概要
1963年3月27日、テネシー州ノックスビルで、イタリア系アメリカ人の父と、アイルランド系アメリカ人でインディアンチェロキー族の血も引いていた母との間に生まれる。
母子家庭で、幼少期から母と映画を観る日々を送っていた。16歳のときに劇団に入り、俳優として経験を積む。22歳でレンタルビデオ店員となり、古今東西の映画を観まくる。
映画プロデューサーのローレンス・ベンダーに薦められて脚本を書くようになり、『レザボア・ドッグス』(1992年)で監督・脚本デビュー。
続く二作目の『パルプ・フィクション』(1994年)で、アカデミー賞脚本賞、カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)の栄冠に輝き、映画界の寵児と称された。
監督作品には自らの愛してやまない映画のオマージュをちりばめており、それらを探すのも観客の楽しみになっている。暴力描写は過激で、だいたい人がたくさん死ぬ。
日本映画では深作欣二、石井輝男、三池崇史の監督作品、女優は梶芽衣子らを好む。
記者会見など公の場でハイテンション且つハッちゃけたことをよくするためか、アホの子、キチガイと呼ばれることも。
日本ではタラ、タラちゃんという愛称で呼ばれる。
作風
自作では趣味性を爆発させていることでとみに知られている。
デビュー当時から一貫して、バイオレンス映画を撮り続けており現在もその姿勢は変わらない。
初監督作『レザボア・ドッグス』はその凄惨な暴力描写から、上映前に妊婦や心臓に悪い人は鑑賞を控えるよう、注意が呼びかけられた。
特に、『キル・ビル』は日本や香港のバイオレンス映画にオマージュを捧げていて物凄い流血描写のオンパレードであり、目玉はえぐる、手や首は当たり前のように飛ぶ、足もちょん切る、ガラスや壁に突っ込む、など凄惨なアクションが連発される。
グロシーンは多いものの彼の場合それで作品が陰惨になることはなく、陽性のグロ作家である。
一種のコメディとしてキャラが大量の血を吐く、ということも行われる。
本当にシリアスなシーンでは流血は控えめ。
異端児的なキャラクターであったが、監督として円熟してくると「余所行き」を着て作品を作り始める。
アメリカの人種差別にコミットした『イングロリアス・バスターズ』や『ジャンゴ・繋がれざる者』では王道監督的な演出も散見された。
初期の作品、『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』では、時間軸を巧みに使ったシナリオ構成が高く評価された。
本筋とは関係がない、意味のない・他愛のない会話シーンを場面場面で挟むといった演出を好んで使っている。この点は人によってやや好みが分かれており、演出や芝居そのものを楽しまないアクション目当てな客などは「会話が長すぎる」と不満を覚えることもある。
『デス・プルーフ』では若い女の子たちの長会話だけで上映時間の半分近くが占められているほど。
室内劇の大変な名手であり、観客の緊張感をコントロールするのに非常に長けている。
『イングロリアス・バスターズ』や『ヘイトフル・エイト』などに本質的に室内劇作家である彼の真骨頂が見て取れる。
サスペンスを伏流させながらも表面的には友好的なトーンで会話が始まり、怒涛のような暴力性に集結する、という展開を描かせると右に出る者はいない。また、そのような形式を芸術的な域に高めて創始したのも彼である。
有名、マイナー問わず様々な映画からキーワードや構図などを引用・拝借している。これをパクリと断ずるのは早計であり、彼の場合映画愛が溢れすぎて自分の好きなものを敢えて反映させずにはいられないのである。また、ありふれたパクリと違うのは構図などの表面を借りつつ話はオリジナルであるところにある。
同じ役者を異なる作品で何度も採用する監督として知られている。
彼の作品で常連になっているサミュエル・L・ジャクソン(計6回)を始め、マイケル・マドセン(4回)、マイケル・パークスとジェームズ・パークスの親子、スタントマンのゾーイ・ベル、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、ブルース・ダーン、カート・ラッセル、ハーヴェイ・カイテル、ユマ・サーマン、ティム・ロス、クリストフ・ヴァルツ、ジュリー・ドレフュスなどが異なる役柄で複数回起用されている。
