凶悪・フリップ星人は分身するのだ!
戦えゲン!分身星人を倒せ!
謎の青年・津山にヒントを授けられたゲンの技、それはくらやみ殺法!
がんばれゲン!みんなで見よう「ウルトラマンレオ」!!
放送日
1974年7月19日
登場怪獣
分身宇宙人フリップ星人
STORY
夜の街、ビルの背後から怪しい一つの影が。それは瞬く間に2、3人に分身し、ビルを踏み潰し、マンションを叩き壊し、工場を蹴散らし大暴れを始めた。すぐさまダンがマッキー3号に乗って駆けつけるものの、たちまち宇宙人は1人に戻り、どこかへ消えた。
ナレーション「突然、東京の街にフリップ星人が現れた。しかし、MACの出動に気付いたフリップ星人は、姿を消してしまったのである。そんなある日…」
(場面転換)
ある朝のこと、洗濯をする百子のもとへゲンが声をかける。彼女が洗っていた黒い稽古着を見て、自分の物だと思い「自分で洗うよ」と言うが、彼女の口振りからどうもゲンのものではない様子。そのうちトオルとカオルも現れる。ゲンは今日梅田兄妹と遊びに行く約束だったのだ。カオルは百子も一緒にアイスクリーム食べようと誘い、ゲンも同調。だが、百子はまだ少し洗い物が残っているという理由で遠慮する。トオルに急かされて3人で行くことに決まったゲンだったが、どこか楽しそうに洗濯する百子が気になるのであった…
(場面転換)
カフェでアイス3人分を頼んだゲン。
トオル「おおとりさん、ウルトラマンレオって獅子座の生まれなんだね」
ゲン「うん、L77星」
そんなことを話していると、カオルが向こうの席を指差す。そこに座っていた青年は、先程からゲンのことばかり見ているというのだ。向けられた顔が一向に自身から離れない事から怪訝な表情を浮かべるゲン。トオルにアイスが溶けちゃうよと告げられても、相手が気になって仕方がない、すると、思いがけない出来事が起こった。
水を運んでいた従業員の女性が足を滑らせた。しかし、近くに座っていた青年は空中で皿をキャッチし、同時に女性を抱える。一滴の水もこぼす事なく事態を解決したのだ。
席に座り直し、またもゲンの方に向き直る青年。すると、そこへ意外な人物が入ってきた。百子だ。彼女は青年を「津山さん」と呼び、親しく話しながら店を出ていった。益々表情を険しくするゲン…
(場面転換)
その後、築地本願寺で鳩に餌やりをする3人。だがゲンは津山と百子のことが気になって考え込んでばかりであり、トオルに心配される。そのうち鳩は皆飛び立ってしまった。直後、マックシーバーに通信が入る。東京A-200地区に星人が現れたというのだ。
大急ぎで現場へ駆け込むゲン。そこには、等身大のフリップ星人と百子、そして彼女を庇う津山の姿があった。すぐさま両者の間に割って入ったゲンは、2人に逃げるよう促す。しかし百子からゲンのことを聞かされた津山は、「MACに星人は倒せない」と言い出す。ゲンは一人で倒してみせるとムキになるが、戦いが始まると星人はあの技を使う。そう、分身だ。
5人に分身した星人に惑わされるゲン。手当たり次第に攻撃を仕掛けるが、それは偽物であり着地に失敗、足を痛めてしまう。その隙に星人はゲンの頸を攻め、ゲンは倒されてしまう。
一旦分身を解くフリップ星人。すると今度は、津山が星人に襲いかかる。再び分身を出現させる星人だが、津山はなぜか顔色一つ変えない。その現場に、杖の音と共にダンも現れ、戦いを見守る。
星人の笑い声のする方へ向き直り、飛び蹴りをかける津山。なんとその星人は本物であり、分身は消えてしまう。負けじと向かって来る星人の技を受け流し、カウンターの打撃やバックドロップで対処。恐れをなしたかフリップ星人は逃げ去っていった。一方、ゲンはやっと目を覚ますが…
(場面転換)
