意味
日本の私立大学の文系学部のこと。また、そこに通う学生や卒業生のことを指す。
「私立文系専願(一般入試)」の受験生のことを指すことも。
通称は「私文」。ネットの一部では「詩文」や「ワタク」とも呼ばれるが、こちらは蔑称に近いので注意。
受験方法
一般入試
私立大学のほとんどは国公立大学と異なり、三科目だけの入試である。
文系の場合は英語(リスニングなし)、国語(現代文+古文+漢文)、歴史(日本史または世界史を任意選択)の三科目入試が基本。(※)
早稲田大学や慶應義塾大学といった名高い私大の文系学部も、三科目だけで入れてしまう。
数学や理科を勉強する必要は全くない。全科目のバランスを求められる国公立大学と比べると、得意分野や好きな科目での一点突破が可能な入試なのである。そのため、覚悟を決めた劣等生やドロップアウターが逆転合格を果たすパターンが多い。『ビリギャル』のような逆転劇は私文界隈では珍しい話ではないのだ。
もちろん、科目が少ないぶん、GMARCH、関関同立といった上位レベルの私大が要求する文系科目のレベルは高い。流石に東京大学や一橋大学には劣るが、地方旧帝大と大差ない、あるいはそれより難しい場合もある。
そして早慶上基、特に早慶ともなると難易度は東大、一橋に匹敵する。
学部あるいは学科ごとに試験が行われるのも特徴で、同じ大学の複数の試験を受けることもスケジュールを調整できれば可能である。また、大学によっては「全学部統一入試」なども存在する。
(※これはあくまで基本であり、例外もある。
例えば慶應は国語の代わりに小論文があり、早稲田の多くの学部は歴史の代わりに政治経済を選択できる。国際基督教大学などは英語にリスニング試験がある。
GMARCH以下の大学だと歴史の代わりに政治経済や地理が選べたり、「英国」や「英社」の二科目で受験できる場合もある。)
共通テスト利用入試
共通テストの点数だけで決まる方式と、共通テストの得点と一般入試の得点を合算する方式の二つに大別される。
一般入試と同じく、「英国社」の三教科が基本。
一部は三教科型の共通テスト利用を実施しておらず、一般入試のみの勝負なので注意。
共通テストの点数だけで決まる方式の場合、三教科で九割ほど得点できればほとんどのGMARCHや関関同立に合格できる。
外部英語試験利用入試
上智大学のTEAP利用入試が代表的。
推薦系入試
AO、公募推薦、指定校推薦など。しかしこれらは基本的に高校の全科目の評定を確認されるため、最初から数学や理科を捨てている純粋私文型の生徒には関係のない話である。
むしろ全科目しっかり勉強している国公立型の受験生の選択肢の一つである。
また帰国子女入試やスポーツ推薦などもあるが、普通の受験生には関係のない話。
内部進学
俗に言うエスカーレーター。大学附属、あるいは系列の高校から無試験で進学すること。慶應のように幼稚園からエスカーレーターするような大学もある。
試験を受けている分間違いなく一般入試組の方が学力は高い。しかし推薦・内部進学組の方が単位取得や就活、遊びなどを要領良く行う傾向がある。そんな彼らに一般入試の合格者、特に国公立落ちが反発することもあるが、あまり得策とは言えない。むしろ彼らに学べるところはないか探そう。
受験準備
志望校・選択科目決定
高校入学後、なるべく早い段階で志望校を決めてしまうのが良い。志望校の偏差値が高いほど人は勉強するものなので、早慶を第一志望にするのが無難だろう。選択肢が関西限定なら、関関同立トップの同志社大学が良い。私文型公立大学限定なら東京都立大学だろう。
学部はなるべく興味があるものが良い。興味の薄い学部に進学しても出席に苦労することが多い。また就活の時間を考えると一般的に単位取得が簡単で卒論の負担が重くない社会学部や経営学部が良い。あとは取れる資格や学部の立地などもチェックしておくと良いだろう。
当たり前だが数学にある程度自信がある人以外は経済学部を選んではいけない。経済学では微分をはじめとする高校数学の内容を使うのだ。また法学部(政治学科ではなく法律学科の方)や外国語学部も、一定の興味や適性がないと単位取得に苦労する。
民間企業への一般就職が目標ならばGMARCHの「上位学部」(学内での偏差値や格が高いとされる学部。例えば中央大学は法学部が上位学部として知られる。)より、早慶の「下位学部」(学内での偏差値や格が低いとされる学部。例えば文学部。)を選ぶのを勧める。就活においては学部より大学名が重視されるからである。
数学や理科、選択しなかった歴史や社会に関しては留年しない程度に定期試験対策をやっておけば良い。緩い学校によっては形式的な課題提出で進級できることもあるので、その場合は定期試験が赤点でも問題ない。
更に科目を捨てる?
