解説
石ノ森章太郎氏原作の漫画・特撮番組。仮面ライダーで爆発した変身ヒーローブームに触発された形で制作された変身ヒーロー番組。
NET(現・テレビ朝日)系にて1972年7月8日 - 1973年5月5日まで全43話が放送。
当時、NETでは裏でお化け番組と言われた8時だョ!全員集合に対抗すべく(俗に言う土曜8時戦争)子供視聴者の興味を引きつけようと本作と直後枠のデビルマンとセットで変身大会と銘打ち、夜20時からという特撮としてはイレギュラーな時間で放送された。結果として当時は視聴率で苦戦したものの、徐々に上昇し、第1クールを過ぎる頃には16パーセントにまで上昇し、土8戦争の中で奮闘。結果として続編の制作につながった。
善と悪の狭間で苦悩し成長する左右非対称のデザインの主人公キカイダーや、キカイダーを倒すことを生き甲斐とするアンチヒーローの完成形・ハカイダーなどのキャラクター像はその後の特撮番組や漫画・アニメーション作品に絶大な影響を与えた。
余談だがハワイでは非常に高い人気があり、2002年に4月12日が「ジェネレーション・キカイダー・デイ」に、2007年に5月19日が「キカイダー・ブラザーズ・デイ」に制定されるなど、日本では想像できないほどの支持を得ている。
また、人造人間キカイダーのデザイン、キャラクター造形は超人機メタルダーや仮面ライダーW等など後年の作品に多大な影響を与えている。
2014年に新作映画「キカイダーREBOOT」が作られ、それにかなり早く先駆ける形で小説『人造人間キカイダーTheNovel』が2013年7月に発売された。
「人工知能に善悪の判断が出来るのか?」という形ではあるが、「機械が人間と同等の感情(心あるいは情緒)を持てるのか?」といった命題を扱った作品群の先駆者とも呼べる作品。
漫画版でのラストシーンでは「人間になれたピノキオは幸せになったでしょうか?」という痛烈な皮肉ともとれる文言で締められている。
ストーリー
特撮番組版
プロフェッサー・ギル率いる犯罪組織ダークを倒すために光明寺博士に作られた人造人間・キカイダーことジローが不完全な良心回路によって善と悪の狭間で揺さぶられつつも成長し戦ってゆくというものである。だが、脚本家の伊上勝や長坂秀佳によって勧善懲悪に終わらない重厚な物語が紡ぎ出され、「善と悪に苦悩する主人公像」を漫画版以上に突き詰めたストーリーとなっている。そして物語終盤からハカイダーの登場によって更なる盛り上がりをみせた。
漫画版
こちらは童話「ピノキオ」を物語の下敷きにしている。話の主軸はおおむね特撮版と同じだが、よりハードかつシリアスな内容となっている。特に終盤にキカイダーの兄弟がハカイダーに改造され、キカイダーが兄弟同士の殺し合いをする場面や、全てに決着を付け去ってゆくジローが絵本「ピノキオ」の最後のページを見て「だが……ピノキオは人間になって本当に幸せになれたのだろうか……?」とつぶやくシーンは今でも語りぐさとなっている。
なお、2001年に放映されたTVアニメ版「人造人間キカイダー THE ANIMATION」はこちらが原作となっている。
小説版
こちらは発売年に合わせて2013年を舞台としている模様(ミツコがキュアハートのコスプレをするという笑撃のシーンがある)。漫画版に並ぶシリアスなストーリーを用意しつつも物語そのものは特撮版をベースとしている。ジローの「善と悪に苦悩する主人公像」をSFと電子工学の視点からアレンジ(最初からあの左右非対称ボディとして作られた、等)しており、それに合わせて良心回路の意義もSF的かつ大幅に改変されている。特撮版、漫画版共に有耶無耶に終わったミツコの恋を主軸としつつ、ロボットの自我(あるいは魂)に力を入れて描写した展開、僅か一冊分という尺の中である意味特撮版以上にアンチヒーローの本懐を成し遂げたハカイダーのカッコ良さ、特撮版そのまんまなギルの狂気と野望、所々に用意された小ネタ、そしてジローのブレない前向きで希望溢れるキャラクター像といった魅力満載の、ファン必読の傑作となっている。
キャラクター
人造人間キカイダー
演:伴大介(特撮番組版)、関智一(TVアニメ版)、入江甚儀(キカイダーREBOOT)
光明寺博士によって作られた人造人間(戦闘用アンドロイド)。人間形態時の呼び名はジロー。
善悪の判断が出来る「良心回路」を持っているため人間に非常に近い考え方が出来るのだが、その良心回路が不完全であるため善と悪の間で絶えず苦悩にさらされている。容姿が左右非対称である種グロテスクなのも良心回路が不完全なためである(戦闘形態に変形が完了しないのである)。
