バイストン・ウェルの物語を、覚えている者は幸せである。心豊かであろうから。私達はその記憶を記されて、この地上に生まれてきたにも関わらず、思い出すことのできない性を持たされたから。それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
概要
『聖戦士ダンバイン』は、1983年2月5日から1984年1月21日まで名古屋テレビ発テレビ朝日系列で全49話が放映された。
監督は富野由悠季。先年から発表されていた宮崎駿の風の谷のナウシカからの影響と富野監督ならではの作風が合わさり「現代日本人が中世ヨーロッパ風の異世界に召喚され、魔法的な力で動く巨大人型ロボットに乗って冒険する」という、それまで誰も見たことのない斬新な世界観が作り出された。ちなみにこの作品が放映された時期はドラクエさえまだ世に出ていない。
いわゆる「ファンタジーロボットもの」の元祖であり、現在における異世界転移・異世界転生ジャンルの先駆けの一つでもある。
「ファンタジー世界でマジカルなロボットが暴れる」というと魔法がバンバン飛び交う豪快なイメージがあるかもしれないが、富野監督らしくそういう派手な描写よりも、木と石造りの地味な城塞を冗長な儀式めいた手順で城攻めする描写や占領宣言における政治的な駆け引きなどの無骨な描写の方に力が入れられている。ただしやはり地味すぎて受けが悪かったようで、後半のテコ入れ後(地上帰還後)はド派手な戦争描写が中心となった。
富野監督は、この作品で舞台となった異世界「バイストン・ウェル」に対して、善きにせよ悪しきにせよ特別な感情を抱いているらしく、『リーンの翼』など他の作品にもたびたび登場している。
昆虫の意匠を取り入れた有機的なデザインの生体兵器:オーラバトラーや、本格的に作り込まれたファンタジー世界バイストン・ウェルの世界観など、その後のメディア作品に多大な影響を与えた部分も多いが、これらの要素は当時の視聴者層には受け入れがたい物があった。富野監督自身バイストン・ウェルに拘るあまり作劇にそれを活かせず、てこ入れとして物語中盤から舞台を現代社会に移すなどやや中途半端なストーリー展開になった。
これについて富野監督曰く「ショウ・ザマを第一話で一晩寝かせて翌朝からバイストン・ウェルの説明を長々してしまったことが作劇上の失敗で、主人公に確たる動機付けが出来ず状況に振り回されるキャラになってしまった。戦火のただ中に放り込んだ方が物語がもっと弾んだ」とのことで、物語が現代社会に移る「東京上空」のエピソードもかなり前倒ししたとのこと。
このように富野監督にとっても悔いの残る部分は多かったが、ダンバインが切り開いた「ファンタジー世界に召喚される現代人が織りなすストーリー」という手法はその後のファンタジー作品に多大な影響を与えた。富野監督による外伝ノベライズも行われ、バイストン・ウェルを舞台にした「リーンの翼」はOVA化も成された。
のちに全編を再編集した総集編OVAも販売されており、そちらには700年後を舞台とした外伝作品『New Story of Aura Battler DUNBINE』も収録されている。
ストーリー
「バイストン・ウェル」は海と地の狭間にある異世界である。深海を空に、地熱と人の「オーラ力」を源に、妖精フェラリオや闇のカ・オスまでもが共存する世界である。アの国の地方領主ドレイク・ルフトは、戦力増強を図り、優れたオーラ力を持つ地上人を呼び込もうとしていた。 そのひとり、ショウ・ザマは、オーラバトラーのダンバインを与えられ、聖戦士と遇されることになる。だが、反逆者ニー・ギブンと彼に従う地上人の少女マーベル・フローズンに出会った時、「何も知らずドレイクに手を貸す馬鹿な男」という言葉を投げつけられる。 やがて「バイストン・ウェル」での争いは、地上界をも巻き込む巨大な戦雲となっていく。