キャラクターの喫煙描写が非常に多い。これは、タバコを吸う様が単に画になるからだけでなく、会話をする時でも喫煙という動作を「行う」ことによって何らかの動作をさせながら話を進めることができるからである。
食事と違ってタバコは立っていても屋外でもどこでも吸えるので汎用性が高い。映画は三人称の芸術であり、脚本には「動詞」が書かれなければならない。そのくらい映画は動きが大事であり、喫煙というアクションは重要なのである。
人物の会話や行動原理が少し理屈っぽい。自ら決めた行動原理やルールに忠実に従ったり、理屈を立てて話を進めることが行われる。
また、蘊蓄を多用する。
クラシックオタクなため、監督としては美学のあるフィルム主義者。デジタルが主流の2000年代以降もフィルム撮影に拘っている。CGもあまり好まず、実物を好む。
人物
映画界きっての変人として知られており、上述のとおり、非常にハイテンションな人物である。
メディアへの露出が非常に高く、自身が制作に携わった映画や、懇意にしている監督の作品に俳優として出演することもある。ちなみに演技力は非常に高い。
2009年に『イングロリアス・バスターズ』のプレミアで来日した際に、ソフトバンクのCMに本人役で出演した(それ以前に、ソフトバンクの前身である関西デジタルホンのCMに千葉真一と共に出演していた)。
ハリウッドの有名映画監督が日本のCMに出演することはたびたびあることだが、映画とは無関係なCMに好んで出演するのは、おそらく彼くらいだろう。
とんでもない程の映画オタク・シネフィルであり、アメリカの西部劇やハリウッドのクラシックから現代までの王道・マイナー問わず、日本や香港などアジアのバイオレンス、トリュフォーやゴダールはじめ大量のフランス映画、イタリア映画、ドイツ映画などヨーロッパ系の各種映画など幅広く摂取している。
特に西部劇が好みだが、アメリカのそれだけでなくマカロニウエスタンを好み、他ジャンルでは『ジョーズ』なんかも大好きである。
いわゆる名作・大作より、B級映画・カルト映画を好み、自身の作品にもそれらの影響が色濃く反映されている。
自らのベスト映画を選べ、と言われて他の監督達が錚々たる名作・大作を挙げる中、彼だけは『がんばれ!ベアーズ』を挙げるなど少し変わったところがある。
日本映画はジャンルを問わず大好きで、黒澤映画のような世界的な知名度のある作品から、深作欣二作品のような、ややマイナーな作品、はては東宝のゴジラ映画といった特撮ものにも精通しているという自他ともに認める日本映画オタク。
千葉真一が好きすぎて脚本デビュー作で彼の名前が出てきたり、自分の映画に登場させたのは有名。
以上のように、映画監督としては非常に変わった部類の人物であるが、その手腕は確かであり、映画界最高の栄誉であるアカデミー賞では、脚本賞を二度受賞しており、映画『パルプ・フィクション』では、世界三大映画祭に数えられるカンヌ国際映画祭で、最高賞の『パルムドール』を受賞するなど、批評家や映画ファンから高く評価されている。
ハリウッド最大の足フェチ(脚ではなく足)で知られている。彼の作品は女性の足をアップで映したり、変態男が女性の足を舐めるシーンがある。
逸話
逸話には事欠かない男である
- 足フェチだったのでイベントのノリでユマ・サーマンの脱ぎたてハイヒールにシャンパンを入れて一緒に乾杯した。リンク
- 足フェチだったのでドイツの金髪美人女優ダイアン・クルーガーに「クエンティン、良かったわね、これで足がいっぱい撮れるわよ!」と茶化されたところ、本人は「なんのことだ」という風にとぼけたが、撮影では足を撮りまくってダイアンに悟られた。
- 足フェチだったので『フロム・ダスク・ティル・ドーン』で美人女優サルマ・ハイエクの足を舐めるシーンを入れて自分が舐める役を演じた。
- お持ち帰りした女性に足を舐めながらナニをしていいかお願いしたことをタブロイド紙に暴露された。しかし、皆タラが足フェチなのは知っていたので生暖かく受け取られ、女性に対してはニッチな要求をしつつもあくまで紳士的であったことから彼の名声にさほどダメージは入らなかった。