だが、皮肉なことにその良心回路が不完全であるがゆえにキカイダーは限りなく人間に近しい存在となっているのである。ちなみに特撮版では、キカイダーにチェンジしている間だけ良心回路が完全な場合と同じレベルにまで高性能化するため、キカイダーでいる間はギルの笛に操られることはない(ただしキリギリスグレイによって3000倍に音量が増幅された際は操られてしまった)。
後付けの設定だが、ジローのバックルは縦割りの青赤、変身後が斜め割りになり安定化を示す。これはアニメ版の変身シーンで確認できる。
デザインした石ノ森章太郎先生は生前左右非対称のデザインを「ベストワーク」「不完全だから完全」と明言した。
その見た目から完成度は低そうに見えるが、あくまでも見た目だけで過ぎない。実際、ダーク破壊部隊のアンドロイドを遥かに凌ぐ高い戦闘能力を持っており、必殺技はあらゆるものを破壊する手刀「デンジエンド」。その他、格闘技「ダブルチョップ」「回転アタック」「大車輪投げ」などの持ち技や、高圧電流を浴びて体得した光線技「キカイダースパーク」なども持ち合わせる。
両肩に備え付けられたスイッチを押すことで戦闘形態たるキカイダーに変身する。
皮肉にも服従回路をつけられたが故にロボット三原則に縛られない『人間という名の完全な機械』になってしまい、イナズマンと邂逅するまで救われなかった漫画版に対し、特撮版では「完全な機械にはなりたくない」と敢えて良心回路の完成を望まず、さすらいの旅に出ている。
小説「人造人間キカイダーTHENOVEL」では開発のために光明寺博士がダークを上手く欺いており、赤い戦闘用ロボットと青い医療用ロボットの半身ずつを組み合わせるという、最初から左右非対称のツートンカラーとして開発された(ちなみに、医療用ロボの名前ゼロダイバー、戦闘用ロボの名前フュージティヴ・フロム・ヘル地獄からの逃亡者は、共に『人造人間キカイダー』のタイトルの設定段階の名前)。活字媒体ならではのより大胆で躍動的なアクションを繰り広げており、苦戦する描写もあったものの、特撮版以上のオーバースペックでダークを追い詰めている。
ハカイダー
犯罪組織ダークに操られた光明寺博士がキカイダーを倒すために作った改造人間。キカイダーを倒すことを生き甲斐としている。その体にはキカイダーの良心回路とは真逆の悪魔回路が内蔵されており、文字通り悪魔のような執念でキカイダーとの戦いを繰り広げた。
彼の頭には生みの親である光明寺博士の脳が人質として埋め込まれており、キカイダーを牽制する盾としている。これが彼を”改造”人間たらしめている所以である。
特撮版では漫画版に比べ彼のキャラクターはより掘り下げて描写されており、特にキカイダーを別のロボット・アカ地雷ガマに倒された際に自らの存在意義を失ってゲシュタルト崩壊してしまう様は未だに語りぐさとなっている。
登場回は少ないものの、あらゆる点でキカイダーと真逆であった彼の存在感は多大なものがあり、その後の特撮ダークヒーローに少なからぬ影響を及ぼした。
光明寺博士
演:伊豆肇(特撮版)、飯塚昭三(アニメ版)、長嶋一茂(REBOOT)
本名:光明寺信彦。キカイダーを開発したロボット工学の権威であり、ダークに囚われてダークロボットを作らされていた。
記憶喪失の末にホットドッグ屋などの様々な職を転々とし、記憶の奥底に眠っていた技術力で行く先々の人々の電化製品を修理した事もあった。やがて脳が摘出され、ハカイダーに組み込まれてしまったが、キカイダー達の活躍で無事に元の体に戻された。
REBOOTでは「ARKプロジェクト」の主任研究員を務め、キカイダーに良心回路を組み込んだが、ギルに謀殺された。漫画版同様に家族とは疎遠になっている。こちらでも脳が摘出されていた事が判明し、REBOOTに続編企画が立っていたらギルハカイダーのポジションになっていた事がうかがえる。
漫画版では光明寺伝の名前で登場し、容姿も異なる。こちらでは自然破壊警備隊員の息子が死亡し、ギルの資金援助を経て自然警備用の13体のロボットを作り出す。そのうちの一体であるキカイダーに良心回路を組み込むが、ここでもやはり脳髄をハカイダーに組み込まれてしまうが、再び肉体に脳髄が戻った。こちらではハカイダーの主導権を握る事もある。こちらでは師匠に「風天和尚」がおり、キカイダー01を寺に封印していた(MEIMU版の「KIKAIDER02」では瘋癲和尚の名前で登場し、レプリカの01を6体仕向けたが、死亡している)。
光明寺ミツ子
演:水の江じゅん(特撮版)/堀江由衣(アニメ版)/佐津川愛美(REBOOT)
光明寺博士の娘で、助手を務めていた為、ある程度はジローの修理が可能。
弟のマサルと共に行方不明になった父を探して各地を旅している。ジローに対して恋愛感情を抱いており、ジローが他の女性と親しくなろうとすれば嫉妬する事もある。
漫画版では自分に弟の教育を投げっ放しにした父親を憎みつつも、ロボット工学を目指す女性という設定になっている。こちらでもジローに恋愛感情を抱くようになるが、ダーク壊滅後は父の療養の為に海外に旅立つことになった為、別れた。
