概要
光明寺博士が考案した、機械が自らの意志で善悪を判別し、その場において最善の行動をとる事を可能とする回路。
「心」そのものとはまた別の機能パーツらしく、漫画版ではキカイダーをピノキオに喩えて「ジェミニィ」(アニメ映画『ピノキオ』に登場する例のコオロギの名前)の名が冠せられている。すなわち、悪に揺れ動く「心」を自制するのが良心回路というわけである。
しかし、キカイダー=ジローは未完成のまま解き放たれてしまったため、プロフェッサー・ギルの悪魔の笛でコントロールされる脆弱性を持った不完全な良心回路のまま世に送り出されてしまった。ちなみにパーツとしてのビジュアル自体は萬画版では「一対の円筒状パーツが繋がっている物」というジェミニの一般的に意味する「ふたご座」的なイメージを匂わせる物となっている。
試作機であるキカイダー01の設定は漫画版と特撮版で大きく異なり、萬画版では「良心回路無し」、特撮版では「完全な良心回路内蔵済み」とまさしく0と1で分かれている。
もっとも特撮版では劇中でのイチローの良心回路の有無は明確にされていない。
萬画版と特撮版の良心回路の働きは違いがあり、原作ではギルの笛はロボットすべてがギルの言いなりにできるようになっているのに対して、特撮版ではダーク製のロボットのみにしか作用せず(実際、第13話のロボット陣兵衛や01でのシャドウロボット達に効果を見せていない)、01はキカイダーやビジンダーのように悪の組織に作られていないので、組織の命令を拒否するのに必要な良心回路は必要無いかもしれない。
イチローは後にマリことビジンダーにもジローと同じレベルの良心回路を組み込み、これによりビジンダーは世界大犯罪組織シャドウを離反、ワルダーにも良心回路を与えようとするも願いはかなわなかった。
完成された良心回路とは?
キカイダーに内蔵された良心回路は特撮版・萬画版ともに最後まで不完全なままであった。
特撮版では完成させられる機会は幾度かあったのだが、ジローは良心回路が不完全で善悪の狭間で揺れ動く今の状態を「成長出来る余地」ととらえ、最終的に「心を鍛える事で自分の弱さを克服する」ことを決意し、他者の手で良心回路を完成させる道は選ばなかった。
萬画版では、ギルハカイダーに囚われた際に”悪の命令に従わされる”機能を持った服従回路を取り付けられたことで、キカイダーは”悪意”を得てしまった。皮肉にも、良心回路の”良心”と服従回路の”悪意”が備わったことで、キカイダーは時に善に、時に悪になり得る”人間”そのものになってしまうことになった。
『スーパーヒーロー作戦』において光明寺は古賀博士から提供されたメタルダーの資料からヒントを得て完全な良心回路を完成させており、それをイチローに搭載していた。初めに正義の心をインプットしていれば正義の戦士だが悪の心をインプットされるとハカイダー以上の破壊ロボットに変貌する危険性があり、完全な良心回路は入力次第ではハカイダーに搭載されていた悪魔回路と同質のものになりかねないと言う欠点があり、それに気づいた事で光明寺は正義の心をインプットした上でイチローを封印した。
また作中ではジローはハカイダーから解放されて再会した光明寺に良心回路を完成させてほしいと願ったが脳移植の悪影響で彼は良心回路に関する記憶を無くしてしまった為、叶わぬ事となった。
それでは、良心回路が完成された状態のキカイダーとは如何なる者なのか。その例は早瀬マサト氏が模型雑誌HOBBYJAPANで連載していた小説「キカイダー00」で提示されている。詳細は省くが、紆余曲折を経てある科学者の手によってキカイダーは遂に良心回路を完成され、青色一色で左右対称の”完成された姿”となった。ところが、完成された良心回路によって、キカイダーは良心回路にインプットされた行動原理にただただ従うだけのロボットになってしまった(このことから、「服従回路」と「良心回路」は善悪が違うというだけで本質的には同じものだと解釈できる)。だが良心回路の破損で元の左右非対称の姿に戻っている。
良心回路が完成するということは、キカイダーが光明寺博士の意図していた”機械”となることを意味しており、悩みながらも己の意志を持っていた人造”人間”たるキカイダーを否定するものだったのである。
突っ込んだ話をすれば、人の心というものは人自身ですら理解しがたい複雑なものであり、良心の定義だって人によって異なるものである。故に、良心回路にプログラムされた良心も、「制作者が考える良心の在り方」に過ぎず、ものの見方の一つでしかないのである。
完全な心を持った人間など存在しない。人は誰しも善と悪の狭間で揺れ動く不確かな心しか持ち得ない。だからこそ、不完全な良心回路は限りなく人に近い心をキカイダーに与えているのである。
関連項目
鉄腕アトム:同じく自らの意志で善悪を判別することが七つの威力の中に入っている。モチーフも同じピノキオ。
超電子バイオマン:終盤のキーキャラクター柴田博士が良心回路を開発してドクターマンに良心を取り戻させようとした。
ロックマンX:人間と同じように思い悩む機能を持ったロボット。良心回路のようなものが搭載されているかは不明。
ジェットジャガー:こちらに搭載されているのも同名の回路。
超人機メタルダー:こちらに搭載されているのは『自省回路』。役割は概ね同じ。
特捜ロボジャンパーソン : 良心回路ではないが正義を定義するAIが存在するも、厄介な事に『悪を徹底的に破壊する』という度の暴走した正義…すなわち正義版ハカイダーともいうべき危険なプロトタイプのAIのプログラムが眠っている。
フェイクマン: 良心回路のパロディとして悪心回路が搭載されたロボット。
スフィア『いがみ合う双子』:全並行宇宙に遍く力・次元力を制御するため作られた人型制御装置(ロボット)『至高神ソル』が偶発的に宿した心の中核であり、相反する他の感情を自制し両立する役を持つ天然物の良心回路とも言うべき代物。奇しくも双子座=ジェミニを冠するコードネームを与えられた。
しかし“心を持ったピノキオ=人間”になってしまった至高神ソルは、自分から供給される力に溺れて傲慢の限りを尽くす配下達に絶望。自ら崩壊して心の破片を平行宇宙に飛び散らせ、『ピノキオは人間になれて幸せだったのだろうか?』の台詞を思い起こさせる末路を迎えている。
スフィア『哀しみの乙女』:上述の至高神ソルが持つ感情の一つで、『他者の哀しみを感じ取る=良心』を司るとされる。その特性上、『自らの憎悪を燃え上がらせる=怒り』を司るスフィア『怨磋の魔蠍』の動きを癒して自制することができる。