数学や理科を捨てた私文が、更なるコスパを追求することもある。
例えば社会で歴史よりボリュームの薄い政治経済や地理を選択したり、国語で古文漢文が出題されない大学や学部を選んだり、など。
中には慶應SFC(総合政策学部と環境情報学部。入試科目の異色さで知られ、英語と小論文の二つのみで受験できる。)に特化、英語以外ほぼ勉強しない、という剛の者もいるとか。
もちろん選択肢が狭まる。早慶上基に幅広く挑戦したい人は、王道の「英国歴」(プラス慶應対策の小論文)の三教科選択が良いだろう。
逆に時間や余裕はないがGMARCHや関関同立以上には行きたい人は、コスパを追求した先人たちに学ぶものがある。
受験勉強
英語
まずは配点が高く理解や暗記に時間のかかる英語を仕上げる。理想は高三への進級前に共通テストレベルを完璧にすること。
私文全体の特徴として超長文や難解な英単語・英文法の出題が挙げられる。これらは学校の授業では対策が不十分になりやすいので、それ用の参考書を活用すべきである。
国語
現代文はセンスではなくロジックで解くことで安定した点数を取れる。といっても人によっては点数が伸びにくい分野なので、深入りしてはいけない。あくまで優先は英語や歴史。
古文・漢文は現代文と比べると安定した点数が取りやすい。英語と同じく、高三への進級前には共通テストレベルをマスターしておくと良い。ただ最悪高三からでも間に合う。
歴史
なるべく早め、遅くとも高三の夏までには通史のインプットを終わらせる必要がある。間違っても学校の授業に合わせては行けない。自習して先取りする。
概観を掴むには学習漫画が非常に有効。
また私文はマイナーな用語も多く出題されるので注意。
メリットとデメリット
前述したように文系の多くが苦手とする理系科目を完全に捨てることができるのが最大のメリット。
また私文はブランドイメージや学閥、都市に近いキャンパスを持っており、都会で幅広く就職先を探したい人にとっては有利である。
デメリットとしては、まず高校によっては教員や周囲のクラスメイトからの反感がかなり強いということ。
特に地方信仰や国公立信仰が強い高校では、私立文系に対する風当たりが強い。
(指定校推薦の方が、評定のために全教科勉強している分叩かれなかったりする。)
数学の授業中に内職して文系教科を勉強する私文というのは、地方の進学校ではよくある光景。
一方で空気を読んで、あるいは教員に強いられて数学の勉強を漫然と続けて英語や国語を疎かにした結果、国公立も私立も失敗する人もいる。
「国公立を押し付ける高校を辞めて自習したら早稲田に受かった」なんてケースも存在するようだ。
また学費の問題も大きい。私立大学の学費、場合によってはプラス一人暮らしの仕送り費用、というのは馬鹿にならない額である。
ただしこの場合は「英国歴」三教科型の入試を設置している特殊な国公立大学に行くという手もある。都市圏では東京外国語大学や東京都立大学、地方でも国際教養大学など結構幅広い選択肢がある。また防衛大学校も「英国歴」で受験可能である。
また私立でも入試の成績が良ければ学費免除になるケースもある。
稀なケースだろうが、文系志望でありながら得意科目が数学や理科といった理系科目のみの場合は、当たり前だが私文のメリットは享受できない。歴史の代わりに数学を選択できる大学、学部は多いが、それでも英語や国語からは逃れることはできないからだ。
では理転すれば良いという話になるのだが、私立理系でも国語は捨てられても英語は捨てられない。
英語なしの理系科目のみで入学可能な学部というのは慶應SFC(数学と小論文の二教科での受験が可能)をはじめとする一部しか存在しないのだ。
英語を回避したいなら、英語以外の言語で外国語科目を受験するという、帰国子女以外にはほぼ無理ゲーとも言える方法を用いるしかない。大卒の肩書きを諦めて初めから工業高校や高専に進学するしかないというのが現状である。
それだけ現状の大学受験においては英語の比重は重い。また就活時もある程度重要である。数学よりも英語を優先して勉強した方が、後の選択肢は広がる。
