概要
2018年公開の『孤狼の血』で手ごたえを得た東映の紀伊宗之プロデューサーが「東映ヤクザ映画を復活させたい」「Vシネ時代の三池崇史をもう一度観たい」という想いで企画したバイオレンス・犯罪・コメディ・恋愛映画。三池監督にとっては初となる「オリジナル脚本によるラブストーリー」でもある。
今作の発表に当たって、三池は「さらば、バイオレンス」という声明を出しているが、これは三池がバイオレンス表現を辞めるという意味ではなく、ジャンルとして衰退傾向にあるバイオレンス映画と、そこに登場するキャラクターとしてのヤクザたちへの追憶の意を込めている。
窪田正孝が三池作品としては『ケータイ捜査官7』以来の主演を務め、ヒロインにはオーディションで3000人の中から選ばれた新人・小西桜子が起用された。チャイニーズマフィアのメンバーは台湾でキャスティングされた。
映画自体は2019年5月に完成しており、第72回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出。同年9月27日にはアメリカで一般公開され、5ヵ月後の翌年2月末に日本での公開となった。
あらすじ
男の名は葛城レオ。若手の天才ボクサーとして頭角を現していたものの、天涯孤独な身の上ゆえ誰とも打ち解けず、日々をそっけなく過ごしていた。
女の名は桜井ユリ。親が作った借金のカタとしてヤクザに囲われ、「モニカ」という源氏名で売春を強要され、ヤスとジュリの監禁部屋で日々を死んだように過ごしていた。
そのころ歌舞伎町では、日本のヤクザとチャイニーズマフィアの間で一触即発のムードが漂っていた。抗争のきっかけを作ったヤクザの権藤が刑期を終えて出所する中、チャイニーズマフィアのワンも権藤との決着を求めて牙を研いでいた。
このままでは共倒れになると踏んだヤクザの策士・加瀬は、知り合いの悪徳刑事・大伴を巻き込んで、組が仕入れた"ブツ"を横取りし、自分だけ生き延びようと画策する。そのためにはヤスの部屋からモニカを連れ出し、濡れ衣を着せる必要があった。
その日、レオはボクシングの試合で格下相手にKO負けを喫してしまう。試合後に医師の診察を受けたレオは、自分に脳腫瘍があり、余命いくばくもないと聞かされる。
自暴自棄になったレオが夜の歌舞伎町を歩いていると、大伴に追いかけられていたモニカとすれ違う。「助けて」という声を聞いたレオは反射的に大伴を殴って昏倒させてしまう。モニカから事情を聞いたレオは、自分と似た境遇にいるモニカを捨て置けなくなり、モニカの地元を目指して逃避行を開始する。
一方、ヤスから"ブツ"を奪うはずだった加瀬は、手違いからヤスを殺してしまう。死体を見つけたジュリが復讐の鬼になる中、加瀬がとっさにチャイニーズマフィアに罪をなすりつけたことから、ヤクザ対マフィアの全面戦争の火蓋が切られてしまう。
登場人物・キャスト
逃亡者
葛城レオ - 窪田正孝
今作の主人公。将来有望なボクサーとして業界内では注目を集めているが、周囲の人間に心を開かず、日々をドライに過ごしている。生まれてすぐ捨てられたため親の顔も知らない。
ある日、医師から脳腫瘍があると診断され、ボクサー生命を絶たれてしまう。当てもなく歌舞伎町をさまよっていたときにモニカと出会い、逃走劇に力を貸すことになる。
普段は中華料理屋でアルバイトをしている。趣味は民謡を聴くこと。
モニカ(桜井ユリ) - 小西桜子
今作のヒロイン。父親が闇金で作った借金のカタとしてヤスの部屋に監禁され、売春をさせられている。薬物依存症でもあり、ヤスからクスリを買っているが、そのせいで借金がまったく減らない。
大伴とホテルに向かう途中、禁断症状で父の幻覚を見て逃げ出してしまい、通りすがったレオと出会う。
加瀬 - 染谷将太
ヤクザの策士。自分が所属している組とチャイニーズマフィアが火花を散らす中、"ブツ"を大伴に横流しさせて自分だけ助かろうと暗躍する。「モニカが"ブツ"を奪って逃げ、モニカと通じている何者かがジュリを殺した」という筋書きで組を翻弄するつもりが、計画が狂い続けて醜態を晒し続ける今作のコメディリリーフ。
「殺しのプロ」を自称するだけあって不意をついての暗殺は得意だが、相手と向かい合っての戦闘は不得手。
大伴 - 大森南朋