- 『SMAP×SMAP』の企画『ビストロSMAP』にゲストとして招待された際、強烈なマシンガントークを披露し、司会の中居正広に制止された。
- 未成年の頃から大好きだった女優のパム・グリアに会うために『ジャッキー・ブラウン』を書きあげた。
- 作品に満ちている暴力性や、差別用語の多用を批評家から咎められることがある。その際、彼は作家としてどんなキャラクターでも書く権利を要求する、と返答している。自身がアフリカ系であるサミュエル・L・ジャクソンはタランティーノを擁護している。また、ジャクソンは後にタランティーノ作品で黒人差別用語を吐きまくる悪役の黒人という複雑なキャラクターを演じた。
- 無神論者であることを公表した。これは、普段から鏡餅を飾ったり初詣に行ったり仏壇に手を合わせてお焼香したりと日常で豊富な宗教的実践をしているくせに自分は無宗教だと思っているようなルーズなジャップの感覚からするとわかりにくいが、アメリカ文化だと結構勇気のいることである。
- タランティーノが脚本担当で、憧れの香港映画監督ジョン・ウーと、同じく憧れの香港映画俳優チョウ・ユンファと映画を作ることになった。しかしチョウ・ユンファの役柄がまるでアジアの気の狂った殺し屋のような描かれ方をしてる事にウー監督は難色を示し、この話はポシャッたという。
- ディープなオタクであるわりには、若い頃は大変気が荒い上にケンカっ早く(本人曰く、若い頃は「間違った生き方をしてる人間」になりたかったらしい)、ビデオ店勤務時代には自分よりも体格のいいビデオ料金を滞納した客に殴りかかっていった。
- 15歳の時、万引きで捕まった事がある。盗んだブツは後に作品を映画化する事になる犯罪小説家エルモア・レナードの著作。
作品
監督
『レザボア・ドッグス』1992年
『パルプ・フィクション』1994年
『ジャッキー・ブラウン』1997年
『キル・ビル Vol.1』2003年
『キル・ビル Vol.2』2004年
『デスプルーフ in グラインドハウス』2007年
『イングロリアス・バスターズ』2009年
『ジャンゴ・繋がれざる者』2012年
『ヘイトフル・エイト』 2015年
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』2019年
脚本
(監督作を除く)
『トゥルー・ロマンス』1993年
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』1994年 - 原案
『フォー・ルームス』第4話「ペントハウス ハリウッドから来た男」1995年
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』1995年
『Curdled』1996年
『CSI:科学捜査班シーズン5』「CSI"12時間"の死闘」2005年
出演
『スリープ・ウィズ・ミー』1994年
『サムバディ・トゥ・ラブ』1994年
『ジョニー・デスティニー』1995年
『デスペラード』1995年
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』1996年
『ガール6』1996年
『スティーブン・スピルバーグのディレクターズチェア』1996年
『リトル★ニッキー』2000年
『エイリアス』2002年
『バッドアス・シネマ』2002年
『Z Channel: A Magnificent Obsession』2004年
『マペットのオズの魔法使い The Muppets' Wizard of Oz』2005年
『プラネットテラー in グラインドハウス』2007年
『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』2007年
『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』2008年
『イングロリアス・バスターズ』2008年
『ジャンゴ・繋がれざる者』2012年
『ヘイトフル・エイト』2015年
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』2019年
"Super Pumped" 2022年