最後にもう一つデメリットを挙げるなら、公務員試験との相性の悪さだろう。公務員試験はどの区分でも教養試験が課されるが、これには共通テストレベルの五教科七科目がそれぞれ一問〜二問含まれる他、数的処理・判断推理という算数〜数学の素養を試す科目が含まれているのだ。また専門試験でも経済学が出題される。(一応、特別区や国家一般職、国税専門官など一部の区分では経済学を選択せずとも受験は可能。)
算数〜数学の素養が見られるのは民間企業の知能検査でも同じだが、これらは過去問があったりオンライン上のテストであったりすることが多いので、ぶっちゃけ私文の多くは不正で乗り切っている。大学のパソコン室で皆で協力して問題を解いたり、国公立の勉強をしてきた友人や恋人に問題を解かせたり……よくある話である。
そもそも知能検査で0点だろうが学歴が良ければパスできるケースすらあり、企業側も本気で不正問題について考えているわけでもなさそうである。憤慨する人もいると思うが、現実である。日本の新卒就活に多くある理不尽さ、奇妙さの一つくらいに冷静に捉えておこう。
もちろん知能検査がない、あるいは緩い企業も多いので、そちらを応募すれば無問題である。
ネットの風評と世間の現実
ネット(特に匿名掲示板)では馬鹿にされたり蔑まれたりしているが、世間的にはそんなことはない。
都会での新卒の就活において、GMARCHや関関同立であれば一般的な国公立と同じくらい、あるいはそれより強いネームバリューを持つ。また、早慶ともなれば地方旧帝大よりやや上、一橋にも匹敵するブランド力を発揮する。
また私文の有名大学は恋愛や結婚におけるイメージも良いとされる。
私立文系の多くは理系と違い、「大学生活を楽しんで好きな会社に入るための手段」として大学に行くのであって、「研究機関としての格」や「細かい偏差値の差」などはどうでも良いと思っている。
「法学部から文学部まであらゆる学部をなりふり構わず併願する」タイプの私立文系に対して「学問を追求する態度としておかしい」「志望大学に入れればなんでもいいのか」といった批判もあるが、的外れである。もちろん私文にも学びたい学問がないわけでないが、それを追求することよりも大学のネームバリューという現実的な要素を優先しているのだ。「大学は勉強するところ」という建前は至極もっともであるが、高校の先生や大学の教授が実際に将来の世話をしてくれるわけではないのである。
文系学科を持つ主要な私立大学
最上位
上位
中堅〜準上位
など
私立文系型入試がある国公立大学・大学校
国立大学
公立大学
大学校
など
私立文系を第一志望にしていた有名人(一般入試の合格のみ)
(五十音順)
【】内は合格し進学した大学・学部
- 乙武洋匡 【早稲田大学 政治経済学部】 一浪
- 株本祐己 【早稲田大学 スポーツ科学部】
- 小島よしお 【早稲田大学 教育学部】一浪
- 小林さやか/ビリギャル 【慶應義塾大学 総合政策学部】
- 借金玉 【早稲田大学 文学部】一浪
- ステハゲ 【中央大学 商学部】二浪
- 田中芳樹 【学習院大学 文学部】一浪
- 谷まりあ 【早稲田大学】一浪
- DJ社長 【駒澤大学 経営学部】高校を一留
- ニシダ(ラランド) 【上智大学 外国語学部】一浪
- 西村博之/ひろゆき 【中央大学 文学部】一浪
- 主チャンネル 【青山学院大学】
- 羽鳥慎一 【早稲田大学 政治経済学部】一浪
- 濱井正吾/9浪はまい 【早稲田大学 教育学部】九浪
- 林尚弘 【学習院大学 法学部】一浪
- 森田鉄也/もりてつ 【慶應義塾大学 文学部】 一浪 (※)
(※国公立大学である千葉大学の教育学部も第二志望として合格している)
など
私立文系専願のキャラクター
(五十音順)
など
余談 私文が医学科?
私立の医学科のうち、帝京大学の医学部医学科は数学と物理化学を捨て、英語と国語と生物の三教科で受験することができる。
つまり私立文系受験生でも生物を追加で勉強しさえすれば入学できる可能性がある。
といっても生物しか理系科目を勉強していない状態では、入学後に苦労するかもしれない。