REBOOTも同様に家庭を顧みない父を嫌っており、最初は彼が作ったキカイダー/ジローも同様に嫌っていたが、彼の自分たちを守りたいという思いが本物であった事を知って彼に心を開くようになっていく。
光明寺マサル
演:神谷政浩(特撮版)/小林由美子(アニメ版)/池田優斗(REBOOT)
ミツ子の弟で、ジローを兄のように慕っている。
REBOOTでは体内に光明寺ファイルという機密文書が埋め込まれているせいで、DARKに狙われる羽目になった。
漫画版とそれを基にしたアニメ版でも同様の設定で登場し、こちらでは心の中で寂しさを感じながらも、姉に悟られまいと無理をし続けており、友達になったと思っていたシルバーベアーの死により、我慢が解かれてしまい、更に母親を失うという憂き目に遭う。ダーク壊滅後は立ち直り、ジローの残したギターを修復していた。
MEIMU版『キカイダー02』では光明寺ヒナノという少女として登場。その正体はアーマゲドン・ゴッドのコアとして作られたアンドロイドである。
服部半平
演:植田峻(特撮版)/キートン山田(アニメ版)/原田龍二(REBOOT)
服部半蔵の16代目末裔を自称する世界第一級私立探偵…なのだが、事あるごとにドジを踏む。
しかし、縄抜けの術が使える辺り、自称というわけでもなさそうである。
一人称は「吾輩」で、ジローを「ミスター・ジロー」を呼び、マサルからは「ハンペン」と呼ばれる。
当初はねずみ男のようなポジションであったが、次第に頼れる協力者になっていく。最初はド下手だったギターの腕前もジローと遜色ないレベルにまで成長している。『01』ではハープも演奏できるように。
彼以降、がんがんじいや大山小次郎といったコミカルな協力者や名脇役が東映特撮作品で定着していくようになる。愛車はスバル360で、アニメ版でも愛車として登場した。
漫画版でも登場する他、アニメ版の続編である「ギターを持った少年」ではジローを捜索していた。
MEIMU版『キカイダー02』ではミツ子の先輩という設定である。
REBOOT版ではルポライターであり、ケータイ小説も執筆しているという設定に変更された。
プロフェッサー・ギル
該当項目参照。
坂本千草
演:高山みなみ(アニメ版)
原作では存在の示唆のみだったが、アニメ版に登場。ギルの配下であり、光明寺博士の後妻。
マサルを生んだ後に行方をくらましたが、成長した光明寺姉弟に再会する。ミツ子が光明寺の日記を見た事を知るとギルの部下としての顔を露わにするが、その実、娘達への愛情を捨て切れておらず、わざと悪ぶった態度を取ったり、ギルの娘達を殺せという命令にも結局従えず、彼女達の為に新しい靴と光明寺博士の居場所を記したメモを残して自殺した。
特撮版の続編であるという設定の『KIKAIDER00』にも登場し、ハカイダーに脳髄を組み込んでいる。
リエ子
演:隅田和世(01)、津路清子、武智豊子、星清子、須永かつ代(同上、変装時)、大原さやか(アニメ版)
特撮版では続編の『キカイダー01』から登場。アキラの教育係を務める変装の達人で、アキラと共にギルの基地から脱走してきた。
その正体は乳母ロボットであり、第24話で死亡する。彼女に代わってヒロシの教育係を務めていたスリの達人(ただし、善人と貧乏人はスらない)ミサオがレギュラーとなった。
漫画版でも同様の役割で登場しているが、こちらはオリジナルの人間からコピーされた記憶の影響で人間らしく振る舞っていたのであり、自分が人造人間であるという事は自覚していなかった。アニメ版ではビジンダーとは姉妹ロボットという設定であり、最終決戦でギルハカイダーによって破壊されてしまう。
彼女とは同名の風天和尚の孫娘リエコ(声:小島めぐみ)との関係は不明。
武器は額から放つビーム(漫画では胸から放つ)。
アキラ
特撮版では続編の『キカイダー01』から登場。プロフェッサー・ギルの次男という設定であり、「ジャイアントデビル」の心臓部の設計図が背中に刷り込まれている為にハカイダー部隊に狙われていた。
漫画版やアニメ版にも登場。アニメ版では父親があのような人物である為にまともな愛情を注がれず、心を閉ざしていた。その不安定な感情をジャイアントデビル(アーマゲドンゴッド)の動力に利用されるが、ビジンダーに救出される。
ルミ
漫画版にのみ登場。ギルの娘でアキラとは双子であり、彼女もまたジャイアントデビルの動力源となる存在である。特撮版ではアキラにヒロシという2つ上の兄がいる為に登場しない。
関連タグ
ピノキオ:子を欲しがった老人によって製作された人形が主人公である童話。最終的には人間の子供になる結末を迎えるが、その後は描かれていない。
特捜ロボジャンパーソン:ある意味でキカイダーよりも後の時代かつAIの技術が高度化している作品。