概要
MLBにおいて1シーズンに本塁打(ホームラン)40本以上と、盗塁40個以上を同時に記録した選手の集団を指す。アメリカをはじめとする欧米圏では、スポーツで偉大な記録が誕生した際に「○○クラブが創設された」と言い表す慣習があり、これに因んだものである。
この記録を達成するには
- 打席でボールのコースをしっかり見極める
- 甘い球が来たら確実に仕留めてホームランにする
- 長打を狙うのが難しい場合でも、単打若しくは四球でしっかりと出塁する
- 出塁後に(前の塁が埋まっていた場合を除いて)盗塁を積極的に狙う。
といったプレイをできるだけ毎試合欠かさず行っていく必要がある。
どれも打者としては当たり前のことであるが、当然、人によって得手不得手というものがあるわけで、これらすべてを1人の選手が卒なく熟すというのはかなり難しいことである。
そもそも、一般的に本塁打はパワー、盗塁はスピード(機動力)に優れた選手が記録を伸ばしやすい傾向にあり、これは過去の長い野球の統計の結果からも一定の裏付けが取られている。
本塁打を量産するためにはパワーを上げるために大幅なバルクアップが必要となり、その代償として体重が増加して機動力が失われ、盗塁が難しくなるケースが多い(バリー・ボンズ氏がその典型例である)。加えて、本塁打は打つと塁上を必ず一周してホームベースに戻ってこなければならないその仕様上、打った瞬間盗塁をすること自体が不可能となってしまう。
まず、この点が本塁打と盗塁の記録を同時に上げていくことを難しくする要因となっている。
盗塁も単に脚力を活かして無暗に走ればいいというものではなく、相手投手の投球のクセを見抜いて、適切なタイミングでスタートを切らなければならないため、高度な観察眼が要求される。また、当然ではあるがそもそも出塁できなければ盗塁のしようがないため、打席上でもストライクゾーンに球が投げ込まれてくるのか否かを的確に見極める選球眼や相手バッテリーの投球術や配球のクセを読む洞察力が必要となる。
観察力も重要なステイタスとなるのである。
当然、これらは一朝一夕で身に付くものではないため、安定した成績を上げるようになるには膨大な経験や、チーム内の投手コーチや戦略分析班との緊密なコンタクトも必要とする(投手経験がある打者ならば、自身の経験等からある程度盗塁を狙えるタイミングや投手のクセを見抜きやすいだろう。もっとも、そんなことができる選手はごく一握りに限られているが………………)。
つまるところ、「40-40」を達成するためには、パワーとスピードを両立することはもちろん、野球に関する様々な経験や知見が要求されるのである。
野球と言う競技に熟達した真のオールラウンダーでなければ決して手にすることのできない称号なのである。
仮に本塁打を量産できる破壊力があると同時に盗塁を狙えるだけの快足の持ち主であっても、盗塁を敢えて意図的に狙わない選手も決して少なくない。
それもそのはず、大谷選手はワールドシリーズの対ヤンキース戦の第2ラウンドで二盗を試みたが、スライディングの勢いが余りすぎて左肩を亜脱臼する怪我を負ってしまった事故が起こってしまったのである。
大谷選手のこの凄惨なシーンを目撃した選手達は「盗塁をむやみやたらに狙うのを控えたほうがいい」と思っていただろう。
ましてや大谷選手は2025年から二刀流を本格的に稼働させるつもりなので、首脳陣からNGが出されても至極当然のことだろう。
つまり大谷選手の「54-59」は、2024年が最初で最後の記録になる可能性が圧倒的に高いのである。
達成者
これまでに「40-40」を達成したのは、MLBの長い歴史の中でも僅か6名しかおらず、複数回達成した選手も全く存在しない。このことからも、この記録を達成することが非常に困難なものであることがうかがえると言える。
