概要
漫画や小説、映画、演劇、RPGなどのゲームなどで見受けられるストーリーの作劇手法の一つである。
より平易な言い方をすれば、前振りにあたる。
伏線は、前振りの少し特殊な形式である。
解説
なんらかの事実が明らかになった、もしくは何かしらの出来事が発生した時など、ストーリー上に何かしらの大きな動きを作った際に、それらを都合よく持ち出してきたと思わせないように、前の段階で展開の発生を予め仄めかしておくこと。またはその仄めかされた要素のこと。
分かりやすくかみ砕いていえば、「作中で発生する展開の前兆・予兆」である。
伏線は物語構築に絶対に必須とまでは言えない。もし伏線を張らずとも面白い展開に自然と話を運べるならそれに越したことはない。
しかし、唐突なことが起こると観客は混乱してしまうため、現実的には予め情報を理解させておく必要がある。
つまるところ、伏線は作者サイドから言えばご都合主義隠しのために必要とされる。
逆に言えば、伏線を張るのは唐突な展開や大きな動きが始まる前触れでもあるわけである。
この言葉は「敷く」または「張る」という表現をされ、内容が明らかになった場合には「回収する」という言い方をすることが多い。
言い換えると伏線は必ず回収とセットであり、期待を煽っておいて後に何も起きないのは肩透かしと言いガッカリ作品に起こる物である。
大資本参加でも著名ブランドでも著名クリエイターでも前振りに落ちが付いていないガッカリはしばしば起こりうる。
フラグとの相違
フラグと意味合いは似ているが、フラグというのは物語の定番パターンを表すもので、2つの事象に因果関係や相関関係がない場合も多い。例えば「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」というセリフは死亡フラグの代表例とされるが、この発言をすることと死ぬことには何の因果関係もない。結婚することが死の原因となるわけではない。一方で伏線には必ず2つの事象に何らかの関係が存在する。
フラグは割と早い時期に立つものを指すことが多いのに対し、伏線というのは定型化しておらず、基本的に暗に仄めかされるに留まり、わかりやすい形で明確に掲示されない。
その為フラグは分かりやすいというか分かるためにある伏線という表現も出来る。
また、伏線は作者が意図的に入れるものだが、フラグは作者の意図していない場合もある。
ただし個人的な見解による相違も大きく、フラグと伏線の明確な違いは定まっていない。
伏線の例
例えば幼馴染みの主人公とヒロインがいたとして、主人公とヒロインは友達以上恋人未満といった間柄であるとする。
ある日突然ヒロインから電話が掛かってきて「今日遊びに行かない?」と誘われた。
普段自分から誘ってくることなど無いはずのヒロインの言葉に戸惑う主人公だったが主人公はその日新作ゲームの発売日でありどうしてもそれを買いに行きたかったのでその誘いを断ってしまう。
そして数日後、主人公は親からヒロインが引っ越ししてしまったことを聞き大きなショックを受けてしまう……。
ベタベタかつ上手い例ではないのだが、この場合「ヒロインが主人公を遊びに誘いに来る」という行動自体が「引っ越す」ということの伏線であると言える。
この場合は何気ない日常の一幕として流すことが出来るのだが「普段誘ってくることはない」という前提を敷いているため、この行動とセリフに何かしらの意味があるということは読者にもわかりやすいだろう。
上手に伏線を使うために
本節では愛好家や消費者ではなく作者としての観点から伏線について論ずる。
逆算で作る
プロや熟練者はしばしば結果から伏線を作る。
話を作る時に、いつも頭の方から順番に作らなければならない、というルールはない。
上手い人は話を広げていくときに、どう畳ませるか考えながら作るのではなく、広げ始めた時点で畳み始めている。
アマチュア創作だと頭から終わりまで一回書いて全力を出し切りお終いにすることがある(書き終わることすらできないのも珍しくない)が、それでは単に思い付きを並べただけで一貫性のある展開にならないので、プロの脚本ではそこで力尽きたりしないで普通更にリライトということが行われる。
リライトの時に、回収と伏線がセットになるように逆算で流れを書き直すのである。
風呂敷を広げるのは上手いのに畳むのが下手な作家、などがあなたも思いつくかもしれない。
酷いと思わせぶりなフリだけは超うまいのに、後から納得のいく落ちを作れず投げて終わる作者なんてのもいる。
期待感を煽るのは困難ではないが、煽った期待感に満足のいく結果を付け全体を整合的に作るのは難しい。
そうした時には逆算が役に立つ。
前振りと伏線の違い
前振りの特殊化した物が伏線である。
例えば、カツオが母親から「今日はお昼にノリスケおじさんが来るよ」と言われて、その後昼にノリスケが普通にやってくる場合母親のセリフは伏線ではなくただの前振りであり、ノリスケが来るのは天丼(振りの繰り返し)である。
目立たない伏線は上手なのか?
