鉄人兵団
てつじんへいだん
概要
鉄人兵団とは「大長編ドラえもん・のび太と鉄人兵団」に登場するロボット集団のこと。メカトピア星から人間を奴隷とするためにワープを繰り返して地球に侵攻してきた。
機械であることあって生身で宇宙空間を突破可能で、恐らくタキオンを利用したと思われる恒星間通信網も持つ。
主戦力であるロボット兵を始め、個々の戦闘力はひみつ道具がなければ太刀打ちできないほどであるが、耐久力についてはそう高くはないらしく空気砲やショックガンで容易に撃破できる程度。但し、原作漫画に於いてドラえもんが「ショックガンや空気砲じゃ決定的なダメージは与えられない」とも発言しており、映画とはやや違う模様。
しかしその本領は物量作戦であり、「何千何万体壊されようと、代わりのロボットは無数にいる」と明言されている。
本編中で登場した地球侵攻部隊だけでも、僅か数人がハッタリを効かせただけのドラえもん達だけでは敵う筈がなく、一行を敗退寸前(かろうじて命はまだあったものの継戦能力は完全に失われており、実質的には全面敗北した状況)まで追い込んだ。
しかも2011年版では攻撃力が跳ね上がっており、オリジナル版以上の列強と化していた。ドラえもんシリーズに登場した敵対勢力では、文句無しに最強クラスの軍勢である(原作者の藤子・F・不二雄が「最強の敵」として作ったと明言している)。
メカトピア星
鉄人兵団の出身地である、意志を持つロボットだけが住む惑星国家。
元々は3万年前、人間の醜さに失望したある科学者(地球人型の異星人)が移り住んだ無人惑星を起源としており、彼に作られた二機・アムとイムは博士の死後も新たなロボットを作り続け、博士の願った「ロボットによる理想郷」建国を成し遂げた。
しかし繁栄の源として頭脳に競争本能を組み込まれた結果、子孫のロボット達も互いに優れた存在、相手より上の存在になろうという押しのけ合いをするようになっていき、次第に貴族階級、労働者階級(奴隷階級)という、博士が遠のけた人間と大差ない弱肉強食の社会ができる歴史に至ってしまった。
更に時代が進んだ近年になって「ロボットは皆平等」という思想が広まり、奴隷制度は廃止されたものの(リルルの語りによる歴史の概説シーンでは内戦の結果であることを示唆する描写がある)、階級と差別・被差別の概念がなくなることはなかった。
メカトピアのロボット達は自分達を作った科学者を「人間を見捨てた神」として神話で伝えていた。そしてその神に造られた者から誕生した国であることから「ロボットは神の子、宇宙はロボットのためにある。人間は神に捨てられた下等な存在」という思想に至り、今度は人間を新たな労働力として奴隷化するという目論見に発展し、その第一歩として地球侵略に乗り出すことになっていく。
2011年版においては、リルルの言及しか無かったメカトピアの背景や景色についても加筆されており、現メカトピアは完全な軍事国家であるため軍人機が一番偉く(貴族階級)、諜報員であるリルルや土木工作員のジュドは下級扱いであった。
また、彼らには心を構成する3つの星型パーツがあり、赤は『愛』、青は『願い』、緑は『思う』を司るとされている。しかし階級社会となり地球侵略に踏み切った現代では、殆どの者の緑パーツは黄色(誰かを思う心を無くした状態)に変わってしまっていた。
そして歌や音楽などの娯楽は、貴族ら支配階級にしか許されておらず、下層階級が歌っている事がバレれば容赦なくスクラップにされる社会であった。
鉄人兵団の「人間狩り」もいわば下層階級の更に下の、国民扱いすらされない家畜を連れてくることにより労働環境を改善しようとする政策とされている。
つまりは
- 1986年版・鉄人兵団:国民の階級制度は無くなった→民衆間の差別意識も払底されたので、奴隷のように国民を働かせることが出来なくなった→だったらその代替手段として人間を奴隷にするぞ
- 2011年版・鉄人兵団:国民の階級制度は無くなった→だが民衆の間では旧来の差別意識は未だに残っている→差別意識から目を逸らす(上見て暮らすな下見て暮らせ理論)ために人間を奴隷にするぞ
という流れになっており、しずかちゃんからは「まるっきり人間と同じじゃない」と呆れられている。
どっちの社会体制にしろ、身体能力が鉄人たちより劣る(2011年版でピッポが断言している)うえに食事や睡眠も与えねばならない人間を奴隷化するのは非効率的な気もするが…。もっとも、後者の理論で行けば差別意識を反らす為にやっている事でもあり、そもそも労働力としてすら初めから期待していない可能性も考えられる。また前者の場合も「効率が劣ろうが奴隷階級のロボットがやっていた労働を自分達がするよりずっとマシ」と捉えていた可能性もある。いずれにせよ「自身が常に相手に勝る存在でなくてはならない」「故に自身より下の存在が常に欲しい」という意識がもたらしたもので祖先に植えつけられた競争本能の暴走といえる。
創造主である科学者が人間に失望していたせいか、人間に対する差別意識も根強く、リルルも人間の事を「わがままで、よくばりで、憎みあい、殺しあい…」と散々に扱き下ろしており、総司令官も人間を「ゴミ」と吐き捨ている。小説版でも昆虫型ロボットが上層階級を占め、下層階級は人間型ロボットが占めているらしく、種族全体で人間に対する差別意識が徹底されていると考えられる。
