概説
天才魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの様々な魔術礼装のなかでも、最強の一品とされる。その正体は水銀に魔力を充填し形状を自在に操作するというもので、つまるところ魔術で動く液体金属である。
その性能は時計塔の歴史に残る性能、機能美を誇るといわれるほど。
ただこの礼装もケイネスにとっては傑作どころか暇つぶしの一環で作ったものにすぎないという。
魔術師として稀有な『水』と『風』の二重属性をケイネスは持ち、そして両属性に共通する『流体操作』を基本としたのがこの術式である。金属であるにもかかわらず、常温で液体の形状を取る水銀は、およそ13kg/L(ざっと水の13倍)というとんでもない密度を誇り、そんな液体を魔術で高速・高圧と自在に操作する事によって、防御力・破壊力を獲得している。また、昇降機のような移動手段としても応用が可能。
おまけに敵の所在を発見する『自動索敵』も可能であり、攻守索敵という3つの役割をこなす至り尽くせりの礼装。まさにロード・エルメロイならではの戦闘魔術と言える。
なお、月霊髄液がエルメロイの至上礼装(十二家やそれに匹敵する名家を象徴するに足る礼装)とまでうたわれたのは単に戦闘用礼装としてのみ優れていたからではなく、エルメロイ派有数の演算機だからであることが『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿』で明かされた。変幻自在、攻守に隙のない魔術礼装でありつつ、その本来の性能は隔絶した演算機とされる。
使用しない際は陶磁製の大瓶内に保管している。ケイネスはこれを小脇に抱えて持ち運んでいたが、それは重量軽減の魔術をかけていたから可能だったのであり、中身は量にして10L程、総重量は140kg近い。
アニメ版以降では演出の兼ね合いもあり、大瓶ではなく魔術で水銀の質量を変化させた上で、小さな試験管1本に入れ携行している。
性能
攻撃・防御・索敵といった各形態への高速変化は、水銀の圧力から生み出される。この性質は長所ではあるものの、弱点も存在する。作中では、戦闘中に衛宮切嗣によってその性質を看破されている。
- 指定攻撃
口頭による攻撃用の呪文詠唱による指示にて発動、対象を攻撃する。
重金属たる水銀が高圧により高速駆動し、衝突の瞬間に鋭利な刃へと変化する。作中では主にムチ状の形態による攻撃を多用していたが、槍状などその他の形態へも変形が可能。
その威力は石造りの城内の大扉や床だろうと容易に切り裂き、小説版の地の文では「チタン鋼からダイヤモンドまで」切断出来ない物質は無いとされる。
また、魔眼の制御が可能になった『冒険』時点でのライネスは、魔眼の魔術回路を自身のそれに上乗せすることで数分程度ならケイネスと同じように月霊髄液を扱うことを可能としたが、その際に折り畳まれた水銀のムチは、厚さ数ミクロンの薄板状であるとされる。
冒険の劇中では、サーヴァントのスキルに換算するとDランクの魔力放出に相当し、戦車の装甲をも粉砕するグレイの破城槌を逆に弾き返すほどの強度を持つ四重の複合装甲を展開したエグゾフォルムの巨人・タンゲレに対して斬撃を繰り出し、その装甲を斬り落とすなど恐るべき鋭さを見せた。
弱点としては、流動体であるが故の物理法則により、攻撃動作が比較的に単調である点。
例として、作中で多用していたムチ状の形態においては、高速駆動するのは基部のみであり、攻撃の主軸部分である末端のスピードは遠心力により発生している事。
つまり、距離が開けば末端部分の攻撃速度や動作に一定の限界が生じてしまうのである。近接戦闘の心得があり、かつ個人差にもよるが一定の距離を保てば見切る事も可能である。
- 自律防御
防御面としては、術式起動時に予め設定された人物を自動的に守る「自律防御」モードを持つ。反応した攻撃に対して最適な形に変形し、主に術者を覆うように膜状の球体に展開する。作中では「近代兵器に対する物理的防御」の描写のみだが、小説版の地の文では「ガンドを受け止め、霊刀を弾き、魔術の炎を氷を雷撃を突破するべき武装」とされるなど、ケイネス本来の目的である「魔術への防御」も兼ねている。