ただ、MLBでは2023年に試合時間の短縮を目的に規則の一部が変更、この一環でベースサイズ拡大や牽制球制限の新ルールが導入されたことにによって、MLB全体で盗塁数が増加している。このため、今後は以前と比べて「40-40」達成のハードルが多少は下がるのではないのかと言われている(実際、2023年、2024年と2年連続で40-40達成者が現れている)。複数回達成者が出るのも時間の問題だろう。
※ 太字は40-40クラブ内での最多記録。
選手名 | 達成年度 | 国籍 | 達成球団 | ポジション | 本塁打数 | 盗塁数 | 試合数 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ホセ・カンセコ | 1988年 | キューバ | オークランド・アスレティックス | 外野手 | 42 | 40 | 151 | 初の達成者 |
バリー・ボンズ | 1996年 | アメリカ | サンフランシスコ・ジャイアンツ | 外野手 | 42 | 40 | 158 | 黒人選手で初の達成者 |
アレックス・ロドリゲス | 1998年 | アメリカ・ドミニカ共和国 | シアトル・マリナーズ | 遊撃手 | 42 | 46 | 153 | 大谷選手が「43-43」達成者になるまでの「42-42」最高達成者、遊撃手で唯一の達成 |
アルフォンソ・ソリアーノ | 2006年 | ドミニカ共和国 | ワシントン・ナショナルズ | 外野手 | 46 | 41 | 147 | 1人目の「41-41」達成者 |
ロナルド・アクーニャJR | 2023年 | ヴェネズエラ | アトランタ・ブレーブス | 外野手 | 41 | 73 | 152 | 2人目の「41-41」達成者、2023年のナ・リーグ盗塁王 |
ショウヘイ・オオタニ | 2024年 | ジャパン(岩手県出身) | ロサンジェルス・ドジャース | 指名打者 | 54 | 59 | 126 | アジア出身選手初の達成、外野手で初の達成、現時点での最高達成者 |
トリヴィアあれこれ
- 達成者はすべてラテン系若しくは有色人種の選手で占められており、白人の選手でこの領域に到達した選手は現時点で意外にも存在していない。
- これまた意外なことに、現時点で、達成者の中でMLB殿堂入りを果たした選手は全く存在していない。
- このうち、実力と実績なら全く申し分がないカンセコ氏、ボンズ氏、A・ロッド氏の3名は禁止薬物の使用疑惑がある。一方、ソリアーノ氏は薬物とは無縁な現役生活を送ったが、現役時代の成績が全体的にいまいちパッとしないものであったため、殿堂入りに必要な75%以上の投票率を獲得することができなかったと言われている。
- 現役選手であるアクーニャJR選手と大谷選手は薬物とは無縁なクリーンな選手生活を送っており、現状でも全く申し分ない実績を積んでいるため、彼らがこのまま何事もなく現役生活を全うできれば、将来的に殿堂入りできる可能性は十分にあるだろう(特に大谷選手は周囲とは既に別格扱いされており、現役選手のなかでも殿堂入り筆頭候補者に挙げられており、殿堂入りはほぼ既定路線でもある。焦点は殿堂入りそのものではなく、満票当選(得票率100%)を得られるのかどうかである)。
50-50クラブ
40-40の更なる上位互換と言える指標で、シーズン中に50本塁打50盗塁を記録すること。
2024年9月19日(現地時間)に大谷翔平選手がMLB史上初及び世界野球史上初めてこの領域に到達し、世界中の野球ファンを驚愕させた。
便宜上「クラブ」と付けてはいるが、大谷選手以外に達成者が今後現れるのかどうかは全くもって未知数である。元選手や評論家の間でも「今後誰も達成できない」、「ルール改正の影響もあるし、2人目の達成者は遅かれ早かれ出てくるはずだ」、「仮に現れるとしても、ルース氏や大谷選手のように、あと100年経たないと無理だろう」「現れるとしても、その可能性はやっと1/23000の確率」という意見で割れている。
とはいえ、シーズン50本塁打単体でもこれまで達成した選手は、50本塁打の創始者ベーブ・ルース氏から始まり大谷選手やアーロン・ジャッジ選手等を含めて僅か33名(※)しかいないという大変狭き門である(もっと言うならば、MLB評論家のAKI猪瀬氏曰く「MLB50本塁打達成者はジャパンの歴代内閣総理大臣の65人よりも30名以上も少ない」とのこと)。
