前置き・半導体の製造工程
大規模な半導体チップ(LSI)ができるまでの流れは、大まかにいうと次のようになる。
設計工程
半導体を構成する回路を設計する段階。与えられた仕様に基づいて回路図を決める論理設計と、論理設計をもとに実際の配線を決める物理設計の2工程がある。それぞれの工程に検証のためのシミュレーションのステップが入る。
スマートフォンやパソコン、サーバーに使われるSoCともなれば、構成するトランジスタ数は数百億個にもなる。そうした巨大な回路を一から設計するわけではなく既存の機能ブロックを組み合わせることが多いが、それでも物理設計は恐ろしく手間がかかる作業で、性能的にシビアな部分以外は自動設計ツールの力を借りることも多い。
前工程
現在のLSIは、ある種の印刷・写真現像技術とも言える「リソグラフィー」という工程で製造される。
シリコン結晶を薄く輪切りにしたもの(シリコンウェハー)に絶縁膜を形成し(成膜)、感光液を塗布し(スピンコート)、レーザー光線で回路パターンを焼き付け(リソグラフィ)、パターンに従って余分な膜を削り取り(エッチング)、ウェーハに残る不純物を取り除く(洗浄・乾燥)。
リソグラフィ工程に関しては、かつては1つのチップを一度に露光する「ステッパー」が用いられたが、近年はレーザーを徐々に走査しながら露光する「スキャナー」という装置が主流である。リソグラフィに使うフォトマスクは100枚以上に上ることもあり、つまり100回以上成膜→スピンコート→リソグラフィ→エッチング→洗浄・乾燥という工程を繰り返す必要があるということである。前工程の製造装置は恐ろしく高価で、先端のEUV露光装置は約200億円ほどかかる。TSMCが熊本県に進出した際の設備投資は数兆円〜十数兆円単位となっている。
後工程
ウェハーから単体の回路(ダイ)を切り出し、テストを行ない、ダイをパッケージに封入して最終製品に仕上げる作業。
近年のLSIは、平面方向での集積が頭打ちになっているため、集積度を上げるなどして性能を引き出す手段として後工程に注目が集まっている。
半導体メーカー
自社で半導体の製造設備(fabrication=Fab)を持っていなくても、自社ブランドの半導体の設計を行うメーカー(ファブレス)も半導体メーカーと呼ばれる。著名な半導体メーカーとして知られる、NVIDIA、AMD、Qualcomm、ARMなどはいずれも設計専業のファブレスメーカーである。
昔の半導体メーカーは自社で設計から製造の両方を手がける「IDM」という形態が一般的だったが、徐々に設計と製造の分業が進んだ。半導体の設計はあまりにも時間と人手がかかり、また半導体の製造はあまりにも巨大な投資を必要とするため、1社で両方を抱えるリスクが大きいからである(DRAMやフラッシュメモリなどの記憶媒体、アナログ半導体やイメージセンサのような特殊なものはまた別であるが)。製造専業の「ファウンドリ」の先駆けは台湾のTSMCで、現在は同社が半導体製造技術の最先端を走っている。
今でもIDMの形態をとるメーカーとしてはインテル(Intel)、テキサス・インスツルメンツ(TI)、サムスン電子、ルネサスエレクトロニクスなどがあるが、いずれも他社からの製造請負(ファウンドリ)事業も手がける。
ファウンドリメーカー世界ランキング
2024年第1四半期 売上高上位10ファウンドリ
順位 | 企業名 | 国籍 |
---|---|---|
1 | TSMC(台湾積体電路製造) | 台湾 |
2 | サムスン・セミコンダクター | 韓国 |
3 | SMIC(中芯国際集成電路製造) | 中国 |
4 | UMC(聯華電子股份有限公司) | 台湾 |
5 | GlobalFoundries | アメリカ合衆国 |
6 | Hua Hong Semi(華虹半導体) | 中国 |
7 | TowerJazz | イスラエル |
8 | PSMC(力晶積成電子製造) | 台湾 |
9 | Nexchip(合肥晶合集成电路股份有限公司) | 中国 |
10 | VIS(世界先進積体電路) | 台湾 |
余談
半導体の製造と水資源
半導体の製造には大量の水を必要とする。作業中の洗浄工程で、極限まで不純物を取り除いた水を多く用いるからである。
熊本県のTSMC工場では、上流側に水田を多数開き、稲を収穫すると同時に水田から浸透した豊かな地下水を工場に供給するといった施策がとられた。北海道のラピダスは千歳川からの取水を予定し、水質調査が行われている。
日本の半導体関連企業
ニコン SONY Panasonic 東芝 KIOXIA 富士通 富士フイルム 京セラ SHARP セイコーエプソン ヤマハ 旭化成
味の素:必要のあるところ以外に電気を通さないために使われているフィルム状の絶縁体、味の素ビルドアップフィルム(ABF)は同用途の商品で世界シェアほぼ100%