オタクは伏線が好きである。
オタク君たちは掲示板の作品スレやソーシャルメディアで、リアルタイム進行作品の伏線を指摘するのが好きである。
作中の伏線っぽいものを片っ端から指摘して、さりげない伏線に気付いていることを自己顕示するオタクも多い(作者との知恵比べや一種のマッチョイズムとして)。
しかし、作劇手順から言えば、目立ちにくい伏線だから物語構築の名手とは言えない。
何故なら、観客や読者が気付きにくい伏線など話が進むと忘れられてしまうからである。
どんでん返しのある作品では、後から見直すと目立たないように一杯ヒントが仕込んであった、というパターンは結構多い(ミステリーの成りすましや裏切りなどで仮の姿の何気ない部分に正体のヒントがあるなど)。
だがそれはあくまでも本流である意外な展開の面白さをトリビア的に補完するものであり、解説で述べた通り、伏線は観客の中に印象付けられてこそ効果を発揮するので、本筋に関わる伏線を隠してはならない。
目立たないヒントを仕込むのは、物語の展開を頭から終わりまで事前にしっかり作った上で作品を実際に作っていく故にできることであり、そういう芸コマテクニックと伏線を混同してはならない。
むしろ、読者・観客の中に強烈にAだと思い込ませたものを後々全く別なBとして再登場させる方がお話の展開としてはインパクトを生みやすい。
例に挙げた成りすましの伏線であれば、隠しておくのではなく強烈に仮の姿を信じ込ませるのである。
バレにくさと隠すことの間には違いがある。
伏線を最大限に活用したければ隠すなかれである。
伏線のタイプ
主な伏線のタイプは以下の通りである。なお、ここに上げた分類名は便宜的なものである。
明示型
上述の例のように読者に伏線を敷いたことを知らせるタイプである。
思わせぶりなセリフであり読者にとってはこれは伏線だろう、というのが分かるものであるため伏線を回収した際に「あれが伏線だったんだな」とすぐに分かることが多い。使いやすい伏線ではあるが、わかりやすいがゆえにあまり伏線としての効果は大きくないのが特徴。
暗示型
伏線を敷いたことは分かっても弱い伏線と見せかけるタイプである。
例えば先ほどの例を少しだけ変えてみる。
誘ってきたヒロインに対して「悪い、今日は無理なんだ。また今度にしないか?」と主人公が言ったとする。
「……そっか、残念……。最近ずっと勉強に追われて疲れてるから遊びに行きたかったんだけどな」とヒロインは返したとする。
この場合伏線としての読者の印象は先ほどよりは弱くなるが、「何かありそうだ」とは思える為伏線であることを意識はするのは間違い無い。
例の場合、直後に真相が判明しているが
真相判明までに時間が掛かると「やっぱりあのセリフは意味無かったのか」と伏線そのものを忘れられるケースもあり得る。
二重型
伏線を回収した、と見せかけて実は回収していない、という高度なテクニックである。
例の部分の断ってしまった。の後に以下の状況が入ったとする。
次の日、主人公は学校で友人と昼ご飯を食べていた。
「そういえばあの子( ヒロイン )ってお前のこと好きみたいだぜ」とその友達が主人公に言ったとする。
この時、主人公にとっては前日のヒロインのセリフは「自分のことを実は好いていた」ということだったと理解する。
これにより読者もあのセリフの意味はここにあったと理解することになる。
しかしながら実際の伏線の回収は「ヒロインが引っ越す」という状況でありこの時点では伏線を回収したように見せかけているだけである。
このように一見伏線を一旦回収したように見せかけるというテクニックは高等ではあるが効果は大きく、2回目に読んだ時にこれが伏線だったのか、と気付くケースも多い。