登場人物
聖戦士
マーベル・フローズン(CV:土井美加)
トカマク・ロブスキー(CV:戸谷公次)
ギブン家
アの国
ガラリア・ニャムヒー(CV:西城美希、伊倉一恵、安達忍)
ナの国
ラウの国
ミの国
パットフット・ハンム(CV:山岡葉子)
その他のフェラリオ
ガロウ・ラン
その他の地上人
トルストール・チェシレンコ(CV:竹村拓)
チャーリー・カミングス(CV:龍田直樹)
主題歌
オープニングテーマ
「ダンバイン とぶ」
歌:MIO 作詞:井荻麟 作曲:網倉一也 編曲:矢野立美
エンディングテーマ
「みえるだろうバイストン・ウェル」
歌:MIO 作詞:井荻麟 作曲:網倉一也 編曲:矢野立美
商品展開
現在ではバンダイが商品展開しているが、放送当時はプラモデルはバンダイ、玩具関係はクローバーが手掛けていた。なお、クローバーが放送途中に倒産した為にビルバインのみトミー(現在のタカラトミー)が発売している。
コミカライズ
放送当時のコミカライズはコミックボンボン連載の池原しげと版と冒険王連載の杉山たかゆき版が存在。後者については下記も参照。
ゲーム
2000年3月4日に『聖戦士ダンバイン~ 聖戦士伝説~』が発売された。
余談
シリアスの中のお遊び
シリアスなダンバインであるが、時折お遊びの要素もあった
オーラマシン「ドロ」・勇者ライディーンのドローメ
赤い三騎士・機動戦士ガンダムの黒い三連星で、ガイア=カラミティ、オルテガ=ダー、マッシュ=ニエットである。
ヒマラヤ上空でトリプラー(要するにジェットストームアタック)攻撃を仕掛けるが、カラミティはショウに踏み台にされ「踏ん付けてった~!」と悔しがった
地上編・殆ど東宝怪獣のノリ
地上編誕生の原因
地上編が生まれたのは玩具売上不振でスポンサーのクローバーが「もっと派手な戦闘シーンを」との要望で生まれ、「東京上空編3部作」はその伏線だったが、皮肉にもクローバーは倒産してしまった。
しかし、これのおかげでスーパーロボット大戦シリーズでは古参常連作品の一つとなるなど、結果的に異世界ロボット作品の参戦としても先駆者となっている。
ハイパー化のこぼれ話
地上編の重要ファクターと言えるハイパー化を提案したのは今川泰宏であり、オーラバリアとは言え巨大化現象は当時の視聴者を驚かせ、地上編のイメージを決定付けた
全49話終了が意味するもの
これは都市伝説であるが、全49話で完結した本作は当初は全50話の予定だったと言われ、全49話は「スポンサー倒産で1話減った」と言われている。
冒険王の漫画版の結末
冒険王(83年5月号にTVアニメマガジンに改名)で連載された漫画版の最終回はドレイクはビショットに暗殺→ショウは激戦の末全ての仲間を失う→ビショットがウィル・ウィプスで祝勝会を挙げる→ハイパー化したショウのビルバインがウィル・ウィプスに特攻相討ち→バーン・バニングスがショウの行為を称え息絶える
だった。なお、TVアニメマガジンはその直後に廃刊となった。
大人の事情
実はスーパーロボット大戦にはファミコンの『第二次』から参戦の予定であったのだが挫折。代わりに似た雰囲気のを、と言うことでバンプレストオリジナルで登場させたのがサイバスター。ただ、バンプレストオリジナルの参戦は当初からの予定でありダンバインの代わりに作ったというわけではなかったという証言も存在する。
いずれにせよ本作から影響を受けたのは確からしく、後にサイバスターの出典作品として本作をオマージュした「魔装機神」シリーズが擁立される事となる。
メインスポンサーの交代
放送当時のメインスポンサーはクローバーが担当していたが、放送途中で同社が倒産したため、後半は本作のプラモデルを発売していたバンダイがメインスポンサーを引き継ぐことになった。なお、ビルバインの合金玩具はTOMY(現在のタカラトミー)より発売された。