潜水艦とは、水中を航行できる艦船のこと。
概要
主に軍事用である軍艦の呼び名であり、海底探査用のものや、民間の遊覧用のものは「潜水艇」と呼ぶ場合が多い。
海中に潜み、魚雷や対艦ミサイルを用いて艦船を攻撃する潜水艦(攻撃型)がほとんどだが、一部の国は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)で敵国を攻撃する(戦略型)潜水艦を保有している。機雷を敷設し、そのほか特殊部隊の潜入支援や情報収集任務などに運用されたり、輸送に用いられる潜水艦もある。
歴史
大昔から水中を進める船は考えられ、古くは南北戦争で南軍の潜水艇H・L・ハンリーが敵艦に外装水雷を仕掛けて撃沈している。水中に没する都合上、潜水艦の動力を内燃機関とした場合、消費する酸素の確保が問題となる。ハンリーの場合は七人の乗員による人力という脳筋すぎる解決策をとったが、流石に航続距離が乗員の体力が続くまでではあまりにも使い勝手が悪く、その後は電動機や圧縮空気を動力とした潜水艦が各国で試作された。発明家ジョン・フィリップ・ホランドが開発した「ホランドVI」が1900年にアメリカ海軍にホランド級として就役すると、世界中で販売され「ホランド」は潜水艦の代名詞となった。
ホランド級は水上を内燃機関で航走しつつバッテリーに充電し、潜水中は電気でモーターを駆動した。水中での機動力は低く、航続距離も限られるが、隠密行動にはこれでも用が足りた。この「内燃機関+電動機+バッテリー」という組み合わせは現代においても原子力潜水艦以外は基本的にこの構成であり、殆ど変わっていない。
20世紀前半での潜水艦の速度は水上最高速が最大18~20kt前後、水中最高速は最大8~10ktと御世辞にも高速とは言えなかった。潜水艦とは言ってもこの頃までは水上艦のような船体を持っており、水上速度は軍艦としてもそれほど遅い部類でもないのだが、とにかく敵の攻撃に脆弱だった。肝心の戦闘時の姿である水中速度の致命的な遅さと相まって敵の駆逐艦や巡洋艦、航空機に発見された場合の生還は難しかった。「ドン亀」などと揶揄されることも多く、水中高速性能の向上は涙滴型や葉巻型の船体を待たねばならなかった。
ドイツ軍は第一次世界大戦と第二次世界大戦でUボート(UnterseeBoot=水の下の船)を活用し、通商破壊に大いに活躍、その有用性を証明した。
第二次大戦前半の大西洋では、Uボートが連合国側の主に補給・輸送艦船を狙って多大な戦果を挙げていた。しかし後半はアクティブソナーや航空機搭載レーダーなどの電子戦、護衛艦隊による護送船団、護衛空母の艦載機による哨戒、陸上基地からの対潜哨戒機による攻撃、暗号の解読、スパイによる出航情報といった対策をとられ、新型対潜爆雷や初期的なホーミング魚雷などの投入もあって次々と撃沈・撃破され、潜水艦とその乗組員の損失は約750隻・3万人に上ったとされる。
日本海軍は第二次世界大戦で、漸減邀撃作戦に基き艦隊決戦に先立って米海軍の戦力を削る兵器として、水上速力と雷撃力に優れた海大型潜水艦、長大な航続距離を持ち水上機を搭載して索敵力に優れた巡潜型潜水艦を建造した。実際には艦隊決戦は起こらず、インド洋での通商破壊や南方への輸送任務など想定した用途と異なる作戦に投入され、米海軍艦艇の優秀な対潜兵器の前に多くの潜水艦を失う結果となった。
一方アメリカ海軍の潜水艦は、日本の補給・輸送船団に対し大規模な通商破壊作戦を実施。シーレーン防衛を重視していなかった日本軍は効果的な対策を打ち出せず、徴用商船の多くを沈められた。アメリカ軍は電子戦、航空機による通報、暗号解読などを有効に使用していた。