誤解型
いわゆるミスリードと呼ばれ、これはミステリー小説やコメディなどで用いられるテクニックであり、伏線を回収した、と見せかける部分は一緒であるがこちらは読者に誤解を与えるような伏線の回収をさせる点で異なる。
典型的には、伏線の時点でXだと思わせておいて、回収の段階で実はYだった、と発覚するパターンを取る。
この時、敢えて結末と違う印象を与えるための前兆Xをミスリードと言い、驚きを与える結果Yをどんでん返しという。
例えば犯人がAであるミステリー小説があったとする。
事件前突然ガサッ、という物音が聞こえた、という描写がある時にBだけがその場にいなかった。という書き方をしたとしよう。
この時このガサッという音は犯行に関わる音である、と多くの読者は考える。そしていなかったのはBである、ということはBが何らかの行動をとったではないか、というわけである。
勿論このような例はミステリー小説では逆に怪しくないケースが多いかも知れないがミスリードを招く伏線の敷き方であると言える。
また、ミスリードはオチを際立たせる手法の一つにもなるため、コメディ作品に用いられることも多い。
前出の例を引用すれば、Bはそのときたまたま激しい下痢に襲われて外で用を足してしまい、雑草を使って拭こうとしたときにした音がそれであった、など。
また、伏線に見せかけた何でもない行為、という例も存在する。これは他の伏線をカモフラージュする、あるいは伏線を張っていたもののストーリーの変更等により回収しなかった場合もある。
先の例だと「音は偶然の産物であり全く無関係」ということにするという手段がある。
その他
普通の物語構築では通常最初から最後までの一本の背骨の通った筋を作り上げるため、回収は伏線と対のセットになっている。
しかし、連載物などでシリーズが長期化するにつれ、当初の計画になかった新たな展開を作る際などで「以前あった何ともない描写に意味を与えて伏線を回収したように見せかける」方法なども存在する。
作者が明言しない限り通常の伏線との区別が困難であるが、伏線とはあくまで前もって仕込んでおいたものをいうのであり、後付けで意味の変化した既出要素を本来伏線とは言わないことに注意する。
綺麗に整合するように後付けを作ると客が喜ぶ場合もあるが、話を作る場合は事前に全て作るのが物語作成の基本である。
読者や視聴者が深読みし過ぎるケース
…と、読者や視聴者にカタルシスを与えてくれやすい「伏線」であるが、実は読者や視聴者が深読みし過ぎて「作者的には伏線でもミスリードでも何でもないシチュエーションを伏線だと思ってしまう」ケースも多い。伏線とは罪深いものなのだ。
(例)
- 『ジョジョの奇妙な冒険』第4部「ダイヤモンドは砕けない」の主人公東方仗助を昔助けたリーゼントの少年
- 『呪術廻戦』に登場する用語である「存在しない記憶」
等。(※加筆修正求む。)
余談
伏線や前振りと落ちというストーリーのお約束そのものを逆手に取って観客の緊張感を操ったり、パロディ化する手法も存在する。
クエンティン・タランティーノ作品などにみられる。
ピクシブにおける伏線
pixivはイラスト中心のサイトであり、一枚のイラスト作品において回収に時間がかかる伏線というのは難しい為、イラストではあまりタグとして用いられることは無いであろう。
逆に漫画や、小説においては技術的に利用されるため、こちらで使用されるものと思われる。
関連タグ
尾田栄一郎、藤田和日郎、松井優征:伏線回収に定評のある漫画家
フクセン:伏線を名前の由来とする人物。なお、彼が登場する作品にはフラグを名前の由来とする人物も出てくる。