45年後…
よんじゅうごねんご
初出は「小学六年生」1985年9月号。てんとう虫コミックス「ドラえもん+」第5巻ならびに藤子・F・不二雄大全集「ドラえもん」第13巻に収録。
このエピソードは、ファンの間ではドラえもんの隠れた名作として知られていたものの、長らく単行本に収録されていなかった。週刊分冊百科「ぼくドラえもん」最終巻の別冊付録収録で漸く日の目を見ることになり、更に2006年3月に刊行された「ドラえもん+」第5巻に収録され、皆の手に届きやすくなる。
年に二度か三度の、のび太大反省の日がやってきた。「きょうから生まれかわった気で、ちゃんとした生活を送ろう」と決心したのび太だったが、ジャイアンとスネ夫にからかわれてやる気をなくし、昼寝をしようと家に帰ると、のび太の部屋にはのび太が昼寝のときに使う座布団や読みかけの漫画が出しっぱなしになっており、台所に出してあったおやつも何者かに食べられていた。
そこでのび太は心を休めようと裏山に行くと、そこにはすでに一人の年輩の男が寝そべっていた。その男はなぜかのび太のことを知っており、のび太が誰なのかたずねると、45年後ののび太だと答えた。のび太が驚いているとそこにドラえもんが現れ、二人に「入れかえロープ」を手渡す。
「そうね、なんていえばいいか……。遠い昔によんだ本をもう一度よみ返してみたい……。そんな気持ちかな。」
そこでのび太は45年後ののび太と入れ替わると、小学生の姿になった45年後ののび太は、目に映る景色を懐かしむ。のび太は45年後ののび太に、「ぼくが大人になって社会にでて、ちゃんとやっていけるのかな」とたずねるが、45年後ののび太に「つまり、ぼくがどんな人生を歩んできたか聞きたいわけ?」と言われると、こわくなってそれ以上話を聞くのをやめてしまう。
45年後ののび太はジャイアンたちと野球をしたり、ママの作った料理を食べたりして子ども時代の生活を一通り満喫した後、帰る間際にお礼として「宿題でも手つだおうか」と言うと、のび太は「いいよ、自分でやるから」と答える。その言葉に感動した45年後ののび太は、のび太にこのように語りかける。
「一つだけ教えておこう。きみはこれからも何度もつまづく。でもそのたびに立ち直る強さももってるんだよ。」
その言葉に少しの望みを抱いたのび太はさっそく机に向かう。ドラえもんはそれを励ますのだった。
- 本作は「小学六年生」1989年3月号と1991年3月号にも再掲されている。当時は作者の健康状態が思わしくなく、雑誌には過去の作品が再掲されることが多かったが、本作は小学校を卒業する読者へのメッセージとしてふさわしいと判断されたからであろう(従来から「小学六年生」の3月号には、のび太の将来や人間的な成長をテーマにした作品が掲載されることが多かった。「あの日あの時あのダルマ」「具象化鏡」などのタイトルを聞けば、納得する人も多いのでは)。
- 作中で45年後ののび太は、息子のノビスケは大きく成長して、スペースシャトルで月にハネムーンに行ったと語っている。果たして本作が発表されてから45年後の2030年に、月へのハネムーンは実現しているだろうか。参考程度に、現実では2024年のスタートで地球を眺めながら食事できる宇宙レストランがフランスのゼファルト社より提供の予定である。
- 本作は、テレビアニメ版では2005年3月11日と2009年12月31日に放映されている。2005版は声優陣を交代してリニューアルが行われる直前に放映され、大山ドラの通常放映における最終エピソードになった。この時は映画『夢幻三剣士』の挿入歌「夢の人」のインストゥルメンタル版がクライマックスのシーンで使用されている。
45年後ののび太が、少女のしずかに交わした会話がファンの間で物議を醸している。「君は知らないだろうけど…」というくだりは、のび太と静香が離婚、あるいは静香がこの世にいないというネガティブな意見もある。だが、実際は45年前の(未来を知らない)少女しずかに対し、「君は知らないだろうけど」と答えたと考えるほうが自然であり、何よりモヤモヤした気持ちにならないで済むだろう。