概要
ふたりの出会い
2021年の菊花賞を制したタイトルホルダーは同年の有馬記念へ出走する予定だったが、鞍上の横山武史騎手がエフフォーリアに騎乗することもあって乗り替わりを要求されることとなった。オーナーや調教師間での話し合いの結果、武史騎手に代わって兄である横山和生騎手が騎乗することとなった。
レース当日は同期のエフフォーリアが天皇賞(秋)に続き「3歳有馬記念制覇」を成し遂げる中、大外枠の不利を受けながらも5着に入線した。その後、和生騎手は「一瞬、夢を見た。」と振り返っており、新たなコンビでの活躍を予感させた。
以外な事実
今でこそ最高のコンビと言われる二人だが、最初の有馬記念に向けた追切ではタイトルホルダーが和生騎手を振り落とすというトラブルを起こしている。(無論当日の調教は中止となっている。)
快進撃と海外挑戦
2022年は初戦の日経賞(GⅡ)を勝利後、天皇賞(春)と宝塚記念(GⅠ)を優勝したことで「阪神三冠」を達成した。これらは和生騎手にとって初となるG1制覇であり、タイトルホルダーにとっては菊花賞に続いて「父の忘れ物を届けるレース」となった。
この宝塚記念では同世代の年度代表馬エフフォーリアを筆頭に、無敗三冠牝馬デアリングタクト、ドバイターフ(GⅠ)の覇者パンサラッサ、海外GⅡ優勝馬のディープボンドが参戦しおり、彼らにコースレコードで勝利したタイトルホルダーは現役最強馬として注目されていく。
上半期を3連勝で終えたタイトルホルダーと和生騎手は凱旋門賞に挑戦するが、当日は雨天で馬場も最悪の状態であり、本馬場入場の際にはタイトルホルダー自身も落ち着きを欠いた状態に陥ってしまった。そんな中、和生騎手は隊列に並ぶことなくタイトルホルダーをゲート付近に向かわせた。
実際、海外は日本と比べて本馬場入場に関するルールが厳しく、和生騎手自身もレース後に騎乗停止処分を受けている。しかし、自分が制裁対象になっても相棒を落ち着けようとする姿勢から、彼のタイトルホルダーに対する強い思いが見て取れる。
結果は11着になってしまったが、最後まで「タイトルホルダーと横山和生の走り」を貫き通した。
レース後のインタビューで、和生騎手は「タイトルホルダー陣営として」と主戦騎手としての覚悟をのぞかせており、タイトルホルダー自身も和生に厚い信頼を置くようになっていた。
帰国後は有馬記念に参戦するも、凱旋門賞での疲れが原因か新世代の天才イクイノックスの9着に惨敗してしまう。
復活と受難
年が明けてからは天皇賞(春)連覇に向けて日経賞に参戦、前走の不安を吹き飛ばす8馬身差の圧勝で人々を沸かせた。
レース終了後には、和生騎手がタイトルホルダーを撫でながらその激走を讃える姿が見られており、ふたりの特別な関係を見ることのできる一戦となった。
前哨戦を勝利した「ふたり」はそのまま天皇賞(春)へ直行するが、レース中に右前肢ハ行を発症して競走中止となってしまう。
最悪の事態を回避するため、和生騎手はタイトルホルダーを止めてから、ゴールすることなく下馬した。診断結果は「右半身の背中から後脚に筋肉痛が見られる」というものであり、骨や腱は無事であった。
そんな彼らを更なる受難が襲った。
秋シーズン初戦のオールカマーを前に和生騎手が落馬負傷してしまう。だが、レース前にはなんとか復帰し、最終調整に参加した上で本番に臨み2着に入線した。その後、世界最強イクイノックスのラストランで5着に入線しており、年末の有馬記念をラストランとして調整が進んだ。
あの日見た夢の先へ
ラストランとして参戦した有馬記念では枠順も良好であり、三度目の正直を願ってふたりは全力の逃げを敢行した。開始直後から先頭を確保して最終盤までレースを引っ張ったタイトルホルダーは、最後の直線でドウデュースとスターズオンアースに交わされながらも粘り続け、猛追してくる同期のダービー馬に競り勝ち3着を確保した。(自身の有馬記念最先着)
持てる全てを振り絞った果敢な逃げは、レースを見守る多くの人々を感動させた。
そして、これまで届かなかった「夢の先」を彼らは確かに見せたくれた。
引退式において和生騎手は、タイトルホルダーの「諦めない気持ち」や引退の寂しさ、乗り続けられた喜びを語り、会場も和やかな雰囲気に包まれていた。
ふたりが残した蹄跡がこれからも語り継がれていくことが願われる。