演：高品正弘
概要
水島新司作の『ドカベン』シリーズにおける、もう一人の主人公ともいえる存在。右投げ右打ち。
『チャンピオン』にこの漫画の連載が決まったのは、山田太郎の地味さに編集長が難色を示した際、すかさず水島が岩鬼の顔を出し、それで編集長が「面白い」と言ったことであるという。
190㎝を超す長身で、常に学生帽を被り、葉っぱを咥えている。本人曰く学生帽は髪の一部らしく、帽子の上からシャンプーをしてドライヤーをかける場面もある（しかし、最終回で外すシーンがある）。
さらに葉っぱは岩鬼の感情のバロメーターにもなっており、岩鬼が機嫌がいいと花が咲く。たぶん、共生の関係なのではないか（笑）。この葉っぱは赤ん坊の頃におしゃぶりを嫌がって庭に落ちている木の枝を咥え始めて以来、ずっと咥えている。
大食いであり、好物はサンマで、口ではマズイと言いながらも骨一つ残さず平らげてしまう。
その見た目とは裏腹に大金持ちの四男として生まれ育ったお坊ちゃんで、生まれたばかりの頃は女の子のように可愛らしい容姿だったので「正彦」ではなく「正美」と名付けられたが、成長するにつれ、いかつい大男に育つ。
自らを「天才」「スーパースター」と言い切る自信家であり、性格は豪快で粗暴かつ相当口が悪く、先輩相手にも敬語を使わないことも多いが、両親や自分が尊敬する人物の前では礼儀正しくなることも。がり勉タイプの兄達と違って子供の頃から勉強嫌いで喧嘩ばかりしていたために母親からは疎まれていたが、岩鬼自身は母を慕っており、母親が急病で倒れたことを機に和解した。
また、兄たちはガリ勉タイプと言っても、正美ほど極端ではないだけで巨躯かつ強面の部類に入る。兄たちは勉学で(エリートの自分たちより)不出来な正美をバカにしていたが、父は「あいつらは1人じゃ何もできないが、正美は違う」と非常に買っていたことが岩鬼建設倒産の際、狼狽え、今後の身の振り方を案ずるばかりの兄たちと、一人肝が据わっていた態度を見せた正美を比較するシーンで明らかになった。
また、おつるという関西出身のお手伝いさんに世話をしてもらっていた影響で神奈川県出身なのに関西弁で喋るほか、おつるが美女の基準になっている。
粗暴ながらも義侠心に厚く義理堅い上に仲間想い、素直ではないが浪花節を絵にかいたような性格をしており、悪口さえも愛情の裏返しで涙もろい。時には調子の悪い相手チームの選手に遠回しにエールを送ることさえある。山田が本当に悩み苦しんでいる際は岩鬼の方から相談に乗ったり、山田の怪我を治させるために母親の命の恩人でもある武蔵坊数馬を岩手県から呼び寄せたりしている。『大甲子園』では、病気で父を亡くした子供との約束を果たすため、真田一球率いる巨人学園の奇襲に怯まず、そして約束通り勝利をもぎとった。胆力も極めて高く、（高2時の夏子との失恋騒動を別とすれば）野球・プライベート問わず、どんな危機にあっても動揺することはなかった。
なお、『ドカベン』48巻分は最初の一コマが岩鬼の顔で、最後は家庭の事情で明訓高校を去ることになった里中智に岩鬼が激励を送る場面で幕を閉じる。
その里中とは良くも悪くも対照的。体格差もさることながら、里中の方が「クールにみえるが、実は激情家で短気」なのに対して、岩鬼は「短気で激情家に見えて、実は冷静で分析力も鋭い」キャラであり、里中が岩鬼に冷や水をぶっかけられたことも少なからずある(逆はほぼ皆無)。
また、高校生時代にマスコミ関係者相手に話術でニュースソースを白状させたこともある。このニュースの内容が山田の家のプライベートに深く関わる話題であったことから、決して他言することなくまずは山田と1対1で話し合って状況を確認する配慮と思慮深さを見せたり、普段は照れ隠しなどで軽い悪口なども交えながら接している山田の祖父（じっちゃん）に対して本心では深い信頼の情を抱いていることが描かれている。