MAC基地でダンから叱責を受けるゲン。星人を逃したばかりか、津山が助けてくれなかったら死んでいたと指摘され、彼なんかに成人を倒せる筈がないと反論するゲン。しかしダンは彼の空手なら等身の星人と五分に渡り合えるが絶対に勝つとは保証できず、最悪死ぬかもしれないと語る。だが星人を倒すのは自分とゲンの役目であり、勝たねばならないゲンに津山のもとへ行ってどうすれば勝てるか教えてもらうよう命じる。
ところがゲンは津山に習うことは当然乗り気でなく、彼がいるという黒潮流・空手野外道場へ向かうが、そこにいた百子の姿を見るなり、津山に会いもせず帰ってしまう。そして城南スポーツセンターで自身を鏡に映して一人稽古を行うものの、その様子に見ているトオルもカオルもどこか冷ややかな目線を向ける。するとマックシーバーが鳴り響き、今度は201地区で星人が発見されたという。
現場の川辺には赤石や青島、そして赤石と同じく背番号6の制服を着た隊員が星人を追っており、ダンの姿もあった。
ダン「今度こそ逃がすな!!」
ゲンも到着し、共に星人と戦うが、分身を駆使する星人に苦戦。飛び蹴りを仕掛けるゲンだったが、それは分身でありそのままゲンは川に落下。星人に投げ飛ばされた青島と赤石も川に落とされ、残った1人も首を絞められた挙句投げ飛ばされて木に激突、血を吐いて倒れた。
不敵に笑う星人に、ダンはスティックガンを引き抜いて攻撃。スティックガンには仕込み杖の様に機関銃が内蔵されており、爆撃を受けた星人は驚いて逃走するのだった。
(場面転換)
川の橋の上で、ダンと2人で歩くゲン。すると、振り向きざまにゲンをスティックガンで殴るダン。その場に倒れるゲンに、ダンは言葉を続ける。
ダン「逃げるな!お前のその逃げ出す態度が起因し、その為に隊員を喪ったんだ!」
ゲン「俺は…俺は逃げたりなんかしていません!」
ダン「馬鹿!!よくもヌケヌケと…お前は私の命令を守らなかった、津山君に技を教えてもらって来なかったではないか…!私の目は節穴ではない、何故津山君の所へ行かなかったんだ!?」
ゲン「…」
ダン「目を覚ませ!!あの星人を逃がしたために、また何処かで被害者が出る…人の命を救う為に、お前が津山君から技を教わることが、恥ずかしいことか?…それより身勝手な理由で、教わろうともしないで逃げ出すことの方が、遥かに恥ずべきことじゃないのか…!百子さんも、スポーツセンターの子どもたちもみんな、お前がそんな男ではないと信じている…ゲン、お前はウルトラマンレオなんだぞ」
ゲンの肩に手を置き、頷くダン。その心に触れたゲンは、自身も強く頷き返すのだった。
(Aパート終了)
改めて津山のいる野外道場へ赴くゲン。そこにはゲンと同じ黒い道着に身を包んだ津山が、後ろ向きで静かに正座していた。彼は目を閉じており、一種の瞑想状態のようだ。
ふとゲンが足下を見ると、そこには紙飛行機が落ちていた。ゲンはそれを拾うと、津山に向かって静かに投げた。
しかし津山は振り向くこともなく、一発で紙飛行機をキャッチする。
驚くゲンに、津山は目を閉じたまま振り向き、尋ねる。
津山「何方?」
ゲン「MACの、おおとりと申します!」
津山「隊長さんから頼まれましたが、僕はMACの事好きじゃありません!僕は自分で自分を守る為に空手を習った、それをMACが習いに来るなんて…本当を言うと、百子さんの口添えがなかったら、こんなことやる気にもならなかった」
ゲン「…お願いします!」
津山「しかし、僕は何を教えたらいいんですか?」
ゲン「それは、星人が何人も現れた時に、どの星人を倒したらよいか…!」
その時、津山はゲンの言葉を手で静止する。
津山「…星人が何人もいるんですか?不思議な事を言う人だ…」
ゲン「あの、百子さんが襲われた時だって!」
