俺ら概要さ書くだ
1984年11月25日リリース、オリジナル版のC/W(B面)は『故郷(ふるさと)』。
吉幾三の代表作にして、のちの邦楽に多大な影響を与えたエポックメイキングな楽曲である。現在の吉幾三のイメージといえば演歌歌手であるが、70〜80年代の彼はコミックソングを中心に活動しており、この曲もフォークソングである。
ユーモアのある歌詞と温かみのある津軽なまりの歌声、軽快なリズムに乗せられたラップという当時の邦楽として画期的な表現が評価され、大ヒットとなった。
プロデュースには同じく東北出身の演歌歌手、千昌夫が関わっている。なお、千は1984年の3月に吉から楽曲提供を受けた『津軽平野』をリリースしており、吉が作曲家として注目されていた時期でもあった。
日本のあるド田舎に生まれた若者が、大都会東京に憧れ地元を飛び出そうとする内容の歌であり、日本全国の田舎の若者の心を打ったことは想像に難くない。
また、田舎への不満をぶちまけた末に、サビで東京にかける夢が田舎の発想そのもの(東京でベコ=牛を飼う、銀座に山を買うなどのあり得ないイメージ)という矛盾した展開と、その滑稽さに隠れた哀愁がいい味をかもしている。
歌詞の面白さもさることながら、この曲の最大の特徴はラップスタイルを取り入れているところである。それまでもいくつかのアーティストが邦楽のラップを制作してはいたが、ラップ特有のプロテストソングも盛り込んだところにこの曲の持ち味がある。
なお、この歌の歌詞は(吉の出身地の)津軽弁というわけではなく、東北方言をいろいろ混ぜ合わせたなんちゃって方言である。
津軽弁では(強いていうなら)「わ、東京さ行ぐでぁ」「おらきゃ東京さ行ぐど」などと表現される。
歌い方の特徴としては、語中、語尾のか行、た行が(鼻)濁音で発音されるというところが挙げられる。歌詞では実際に「朝起ぎで 牛連れで」というように表記されている。
2008年ごろからニコニコ動画を中心にインターネット上で注目され、この曲とほかのアーティストの楽曲とのマッシュアップやリミックスがインターネットユーザーによって多数制作・発表された。吉は「IKZO」と呼ばれ、「IKZOブーム」が巻き起こった。
吉本人はこれらのブームをどちらかといえば好意的に※受け入れているようで、のちに本作のアンサーソング「NDA!(んだ!)」を発表したほか、マッシュアップの制作者と合同で「IKZO CHANNEL 441.93」(441.93=よしいくぞうの語呂合わせ)を発表している。
2019年には全編津軽弁でのラップ『TSUGARU』を発表。『俺ら東京さ行ぐだ』『NDA!』の流れをくむ楽曲となっている。
※2008年のインタビューでは「自身の曲に限らず昔の曲が注目され、親しまれるのは音楽業界にとっても喜ばしいこと」「ジャンルは違えど音楽は根底ではつながっている。(自身の)昔の楽曲との間にたまたま同調する部分があったのではないか」とコメントする一方で、2010年のインタビューでは「(IKZOブームは)まったくわからん。何やってんだか」ともコメントしている。ただし、その後のインタビューでは「若い世代が自身の楽曲に親しんでくれる事自体はいいこと」としており、基本的には(自身の)古い楽曲が若い世代に親しまれ、音楽業界が盛り上がることには好意的な反応を示している。
余談っこあるだ
吉幾三の代表作と認知される本曲だが、ヒットしてしばらくしたころに、自身の出身地である青森県金木町(現在は合併により五所川原市となっている。ちなみに、太宰治の出身地でもある)から「金木は(青森県は)そんな田舎じゃねえよっ!!」と、本気で苦言を呈された。また、全国各地から「自分たちの村をバカにするな!」と抗議が届いた。吉は、自身の幼少期(1950~60年代前半)は本当にこのような状態であったと冗談めかしてコメントしている。
もちろん、本作で歌われる村は吉の創作であり、どこか特定の地域をモデルにしたわけではないのだが、バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』にて行われた調査によれば、アフリカ大陸ケニア共和国のサマリア村が、現代において世界でもっともこの曲とシンクロする村らしい。
歌詞にするとこんな感じ。
1番 |
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テレビも無エ ラジオも無エ 車も全く走って無エ |
ピアノも無エ バーも無エ |
おまわりいねえが戦士いる※1 |
朝起きで 牛連れで 基本終日散歩する |
電話も無エ ガスも無エ バスは走れる道が無エ※2 |
おらサマリア村嫌だ おらサマリア村嫌だ |
ナイロビへ出るだ※3 |
ナイロビへ出るなら道なき道を 車で6時間 |
2番 |
ギターも無エ ステレオ無エ ジャンベもねぇし楽器が無エ |
