漢文とは、中国語で書かれた文章でも特に古典分野の文章の事である。なお、中国では「漢文」といえば「現代中国語を含む中国語(漢語)の文章」の意味となるため、「文言文」「古漢文(古汉文)」あるいは単に「古文」と呼ばれる。
概要
中国の古典文学の文章のこと。当然ながら全文漢字であり、極めて簡潔で、中国語で読むと独特のリズムを持つ。古代から19世紀ごろまで、(方言差が大きい)中国はもちろん、東アジアの共通語であった。
漢文は古代中国語に起源をもつものの、早い時期から文章語として洗練されてきた結果、口語(白話)とはかなりかけ離れた言語になっている。紀元前の文献である『論語』のころにはすでに記載語として成立していたが、その頃には既に当時の口語と相当の隔たりがあったと考えられている。
現代中国では既に古文と化している漢文であるが、現在でも台湾では公文書を漢文で記す事が少なくないという。
日本での漢文
日本でも、古来から知識人の教養として長く親しまれていた。一般的には、漢文を変則的な日本語として読む読み下しという手法が用いられる。読み下しを行った漢文、もしくは読み下しを行うことそのものを「漢文訓読」と言う。現在も中学・高校の教養学習の一環として、国語の授業に取り入れられている。
漢文訓読は現代標準日本語や古文に比べ論理的で洗練された思考に向いており、現在も裁判や各種約款においては、漢文訓読の影響を多分に受けた古風な日本語が好んで用いられる傾向にある。
20世紀初期までは漢文・漢詩を制作する知識人も少なくなかった。このため21世紀の偽中国語よりも精度が高い筆談も可能だった。かつては読み書きができる中国人が難破し日本へ漂着した際はまず現地の僧と会いたがった、僧侶は漢文を読むだけでなく書くこともできたためである。
主な漢文
故事成語
いわゆる日本語のことわざに当たるもの。昔話を教訓として語るもので、蛇足・酒池肉林・矛盾・虎の威を借る狐・覆水盆に返らず・出藍の誉れ・守株など、数多くの訓話を残している。
漢詩
絶句・律詩に代表される中国文学。日本の和歌と同じく、一定のルールによる縛りがある『定型詩』の一種。特に唐代(七世紀前後)に盛んに作られ、李白や杜甫などの文豪を生んだ分野でもある。
経文
仏教の経典はすべて中国経由で伝来しているため、ほぼ漢文で構成されている。普段は意味の理解しがたいお経も、順を追って解読することでキリスト教の聖書に引けをとらない物語や訓話に溢れている。現在では般若心経に端を発した「仏の教え」ブームもあって、徐々にその内容の解読に専門分野以外のメスが入りつつある。