マル暴の悪徳刑事。日ごろから押収したクスリを横長しして私腹を肥やしている。
加瀬の計画に乗り、モニカのアリバイをなくすため客としてモニカを買うが、ホテルに向かう途中でモニカに逃げられ、レオに殴り倒され、さらに警察手帳を持ち去られたことで夜中の追走劇に参加することになる。
漫画版では下の名前は尚人(なおと)。
ヤクザ
映画版では組に名前がなく、漫画版では蓮葉栄(はすばえ)組、小説版では怒賀怒(ぬかど)組と設定されている。
権藤 - 内野聖陽
チャイニーズマフィアのワンの左腕を切り落としたことで服役していた武闘派ヤクザ。
出所後に組長代行から組の実権を任されるも、代行の忠告を聞かず「売られた喧嘩は買う」としてマフィアとの決着に乗り出す。
市川 - 村上淳
組の構成員で、権藤の腹心。権藤と同様に武闘派でもあり、戦闘の際には矢面に立つ。
ヤス - 三浦貴大
半グレから組員になったばかりの下っ端。アパートの一室にモニカを監禁し、売春をさせている。その監禁部屋が今回の"ブツ"の保管場所に決まったことが騒動の発端となる。
ジュリ - ベッキー
ヤスの恋人。ヤスと一緒にモニカの監禁に加担し、シノギの手伝いもしている。
モニカを大伴に送り出した後、加瀬の雇ったチンピラに殺されかけるが、返り討ちにして逃げ出す。その後、監禁部屋でヤスの死体を発見し、復讐の鬼と化す。
城島 - 出合正幸
組の中堅幹部。実はチャイニーズマフィアと内通しており、周囲の様子を目ざとくうかがっている。
組長代行 - 塩見三省
組の実力者が逮捕されている関係で組長代行を勤めている老ヤクザ。昔ながらのやり方が通用しないことに諦観を抱いており、権藤に短気を起こさないようたしなめる。
健康状態が芳しくないこともあり、ヤクザ側では唯一抗争に参加していない。
チャイニーズマフィア
ワン - 顔正國
マフィアのボス。権藤に左腕を切り落とされたことから復讐の機会をうかがっていた。
フー - 段釣豪
マフィア側の策士で、ワンの側近。城島から情報を受け取っている。
ヤクザ側から"ブツ"強奪の疑いをかけられ、全面戦争を仕掛けられたのを好機と踏んで、逆に"ブツ"の奪取を企む。
チアチー - 藤岡麻美
マフィアの構成員で、兵隊の一人。
タカクラケンに憧れていたが、『仁』のない日本のヤクザの実情に幻滅している。
タン・ロン - 三元雅芸
マフィアのヒットマン。ゴルフバッグにエモノの日本刀を忍ばせる。
その他
境 - 滝藤賢一
レオを診察した脳神経外科医。MRI検査でレオの脳腫瘍を発見し、ボクシングを続けるのは無理だと診断する。
占い師 - ベンガル
歌舞伎町で営業する占い師。うなだれていたレオを占い、「人のためになることをした方がいい」と助言する。
みゆき - 矢島舞美
レオが大伴を殴る現場をたまたま見ていた酔っ払い。看護師としての給与に不満があるらしく、かなり飲んでいる。
モニカの父 - 山中アラタ
モニカにとってのトラウマ。大酒飲みのギャンブル狂い。モニカに虐待を加え続けた挙句、借金のカタに差し出してしまう。現在は行方不明。
竜司 - 谷嶋颯斗
モニカの幼馴染の男。モニカの父を殴ったことがある正義漢。モニカにとって心の支え。
スタッフ
監督 - 三池崇史
脚本 - 中村雅
音楽 - 遠藤浩二
撮影 - 北信康(J.S.C.)
配給 - 東映
制作 - OLM
企画・プロデュース - 紀伊宗之(東映)
プロデューサー - ジェレミー・トーマス / 坂美佐子(OLM)
製作 - 「初恋」製作委員会
公開 - 2019年9月27日(アメリカ) / 2020年2月28日(日本)
上映時間 115分
製作国 - 日本
言語 - 日本語
メディアミックス
- コミカライズ
2019年10月17日よりやわらかスピリッツでWEB連載。著者は佐久間結衣。単行本全2巻。
- ノベライズ
2020年2月7日、徳間文庫(徳間書店)より発売。著者は大倉崇裕。
備考
- 窪田正孝と小西桜子は同時期に公開された『ファンシー』でも共演しているが、偶然の一致である。小西は『ファンシー』のクランクアップ翌日に『初恋』のオーディションに参加したと語っている。
関連タグ
映画 / 邦画 / アクション映画 / サスペンス映画 / コメディ映画 / 恋愛映画 / 映画の一覧