また、大谷翔平選手が現れるまでは50-50どころか、50-30すらいなかった(その逆の30-50は大谷選手含めて4人達成しており、2023年のアクーニャJR選手は上記の通り40-70を達成している)。
今のところ「50-50」達成が大谷選手ただひとりのみであることから、「50-50」達成は50本塁打単体、50盗塁単体はもちろん、ある意味では三冠王(通算15名17回の偉業)よりもはるかに難しい領域であることは間違いない。
※ ただし、この中にはバリー・ボンズ氏、マーク・マグワイア氏、サミー・ソーサ氏、アレックス・ロドリゲス氏のようにドーピング疑惑がある若しくは実際にドーピングをしていたと証言した選手も少なからず存在している他、サイン盗みを行った疑惑を持たれている選手も少なくない。そのため、現在は本当の意味での50本塁打達成者は実際にはもっと少なかったのではないのかという見方が有力視されている。
MLB以外では
ジャパンのプロ野球(NPB)では「30-30」達成者はいる(「トリプルスリー」の記事も参照)ものの、「40-40」達成者は残念ながら現時点では存在していない(大谷選手も日本ハム在籍時は未達成に終わっている)。
例えば、王貞治氏・野村克也氏・門田博光氏・田淵幸一氏・山本浩二氏、落合博満氏・山崎武司氏・松中信彦氏・松井秀喜氏・山川穂高選手・中村剛也選手・村上宗隆選手・岡本和真選手らといった怪力自慢なパワーヒッターはシーズン40本塁打以上を達成したことはあるものの、40盗塁以上は全くない。逆もまた然りで、福本豊氏・高木豊氏・イチロー氏・青木宣親氏・赤星憲広氏・糸井嘉男氏・周東佑京選手らといった機動力自慢なスピードスターもシーズン40盗塁以上を達成したことはあるものの、40本塁打以上は全くない。
ソフトバンクのファンであれば、山川選手の長打力と周東選手の脚力の両方を兼ね備えたようなプレイヤーでなければ到達は難しいと書けばその難易度の高さがよくわかるであろう。
因みに「40-40」に最も近かった日本人選手は、
- 秋山幸二氏の1987年の「43-38」、1990年の「35-51」
- 松井稼頭央氏の2002年の「36-33」
- 柳田悠岐選手の2015年の「34-32」
- 山田哲人選手の2015年の「38-34」、2016年の「38-30」、2018年の「34-33」、2019年の「35-33」
であった(「30-30」プレイヤーなら、ドジャース時代の大谷選手含めて5名となる)。
あとMLBでも大谷選手の「54-59」のおかげで影にすっかり隠れがちだったが、2024年のガーディアンズのホセ・ラミレス選手も161試合目まで「39-41」まで達成したものの、シーズン最終戦(162試合目)が雨天中止で流れたため大谷選手に続く7人目の偉業が白紙になったという不運に遭ってしまった。
MLB・NPB以外のプロ野球リーグを見てみると、韓國プロ野球(KBO)で、助っ人外国人のエリック・テイムズがNCダイノスに在籍していた2015年に47本塁打40盗塁を記録して達成したのが唯一の事例となっている。また、近い記録として2024年に起亜タイガースの金倒永(ドヨン・キム)選手が37本塁打39盗塁をマークしたことがある。
40-40クラブの軌跡(奇跡)動画
関連項目
50-50クラブ 野球 本塁打/ホームラン 盗塁 オールラウンダー
トリプルスリー:ジャパンのプロ野球における似たような指標。1シーズン内に1人の選手が打率3割、本塁打30本、30盗塁という、3のつく記録を3つ記録する事。因みに、MLBでは「40-40」の1つ前のステップである「30-30」という指標が存在(これまで41名が達成)しているが、トリプルスリーという概念そのものが全く存在しない。
不可能を可能にする男:「50-50」をも超えた現在の大谷選手に最も相応しい代名詞。