“壁”は厚さ1mmにも満たなくとも、四方から降り注ぐ対人地雷クレイモアの鉄球(合計2800個)や、至近距離からの9mm弾のマシンガン掃射すら完全に防ぎきる。特筆すべき点は、これらによる攻撃に先んじる程の展開速度を誇る点である。
なお、滞在していたホテル倒壊時において、ケイネスとソラウが生還を果たしたのはこの機能の賜物である。
『冒険』においては魔術への防御の描写もなされており、人間程度ならたやすく挽肉へと変える威力を持つ骨弾300発以上を全て阻むなど、高い防御力を見せている。
弱点として一度この膜状の防御形態へ広がった際、その形態では防げない攻撃、つまり威力差・複合攻撃への即応が出来ない事が挙げられる。
高速形態変化の原理は圧力にあり、流体力学の限界から広がった状態から展開時と同じ速度での変形は不可能。作中ではこの相手の攻撃に対して自動で最適な形に変形してしまう性質の穴を突かれ9mm弾を完封したものの、最中に放たれた七倍の破壊力を持つ.30-06スプリングフィールド弾に対してより強固な防壁に変形するのが間に合わず突破を許してしまっている。
また、この後に複合攻撃の対策として、再度呪文詠唱を行い柱状の棘への攻撃と防御の力を併せ持つ形態を展開している。この形態を以って9mm弾を完封しつつ、.30-06スプリングフィールド弾は着弾と同時に柱が収束しこれを取り込んだ。
防御力は膜状時よりもはるかに向上しているが、無数の柱の全てに対してこれらの銃弾に耐えうるだけの強度を付与するには、相当な魔力を必要とする。
また『Fate/strange Fake』においてファルデウス・ディオランドは「蠢く水銀の礼装で数千発の散弾を防ぐ実力者」もいるが、まあ対戦車ライフルは防げないだろう、といった旨の発言している。
- 自動索敵
口頭による索敵用の呪文詠唱による指示にて発動、無数の流滴を「触角」として張り巡らせ、広範囲を走査する。感知方法はこの「触覚」を主軸・強化したもので、主に音や温度の変化などを認識する。
元々が液体であるために有用範囲に優れており、扉の鍵穴といった僅かな隙間から内部に侵入する事も可能。索敵範囲は、作中においては広大なアインツベルン城の一階フロア全体を数秒単位で走査しているのが確認されている。
弱点としては索敵方法が「触覚」であるために、感知出来るのが音や温度などに限定される点である。そのため、これらに該当する生体反応を隠滅、または対象の生物が本来とは異なる生体反応に変化されると感知不能となる。
- 演算機能
本来の機能。蒸発した水銀が中空で液化し、数字盤と文字盤を浮かび上がらせる。羅列されている文字は「天秤」「魚」「山羊」「星」「太陽」「月」などの魔術的な象徴(シンボル)であり、魔術師にとってのそれは、科学者にとっての数式に似たもの。
ケイネス自身が演算機として月霊髄液を行使する場面はないが、『事件簿』では『アトラスの契約』編でトリムマウをロード・エルメロイⅡ世が使用し、ドクター・ハートレスの残したウェビングを解読している。Ⅱ世の制御ではそのごく一部の機能しか引き出せないながらも、彼をしておおよその方向性しか見て取れなかった術式を解明しきるなど非常に強力な性能を垣間見せる。
その他、飲食物に毒が仕込まれていないか解析する、パターン認識と統計など、ケイネスのように力任せに振り回せない代わりに精密操作を得意とするライネスの手に渡ってからの方が演算機としての側面が強い。
- 鎧化、魔術回路の増幅
主にライネスによる使用法。基本的にケイネスのように月霊髄液を力任せに振り回せない彼女は、鎧に変形させたトリムマウを月霊髄液(ドレス)と称して他者に纏わせ、援護を行う。
この時のライネスは後方から鎧に調整をかけつつ戦いを見守ることしかできなくなるが、月霊髄液はサーヴァントの武装による攻撃と拮抗し、逆に霊体を傷つけ得るほどの神秘を備えているため、グレイやスヴィン・グラシュエートのような近接戦に長けた者に貸し与えた場合は一線級の武装と化す。
