「ハビタット計画に例外はないよ、ケイ。……俺も含めて」
演:森山未來
概要
映画『シン・仮面ライダー』の登場人物。スピンオフ漫画『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダーSHOCKERSIDE-』では主人公を務める。
科学者の父・緑川弘と心優しい母・緑川硝子との3人家族。また未希という叔母もいる。
正義感の強い性格で、転校生のマモルと仲が良かったが彼をいじめから庇ってから自分がいじめのターゲットにされてしまい、さらには母が通り魔に襲われ死亡するという不運に見舞われてしまう。
母の死すらも侮辱するいじめっ子からのいじめに耐えかねて過剰な報復を行い自ら退学届けを書き、現在はSHOCKERの基地で暮らしている(その際首に何かしらの施術を受けており、SHOCKERのロゴマークが焼き鏝のように刻印されている)。
相次ぐ不幸に遭遇したことから「暴力の無い世界を作りたい」という理想を持つ。
SHOCKERに対しては不信感を抱いており、組織と己の研究に傾倒する父親にも反発する。ケイやクモ、サソリに対しても警戒していたが、共に過ごす内に少しずつ心を開く。
SHOCKERの幹部の一人であるクラークと対峙した際、肉体を機械化したクラークに追い詰められるクモを助けるべく、クラークの「目」となっていたドローンを取り押さえた。ドローンには銃火器が備え付けられていた為、胸部を撃たれて瀕死の重傷を負うが、父・弘のプラーナ移植手術を受けた事によって蘇生した。
目覚めたイチローは父の想いと自らの命を救ってくれたプラーナ技術に感銘を受け、本格的にSHOCKERの一員となって父の研究を手伝う事を決めた。また、組織内で生きていく為にクモから戦闘技術を学ぶ事になった。
しかし、プラーナ移植の影響なのか体に異変が起こるようになる。この事をイチロー自身は「まるで体の中に別の生き物がいるみたいだ」と表現している(その際のイメージは無数の蝶がイチローの周りを舞うものとなっている)。急速な回復と肉体の強靭化という観点から、クモやサソリと同様の強化人間になったのではないかと推測される(力を発揮する際、後のオーグメント達と同じような痕が顔に浮かび上がる)。「超人化した肉体は普通の精神では制御できない」とクモは語っており、彼の今後が非常に心配される。
第8話以降、イワン博士一派(通称「絶望派」)のクーデター作戦に参加。サソリは難色を示したが、「常に自分の傍にいる事」を条件に同行を許可した。作戦に志願した理由は「殺し屋であるクモとサソリに人殺しをさせたくないから標的を全員捕獲する」為らしい。
オーグメントとしての力に溺れ暴走状態となったクモオーグを止めるべく、彼と戦闘。その最中、プラーナ強化人間としての本来の力を開花させ、その力でクモオーグの本名と彼の味わった絶望の過去を知る。結果、クモオーグの心を諭す形で暴走を食い止め、同時にクーデターも成功させた。
その後戦闘訓練も兼ねて「交換式プラーナ充填機構付実験型ベルト」のテストに挑むも感情的になってしまいプラーナの消費が凄まじい模様。
また新たな家族として妹であるルリ子と出会う…。
余談
- 初期案ではルリ子の姉だったが、その後弟に変更。それでもキャスティングの都合で断念することになり、現在の設定に落ち着いた。
- その影響で、サソリオーグも初期設定では原典通り男性としていたが、女性へと変更せざるを得なくなった。
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この先、ネタバレ注意!
