概要
藤子・F・不二雄原作の漫画・アニメ作品『ドラえもん』に登場するひみつ道具の一つ。初登場エピソードはTC25巻収録「ヘソリンガスでしあわせに」。
ガソリン給油機のような外観で、付属のホースをへそに装着すると「ヘソリンガス」を体内に注入することが出来る。このガスを注入すると肉体的・精神的苦痛を一切感じなくなり、常に幸福感に包まれる。
上記の説明だけを見れば無害な効果と思うかもしれないが、このガスはあくまでも肉体的苦痛を感じないだけで、怪我をしないという訳ではない。その為、危険なことをすれば当然命に関わる。作中ではガスを使用した子供達が「ひかり号にはねられても平気」「東京タワーから飛び降りても平気」と言っているが、実際にそんなことをすれば痛みを一切感じないまま即死してしまう。
それだけでなく、精神的苦痛を感じないということは幸せな気分に浸れるだけでなく、罪悪感等も一切なくなってしまう。その為、平気で犯罪を犯すようになる。作中ではガスを使用した子供が親の財布を平気で盗んだり、女の子のスカートを躊躇いもなくめくったり、スカートをめくられた女の子も羞恥心がなくなっている為に堂々としている等、様々な問題行動を取っていた。
ガスの有効時間は30分で、効果が切れると今まで感じていなかった全ての肉体的苦痛・精神的苦痛が襲い掛かる。更に、ガスには依存性もあり、作中ではのび太やジャイアン、スネ夫等がガスを何度も使用していた。
もはや麻薬や覚醒剤と言っても差し支えない危険な代物であり、こんな物が開発され、更にデパートで一般販売されている22世紀はどんな社会なのだろうか…。
作中では災難ばかりに遭い落ち込んだのび太をかわいそうに思ったドラえもんが取り出したのだが、ガスの効果によりいくら殴られたとしても、それどころか車と衝突しても笑顔を絶やさないのび太を不審に思ったジャイアンとスネ夫が彼を尾行したことで、2人にガスの存在を知られてしまう。
ジャイアン達はこの道具をのび太から奪った後、子供達に有料で提供するという暴挙に出る。その結果、ヘソリンガス中毒の子供達が急増してしまった。最初はのび太もガスの効果で事態の深刻さを理解出来ず、その様子を笑って眺めていた。
しかしのび太から事情を聞いたドラえもんは驚愕し、のび太に対して「痛みは大事なことなんだ。身の危険を知らせる信号で、例えば火の熱さに平気だったら火傷するし、酷い病気にかかっても死ぬまで気がつかない。心の痛みも同じで、叱られたり笑われても平気だったとしたら、どんな悪いことでも出来てしまう」と、心身の痛みの大切さを説く。
ガスの効き目が切れたのび太はその話を聞いて大慌てし、ドラえもん達はジャイアンとスネ夫からヘソリンスタンドを取り返そうとする。しかし力では敵わず、ジャイアン達が苦手とする母親や先生を呼んで叱ってもらっても、ガスのせいで心の痛みを感じないジャイアンとスネ夫にはまるで効果がなかった。
その後、ヘソリンスタンドに蓄えられていたガスがなくなってしまい、ジャイアンとスネ夫が「新しいガスを入れろ」と言い出す。そこでドラえもんはジャイアン達に気付かれないよう、ヘソリンガスとは正反対の効果を持つ「痛みを大げさに感じるガス」を注入する。
それを知らないジャイアンとスネ夫が上記のガスを注入したところ、小雨の雨粒に対して激痛を感じるようになってしまい、泣き叫びながら走り回るというオチで終わっている。
余談
この話が掲載された1979年は、『第二次覚せい剤乱用期』と呼ばれる程に覚せい剤がまん延しており、若者たちが密輸された覚せい剤に手を染め、暴力団の資金源にもなっていた。現代に至るまで覚せい剤の脅威は収まっておらず、中毒者は毎年現れている。ヘソリンスタンドは覚せい剤や大麻中毒と同様に依存性があることを風刺したといえよう。
『ドラえもん』を題材としたゲーム作品『緑の巨人伝DS』にも補助アイテムとして登場し、こちらでは「一定時間だけライフを自動的に回復し続ける」というプラスアイテムになっていた。
また、水田わさび版アニメオリジナルエピソード「うきうきするウキワ」では、ヘソリンスタンド及びヘソリンガスと全く同じ効果を持つ浮輪型のひみつ道具「ウキウキ輪」が登場している。この浮輪を身に着けている間は肉体的・精神的苦痛を一切感じなくなり、常に幸せな気分に浸れるようになる。しかしウキウキ輪を手放すか、何らかの拍子でウキウキ輪が破れてしまうと効果がなくなる。ドラえもん曰く「これは痛みを忘れている間に自然に心の傷が治るのを待つその為の道具なんだ!」とのこと。
ただしジャイアンの歌による苦痛は消し去ることが出来ず、作中ではウキウキ輪を身に付けたドラえもんやのび太、スネ夫達はジャイアンの歌を聞いて次々に倒れていき、ウキウキ輪も破れてしまった。ドラえもんとのび太曰く「ウキウキ輪でもジャイアンの歌には敵わなかった」とのこと。