津山「あの時?あの時星人は1人しかいなかった!」
ゲン「いや、星人の身体は5体に分かれたじゃありませんか!」
ゲンと話すうちに、目を開いた津山は、少し考えた後に笑い出した。
津山「成程…あなた方は不便だ!おおとり君、その辺のボールを私に向かって投げてみたまえ」
ゲン「ボールを?」
ゲンの足元には野球道具が散らばっていた。ゲンは言われた通り、ボールを幾つか拾い上げる。
ゲン「投げますよ」
津山「どこからでも、いつでも結構!」
再び目を閉じた津山に、ゲンは勢いよくボールを投げる。しかし津山は目を開く事なくボールを避けて見せた。
津山「もう一度!」
ゲンは連発してボールを投げるが、津山は右に左に、時にしゃがんでボールを躱し続ける。そして最後のボールは顔面の前で受け止めてしまった。そして津山はやっと目を開ける。
津山「今度は僕が君に投げてみよう、すまないがボールを少し」
足元に沢山のボールが広がっているのに、ゲンにボールをくれとたのむ津山。全てを察したゲンの問いに、津山はゆっくり頷いた。
ゲン「津山さん、あなたは…!?」
津山「…見えないんだ…」
津山は盲目だった。だからこそ彼は分身に惑わされなかったのだ。
そしてボールを受け取り、津山はボールを構える。
津山「いいか、目を閉じて!」
目を閉じたゲンに津山はボールを投げ始める。しかしゲンはボールを避けることなどできず、その場に倒れてしまう。
津山「どうした!」
ゲン「いいや、何でもない!」
手探りで足元のボールを取り、再びボールを投げる津山。ボールを食らってよろめくゲンに、津山は告げる。
津山「僕のボールは百発百中の筈だ、君は一発も避けることはできない!目の見える人は不便だ…」
ゲン「…そうか分かったぞ!本物の星人は一つなんだ…」
(場面転換)
野球場へ移動し、猛にボールを投げ込んでもらうゲン。ボールが命中して倒れても尚、ゲンはボールを投げる様叫ぶ。
ナレーション「ゲンは、津山の様な鋭い感覚を身につけるまでは、どんなことがあっても目を開くまいと決心した」
猛が思わず蹴った缶の音を頼りに、位置を探るゲン。次第にボールを避けるのにも慣れ、やがては上空のボールを掴み、猛に投げ返すまでに上達する。ボールは見事猛に命中した。
猛「おおとりさん…!」
ゲン「猛!君に命中したのか!?」
猛「…はい!」
喜ぶゲン。しかし目を開ける前に、何かがゲン目掛けて投げ込まれた。すぐそれを掴み取ったゲンは、それがダンの杖・スティックガンであることに気がつく。
ダン「ゲン、見事だ!」
ゲン「…隊長!」
ダン「免許皆伝だ!」
ゲン「本当ですか!?」
喜び合うダンとゲン。直後ダンのマックシーバーに連絡が。202地区に星人が現れたのだ。ダンの「頼むぞ!」という鼓舞に、ゲンは力強く答え、マックロディーで現場へ急行。
一方、現場ではフリップ星人が青島、赤石、平山らに追い詰められ、一斉銃撃を浴びていた。
これに対抗してフリップ星人は巨大化。そこへ駆けつけたゲンもレオに変身し、両者の直接対決が幕を上げた。
攻撃してきた星人の腕を捻り上げ、さらに力比べを行うレオとフリップ星人。しかし隙を見てパンチを鋭く打ち込み、ブレーンバスターで追撃。ダンの乗ったマッキー3号に率いられてダッソー・ミラージュⅢの連隊も飛来し、転げるフリップ星人に集中砲火をかける。その後も打撃の連打で攻めたて、ジャーマンで星人を投げるレオ。しかし追い込まれた星人は、ここであの分身術を使う。
分身して襲って来る星人に混乱するレオ。目を閉じようにも、ウルトラマンの姿では瞼がなく、目が閉じられない。
そんなレオを見かね、ダンは驚くべき行動に打って出る。
マッキー3号の空中爆撃が、レオに向かって火を噴いた!