喫茶も無エ 集いも無エ 村には若者ばかりだし※4 |
婆さんや爺さんは てめえの年齢わからねえ |
薬屋無エ 映画も無エ 怪我をしたらばアロエ塗る※5 |
ディスコも無エ のぞきも無エ レーザーディスクは食い物か? |
カラオケが あるわけねえ 歌は儀式で娯楽じゃねぇ※6 |
新聞無エ 雑誌も無エ そもそも村には文字が無エ※7 |
信号無エ あるわけねえ おらの村には電気が無エ |
でもサマリア村には でもサマリア村には 争いが無エだ |
争いが無エから やることも無エし 昼間から酒飲むだ |
※1 差異その1。警察よりも頼もしい戦士が村の治安を守っている
※2 差異その2。道路は舗装すらされていない
※3 ナイロビとは、ケニア共和国の首都である
※4 差異その3。乳児から成人まで幅広い世代が生活している
※5 差異その4。紙芝居は概念すら無い
※6 差異その5。文字通り歌は儀式である
※7 差異その6。文字が無いので書物の文化が皆無
上述に記載した歌詞の通り、本家の村よりも何も無エ事がうかがえる。
しかし、争いが無エ平和な村なのだ。
ちなみに、青森県には村に信号機がなかった新郷村も存在する(「しんごう」がない「しんごうむら」と村でもネタにしていたが、近年になってひとつだけ建てられた)。
サビで歌われる3つのオチのうち、2つは実現可能。
- 東京でベゴ(牛)飼うだ…練馬区にある小泉牧場(外部リンク)に行けば牛の飼育が体験できる。
- 東京で馬車引ぐだ…皇室関連の行事を含め、都区内で馬車を用いたイベントは割と行われている(外国の駐日大使が着任すると、皇居へ出向き信任状捧呈式を行うが、東京駅から皇居への移動についてたいていの大使が馬車を選ぶといわれている)
ただし、さすがに銀座で山は買えそうにない…が、奇しくも銀座にある山野楽器銀座本店は、長年全国公示地価ナンバー1となった超高級地である。
一番サビ終了後、間奏に入る前に「がぁっ!」という掛け声が入るが、これは「行こう!」が「いが!」となり、さらに短縮されたもの。気持ち「ンガッ」という感じで発音するとそれっぽく聞こえる。
また、「銭コア」という表現が出てくるが、これは「銭っこ」(津軽弁に限らず東北弁は「○○(っ)こ」と一部のものの語尾につける)と、「~を」という意味の「~とば(とぁ)」が混ざったものである。
歌詞にあるフレーズ、「レーザーディスクは何者だ?」については、当時、レーザーディスクの製造メーカーのひとつであったパイオニアから「レーザーディスクの宣伝になった」を理由にキャッチフレーズとしてはぴったりだなということで、吉にレーザーディスクの再生装置と一部の専用の映像ソフトが贈られたという話がある。
本曲は他アーティストによるカバーやリミックス楽曲はたくさんあるが、その中で2011年には元光GENJIの諸星和己が本曲を現代風にリアレンジした『俺ら何にもね~』を発売。この曲は諸星が04年にニューヨークの居酒屋でたまたま本曲を聞いて、当時の悩んでいた気持ちと本曲の歌詞がリンクしたことが出会いのきっかけとなり、吉を7年かけて口説いた末に発表された。歌詞は諸星が手掛け、内容は都会の荒波に揉まれ自分を見失った田舎者の悲哀が込められた内容となっており、その歌詞には吉本人からもお墨付きも貰っている。ちなみにC/Wには同曲の英語バージョン「I A’int got」が収録されている。
俺らVRChatさ行ぐだ
歌詞の内容の多くは、逆に言えば電気とインターネット回線さえあればほぼ解決するものばかりであることもよくネタにされる。
現代ではVR技術の発達により、大半の娯楽はバーチャルで再現できるようになっている。
公認替え歌もあるっきゃ
1990年には本曲のメロディーをベースに、ゴルフが下手な人を主人公とする歌詞を入れた「これが本当のゴルフだ!!」を発表。同年発売のアルバム『吉幾三全曲集~酔歌』を始めとした複数のアルバムに収録され、2022年現在発売されている最新のアルバムでは2021年に発売された『吉幾三のおもちゃ箱 ~令和エディション~』(TKCA-74950)に本曲と共に収録されている。
2021年、カプコンのサバイバルホラー『バイオハザードヴィレッジ』の公式イメージソングとして「俺らこんな村いやだLv.100」なるバージョンが制作され、バイオハザード公式から発表された。もちろん、吉幾三本人の歌唱である(「吉VILLEGE幾三」として)。
本作は文字どおり「こんな村いやだ」と言ってしまうようなとんでもない村が舞台となっている。
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関連動画は何者だ?
ミュージックエイト(ジャズフルバンド)版(編曲:山下国俊)
たまに来るのは関連タグ
佐賀県:はなわの歌。同じように出身地をネタにしているが、その反応には差が(佐賀)ある。