わざわざ遥か遠い宇宙の彼方の異星に遠征してまで、「下等な人間」「奴隷階級」を求めてきたのも、こういった選民意識と差別意識を徹底して貫いた結果といえるだろう。
メンバー
地球攻撃部隊総司令官
全身金色のセミに似た姿。長いマントを羽織っている。原作漫画と86年版とでは頭部はじめ少々姿が異なる。
2011年のリメイク版では角があるなど容姿が全体的に派手になっていた(カブトムシに似ている)。性格はより苛烈に描かれ部下を無情に切り捨て、窮地となれば自分だけ脱出するような冷酷非道な司令官である。
『ギガゾンビの逆襲』では終盤の雑魚敵ゴールドマスターとして出てくる。
巨大要塞
2011年版に登場した鉄人兵団の移動要塞。蜘蛛のような形状をしており、足を閉じることで飛行可能。
でかい図体の割には量産型土木重機に過ぎないザンダクロス1機に投げ飛ばされ、足を捥がれて串刺しにされるなどイマイチ頼りない。
狙撃兵
軍団の基盤となる戦闘員で最も数が多い部隊。一つ目のセンサーでジャミラのように首と胴体がくっついており、ジェットスクランダーのような翼が背中にあり、空を自在に飛ぶ。手にした熱線銃は一撃でビルを倒壊させるなど高い攻撃力を持つ。リルルのように指先から熱線を発射する個体もいる。86年版ではマントを付けるなどの意匠が異なる幹部が数体存在していた。2011年版では頭部に昆虫の触覚のような形状の短いアンテナがある。
『ギガゾンビの逆襲』では終盤の雑魚敵メタリッカーとして登場。
下級兵
先遣隊として主に前線基地の構築などの工作を担うが、非常時は戦闘も行う部隊。全身が鋭利な突起になっている兵隊。武器を持たず、素手で襲い掛かってくる。
戦況考察
この作品での戦闘は、大長編・映画シリーズ初(にして現時点で唯一)の実質的な負け戦と言える。原作者の藤子・F・不二雄も「鉄人兵団は映画ドラえもん史上最強の敵であり、タイムマシンを使った歴史改変という反則技以外の勝利方法を思いつかなかった。僕、頭悪いね…」と自嘲している(後に『のび太とブリキの迷宮』ではコンピュータウイルスによるロボットの無力化という形で決着をつけており、一種のリベンジと言えるかもしれない)。
終盤の決戦において、ひみつ道具をもって決死の抵抗を試みるドラえもん達だったが、絶望的なまでの数の差は覆せず完全に追い詰められてしまった。
仮に倒せたとしても、彼らは地球人捕獲を目的とした謂わば先遣隊に過ぎない。メカトピア本星には何のダメージもなく、それどころか今度は本格的な武力制圧に出る可能性もある。
※鉄人兵団は鏡地球の大都市を容易く壊滅させていたが、「隠れている地球人どもが、恐怖で飛び出してくるまで攻撃を続けろ」と言っているので、彼らにとっては威嚇程度の攻撃なのかもしれない。
リルルの決死の行動でタイムパラドックスが起こったことで鉄人兵団は消滅したものの、リルルの行動が少しでも遅れていたら、(大爆発の中心にいても身体が原型を留めていたり、深海底や太陽の至近距離にいても平然としている)ドラえもんはともかく、のび太達3人は皆殺しになっていてもおかしくなかった。
後の作品における戦闘でもドラえもん達が敵に追い詰められた事は少なくないが、いずれも状況の好転後はきっちり逆襲しており、逆転勝ちと言った方が正しいものばかりであり、逆襲もままならないまま(ロボット達が突然消滅し始めたため、ドラえもん達は訳もわからず呆気にとられるばかりだった)、かろうじて九死に一生を得たのはこの作品の戦いのみである。
ただ、これはドラえもんが「空気砲」や「ショックガン」等の基本的な武器・防具のみを使用して鉄人兵団に応戦した結果である為、ファンの間ではドラえもんが容赦無く「ジャンボ・ガン」や「熱線銃」、「原子核破壊砲」等の強力な破壊兵器を使用したり、スネ夫が持つロボットアニメのロボットの模型を「ビッグライト」で大きくした物や「プラモ化カメラ」「インスタントミニチュア製造カメラ」等で用意した現代兵器の実寸模型などを前作の戦車のように改造し、「ロボッター」や「無生物さいみんメガホン」等を使用して無人兵器にする、前作の戦車の残り2両を出撃させる、タイタニックロボを投入する、同じ地球に住む仲間にして嘗ての戦友であるタイムパトロールやバウワンコ王国、ムー連邦に協力を要請する(リメイク版の世界観でもアクア星人達等がいる)、どのみち鏡世界なのだから各国の戦略原潜などを上述のように無人兵器にして核で叩く、史実の硫黄島の戦いのように「地下工事マシン」や「ポップ地下室」で地下要塞を構築して誘い込み、その中で苛烈な攻撃を加えるか、誘い込んでからホームメイロで大迷宮にして三国志演義の「八門金鎖の陣」の如く迷わせ脱出不能に陥れる、「タンマウォッチ」や「狂時機(マッドウォッチ)」等の時間操作系ひみつ道具、「ソノウソホント」や「ウソ800」及び「しあわせトランプ」等の全知全能系ひみつ道具を使用・併用したり、極端な話、「どこでもドア」を使用してメカトピアに「地球破壊爆弾」を投げ込む等すれば、鉄人兵団相手に苦戦することなく完全勝利出来たのではないかと指摘されることも少なくない。
尤も、上記のような手段を行使すれば、匙加減次第では戦闘シーンをより激烈にして話を盛り上げることもできうるが、匙加減を間違うと簡単に事件が解決して作品が成り立たなくなってしまう為、そのような指摘は野暮というものだろう(この場合以外にもひみつ道具が壊れる等の状況で同様の指摘がなされる場合もあるが)。