このまさかの展開に、レオはおろか見ていた隊員達すらも激しく動揺。
赤石「あれは!?」
青島「隊長、何をなさるんですか!!」
あまりの出来事にフリップ星人さえも若干引く中、ダンはマッキー3号で滅茶苦茶ビビりまくるレオへ飛んでいく。
ダン「ゲン…!」
そしてマッキー3号の機体下部から液体噴出装置が現れ、レオの顔面に泡を吹き付けた!
周りが暗闇に包まれた様なイメージに、自分で倒れるレオ。しかしその刹那、その脳裏には猛との特訓が蘇る。
完全に心眼に目覚めたレオは、フリップ星人の立てる音から攻撃を予測。足払いで星人を倒し、同時にバク転、組み合ってサイドバスターをかける。ダメージが大きく立ち上がれない星人は、また分身しようとするものの力が足りず、分身はその身体に戻ってしまう。
レオは顔に泡がついたまま、相手の位置を正確に捉えて必殺・エネルギー光球を発射。フリップ星人は粉々に砕け散った。
フリップ星人との戦いを無事制したレオは、そのまま空へ飛び去る。安堵の表情を浮かべたダンも、レオを追う様にマッキー3号で共に飛んでいった。
(場面転換)
百子に目に巻いた包帯をとってもらうゲン。そこにはトオルとカオル、ダンのほか、津山の姿も。しかし、ダンはすぐどこかへ行ってしまう。
目を開いたゲンは、トオルとカオルから祝福を受ける。そして津山は、ゲンと目を合わせることはできずとも、彼へ謝罪を述べる。
ゲン「あなたは…」
津山「おおとり君、僕は君のことを誤解していた…許して下さい」
百子「おおとりさんの活躍を聞いて、お詫びに来たのよ」
ゲン「いやあ、僕の方こそ、あなたにはお礼を言わなければいけないんです」
百子「津山さんは、黒潮島のたった1人の生き残りなの…でもそのために目が見えなくなってしまった」
ゲン「黒潮島って、百子さんの…」
百子「ええ、怪獣に襲われて全滅してしまったけれど、津山さんだけが助かったの…!」
津山「あの時、どうしてMACがもっと活躍してくれなかったんだと、僕は何度も恨んだ…MACは何もできないとさえ思っていたんだ」
ゲン「津山さん…」
津山「しかし、君の様に勇気のある人もいることがわかった…見直したよ!」
熱い握手を交わす2人。ゲンは照れ臭そうに頭を撫でるが…
ゲン「いやぁ、勇気があるのは隊ちょ…?」
百子「今ここにいらしたのに…」
ダンが向かっていたのは、あの時フリップ星人と戦った川辺の並木通り。あの隊員がやられた木の元に立つと、ダンはその手に携えた花束を捧げ、その場で深々と祈るのだった。そこにゲンもやって来る。
ゲン「隊長…」
ダン「勇敢なMACの隊員を喪った…。喪った命は帰らない…ゲン、わかるか?この先どんな宇宙人が現れるかも知れん、1人の犠牲者も出さずに戦うことは、難しいことだ…だが、俺達はそれをやらねばならん…。ゲン、頼むぞ…!」
ゲン「はい…!」
真っ赤に燃える夕日を背に、2人の宇宙人は再び誓いを一つにするのだった…
余談
ゲンとトオルとカオルが鳩に餌を与えていたロケ地は前々『ウルトラマンA』第18話でも使用された築地本願寺である。ちなみに築地本願寺は2021年に亡くなった『帰ってきたウルトラマン』のOPの作曲を担当した作曲家のすぎやまこういち氏の告別式が行われた場所でもある。また、ダンがスティックガンでゲンを殴ったロケ地は、『ウルトラマン』第15話、前作『ウルトラマンタロウ』第38話でも使用された多摩川の宿河原堰堤である。
レオは自力で目を閉じることは出来なかったが、49年後には本当に自力で目を閉じたウルトラマンが登場している。
何気に初めてレオが光線技で敵を仕留めた回でもある。
この回しれっとトオルがレオの出身地を知っていたが、どこで知ったのかは謎。おそらくゲンから教えてもらった可能性もある。
この回で身につけた心眼は、後のブラックテリナ戦で生きることとなる。
ダンが免許皆伝を示したことから、この回をもってゲンの特訓シーズンは終わりを告げるが、厳密にはあと2回ある。