その正体、そして目的
『シン・仮面ライダー』本編では成人となった姿で登場。その姿は黒い長髪に白装束、無表情で不気味な雰囲気を纏っており、人間味に溢れていた少年時代の面影が全く感じられない。
父の研究していたプラーナの技術により、蝶の能力を持つチョウオーグとなっている。
物語序盤では完全態への覚醒を待つ蛹状態であり、巨大な繭の中を微睡んでいるような姿のまま本郷に対抗する為の暴力装置たる第2バッタオーグのオーグメンテーションや他のオーグメントへの指示などを行い暗躍していたが、本郷達がハチオーグとの戦いを終えて束の間の休息を取っていた最中遂に『羽化』、完全変態を終えたアルティメットオーグメントとなり本格的な活動を開始する。
覚醒後は薄暗いアジトの玉座に鎮座し、静かに瞑想に入っている。この玉座はプラーナの供給機関を兼ねており、数本のコードを用いて自らの背中に接続している。
ハチオーグにルリ子を捕らえるように指示するなど、他の上級構成員より高い地位にいる様子を見せており、組織内では実質的なトップとして君臨している。
SHOCKERに生体電算機として人為的に作られたルリ子は、提供された父・弘の遺伝子を使って生み出された為、遺伝子上は妹に当たる(ルリ子からは「お兄さん」と呼ばれている)。
チョウオーグとしての能力は「プラーナの強奪」。他者からプラーナを強奪する事で、その人物の魂をハビタット世界に送る事が可能。チョウオーグとしての姿になって戦う際は、青い戦闘服と白いマフラー、紫色に光る複眼を備えた銀色の仮面を身に付け、仮面ライダー第0号となる。
「全人類をハビタット世界に送り込む事で争いの無い世界を創ること」こそがイチローの目的であり、その動機は、母親である硝子の死をきっかけに芽生えた「大切な人を失うことへの恐怖心」であった。
その根幹を成すハビタットシステムと連動することによって、プラーナの保有量が他のオーグメントよりも遥かに多く、チョウオーグに変身せずにダブルライダーを圧倒するなど戦闘力は凄まじい。
しかし、シン・サイクロン号によってハビタットシステムの中枢を担っていた玉座を破壊され、プラーナの供給を絶たれた状態で本郷猛/第1号、一文字隼人/第2号と交戦することになる。
その圧倒的なプラーナの保有量で蝶の舞の如く予測不可能な動きで2人を翻弄し追い詰めるものの、彼の野望を止めるため、ルリ子の願いを叶えるために諦めない本郷の必死の抵抗で長期戦となり、プラーナを大幅に消費。
隙を見せた所に一文字の頭突きを喰らってマスクを破壊され、本郷に被らされた第1号のマスクに残されたルリ子のプラーナにより説得を受け、自身の野望の愚かさを痛感。
死闘の末、既に肉体は限界を迎えており、ルリ子から同じく既に瀕死の状態となっている本郷と共にプラーナをマスクに定着させるように求められる。
しかし、「マスクに留められるプラーナは二人分が限界であること」「本郷と自分のプラーナを生かすためにルリ子が自身のプラーナまでも犠牲にしようとしていること」を察したイチローはこれを拒否。
「もうこれ以上誰も失いたくない、俺はもうごめんだ。」と本心を吐露し、自らの過ちに巻き込んでしまったことへの謝罪を述べながらルリ子を抱擁すると、必死で自分を引き止める最愛の妹に別れを告げた。
最後は「ルリ子が信じた人間を俺も信じてみる事にする」と口にし、ハビタット計画を放棄。諦めたかのように玉座に座り直し、プラーナの過剰消費が原因で生体情報を維持できなくなり、そのまま消滅した。
今際の際に玉座に座っていたのは、全てに絶望し虚無を見つめる超越者ではなく、最期に確かな希望を見出した、妹を愛する一人の優しい青年であった。
本郷猛との共通・相違点
敵対した本郷とは、奇しくも「人間の理不尽な悪意によって大切な家族を失ってしまった」という共通点がある。
一方でイチローが「絶望したまま外界及び他人との関わりを断ち切り、自らの独善的な計画達成の手段として力を行使した」のに対し、本郷は「絶望を乗り越え、他人と関わり合いながら信頼を育み、弱き者を救うため、人類の自由と平和を守るために自身の力を行使した」という明確な相違点が見られる。
余談
- 庵野秀明はイチローの人物像として、演者の森山氏が過去に出演した舞台『髑髏城の七人』の天魔王をイメージしており、天魔王のように静かで淡々とした口調で演じるキャラクターにしているとのこと。
- 公式発表の数日前から発売されていた仮面ライダーチップスの付録であるポストカードに映画本編での彼の姿が映ったカットが封入されており、そこからネタバレを食らってしまったファンも多かった。
- 『真の安らぎはこの世になく』でも描写されているが、かつてはバイクに乗るのが好きな少年で、成長後もライダースジャケットに白マフラーという昭和の特撮ヒーローを思わせる服装を着ていた。玉座の両脇には父親と自分の愛車だった2台のバイクが陳列されている(2台とも旧作でサイクロン号のベース車として使用されたと言われているバイクで、スズキT20は旧1号のサイクロン号、ホンダSL350は旧2号の改造サイクロン号)。
- 公開後にNHKで放送されたドキュメンタリーによると、最終決戦における泥仕合は当初の台本には無く、庵野監督と森山氏、本郷猛役の池松壮亮氏、一文字隼人役の柄本佑氏が綿密に話し合いを行った結果生まれたものだった。
- チップスのカードによると用心深く他人を信用しない性格の為、電話の受話器を取っても相手が喋るまでは言葉を喋らないらしい。自分から電話をかけるときもそうなのでルリ子からはやめてほしいと思われてる。
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