殿馬一人とは、お互いに悪口を言い合いながらも補い合う名コンビ。しかも、同時期に結婚しており、さらに新居が向い合せだった。
妻の夏子とは学生時代から相思相愛の仲だったが、プロ野球編で夏子は父の会社を救うために別の男性と政略結婚して子供までもうけていた(ちなみに岩鬼は自身も似たような目に逢いかけている-父親の会社が倒産する直前、救済融資の申し出があったが、岩鬼の大阪ガメッツ入団を条件にしていた。しかし、正美は実家の窮状を救うべく同意しかけたが、正美の父は正美の本心がそこにないことを知っており、「お前の価値からしたらはした金だ」「お前の契約金1億を当てにしているんだ」と言い、妻や正美の兄から散々に言われつつ頑として突っぱねたため免れた。夏子から結婚の話を聞かされた時に正美はその件を思い出して夏子を慰めている)。
しかし、夏子はその後離婚し、岩鬼と再婚した。ちなみに夏子は上述のおつると容姿が似ていることが作中で指摘されている。
なお、クリーンハイスクール出身の影丸隼人（中日ドラゴンズ→四国アイアンドッグス）は色々と因縁のある相手であり、中学時代は柔道、高校以降は野球でバックドロップ対決を繰り広げている。また、中学時代に岩鬼の長兄と影丸の姉が結婚したため、作中の殆どの期間を通じて二人は姻族なのである。スーパースターズ編1巻のキャラ紹介では「(義理の)従兄弟」と記述されていた。
四国の犬飼三兄弟にも基本的に上から目線だったが、長男の小次郎はホークス時代（プロ野球編11巻）にライオンズの山田とホームラン王争奪戦となった際、「岩鬼が打つまで山田には打たせん」と明言しほぼ実現しかけたことから心酔する人物の1人になった。実際はその前の試合から小次郎を立てる発言をしていたり、負傷を押して投球を続けていた小次郎が限界を迎えて倒れそうになった際には彼の体を支えて涙を浮かべながらその力投を賞賛するなど、チームの先輩後輩の関係になった時点でかなりの尊敬心を抱いていたと思われる。小次郎の方も高校時代の会話では岩鬼に対して「（自分は3年生だから）もうそのやばい面を見なくて済む」を皮肉を告げるなど一切歯牙にも掛けていなかったが、プロ入り後は彼のことを認めるようになり、上記の山田との勝負を制した後には小次郎の力投を称える岩鬼に対して笑みを浮かべながら「お前もよく守ってくれた、日本一のサードだ」と返している。
自らに近い体格の次男武蔵とは特筆すべきエピソードはないものの、実は劇中で最初に武蔵が試合に駆り出されるきっかけとなったのが岩鬼だったりする（クロスプレーの際にランナーが危険なスライディングを仕掛けてきたことに逆上して強引にタッチを行ったことで相手が負傷してしまい、その代走として武蔵が出場することとなった）。
三男の知三郎からは高校時代に擬装スクイズでウェストしたボールをホームランに打ち取った頭脳プレイを称賛され、プロ野球編以降は心酔されている。岩鬼の方も知三郎のためにダイエーのプロテストの便宜を図ったり、ドラフトのくじ引きの結果希望していたホークスでなくライオンズが交渉権を得たことで野球浪人の意思を示した彼に将来性を考えてライオンズに入団するべきと厳しくも熱心に助言するなど、かなり気に掛けていた。
なお、悪球打ち・平凡なゴロをファインプレーに見せる守備・ベースの踏み忘れなど、その多くのエピソードが長嶋茂雄からの借用である。
能力
野球選手としては、サードとして守備範囲が広い上に美技を披露する一方、簡単な打球をトンネルしたりとんでもない大暴投をしたりと凡ミスをやらかす場面も少なくない。