冷戦期には原子力機関が実用化され、初の原子力潜水艦、米海軍のノーチラス号が就役した。潜水艦は給油も充電のための浮上も必要なくなり、食料や乗員の体力が続く限り水中に留まることが可能となった。更に、水中でも水上と同様に全速力で航行する事ができるようになり、飛躍的な機動力の向上をもたらした。同時期、確実な核投射手段として核弾頭大陸間弾道ミサイルが東西両陣営で開発されていたが、発射前に基地を攻撃されてしまえばそれまでである。しかし、発射基地が広大な海中を移動し続ける場合、これを発射前に攻撃する事はほぼ不可能となる。浮上することなく水中を移動し続けることができる原子力潜水艦は、この基地として最適であった。かくして両陣営で潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と、弾道ミサイル潜水艦(SSBN)が開発された。この戦略原潜は敵国への先制核攻撃ではなく、潜水艦の隠密性と生存性を生かして、敵から先制核攻撃を受けた際の報復を主な目的としており、核による抑止力の「相互確証破壊」部分を担う戦力とされている。原子力機関の採用は攻撃型潜水艦にも性能の向上をもたらし、魚雷の性能と機能の発展も相まってかつての天敵であった駆逐艦すら返り討ちにするほどの戦闘能力を獲得し、主力艦種となった。
しかし原潜は通常潜動力型水艦に対してあらゆる面で優位というわけではなく、運用中に機関を止めることができないため常に騒音を発し隠密性に問題があるという重大な欠点がある。原子炉の出力の大きさのため、排水などの発熱が大きいことも問題となる。このため原子力潜水艦を建造している国でも、通常の防衛用途にはディーゼル潜水艦が充てられる事が多い。ただし近年の原潜では冷却水循環ポンプを止めて自然対流で原子炉を冷却することができるようになり、これ以上の静粛化は難しい通常動力潜との差は縮まりつつある。原潜の根本的な問題は通常動力潜と比べてケタ1つ分高いとも言われる程高価(建造・運用費とも)な点であり、潜水艦戦力を原潜で全て揃えるのはアメリカ以外は予算的に無理ということでもある。
近年では非大気依存機関(AIP機関)の開発が進み、通常動力型潜水艦でも1週間以上の潜航が可能となった。既にスターリングエンジンを搭載した海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦や、燃料電池を搭載したドイツ海軍の212A型潜水艦等が就役している。ただしこれらは水中での機動力は原潜はもちろん、場面によっては従来のディーゼル潜にも劣る。それでも静粛性に優れ、なおかつ燃料が尽きるまで潜っていられる優位性は非常に大きく、ひところはこれからの潜水艦の主力と目されていた。だが、従来の「ディーゼル+電動機+バッテリー」が「ディーゼル+電動機+バッテリー+スターリングエンジン」となるため、駆動システムが艦内スペースを大きく圧迫する。これは前級よりも居住性が悪化するという、潜水艦として無視できない弊害をもたらした。しかもスターリングエンジンは専用の燃料を使い切ったら最後、港で補給しない限り再使用できないものであるため、1週間以上潜って燃料を使い切ったら一度浮上してまた1週間以上潜る、というような運用はできないのである。結局海上自衛隊はそうりゅう型一代限りでスターリングエンジンの使用をやめ、バッテリーをリチウムイオン化+大容量化という方向に舵をきった。
日本は先の大戦で米潜水艦に多くの艦船を沈められた教訓からか、海上自衛隊は水上艦・潜水艦・航空機でも非常に強力な対潜能力を有している。冷戦期には近海に出没するソ連(現ロシア)の潜水艦に睨みを利かせていた。近年は中華人民共和国の潜水艦も頻繁に出没するようになったため、警戒体制が強まりつつある。
潜水艦勤務は閉鎖された狭い空間に長期間滞在という心理的に非常に過酷な環境のため、精神疾患に罹患しやすい。原子力潜水艦は理論上何年でも潜水できるが、その前に人間の心身の方が限界となるため(そして食糧も尽きるため)、任務はせいぜい2ヶ月程度となっている。また、食事に気を使う海軍の中でも、潜水艦の食事は格別に美味しいとのこと。
関連タグ
艦種・艦名
関連創作
Uボート(Das Boot)
ネタ
その他
サンドウィッチ・・・細長いパンを用いた「サブマリンサンドイッチ」がある。