概要
NHKの連続テレビ小説(通称朝ドラ)といえば、大河ドラマと並ぶNHKを代表するコンテンツである。高い視聴率や豪華なキャスティング、そしてこれからブレイクする若手俳優たちの登竜門として幅広い世代から支持を集めている。多くの場合、男性が主人公の場合が多く、かつ男性社会の歴史を描く大河ドラマとは異なり、多くの場合が女性主人公で、近代から現代にかけての女性の社会進出や男性社会での奮闘を描くのが朝ドラである。(女性主人公の大河ドラマや男性主人公の朝ドラも当然ある)
近年は、女性の社会進出が作中の世界観に追いつくかのように進み、朝ドラもそのことを踏まえた作品が増え、そういった方針のもとに物語が企画されることが多くなった。
ところが、その部分を強調しすぎた結果、作中で言っていることとやっていることの折り合いがつかず、ご都合主義的な展開によって物語が処理されてしまうケースが目立つようになった。
加えて、安定して20%前後の高視聴率をとれること(=成功している作品である)から、視聴者と制作側のズレを認識できず、内容そっちのけで妙な演出(主にコメディ)にこだわる作品も登場した。
その結果、時代にそぐわない描写をしたり(朝ドラも所詮フィクションではあるのだが、あまりにも現代的な価値観を放り込む、または登場人物が未来視でもできるかのような描写が入るとツッコまれやすい)、挙句の果てにはドラマの主題がずれる作品も現れた。
こうした現象は大河ドラマの方では一足早く問題視され、軌道修正が図られたが、朝ドラでは現在進行形でこの現象が発生している。
- 原因については「大河が落ち目の時期に朝ドラは右肩上がりだったから」などど言われる。
- また、朝ドラはやはり主に平日の朝に観るものであり「朝から見たくない内容」になってしまっても駄目なのでさじ加減が難しいのである。(後述の「甘くない朝ドラ」参照。)
「スイーツ」扱いされてしまう主な要因
ご都合主義
朝ドラに限らず、多くの創作で問題になりがちな要素だが、朝ドラの場合、
- 主人公の理想通りに周りの人物が振舞う(主人公がやたらと優遇される)
- 主人公が思い立ったたと同時に主人公にとってのチャンスが訪れる
- 主人公と敵対する人物が、主人公に諭されることであっさり改心する
といった説得力不足な点が指摘される。
もちろん、1話あたり15分、そして1週間で一つの問題を解決させるという尺の都合上、1話の中である程度起承転結させる部分がないとテンポが悪くなるし、そもそも主人公のサクセスストーリー的な作品が多いため、ご都合主義的展開が不自然でないことも多々ある。ただし重要なのは、主人公が成功を収めるだけの力量があるのかどうか、またそうした実力を身に着けたと言える描写があったかどうか、ということである。その前提があるかどうかで「さすが主人公!」と言われるか「この主人公の人生、ぬるくない?」と言われるかが分かれる。
主題の喪失
1話ごとの尺が通常のドラマのそれより短いにもかかわらず、100話以上のエピソードから構成され、それが基本的に連日放送されるのが朝ドラの特徴である。
そのため、ひとたびドラマの方向性がぶれ始めてしまっても、その変化に気づきにくい。また、主人公に女性が多いこともあってか、中盤以降は結婚や出産、そして育児を挟む場面も増え、何かを成し遂げようとした主人公に妥協点が生まれることも少なくない。これは現実視点で見れば非常にリアルではあるが、初めの目標とは大きく離れる原因気づいたころには主人公がどのような経験を経て、最終的にどのような姿になるストーリーであるかを忘れ、何を成す作品だったのかを見失っている。
放送されている時間帯的にも、朝ドラのメインターゲットは主婦層である。何となく見てはいるものの、画面に向かってじっくりと考察しながら視聴するという場合は大河ドラマよりも少ない。また、史実を基に描く作品も数多く存在するが、一般的にその詳細な部分が知られていないケースが多く、展開が大河ドラマよりも読みにくいのも朝ドラの特徴である。こうした要因があるため、SNS普及以前は朝ドラの主題に対しての指摘がそう多く飛び交わなかった。
最近はSNSの普及やサブスクリプションの充実もあり、若年層でも感想を述べる視聴者が増え、メイン視聴者であった主婦層も朝ドラを真剣に見る人が増えた。実際に、Twitter上では感想のツイートも多くみられ、日々朝のトレンドワードに乗る程になっている。視聴者の声が制作陣に届きやすくなったので、次回作以降への課題として捉えてもらえるかもしれない。
話題性の重視
朝ドラの出演をきっかけにブレイクする俳優が増え、さらに「朝ドラ出身」という肩書きがNHK以外のメディアでも頻繁に使われることもあり、そのキャスティングは常に注目を浴びている(多くの場合、オーディションによって選抜されるが、最近では直接出演のオファーをするパターンも増えている)。主人公以外の人物でも、例えば主人公の父親役ならば「〇〇のお父さん」のように認知される場合もあり、若手俳優以外の俳優にとってもステップアップの場に、朝ドラがなりつつある。
ところが、これに味を占め、役柄を考えずにとりあえず人気の俳優を起用するという作品が、近年、目立ち始めている。
たしかに、人気なだけあって実力ある俳優も多いが、そうした俳優のスケジュールを上手くつけたところで、全てを脚本や演出が裁けるわけでもなく、最終的に〇〇の無駄遣いと言われ、その俳優の起用に当初は歓喜したものの、放送終了後にがっかりしてしまうファンも一定数存在する。
またキャスティング以外でも、話題性(簡単に言うとウケ)を狙い、笑いを誘うような演出を畳みかける場合もあるが、結局のところ、それが作中の世界観と合っていないと確実に滑ってしまう。ただ滑っただけでなく、それが作中の世界観との齟齬を生むケースもあるので、大きく作品の質を落としかねない。
大河ドラマよりも史実に堅実でもなく、硬派なイメージも求められてはいないが、創作である以上、物語ベースで企画していかなければ、作品を間違った方向に向かわせることも大いにありうる。
「甘くない」朝ドラとの対比
一方で、ご都合主義が起こりにくい「甘くない」朝ドラがある。甘い物を食べたらしょっぱい物が食べたくなるのが人の性、「これこれこういうのを待っていたんだよ」と『「甘くない」朝ドラ』を歓迎する視聴者もいるが、「ヒロインの人生苦難過ぎ(モデルとなった史実の人よりマイルドにされる事が多いが、創作上史実の人よりハードにされる場合もある)」「いつまでたってもご都合主義が起こらない」「嫌な奴が裁かれることも心を入れ替えることも無くフェードアウトする」「物語の谷が長すぎる」と敬遠されてしまう例もある。
過去には「暗い」という理由で不評寄りとなった作品もあるため、出来不出来だけでなく好みの問題も多分にあるのだろう。
「スイーツ朝ドラ」として認識されやすい作品
※単純につまらない作品とは異なる。