概要
『宇宙戦艦ヤマト完結編』に登場。当時のヤマトシリーズ最後の敵である(もっとも実質的なラスボスはディンギルではなく宇宙の超自然だが)。
地球から3000光年の位置にある、アンファ恒星系第4惑星ディンギルの国家。
国家の特徴としては、国王が神官を兼任するなど宗教国家としての色が強い。その思想は端的に言えば極端な利己主義。
「力こそ正義」「弱肉強食」を地で行っており、「我らの前に現れる者は全て敵」と称すほど非常に好戦的。さらに言えば結果主義的な部分もあり、勝利のためなら卑怯な手段も辞さない。
そして同胞であっても弱者とみなした者は容赦なく切り捨てる。それはたとえ身内だとしても関係はなく、指導者であるルガール大神官大総統はヤマトに二度敗北した息子を見捨てている。
古代進曰く「自分勝手さばかりが発達した民族」である。
ただし、ルガールや『黎明篇』のサルゴンには、息子の死に内心で動揺や悲しみを抱く描写があり、自分の感情を民族の思想で抑えつけている部分も見られる。また、まだ幼い故ディンギルの思想に染まりきっていないディンギル少年は、地球人の利他的な思想を最初は疑問を抱きつつもやがて是として受け入れ、終盤で他人を守るために行動していることから、根本的な部分のメンタリティーは地球人とそこまで大差ないことが窺える。
実は現生ディンギル人は超古代のディンギル人によって水惑星アクエリアスの洪水から救助されて移住して来た地球人の末裔であり、DNAも地球人と一致する。
しかし、当時全ての地球人を救うことは流石にできておらず、救われたのは全体からすればごく一部に過ぎなかった。そして、(アニメ本編内では省略されているが)その一部とは生き延びるために容赦なく他者を蹴落とし、我先にと宇宙船へ向かい到達できた者達だった。
その結果、元来弱肉強食思想を持ち、この一件でそれがさらに強くなった彼らは、助けてもらった恩を仇で返し、本来のディンギル人を滅ぼしてディンギル星を乗っ取ってしまった。まさに「庇を貸して母屋を取られる」ということわざを体現する悲劇であった。
ガルマン・ガミラス帝国やボラー連邦の様に複数の星系に跨る支配領域を持っている描写は無い(なので星間国家ではなく惑星国家ではないかとの考察もある)。さらには本編開始時点で水惑星アクエリアス接近の影響により本星は壊滅。都市衛星ウルクで脱出した権力者や軍人達しか残っておらず、規模的には歴代シリーズ最小クラスの勢力である。
ちなみにガルマン・ガミラスやボラーと接触したことがあるかは不明。バース星よりは遠いものの太陽系に比較的近い場所にあるため、両大国にとっては地球と同じく辺境の星ということになると思われ、注目されていなかった可能性は高い(惑星国家だったとしたらなおさら)。
『完結編』内で国家としては滅亡したが、『宇宙戦艦ヤマト復活篇』の5年前を描いた『宇宙戦艦ヤマト黎明篇』にて残党軍が存在していることが判明した。
国体を失ったことで『完結編』当時よりも宗教色が一層強くなっている。彼らは『完結編』の戦いにおいてディンギルの神々へ死の忠節を誓っていたのだが、敗北した上にむざむざと生き延びるという盟約を最悪の形で破っている状態になっており、その屈辱を晴らすため、地球を破壊(彼ら曰く「浄化」)するべく暗躍する。かつて果たせなかった盟約を果たして神の御許へと行くことを最大の目的としているため、自身を含めいかなる犠牲も厭わなくなっている。
経歴
宇宙戦艦ヤマト完結編
ルガール曰く、元は地球で最初の文明を築いた民族だった。約1万年前、地球がアクエリアスによって水没した際、原ディンギル人によって救出され、ディンギル星に移住。原ディンギル人を滅ぼし、ディンギル星の民となる。
そして現代、銀河交差という未曽有の大災害の余波で、水惑星アクエリアスの進路が歪み、ディンギル星を水没させる。ディンギル人は弱い女子供老人を見捨て、王を始めとする強い男達だけが都市衛星ウルクで脱出した。その後、ディンギル星はその特殊な組成に大量の水が結びついた結果、大爆発を起こして消滅。母星を失った彼らは、移住先として先祖の故郷である地球を狙う。
そのための手段として、水惑星アクエリアスをワープさせ、母星を滅ぼしたアクエリアスに今度は地球人類を滅ぼさせようと目論む。