またこの鎧はただの装甲ではなく、纏った者の魔術回路の効率を増幅する機能も有しているという。
- 備考
ただの液体金属なのだが妙な愛嬌があり、すっごい可愛い。
……だけでなく、後に教え子によって改良され、メイドゴーレムとして家事などの雑用を行えるほどの進化を遂げた。
ライネスの身辺を護衛しており「トリムマウ」という名前が付けられている。アニメ版『事件簿』の第六話では、原典である月霊髄液と同様に試験管に入れて携行、必要時に展開するシーンが描かれた。
なお、フラット・エスカルドスが見せた某映画の影響でたまに自らを「未来から来た殺人マシーン」と思い込み暴れるとか。つまり、映像情報の視認と理解を行なっているという事で、何気に前述の自動索敵の弱点を克服している。
詠唱された呪文
以下、小説版を基にロード・エルメロイが月霊髄液を使役する時に唱える呪文。
- 「Fervor,mei Sanguis」(沸き立て、我が血潮)——術式起動
- 「Automatoportum defensio:Automatoportum quaerere:Dilectus incrisio」(自律防御:自動索敵:指定攻撃)——起動後の初期設定
- 「Scalp」(斬)——攻撃指示
- 「ire:sanctio」(追跡抹殺)——索敵および対象への接近
- 「Fervor,mei Sanguis」(滾れ、我が血潮)——柱状の棘への変形
ラテン語を基本にした呪文を使用している模様。
また、「Fervor,mei Sanguis」という呪文が二度詠唱されているが、それぞれルビ及び効果が異なっているため、同じ発音であっても『月霊髄液』の操作に対して違う意味合いを持つと考えられる。『Fate/stay night』本編でも衛宮士郎が「トレース、オン」と言う発音に複数の意味を込めているので、型月魔術師には良く有る事である。
蛇足ではあるが、ラテン語の読み方は日本語で言うところのローマ字読みでほぼ事足りる(方言や時代によって『V』を「u」か「v」のいずれで読むか違う程度)。
『Fate/Grand Order』では
『Zero』とのコラボイベント『Fate/Accel Zero Order』で概念礼装として実装。なお、恒常実装なのでイベント期間外でも入手可能である。
レアリティは最高の☆5、イラスト担当はpako氏で、もちろんケイネスも一緒に描かれている。
効果は【自身に無敵状態を3回付与&与ダメージプラス200状態を付与】で、最大まで限界突破させる事により【与ダメージプラス500状態】に向上する。
また、イベント中は【装備サーヴァントと同じクラスの印章のドロップ数を3個増加(限界突破時は4個増加)】の効果もあった。
回数制限付きとはいえ、敵の攻撃を無力化してくれるという単純で分かりやすい強さを持った強力な礼装。何よりもシステム上ただでさえ打たれ弱いバーサーカークラスやそれを守る盾役との相性は抜群で、これを装備すれば生存率が飛躍的にアップするだろう。
概念礼装ゆえに強化解除効果の対象外であるため、アビゲイル・ウィリアムズの宝具も耐えられる。
また、呪腕のハサンの「風よけの加護」のような回数制の回避スキルとも相性がいい。というのも、回避状態と無敵状態別枠扱いで重複させる事が可能な上に、同時に消費する事も無いため、即座に張っておけばCT経過まで生き残って再度のスキル発動に繋げる事も容易い。
ただし、無敵貫通は天敵で、相手によっては全く無意味になってしまう恐れがある点には注意。
そして無敵貫通かつキャスター(魔術師)特攻を持つ同じく星5礼装が切嗣の『起源弾』である。イラストレーターも同じくpakoさん。
原作再現しつつどちらも星5相応の強力な礼装に仕上がっている。
似た効果を持った礼装には『陽だまりの中で』が存在する。
こちらは回避状態なので、無敵貫通だけでなく必中でも突破されてしまうが、追加効果としてダメージカットを持つため、盾役にはこちらの方が向いている。
サーヴァントの特性やクエストに合わせて使い分けていくのが効果的である。