打者としては、ストライクゾーンの球が打てず、悪球（ボール球）だとほぼ確実にホームランにしてしまう極端なバッターで、「グワァラゴワガキィーン！」という、「どうすればそんな音が出るんだ？」というのがイラストのネタにされる。（原因は、小学生時代に敬遠されまくったことに対する「木に適当にボールをぶら下げて打つ」特訓のせいであり、悪球打ちの原因はひょっとして、という懸念で掛かった医者からも「そのままでいい」と言われている。たまに殿馬に「ガが抜けたづらよ」（ホームランにはならない）といじられることも。）
当然、相手投手もそうそう悪球を投げてはくれないためど真ん中のボールを盛大に空振りして三振するシーンが多い。特に1年夏の甲子園大会では17打席（16打席説あり）連続三振という結果に終わっている。1年秋以降は対策として（岩鬼本人が行うだけでなく、チームメイトが画策するものも含めて）様々な工夫を凝らしている。
主なものには
・度の強い眼鏡をかけて視界を乱す。
・度の強い眼鏡をかけて視界を乱すと見せかけて伊達メガネで悪球を誘う。
・コンタクトレンズで視界を乱す。
・息を止めて酸欠状態に陥ることで無理矢理視界を混乱させる。
・バットで頭を殴る。
・天橋立の股覗きのようなポーズで構え、体勢を崩して打つ。
・対戦投手が投球の際に足を踏み下ろす場所をあらかじめ目測を立て、前の回の守備時に、マウンド上でミスを悔しがるフリをしてスパイクで軽く掘っておく（※バランスを崩した相手投手の投球は悪球になる）
・ネクストバッターサークルから岩鬼に向かってわざと罵声を浴びせ、彼の気を逸らせる（アニメ版）
・スクイズとみせかけて悪球（ウエストボール）を誘う。（先述）
等がある。特にウエストボールを「岩鬼の得意な悪球」にしてしまう偽装スクイズは野球人の常識として行う行動を逆手に取ったということもあって高校・プロ問わず全ての機会で成功している。これには意外にも岩鬼はバントが上手で足も速いことも影響していると考えられる。そして、その特技故に何度かセーフティバントを決めるシーンもある。
時々投手としてマウンドに登ることもあるが、四死球を連発してしまうことが多いものの、一度ハマるとストライクが入るようになり、150km/h台の剛速球で打者をねじ伏せる。
これはノーコンと表現されがちだが、岩鬼にストライクを入れさせるために言い聞かせたことが「ストライクを取らなくていいからとにかくキャッチャーのミットに向かって投げろ」と言うもので、この時岩鬼自身は酷いボール球を投げているつもりだった。つまり、“本人にとってのストライクゾーン”がピッチャーになった際も適用されてしまうため結果としてボール球を投げてしまうのであり、それがなければコントロールそのものは絶妙なのである。
ちなみに、作中では一度も打席でヘルメットをかぶったことがなく、本来ならルール違反なのだが黙認されている。
プロ野球編の冒頭では長嶋茂雄、王貞治のONに山田以上の評価を受け（ドラフト時は10球団が1位指名山田で、当時ONが監督だったダイエーと巨人が岩鬼）、感動に震える場面もあった。
明訓高校卒業後、ドラフト一位で福岡ダイエーホークス（現福岡ソフトバンクホークス）に入団。
ホークス時代には先述した小次郎との関係が築かれた際、小次郎が最後の最後で失投し山田に打たれた打球があわやホームラン……というところを秋山幸二のファインプレーによって阻止されたというエピソードがある。プロ野球編には数々の実在選手が登場しているが、岩鬼に「秋山はん、男や！ 男・秋山や!!」とまで言われたのは彼ぐらいと思われる。
FA権取得後は東京スーパースターズに所属。