当時の地球防衛軍は、ガミラス戦役、ガトランティス戦役、暗黒星団帝国戦役、銀河系大戦と立て続けの戦争で戦力が消耗しきった状態であり、対策の難しいハイパー放射ミサイルの威力も相まって壊滅に追いやられ、地球本土も爆撃しまくって甚大な被害を与える事に成功する。
しかし、太陽系侵攻艦隊が母艦である移動要塞母艦で補給中に母艦もろともヤマトに撃破されてしまう。その後、アクエリアスに到達したヤマトに主力艦隊を差し向けるも、対ハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲を装備したヤマトの前にハイパー放射ミサイルの優位性は薄れており、砲打撃戦を挑んで一時優位に立つも波動砲で主力艦隊は壊滅。都市衛星ウルクも突撃してきたヤマトとの戦いの中で自爆して失われる。
だが、アクエリアスのワープという最大の目的は完遂し、ルガール大神官大総統らはウルクから脱出し、残存艦隊で地球水没阻止に向かうヤマトを包囲するも、駆けつけたデスラー総統率いるガルマン・ガミラス艦隊の前に壊滅し、国家としては滅亡した。
水惑星アクエリアスによる地球水没も、ヤマトが自爆してアクエリアスから地球に伸びる水柱を断ち切ったことで、失敗に終わったのだった。
宇宙戦艦ヤマト黎明篇
先の戦争を生き延びた残党軍が存在。都市衛星ウルクの残骸を本拠地にしており、地球連邦や旧ガルマン・ガミラス帝国傘下の惑星や施設などを対象にテロ活動を繰り返している。
特に西暦2213年には、地球連邦の開拓惑星ボギーニャにおいて十万人以上の住民を皆殺しにしており、後に「ボギーニャの大虐殺」と称された。
大規模な艦隊や改良された兵器、極めつけにボラー連邦の機密兵器であるはずのブラックホール砲を所有しているなど、残党軍にしてはやけに戦力が充実している。
彼らはテロ活動を続ける一方で、上記のヤマトに防がれた水が凍ってできた氷球に工作部隊を潜入させ、地球の破壊を目的とした活動を水面下で行っており、2215年に最終段階へと突入する。
地球連邦の開拓星オーダーに大艦隊を以て侵攻し、地球艦隊を陽動。ブラックホール砲で地球艦隊を次々と撃沈していく。
一方で手薄になった太陽系にウルク残骸を太陽系にワープさせ、高速で地球圏へと突撃させる。アクエリアス氷球にウルクの残骸を衝突させ、かつてディンギル星を消滅させた化学反応による大爆発を再現し、地球を破壊するというのが狙いだった。
しかし、オーダー宙域の艦隊は、増援に来た地球の最新鋭艦ブルーノアの活躍で劣勢になり、その挙句ブラックホール砲の暴発によって全滅。ウルク残骸もとある方法で急造された波動砲によって破壊され、ディンギルは今度こそ完全に滅亡することとなった。
実はとある人物から支援を受けており、残党軍とは思えない戦力はそれが理由。ブラックホール砲の暴発も支援者が証拠隠滅のために仕込んでいたものと云われている。
主な登場人物
- 『完結編』
- ルガール:大神官大総統。
- ルガール・ド・ザール:ルガールの長男。太陽系制圧艦隊の指揮官。
- ディンギル少年:ルガールの次男。本名不明。
- 『黎明篇』
- サルゴン:ディンギル残党軍の総帥。かつてはルガールの参謀だった。
- グティ:サルゴンの息子。アクエリアス氷球での工作活動を指揮する。
主な登場兵器
要塞
- 移動要塞母艦
艦艇
- 巨大戦艦ガルンボルスト
- 中型戦艦カリグラ級
- 空母
- 水雷母艦
- プレ・ノア
- 岩石ロケット
航空機・宇宙艇
- 水雷艇・ハイパー放射ミサイル(水雷艇の上の装置)
- 大型戦闘機
- 小型戦闘機
- ラルゴールム
- 1人乗り攻撃型円盤
- 直上型戦闘機
陸戦兵器
- ロボットホース
余談
『完結編』が公開された1980年代は、某機動戦士を筆頭にリアルロボットアニメが定着し、アニメ界隈でも戦争ものにおいて単純な勧善懲悪は荒唐無稽の子供騙しとして扱われ始めており、ディンギル帝国の有り様は最早時代遅れなものとなってしまっていた。
といっても実際のところ現実にはもっとひどい国家や勢力が古今問わず存在しており、あながち荒唐無稽というわけでもないのだが……物語として観客にウケる形にできるかどうかはまた別の話なのであった。