935 1940 |
ハル・ニューハウザー | 2 | 1944 1945 |
テッド・ウィリアムズ | 2 | 1946 1949 |
ウィリー・メイズ | 2 | 1954 1965 |
アーニー・バンクス | 2 | 1958 1959 |
ロジャー・マリス | 2 | 1960 1961 |
フランク・ロビンソン | 2 | 1961 1966 |
ジョニー・ベンチ | 2 | 1970 1972 |
ジョー・モーガン | 2 | 1975 1976 |
デール・マーフィー | 2 | 1982 1983 |
ロビン・ヨーント | 2 | 1982 1989 |
カル・リプケンJR | 2 | 1983 1991 |
フランク・トーマス | 2 | 1993 1994 |
フアン・ゴンザレス | 2 | 1996 1998 |
ミゲル・カブレラ | 2 | 2012 2013 |
ブライス・ハーパー | 2 | 2015 2021 |
ショウヘイ・オオタニ | 2 | 2021 2023 |
公式受賞者
選手 | 年度 |
---|---|
ハンク・グリーンバーグ | 1935 |
カール・ハッベル | 1936 |
アル・ローゼン | 1953 |
ミッキー・マントル | 1956 |
フランク・ロビンソン | 1966 |
オーランド・セペダ | 1967 |
デニー・マクレイン | 1968 |
レジー・ジャクソン | 1973 |
マイク・シュミット | 1980 |
ホセ・カンセコ | 1988 |
フランク・トーマス | 1993 |
ジェフ・バグウェル | 1994 |
ケン・カミニティ | 1996 |
ケン・グリフィーJR | 1997 |
バリー・ボンズ | 2002 |
アルバート・プホルス | 2009 |
マイク・トラウト | 2014 |
ブライス・ハーパー | 2015 |
ショウヘイ・オオタニ | 2021 |
ロナルド・アクーニャJR | 2023 |
ショウヘイ・オオタニ | 2023 |